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科学と魔法の超融合(フィズオーン)  作者: 村上隼人
第1章 そして時代は再び動き始めた
4/15

鉄の男編I 簡単じゃないこと

魔暦523年 5/25(木) T-Factory内部CEO専用研究室内多目的ホール


 多目的ホールの中で二人の男が対峙している。

 一人は両腕前腕にアーマースーツを装着している手嶋黎乃。

 もう一人はそれを凝視している久地間真道(くじま まどう)だ。

「最初はアーマースーツの攻撃性能を試すから、防壁魔法をよろしく頼む」

 そう言ったのは黎乃だ。

「了解。ちょいと弱めで張るから手加減してくれよ」

「それじゃテストになんないだろ?防壁魔法が破れたら頑張って避けてくれ」

「無茶言うなぁ」

「真道ならできるよ。根拠は...君が僕が知る限り最高の魔術師だからだ」

 そう言うと黎乃はアーマースーツを装着した右腕を真道に向ける。

 それを見て真道も防壁魔法の呪文を唱えた。

 真道の周りに障壁が現れた。先程は濃い青色の障壁だったが、今は魔力を抑えているからか薄いピンク色だ。

 その障壁が現れると同時に、黎乃のアーマースーツのウェポンパックの起動音が鳴る。

 黎乃と真道。双方の真剣な眼差しが空中で絡み合う。

 起動音はその間も鳴り続けている。

 しかし、段々と黎乃の顔が曇ってくる。

 そして、やはりウェポンパックの起動音は鳴り響いている。

 そして次の瞬間だった。ボンッと言う破裂音とともに、右腕に取り付けていたウェポンパックのうちの一つが宙に舞い上がった。

 空中で絡み合っていた二人の視線は、破裂音をたて空中に飛び出した一つの箱に引き寄せられる。

 そしてその視線は、箱が重力に引き寄せられるのと同じ速さで下がっていく。

 ウェポンパックが多目的ホールの床に落ちると、カシャーンという音とともに部品がバラバラになった。

 二人は散らばった破片をただ見つめている。その状態が数秒間続いた後、二人は同時に顔を上げその視線はまたしても空中で絡み合う。

「おい!何だ今のは!」

 先に口を開いたのは真道の方だった。

「ボンッ、カシャーン...じゃねえよ!さっきまでの雰囲気は何だったんだ!?」

 真道が喋っている間、黎乃はただ口を半開きにして突っ立っているだけだった。

「おい黎乃。ないとは思うけど一応訊いておく。今のはお前が想定していた攻撃か?」

 その質問をされてからも黎乃は数秒間動かなかった。

「全然違う」

 それだけ言った黎乃の目は生気を携えていなかった。

 そのままトボトボと多目的ホールの扉に近づくと、黎乃は研究室に姿を消してしまった。

 今度は真道がその様子を唖然とした状態で見つめることになった。

 真道も我に返り、多目的ホールの扉を開け研究室に戻った。

 そして研究室にいる黎乃を見て、真道は思わず、ギャッと悲鳴をあげてしまった。

 研究室の床にうつ伏せで倒れ込んでいる黎乃は、さながら死体のようだった。

「おい、黎乃?生きてるか?生きてるよな?」

 真道はそう声をかけたが黎乃からの返事はない。

「な、なあ。今回は失敗しちまったけどさ、またやり直せばいいんだろ?難しいことはよく分かんないし、手伝えることなんて今日みたいな実験だけだけどさ、俺にできることなら何でもやるからさ。元気出せって。な?」

 真道は必死になって床に倒れている男を慰める。

 その時だった。

 研究室の扉が開く音と足音が聞こえた。真道がそちらを向くと椎名美空が不思議そうな顔で立っていた。

「あら、久地間さん。お久しぶりです」

 美空は真道に挨拶をしてから、目線を少し下げる。その目が黎乃を捉えると彼女は驚いたような、そして少し呆れたような顔をして真道に尋ねてきた。

「あの、社長がどうかされましたか?」

「あ、ああ。コイツのアーマースーツの実験を手伝ってたんだけど...上手くいかなくてさ。それで今こんな状態なわけ」

 真道はこの状態になった経緯を簡単に説明した。

「なるほど。そういうことでしたか」

「美空ちゃん、コイツどうする?」

「放っておいて大丈夫ですよ。正気を取り戻したらきっと、不備の修正に取り掛かるでしょうから」

 美空は苦笑しながらそう言うと、黎乃がいつも座っているのとは違う椅子に座った。

「どうぞ、久地間さんもお掛けになってください。今お茶を淹れますね。あ、コーヒーとか紅茶もありますけど」

「じゃあコーヒーを頼むよ」

「はい、かしこまりました」

 美空の丁寧な対応に、真道は少し高級なカフェにでも居る気分になった。

 美空がコーヒーを淹れてくれている間に、真道は黎乃を別室の簡易ベッドに移動させると、いつもは黎乃が座る椅子に腰を下ろした。

 しばらくすると、美空がトレイにコーヒーを載せてやってきた。

 コーヒーが真道の前に置かれると、主張しすぎないコーヒーのいい香りが鼻孔をくすぐった。

 真道がコーヒーカップに手をのばしかけた時美空が、あの、と切り出してきた。

「くろ...社長は久地間さんと一緒にいる時、どんな様子ですか?」

 その質問の意図が分からず、真道は首を傾げた。

「どんなって...別に変わったことはないけど。なんでそんなこと訊くんだ?」

「いえ、その...。最近、社長は無理をしすぎなんじゃないかなと思いまして。会社の仕事だって忙しいはずなのに、仕事が片付いたらすぐここに来て研究に没頭して。休んでるトコなんか見たことなくて...」

 美空は話しながらどんどん俯いていく。言葉にすることで余計に心配になって来たのだろう。

「まあ、確かに。最近のアイツは張り切りすぎかもしれない」

「やっぱり、そう思いますか!?」

 そう言って急に椅子から立ち上がるものだから、真道は少し仰け反ってしまった。

 その様子を見て美空は恥ずかしそうに、すいません、と小声で謝った。

「だけど、本当に心配なんです。久地間さんもよくご存知だと思いますが、何かに集中し始めると周りが見えなくなって...。それが自分じゃなくて、他の人のためだったら尚更そうで。ずっと、自分の身体を一番大事にして欲しいって言ってるのに...」

 美空は途中から泣きそうになっていた。

 真道は慌てて何か話そうとする。

「いやっ、アイツはさ本当にヤバいと思ったら、ちゃんと人を頼れるヤツだから。確かに今は無理してると思うけど、それなら俺らがいつでもアイツを支えられる準備をしてたらいいんじゃないかな。ほらっ、アイツ自分がやってることを途中で止められるとすぐ機嫌が悪くなるだろ?だから...」

 途中から自分でも何を言っているのか分からなくなって、真道は言葉に詰まってしまう。

 そのまま気まずい沈黙が数十秒間続いた。

「あの...さ」

 先に口を開いたのは真道だ。

「アイツ多分、焦ってるんだよ。最近、非魔術師のテロが増えてきてるだろ?黎乃はそれを嫌がってる...っていうか悲しんでるんだよ。そんなことをしてでも、尊厳を守りたいって思ってるヤツらがいるのにさ、自分は何もできてないって、そう思ってるんだよ」

 真道は話しながら、自然と拳を握ってしまう。

「だから、一秒でも早くあのスーツを完成させて、ヘイブ達に非魔術師の力を認めさせたいって思ってるんだよ。そうすれば、テロなんかしてるヤツらに堂々と言えるじゃないか。お前達のやり方は間違ってるって。今のアイツはテロにすら口出しできない。自分は何もできてないからって。そういう風に思っちゃうんだよ、アイツ馬鹿だから」

 一言一言が段々と熱を帯びてくることに、美空も真道自身も気付いている。

 それでも真道は話すことをやめない。

「黎乃は俺の一番の親友で家族みたいなモンだ。俺はアイツの助けになりたい。アイツが非魔術師の為に自分を犠牲にしてんなら、俺はアイツの為に自分を犠牲にできる。だから俺は...」

「もういいよ」

 真道はその声にギクッとなる。恐る恐る声の方を向くと黎乃が照れた笑いを浮かべながら立っていた。

 美空は少しニヤつきながら真道を見ている。

「みっ、美空ちゃん!?気付いてたのか?いつから!?」

「焦ってるんだよ、のトコ辺りから...」

 そこまで言ったところで美空はブフッと吹き出した。

「あっ、あぅ...くあっー!!」

 真道は両手で頭を抱えながら、天井を仰いで叫んだ。

「アハハ、君のこんな姿を見れるなんて本当にラッキーだね」

 黎乃がそう言いながら可笑しそうに笑う。

「テメー!俺がどんだけ真剣になったと思ってやがるー!」

「いや、そりゃもう真剣さは伝わってきたよ。ひしひしと、かつ大胆にね」

「ああっ、もういい!やめだ、やめ!クソッ、恥ずかしいこと言わせやがって!」

「自分で言ったんじゃないか?ねえ、美空」

 美空は口を押さえて笑いながら、コクリと頷いた。

「でもさ...」

 黎乃はそう言って真道を見る。美空も笑いをできるだけ我慢しているようだ。

「嬉しかったよ、真道。やっぱり僕の大親友だね」

 黎乃はそう言うとニッコリと微笑んだ。

 その言葉に真道は照れながら頬を掻く。

「さて、真道の恥ずかしい言葉も聞けたことだし、スーツの調整に取り掛かるかー」

 黎乃は軽い調子でそう言うと多目的ホールに入ると、スーツの両腕を持って来てパソコンの横に置いた。

「さ、どいたどいた。椅子はそっちにもう一脚あるからそれを使ってくれ」

 この言葉は黎乃から真道に向けられたものだ。

 はいはい、と返事をし真道は椅子から立ち上がり、別の椅子に移動した。

「あのさ」

 そう言った黎乃は真道と美空を交互に見る。

「何でしょうか?」

 事務的な口調でそう言ったのは美空だ。

「さっき真道が言ってたこと...魔術師に非魔術師の力を示すとか、非魔術師の為に自分を犠牲にするとかさ。ああ、あとアーマースーツを完成させることもだけど」

 随分と前振りが長い。それでも二人は黎乃の言葉を待ち続ける。

「そういうのは全部、きっと簡単じゃないことだ。何度も壁にぶつかるだろうし、諦めたくなる時だってあるだろう。でも、どれもみんなやらなきゃならないことだ」

 黎乃の真剣な口調に二人は首を縦に振る。

「だから僕はこれからも無理をする。でも、僕が無理をできるのは、真道や美空や社員のみんなが支えてくれるからだ。えっと、つまり、何が言いたいかというと...これからも僕を支えて欲しい」

 その言葉に真道も美空もポカンとしている。

「な、何だよ。そんな変なこと言ったかな」

 その様子を見て不安になったのか、黎乃は少し居心地が悪そうだ。

「いやー、なんか...」

 そう切り出したのは真道だ。

「さっき、俺のことを笑ってたが、お前も随分恥ずかしいことを言うな」

 その言葉を聞いて美空もクスクスと笑い始めた。

「アハハ、ホントだよ黎乃くん。これじゃ、久地間さんのこと笑えないよ」

 美空は面白そうにそう言った。

 もう敬語は使わなくなっていた。

「えっ?いや、違うよっ。真道の場合はたまたま僕に聞かれたから恥ずかしいことになったわけで!僕は二人に話すつもりで話したんだから、恥ずかしくなんかないよ!」

 黎乃は必死に言い訳をするが、二人が耳を貸す様子はない。

 すると、自分の言ったことを反芻して、やはり恥ずかしくなったのか黎乃は俯いてしまった。

「でもさ、黎乃」

 さっきまでとは打って変わって、真道は静かに話し始めた。美空も真剣な顔つきをしている。

「俺たちはお前に言われるまでもなくそのつもりだ。お前が無理してたら、それを支える。今までだってそうだった。なら、これからだってそうに決まってるんだ」

 美空もコクリと頷いて話し出す。

「私が心配してたのは、なんでも黎乃くん一人でやっちゃうこと。誰にも頼らないで、突っ走っちゃうこと。でも、黎乃くんが私たちを頼ってくれるなら、やりたいこと...やりたいだけやっていいんだよ」

 その言葉に黎乃は少し目を潤ませる。

「おいおい、泣くなよー」

 黎乃を見て真道が冷やかす。

「なっ、泣いてないよ。ただちょっと感動しただけだ」

 言い訳にもなっていないことを言いながら黎乃は笑い、二人に向かって言った。

「ありがとう」

 その言葉に真道と美空はニッコリと笑った。

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