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真夏の日差しと枯れたひまわり

作者: 倉本保志

倉本は、自分の作品で、小学生が主人公の小説が、最近多いと感じています。

まったくのフィクション(チンアナゴ)だったり、自分の実際の体験が少し紛れているものだったり

様々ですが、ぼんやりと薄い霧に包まれたような、幽かな記憶であり、はたして、これは事実だ、と断言できる部分はありません。登場人物も、ちょっと優等生的なやや、影の薄い少年がおそらくは、倉本本人が投影されているのかな・・?と思ったりしますが、はたして、それも事実なのかどうかわからないです。小説を書いているその瞬間は10代の自分が、当時のころのようすを日記でも書くかのように綴っているイメージなのですが・・・

 真夏の日差しと、枯れたひまわり


校庭の大きな楠の木の下にぼくたち5人は集まっていた

ビン、ビンと鞭打つような音がする

やや、細めの枝で、逃げないように取り囲んだ学友を、叩いている音だ。

「このっ、このっ、」

息を切らせながら、叩いているのは、クラスのリーダー的存在のつよしだった。

ビン、ビン、鞭打つ音は途絶えない。

・・・・・・・・

無言のまま、鞭打たれているのは、クラスメートのてつおだ。

・・・・・・・・・・・

「ねえ、もうやめよう、ちょっとやりすぎだよ、」

・・・・・・・・・

「先生に見つかったら、叱られるよ、きっと、」

「ねえ、つよしくん・・・」

・・・・・・・・・

叩かれているわけでもないのに、泣きそうな声で、つよし君を、止めようとしているのがぼくだ。

「うるさいな、たかしは、黙っていろ・・・」

「あと10回だ、それで勘弁してやる・・」

そういって、つよしは、てつおの胸ぐらをぐとひっぱると、腕を振り上げた。

・・・・・・・・・・・

ぼくは、傍で、オロオロしていた。しかし、腕ずくでつよしを止める勇気なんてない。

他の者たちも、俯いたまま、ただの棒きれのように突っ立ていた。

・・・・・・・

「こらあ、おまえたち、何をしてるんだ・・・」

校舎の玄関から、大声で、叫びながら、担任の先生が勢いよく飛び出してきた。

そこにいた者たちはみな、逃げる間もなく、先生に全員捕まった。

「一体どういうことだ、こんな酷いことを・・」

「マスコミに知れたらエライことになるぞ・・」

「えっ・・? なに、先生・・?」

「あ、いや、いまのは、つまり・・・オフレコだ」

そう言って先生はてつおの身体を何度も撫でると、つよしに訳を訊いた。

つよしは、俯いたまま、暫く黙っていたが、逆ギレするように言い返した。

「こいつが・・・、てつおが、悪いんだ・・」

「てつおが・・・?」

「どういうことか、ちゃんと説明しろ」

先生はつよしの肩をしっかりと抱いて、つよしを睨んだ。

つよしは、わーっと泣きだしてしまった。

・・・・・・・・・・

ガリガリ君、クラスのみんなは、てつおのことをそう呼んでいた。

てつおが、酷く痩せていて、骨と皮だけの体つきだったのも、そのあだ名の原因だったが、理由はじつは他にもあった。

じつは、てつおは、人とのコミュニケーションがうまくとれない子で、自分の都合のいいことだけを考える子供だった。

実際どう思っていたかはわからない、でもぼくらにはそう思えてしまっていた。

掃除当番や、クラスの係の仕事などは、一切しない。給食が、余った時は、普通じゃんけんで、だれが食べるのか、決めるのが当時の常識であったが、てつおはちがった。真っ先に駆けだしてきて、それを鷲つかみにして口に入れるのだ。

給食の時間中に、突然、ブピピピピッ・・・とやらかすのも、いつものこと。宿題も、きちんとやってきたことは、かつて一度もなかった。

我利我利亡者・・・ がりがりもうじゃ・・・ 

今でいう、自己中、最強レベル・・・

そんな、ガリガリ君を、先生はなぜか、叱らなかった。

いや、一応叱ってはいるのだが、どこか甘い・・・、結局、彼の後始末を、させられたり、我慢をさせられるのは決まって、クラスの他のみんなだった。

そのせいで、みんなのイライラが、どうしても、てつ・・ガリガリ君にいってしまうのだ。みんなも、いじめは決していいことではない。それは十分、判っているのだが、結局その終着として、今回のような、すこし、行きすぎたことになってしまう。

先生も、じつは、そのことを、案外やむを得ないことと、暗黙で承知しているのかも知れない。一応首謀者の、つよし君は、建前上叱られているが、つよし君の胸には先生の言葉が、ひとつも響いていない。

ぼくは、先生に叱られているつよし君の表情から、そのことをしっかりと理解した。

白目をむくような、反抗的な態度、時には今回のように泣いてごまかすことも・・。

でも、つよし君は、反省していない。自分が悪いだなんて、これっぽっちも思っていないはずだ。

このクラスになってから、ガリガリ君と、ぼくたちの、イタチごっこは、ずっと続いている。

そしてそれは、決して終わることが、ないようにぼくには思われた。

・・・・・・・・・・・

「そうか、てつおが、つよしの飼っていたカブトムシを、勝手に逃がしたんだな、そうなんだな、・・」

「・・・・・・」

つよしは、いつものように、返事をせずに、横を向きながら、こくりと頷いた。

「わかった。悪いのはてつおだ。先生はそう思う。」

「・・・・・・・・」

「でもな、つよし、これはちょっと、やりすぎだ・・」

「な、自分でも、そう、思うだろう・・?」

「・・・・・・・・」 

「てつおは・・といえば、まるで人ごとのように、そっぽを向いていて、ちょうど飛んできたアカトンボを、つかまえようと大きく手を振った。

運悪く、その手が、つよしの顔に当たったものだから、再び 二人は取っ組み合いを、こともあろうに、先生の前で始めてしまった。

・・・・・・・・・

(ふん、先生の威厳なんてこれっぽっちもないや・・・)

そう思いながら、ぼくは、ただただ、無意味なこの長い時間、暑く照りつける真夏の日差しを、他の3人と一緒に、酷く、くたびれた様子で 枯れたヒマワリのように全身に受けていた。

・・・・・・・・・・・・

それから、暫くして、4年生 1学期の最後の日 終業式をぼくたちは迎えた。

ホームルームのあいさつを終えて、ガリガリ君が、教壇に立つ先生のもとに呼ばれた。

嬉しそうに一番前の席から飛び出すと、自分でぺこりとあいさつをした。

ぼくらは目を疑った。

「えっ・・?なに・・・」

「ガリガリ君が、自分であいさつするなんて・・・」

みんなあっけにとられて、教室はしいんと静まっていた。

・・・・・・

「みんなに残念なお知らせだ。」

そういって先生は、ぽんと、てつ・・ガリガリ君の肩を叩いた。

「きょうで、てつお・・安西鉄生くんが、この学校から転校することになった。」

「・・・・・・・」

みんな、黙っている。

けれどぼくにはみんなの気持ちが、ビンビン伝わってくる。

仮面の下に隠された安堵の表情・・・

これで、あの、無駄な、酷く無意味な、喧騒から、おさらばできる・・・

残念だ、なんて言っているけれど、先生だって、ほら・・・口元がゆるんでいるじゃないか・・・

「てつお、じゃ、みんなに、お別れのあいさつして」

先生がそう言うと、クラス全員の視線が、再び、てつおに集まった。

「・・・・・・・・・」

静けさが、教室を包み込む・・・・

窓の外で、ミンミンゼミの鳴き声が、すぐ 際で聞こえている。

「あの、・・・・・」

「ぼく、・・・・」

「ごめんなさい」

「・・・・・・・・」

「えっ・・?」

ぼくは、再び、耳を疑った・・・

ざわざわ・・・

先ほどまでのしんとした空気が一瞬で沸騰する。

・・・・・・・・・

「ごめんなさい・・・」

彼は、その言葉を二度言った。

(うそだ、てつ・・・、ガリガリ君が、謝るなんて・・・)

ダメだ、ダメだ・・・

うそだ、うそだ、

ダメダメ・・・

そんなの絶対にダメだ・・・

そんなことしたら・・・

そんなことしたら、いじめたぼくたちだけが・・・なるじゃないか・・」

ぼくは、涙が出そうになるのを必死でこらえた。

それは、別れの寂しさからくるものなどでは、絶対になかった。

てつおが、いなくなることが、寂しい、そんな感情は一切なかった。

みんなも泣いていた・・・

おそらくきっとそうだろう

みんなも、きっと、ぼくと同じ気持ちだったに違いない・・

先生がぽつりと呟く。

「そうか、先生も、てつおがいなくなるのはほんとうにつらい・・」

(うるさい、黙っていろ・・・そんなんじゃないんだ・・)

(そんなんじゃ・・・)

ぼくは、聞こえないほどの小さな声で、先生に絶叫していた・・

               おわり


倉本は、小学校の先生の記憶については、正直あまりいいものがありません。大人のずるさを見透かしてしまう、そんなところがあったのかもしれません。おそらくは、先生の方から見ても、アイロニカルで、嫌な少年だったのでしょう。一方中学校は、とても楽しかった記憶があります。部活は充実していましたし・・・(外から見ると、めちゃくちゃ荒れていた時代だったとされています、2階の窓から机が降ってきて下に止めてあった訪問客の自動車に直撃とか・・、当時は校内に車も結構出入りしていました・・)

でも、そんな特異なことは、個人の日常に入ってくる隙間など微塵もなかったのですが・・・


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