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科学と魔法の超融合(フィズオーン)  作者: 村上隼人
第1章 そして時代は再び動き始めた
8/15

鉄の男編II 裁き

魔暦523年 6/1(木) ブエル州シブヤ区画警備署内面会室


 ゆっくりと口を開いた小山の言葉は予期していたような、しかしやはり衝撃的なものであることに変わりはなかった。

「父親が...魔術師に殺された」

「なっ...」

 黎乃は言葉を失う。それを見て小山は薄い笑みを浮かべた。

「別にそこまで驚くことでもないだろ。年に何件か起こる事件の被害者がウチの父親だったってだけの話だ」

 小山はそう言って話を続ける。

「事件は単純でよ、酔ってた親父に絡まれてケンカになったんだと。カッとなって魔法を撃ったら死んじまったんだとさ」

 小山は淡々と話す。まるで他人の話を聞かせるような口調で。

「親父がケンカを吹っかけたんだし、最初は仕方なかったんだと思った。もちろん、父親がいなくなって悲しかったし、苦しかった。父親のいる奴らが羨ましかったし、妬んだ。でも、魔術師とケンカした親父もバカだったんだって、そう思わなきゃ、やってらんなかったんだよ」

 そう話す小山の異変に黎乃は気付く。泣いているのだ。黎乃の目の前の男は、涙を流しながら話している。

「だが、相手の魔術師は正当防衛で無実になった。おかしいだろ!?素面(しらふ)の魔術師が酔った非魔術師とケンカだぞ。非魔術師に勝ち目なんかないだろっ!」

 小山は悔しそうに歯を食いしばり、拳を握り、声を絞り出す。

「魔術師なら防壁魔法だって使えたはずだ。飛行魔法で逃げることだって...。自分が素面なら、魔法なんか使わなくたって走って逃げることすら...」

 小山は涙で顔をグシャグシャにしていた。

 彼の痛みが、苦しさが、やるせなさが、ただひしひしと黎乃に伝わってくる。

 だが小山の話はそれでは終わらない。

「その後からだ。今度は母親がおかしくなり始めた。夜な夜な外出しちゃ、朝に帰ってくるなんてことは当たり前になった。親父が死んでから半年ほど経った時には...母親は家に帰らなくなってた」

 小山の涙は止まっていたが、今度は怒りの表情が見て取れる。

「親父が死んでショックだったのは分かる。俺だってそうだった。殺した奴が無罪になってのうのうと生きてることが許せないことも。けど、それでも、自分がいなくなれば俺が一人になるってことを考えてほしかった」

 小山はそこで一度口を閉じた。黎乃はその顔をじっと見つめる。

「...まあ、それが俺の身の上話だよ。あれから15年経ったが、何も変わってない。俺らは理不尽な目にあってばっかりだ」

 そう言うと小山は顔を下に向けて話さなくなった。

「僕は...」

 黎乃は口を開く。ここではできるだけアーマースーツに関わる話はしたくない。

「それでも諦めない。いつか僕たちが認められるような世界に...きっと、してみせる」

 その黎乃の言葉に小山はフッと笑う。

「もう望んでないんだよ、そんなこと」

 小山がその言葉を発した時、警備隊員が面会室に入ってきた。

「面会終了時間です」

 それだけ言うと隊員は小山の腕をグッと掴む。

 しかし、小山は椅子から立ち上がらない。

「おい、何してる。立て」

 隊員は苛立ちを隠さない声色でそう言った。

 しかし、小山は動こうとしない。そして、不意に口を動かす。

「なあ、アンタ...」

 これは黎乃に向けられた言葉だ。

「ほとんどの非魔術師はもう認められたいなんて思っちゃいないよ。今まで溜まった鬱憤を晴らすことしか考えてない。だから、余計なことはしないほうがいい。非魔術師までアンタの敵になるぞ」

 そこまで言ったところで隊員の拳が小山の頬をめがけてふり抜かれた。

 小山は椅子から転げ落ち床に頭をぶつけた。

「いい加減にしろ、カスがっ!さっさと来いっつってんだよ!オラッ」

 床に転がった小山を隊員は一方的に痛めつける。

「ちょっと、そこまでする必要は...!」

 黎乃が制止しようとした時、今度は黎乃がいる側の扉が開いた。

 そこにいたのは黎乃を面会室に案内した隊員だった。

「面会時間は終わりました。どうぞこちらへ」

「いや、先にあの人を止めてくださいよ!いくらなんでもやり過ぎだっ!」

 黎乃がそう言うと、隊員はわざとらしく大きなため息をつく。

「おい、やり過ぎだ。その辺にしとけ」

 そう言われると、小山を足蹴にしていた隊員は小さく舌打ちをし、再度小山の腕を掴む。

 小山は力なく立ち上がり、隊員の後について部屋を出て行った。

 それを見送ってから、黎乃も面会室を出た。

 心に残った(もや)が確実に大きくなっていることを黎乃は実感していた。



魔暦523年 6/3(土) T-Factory内部CEO専用研究室


 相変わらず散らかっている部屋の中に、これまた相変わらずパソコンのキーボードを叩く男がいる。

 手嶋黎乃はアーマースーツの調整を行なっていた。今は頭部の機能を確認しているところだ。

 例の事件から一週間が経とうとしていた。

 その間は忙しい時間が続いたが、やっとアーマースーツの調整に取り掛かる時間が作れるようになった。

 現在の時刻は朝の10時を少し過ぎたところだ。

 昨日は家に帰らず徹夜で作業していた。1時間ほど仮眠をとっただけだが、身体に疲れが残っている感じはない。

 作業がひと段落したところで黎乃は椅子から立ち上がり簡易ベッドに横たわる。

 眠たくはないが、なんとなく横になりたい気分だった。そのままゆっくりと目を瞑る。

 小山輝の言葉が脳裏をよぎる。

 非魔術師は鬱憤を晴らすことしか考えていないと言っていた。

 全員がそうというわけではないのだろうが、そう考える者も少なからずいるだろう。

 それほどまでに魔術師が行ってきた差別は酷いものだ。

黎乃にだってその気持ちは分かる。だが、やり方を間違えれば余計に非魔術師の立場を悪くするだけだ。

魔術師と非魔術師の能力の違いや、人口の割合を考えればテロを行ったところで、世界が変わることはまずない。

テロをしている者たちだって分かっているはずなのだ。

「それしか...それしか方法がないなんて、おかしいだろ」

黎乃は独り言を呟く。

その時だった。研究室の扉が開いたかと思うと、美空が険しい表情で入ってきた。

「どうしたんだ、美空。そんな顔で...」

黎乃が言い終わらないうちに美空は研究室内のモニターをリモコンで操作し始めた。

モニターに映ったのは昼前のニュース番組だった。

「これ、観て」

美空はそれだけ言うと、モニターの前に立ちニュースキャスターをすごい形相で睨み始めた。

(...今回の事件では死者3名、負傷者21名となっており...)

ニュースキャスターがそう言っている。

何のニュースなんだと思い、黎乃はモニターを見つめる。

「なっ...」

モニターの右上に映し出されている文字を黎乃は凝視する。

「シブヤ区画テロ、犯人に死刑判決...」

自然と声が漏れる。

死刑判決?小山輝に?いや、その前に死傷者がこんなに出ているのはなぜ?

「どういう...こと」

黎乃はまともに言葉を紡ぐことができなくなった。

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