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科学と魔法の超融合(フィズオーン)  作者: 村上隼人
第1章 そして時代は再び動き始めた
7/15

鉄の男編II 事件後

魔暦523年 5/31(水) ブエル州イケブクロ区画手嶋黎乃宅


 手嶋黎乃が自宅に辿り着いた時には時刻は0時をすぎていた。

 例のテロが起きてから今日まで休める時間は全くと言っていいほどなかった。

 実行犯の男が気絶してから数分後、魔導警備隊が廃ビルに突入してきた。

 黎乃が廃ビルに入るところを目撃した人物がいて、その人物が警備隊に人が入っていったと説明したらしい。

 その為、警備隊の一部が真っ先に廃ビルに入ってきたのだ。

 警備隊が入ってくる前に、黎乃は床に落ちていた弾丸をリュックサックの中に隠した。弾丸が落ちている理由を尋ねられると、アーマースーツの武装のことまで話さなければならなくなるからだ。

 そのせいで、アーマースーツが押収されたり、研究にストップがかかったりすれば目も当てられない。

 アーマースーツは自分の身分を明かした上で、新たに開発した携帯端末だと言い訳をした。実際に通信機能を搭載していたのでそれは信じてもらえた。

 いつか発売されていないことを指摘されれば、開発はしたが社員の反対もあって発売を取りやめた、と言うことに決めている。

 実行犯を取り押さえたことと、大会社の社長ということもあって、いきなりリュックの中を確認されるということはなかったので、隙を見て弾丸は捨てた。

 しかし、本当に大変だったのはそれからだ。

 事件のあと、すぐさま近くの警備署に連れていかれ脱臼の治療と、痛みを止めるための治癒魔法を受けた。

 そしてその後に事情聴取だ。

 それが夜まで続き、会社に戻ったのが夜の十時だ。

 それから昼にする予定だった仕事に取り掛かり、一睡もしないまま朝を迎えたのだ。

 その日もまた警備隊の事情聴取があり、結局仕事を深夜にすることになったのだ。

 そして昨日は遅れた仕事を、やっと全て終わらせることができた。

 そして、この時間に自宅に帰ってきたというわけだ。

「あー、ダメだ。これは風呂で寝ちゃうパターンのヤツだな。明日...もう今日か、うん、今日は仕事も少ないし、ゆっくり休もう」

 そのあとすぐに風呂に入り、ベッドに疲労の溜まった身体を投げ出す。

 マットレスのいい香りを全身に感じながら、黎乃は深い眠りについた。



魔暦523年 5/31(水) T-Factory内部CEO専用研究室


 時刻は午後七時を過ぎたところだった。

 黎乃はいつも座る席で大きな伸びとあくびをした。しっかりと睡眠をとったつもりだったが、疲れは完全に取れなかったようだ。

 目をこすりながらパソコンのキーボードを叩く。腕以外の部分のアーマースーツの調整をしている途中だ。

 段々キーボードを叩く指が遅くなっていく。タイプミスも増えてきた。

 黎乃は椅子から立ち上がると、別の部屋の簡易ベッドに全身でダイブした。

 急速に眠気が襲ってくる。瞳を閉じれば、そのまま朝まで目を覚まさないような気がした。

 その時だった。研究室の扉が開く音と足音が聞こえた。

 微睡み始めた顔をそちらに向けると、椎名美空が立っていた。

「取れたよ」

 開口一番彼女はそう言った。

「...え?」

 黎乃はなんの話か理解できず疑問の声を出す。

 話が理解できないのは美空の言葉足らずか、それとも眠気のせいか分からない。

「えっと...何が?」

 黎乃はベッドにうつ伏せになったまま、顔だけを美空方に向けて尋ねる。

「ほら、黎乃くん言ってたじゃん。今回の事件の実行犯と話がしたいって。そのアポが取れたの」

「ああ、あれね。最初からそう言ってよ」

「えー、あの言い方で分かるでしょ」

「普段の僕ならともかく、今猛烈な眠気に襲われている僕には不可能だ」

「ま、いいけど」

 そう言って、美空は簡易ベッドの縁に腰掛ける。

「ねえ、黎乃くん?」

「んー、何?」

「なんでテロの犯人と話がしたいなんて言い出したの?」

「謝るためだ」

 黎乃は簡潔にそう答える。眠いからダラダラと話す気にならない。

「ケガさせたこと?」

 美空はさらに尋ねる。

 テロの実行犯、小山(おやま)(あきら)という名前らしいが、彼はアゴを骨折していた。

 もちろん、黎乃がアーマースーツの拳で殴ったからだ。

「うーん、まあそれもそうなんだけど...」

 黎乃の返事は妙に歯切れが悪かった。

「まあ、そんなことはいいだろ。もう寝かせてくれ。まだ疲れが取れてないんだ」

 そう言って黎乃は顔を布団に(うず)めた。

「ふーん、まあいいけど」

 美空は得心がいかないようだったが、疲れた様子の黎乃を気遣ったのか、それ以上は訊いてこなかった。

 美空はそのまま研究室の扉に向かう。その途中で立ち止まり、黎乃の方を向き言った。

「面会の時間とかはデバイスに送っといたから。ちゃんと見といてね」

 デバイスというのは携帯端末のことだ。

「はーい、ありがと」

 黎乃が礼を言うのを聞くと、美空はまた背を向ける。

 その背中に黎乃は声をかけた。

「ねえ、それ言うためにわざわざ来てくれたの?電話とかで良かったのに」

「だって黎乃くん、電話してもいつも出ないじゃない。メールとかなら尚更。急ぎの用事は直接ここに来るのが一番いいの」

「ああ、大体いつもサイレントモードだから。ところで、急ぎの用って...?」

「面会のこと。明日だから」

 美空はそう言うとニッコリと笑った。

「え、早...」

 黎乃が口をポカンと開けているのを見て、美空はクスクスと笑った。

「じゃ、おやすみー」

 美空はそれだけ言うと、研究室を出て行った。

「明日...」

 黎乃はそう呟くとデバイスを開き、美空に送ってもらった面会の予定を確認する。

「ブエル州シブヤ区画警備署11:00から十分間...その他詳細は署で説明を受けてください」

 黎乃は文面を口に出して読んだ。

「シャワー...浴びるか」

 そう言うと黎乃は研究室内のシャワールームに向かった。



魔暦523年 6/1(木) ブエル州シブヤ区画警備署前


 警備署内にあるホログラムの時計は10:50を示していた。

 黎乃は警備署の受付に行くと、面会を申し込んでいることを話した。

 受付の事務員は丁寧な愛想笑いで応対してくれた。

 面会上の注意点、面会時間を聞かされたあと別の隊員に面会室まで案内された。

 面会室で少し待っていると、透明なガラスを隔てた向こう側の部屋の扉が開いた。

 入ってきたのは小山輝だった。警備隊員は入ってこないようだ。

 監視カメラがあるのは部屋に入った時に気が付いた。おそらく盗聴器もどこかに仕掛けられているだろう。

 とはいえ、聞かれてはまずい話をするわけではないので別に構わない。

 そう思い黎乃は小山に目を向ける。小山も黎乃をじっと見ている。

「...アゴ」

 黎乃はそう言ったあと、ひどく後悔した。開口一番がこれとは情けないにもほどがある。

「アゴは大丈夫なのか?」

 黎乃はそう訊き直す。

 そんな黎乃を見て小山は口角を上げた。

「ああ、改めて魔法がヤバい力だったことを思い知らされたよ」

「治癒魔法をかけてもらえたのか」

「まあな、そうしないと喋れなかったんだよ」

「そこまでヒドかったのか。そのことについては本当に申し訳なかった」

 そう言って黎乃は頭を下げた。

「よせよ。もう治ったんだからいいんだよ」

 小山は面倒くさそうにそう言った。

「で、アンタ何しに来たんだよ?自分で警備隊に突き出しといて同情か?」

 小山は黎乃を挑発するようにそう言った。

 黎乃は少し間を置いて話し始める。

「違う、謝りにきた。ケガをさせたこと、それとあなたを止められなかったことを」

 その言葉に小山は目を丸くした。

「なんなんだ、お前...。そんなこと、まだ言って...」

 小山の声は微かに震えていた。それがどう言う感情の表れなのか黎乃には分からない。

「何も変わってないと言っていた」

 黎乃の言葉に小山は顔を上げる。それを確認してから黎乃は言葉を続ける。

「窓際にいた理由を訊いたとき、そう言っていた。あれは、どういうことだ?」

「よく覚えてるモンだな」

 小山は呆れたようにそう言った。そして、ゆっくりと口を開く。

「15年前の話だ。俺がまだ11歳のガキだった頃だ」

 そこで一度小山は口を閉じる。そして深呼吸をして、もう一度口を開いた。

 その時の小山の目は何か堅い意思が感じられるものだった。

「父親が...魔術師に殺された」

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