リレー 【月夜譚No.27】
今はこの襷を次の人に渡すことだけを考えよう。そう思っているのに、どうしてだろう。余計なことばかりが頭を過る。
焦れば焦るだけ、失敗した時の未来が何パターンも脳裏に浮かんで足が鈍る。手が震える。ここで自分が下手を打てば後に響くし、これまでしっかりと繋いできてくれた人にも迷惑がかかる。自分一人の責任では済まされない。幾重にも折り重なって空気を含んだ重圧に胸が苦しい。
彼は一度目を瞑り、深呼吸をしてみた。が、それは単なる気休め程度にしか過ぎず、何の解決にもならない。
とにかく、これをやり遂げなければ。再び足を動かすも、やはり怖くて仕様がない。それでも前に進まなくてはならない。数メートル、数センチ、数ミリ――少しでも前へ。襷を渡す、その時まで。