099 コンスタンティンへの報告
――帰還後、アレンはすぐに医師の治療にかかり、アグアトリッジは一時的に近衛騎士隊の隊舎にある牢に収監された。アグアトリッジも腕を失ってひどく衰弱しているので、死なせないために奴にも医師がつきっきりになるだろう。……共和国においてはどうだか知らないが、アルフィリアでは腕の切断は治療の方法を見誤れば死ぬ怪我である。
また、異常事態が発覚したことにより、私とジークレインは、実地研修における上司であるユルゲン・ヴィーマンの聴取をすっ飛ばし、コンスタンティン――近衛騎士隊副隊長から、直接聴取を受けることになった。
「……本当に大丈夫なのか」
「何がだ」
実地研修に来た学生たちが使う隊舎と、幹部たちが使う詰所との間には多少距離がある。帰還翌日にユルゲンを通して呼び出しを食らい、同じく呼び出しを食らったジークレインとともにコンスタンティンのもとへ向かう。
ジークレインは顔を合わせてからずっと眉根を寄せた、険しい表情だ。機嫌が悪いというよりは、何かを警戒している顔。
「アイツのことだよ。あれと裏で手を組んで協力させたなんてこと、どう話すんだ? あの時は選択肢がなかったが――やはり許されることではない。現場監督の協力があったことは、近衛騎士隊なら調べがつくんじゃないのか?」
「……」
「お前が……お前と俺が危険魔法薬取引現場で幹部を協力させたことも知られるかもしれないだろう」
「……なんだ。お前ともあろうものが今頃弱気になっているのか? あそこでああするのをヨシとしたのはお前も同じだろう」
「違う」
早期解決にはあれが最善だったと俺も思う――ジークレインはそう言う。
だが、
「そういう言い分が通じるかどうかはわからないだろう。相手は海千山千の騎士団の幹部だ。
――それに、お前は魔法が使えない上に初の女性近衛騎士候補ということで、ただでさえ微妙な立場なんだ。あのことを知られたら……」
ジークレインは奥歯を噛み締めたようだった。私は目を細める。
(……闇魔法のことか)
並々ならぬ復讐心、憤怒、憎悪、そういったものを抱いたことがある者にしか発現しない魔法。確かに――特に四大騎士隊に――知られれば、あることないこと吹聴されるだろう。
(たしかにあの場で使ってしまったのは痛かったな……)
ジークレインにも、闇魔法のことを知られるつもりはなかった。フェルミナに伝わってしまうことを恐れていたからだ。
――いや、ジークレインに知られることに、まったく恐れを抱かなかったわけではない。
私は奴から軽蔑の感情を向けられようと、全く構わなかったかつての自分とはもう一線を画してしまっていたから。
だが、ジークレインは私を嫌悪しなかった。
「――問題ない」
「クローディア」
「バレやしないし、そもそも私は別にアレコレ言われようが気にしない。闇魔法を使えるからなんだ? 別に罪を犯したわけでもない。面倒が増えるから隠していただけだ」
「お前な……」
「だから、実質問題はヘルのことだけだ。ああ、そのことに関しては今回私がうまく言おう。お前はそういう腹芸が苦手だろうからな」
――それに。
案じてくれているらしいジークレインには悪いが、たとえヘルと手を組んだことをコンスタンティンに知られたとしても、大して問題にはならない。
そもそもコンスタンティンは『蒼』を作るのに関与していた。私と自分の父――ツェーデルとの間に何かしらの密約があることは承知しているだろう。目に余らない――否、騎士団にとって不利益がない限り、私の周りのきな臭いあれこれは聞かなかったことにするはずだ。
「……お前とアレは、本当にあそこで初めて会ったんだよな?」
(いつの間にかアレ呼ばわりに……相当嫌いになったみたいだな)
まあわからんでもない。ジークレインとは性格が合わないだろうし。
「ああ、あれが初対面だ。なんなら後から調べてみてもいい。何も出てこないが」
「……そうまでしたいとは言ってない。初対面にしては随分とアレと親しげなようだったから」
「私はいつもあんな感じだろう」
「誰に対しても一定の壁を作ってるのに、よく言う」
思わずジークレインを見た。
ジークレインはふんと鼻を鳴らすと、私から目を逸らして前を見た。そして「迎えだ」と呟いた。
顔を上げて正面に向き直れば、確かに向こうからコンスタンティンの使いの者らしき騎士が――、
(って、あんたか! マークス・ハース!)
数少ないクラウドの正体を知るものだからと、私絡みの面倒事にはよく駆り出されるな、彼も。なかなか不憫な奴だ。
軽く会釈をすれば、もう慣れたと言わんばかりのマークス・ハースが息を吐く。
「マークス・ハース一級騎士」
ジークレインが立ち止まって騎士礼を取ると、ハースはそれを手で制して言った。
「イグニスとリヴィエールだな? 隊長が応接室でお待ちだ。案内をするからついてくるように」
*
「――以上が、事の顛末です」
「なるほど。よくわかった」
久々に見たコンスタンティンの顔。表情は特に変わらない。
応接室――といっても簡易的な造りの部屋だ――に通された私たちの報告を聞いても、コンスタンティンは特に何か疑問を呈するようなことはなかった。概要は既にある程度手の者に調べさせてあるのだろう。事が事だから、単に私たちの口から報告を受けるべきだから受けた、といったところだろう。
事の顛末についてはヘルの協力はうまく伏せた。
……が、彼は忘れがちだがあのツェーデルの息子だ。どこまで知られているかは未知数だな。
(南部支部のことは……言うべきか?)
あらかじめ決めていた訳ではないが、ジークレインもヘルから聞いていたアルフィリア南部支部の件については黙っていた。――これはヘルとの協力の露見を恐れたからではなく、情報が錯綜することを懸念したからだだろう。ジークレインはヘルのことを信頼していない。
(……ツェーデル経由で耳に入れておくべきか?)
どうすべきか。
考えていると、「もう行っていい」とコンスタンティンが言った。
「では、失礼いたします」
「ああ――いや。リヴィエールは残りなさい」
「え?」
一瞬、面食らう。
ジークレインが僅かに顔を強ばらせ、私を見る。
コンスタンティンはそんな私たちを怪しんでいるのかいないのか、淡々と言葉を続けた。
「リヴィエール家に関することで、話がある」




