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科学と魔法の超融合(フィズオーン)  作者: 村上隼人
第1章 そして時代は再び動き始めた
3/15

鉄の男編I アーマースーツ

魔暦523年 5/25(木) T-Factory内部CEO専用研究室


 手嶋黎乃(てじまくろの)が研究室の扉の前に立つと、赤外線が黎乃の眼球をなぞっていく。

 その直後にピピッという電子音が鳴ると、続いて扉が重々しく開き始めた。

「へー、前来た時は指紋認証と暗証番号だったのに」

 そう発言したのは久地間(くじま)真道(まどう)だ。

「ああ、今は虹彩認証になってる。だから今、君は一人じゃここに入れない。また後で登録し直そう」

 黎乃はそう言いながら研究室に足を踏み入れた。

「そういえば、さっきは助かったよ。君が来てくれなかったらあのまま殺されてたかもね」

 黎乃は自嘲気味に笑いながら話す。

 さっき、というのはもちろんヘイブ達に襲われていたことだ。

 そんな黎乃に真道は苦笑しながら言葉を返す。

「おいおい、そりゃ冗談だろ」

「いや、冗談じゃないさ。君だって分かってるはずだ」

 黎乃たちが住んでいるこのブエル州は世界の中で見ても、ヘイブの非魔術師に対する差別意識が高い。

 ヘイブによる集団リンチで非魔術師が殺されたこともある。

「ああ、分かってる。だから前から言ってるだろ。待ち合わせなんかしなくていいって。俺が直接ここに来るのが一番いいってさ」

「それじゃ僕が魔術師に屈したみたいじゃないか。ボコボコにされるより許せないね、それは」

「また変な意地張りやがって。今日だって、待ち合わせ場所の近くだったから良かったものの...」

「ああ、分かったよ。今度からは揉め事は起こさない。因縁つけられたら一目散に君のところに逃げる」

 黎乃は真道の言葉を遮ってそう言った。

「この辺の地域は最初の魔術師が生まれた所ってのもあって、魔術師の選民思想が他のそれとは比べ物にならない。ブエル州の中でもシンジュク区画は特に酷い。だから今日みたいな目にあう」

 黎乃はそう言いながら、研究室の薄型のパソコンの前に座るとキーボードを操作し始める。

「父さんはなんでそんな所の近くに会社なんか建てたのかな」

 黎乃が社長を務めているT-Factoryは、彼の父親の手嶋龍司(りゅうじ)が創業したのだ。

「そりゃお前、ヘイブ達と友好関係を築きたかったからじゃないのか?」

 真道が黎乃の疑問に返答する。

「はは、ホントにそんな理由だとしたら考えが甘いにもほどがあるよ」

 黎乃はバカにしたようにそう言うと、椅子から立ち上がった。

「さて、今日は僕のアーマースーツのテストの為に来てもらったんだけど...」

 黎乃はそう言って顎に手をあてる。

 数秒間そのポーズを取った後、また口を開く。

「さっきも言った通り、ここに入るのに虹彩認証が必要だからさ。先にそれの登録をしないか?」

 黎乃の提案に真道は首を縦に振った。

「ん、そうだな。楽しみは後にとっておくべきだ」

 真道にとってアーマースーツのテストは楽しみなことらしい。

 それを知って黎乃は少し安堵する。

「それじゃ、こっちに来てくれ。虹彩認証は20秒ぐらいで終わるから。ああ、少し準備をするから待っていてくれ」

 黎乃はそう言うと研究室の中にある別の部屋に入っていった。

 1分もしないうちに、黎乃はその部屋から出て来た。

「よし、もう入っていいよ」

 その言葉を聞いて真道は黎乃がいる部屋に入った。

 黎乃が指定した椅子に座り、指示通り前を向くと赤外線が真道の両目をなぞっていく。

 そして、赤外線が通り過ぎると、先程研究室に入る前にも聞いたピピッという電子音が鳴った。

「よし、これで登録は完了した。一回研究室の外に出て、ちゃんと作動するか試してみてくれ」

「はいよ」

 そう言うと真道は今いる部屋から出ると、研究室の扉に向かって歩き始めた。

 真道が研究室を出ると、研究室の扉が閉まった。

 その後、黎乃と同じように研究室の扉に向き直ると赤外線が真道の目をめがけて発射された。

 その後やはりピピッという音が鳴ると、これまたやはり研究室の扉が重々しく開いた。

 真道が中に入ると、黎乃が満足そうに頷きながら言った。

「うん、大丈夫そうだね。これで一人でも入れるようになったから」

「よっしゃ。そんじゃ次はお前のロボットの性能テストだな」

「ロボットじゃなくて、アーマースーツだ」

「まあ似たようなモンだろ?さっさと始めようぜ」

 真道の言葉にコクリと頷くと、黎乃はまた別の部屋に向かって歩き始めた。

 黎乃が入った部屋は研究室よりも少し大きめの部屋だ。

 部屋の扉には「Multi-Purpose Hall」と彫られた板が取り付けられていた。

「なあ、これなんて書いてあんだ?」

 真道は黎乃にそう尋ねる。

「読み方は、マルチ・パーパス・ホール、らしい。意味は確か、多目的ホール、だったはず。この会社の名前や僕の役職もそうだけど、数百年前には世界の公用語だったらしいよ」

「へー、なんでそんな分かりづらい言語使ってんだよ」

「僕の父親の趣味だったんだ。昔、存在した言語をよく調べてたんだよ。それが僕に影響を与えたってわけ」

「ふーん...あれ?でも、マルチとかホールって言葉は俺らが使ってる言語の中にもあるよな」

「うん、僕らが今使ってる言語は基本的に漢字と仮名で構成されているけど、その中でもカタカナで表現される文字は、主にこの言語がルーツだって言われてるね」

「あー、なんか難しい話はよく分からん。つまりオシャレだから使ってるってことなんだよな?」

「んー、まあそんなトコかな」

 黎乃は真道の発言に苦笑いしながら答える。

「今は言語の話はいいよ。僕も早くテストをしてみたい」

「よっしゃ、まだ準備があるんだろ?」

「そうだね。とは言っても装着に時間はかからないから、すぐに準備はできるよ」

 そう言うと黎乃はあらかじめ多目的ホールに移動させておいたアーマースーツを準備し始める。

 アーマースーツは全身が出来上がっていたが、銀と紺の色がつけられているのは両腕の前腕のみだった。

「なあ、これって完成してるのか?」

 真道が疑問を呈した。

「んー、性能的には問題ないと思う。ただ塗装が済んでないんだよね」

「んじゃ実戦ではほとんど使える状態ってことか」

「そうだね。まあ、これは魔術師たちに科学力が魔法に劣るわけじゃない、ってことを伝えるために作ったものだからね。そもそもテロ鎮圧っていうのは、これを製作する過程で生まれた第二の目的なんだよ」

「じゃあ実戦...ここではテロの鎮圧のことだが、それに使う仕様にはなってないってことか?」

「うーん、そう言われるとそういうわけではないのだけれど...。基本の武装が魔法に対抗するためのものになってるから...」

 黎乃が続きを言う前に真道が割って入る。

「非魔術師が起こすテロの鎮圧には向いてないってことか」

「ま、そういうことだね。魔法に対抗するための装備が多いから、非魔術師に使うとどうなるのか正確には分からないんだよ」

「けど、魔術師だって実力はバラバラだぜ?魔力量や魔法に対する知識、複雑な命令式を与えて強力な魔法を使う奴もいれば、それができない奴もいる」

「だから君にテストを頼んだんだ。君ならできるんだろ?」

 そう言って黎乃は意味ありげに笑う。

「フッ、まあ確かにな。これでもブエル、パイモン、グシオンの三つの州から認められた第一級魔術師だからな」

 真道は自慢げにフフンと鼻を鳴らした。

 第一級魔術師というのは、いわば州から与えられる資格のようなものだ。

 毎年八月と二月に試験が行われ、合格すると第一級魔術師と認定される。

 ただ、一度に複数の州の試験を受けることはできない上に、参加資格が厳しいこともあって二つ以上の第一級資格を持つ者は多くない。

 試験を受ける条件の一つに、その試験がある年度中に18歳以上になること、というものがある。

 年度、というのは4月から翌3月までの間だ。

 真道の誕生年月日は魔暦503年9月4日だから現在は満19歳。

 つまり4回のチャンスで3回試験に合格していることになる。

「俺なら魔力の調整で幅広い強さの魔法を再現できる...ってのを期待してんだろ?」

 真道はやはり得意げにそう言う。

「そういうことだ。どの程度の魔術師にまで通用するのかを確認したいんだ」

「本気の俺を倒せたら、今ここで州に連絡を入れてもいい」

「冗談だろ?」

 黎乃は笑いながらそう言った。だが真道の返答は予想外のものだった。

「いや、本気だ」

 いつもと違う真剣な語調に黎乃は言葉を失う。

「さ、始めようぜ」

 そんな黎乃をよそに、真道はそう言いながら準備運動を始めている。

「あ、ああ」

 黎乃は塗装まで完了している前腕のアーマースーツを装着した。各前腕には二つずつ箱のようなものが取り付けられている。

 右と左に一個ずつ同じ物が。残りの二つは別々の形をした物だ。

 計3つの形状の箱が前腕に取り付けられている。

「その腕に付いている箱はなんだ?」

 真道が尋ねる。

「うん、これはウェポンパックっていうんだ。アーマースーツ自体に武装はなくて、これを換装することで色々な戦い方をすることができる。もちろん、ほとんどが魔術師を相手に想定されている」

「へー。ちなみにどんな武装かは...」

「テストを始めてからのお楽しみだ」

「ハハッ、だよな。そっちの方が楽しめる」

「それじゃ...始めるよ」

 その言葉が発されると同時に、黎乃の目が別人のようにギラリと光った。

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