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科学と魔法の超融合(フィズオーン)  作者: 村上隼人
第1章 そして時代は再び動き始めた
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鉄の男編III 慣れた音

魔暦523年 6/7(水) T-Factory内部CEO専用研究室


 手嶋黎乃はパソコンの前に座ってキーボードを叩いている。

 アーマースーツの最終調整をしているのだ。

 小山輝の件があってからスーツの完成を急いでいた。

 そしてそれももう終わる。

 スーツのペイントも終わり、武装の可動も確認した。

 あとは真道を呼んで性能テストに付き合ってもらうだけだ。

 とは言っても真道は先程出て行ったばかりなので、今日呼び戻すことはもうできない。

 さすがにそこまで甘えることは黎乃自身が許さなかった。

 パソコンのエンターキーを押すと黎乃はフーッと大きく息を吐いた。

 これでスーツは完成した。構想からすでに四年が経っていた。

 黎乃がスーツを開発しようと思ったのはある事件がきっかけなのだが、その事件からもう四年が経った。

 簡単な道のりではなかった。むしろ途方もなく険しい道のりだった。

 それでも諦めずにここまで来れたのは真道や美空、社員のみんなの支えがあったからだと、そう思い黎乃は支えてくれた全ての人に心の中で目一杯の感謝をした。

 多目的ホールに入りスーツを前にする。

 ウズウズしてきて性能テストまで待ちきれなかった。

 黎乃は大きく背中を開けている鉄の塊、銀と紺のアーマースーツに体を入れる。

 その時だった。研究室の扉が開いて、ものすごい勢いで美空が入ってきた。

「黎乃くんっ!」

 その声は焦りを隠せておらず、額には大粒の汗が浮かんでいる。

「どうしたんだ美空。そんなに慌てて」

 黎乃は嫌な予感を感じながらも努めて冷静な口調で尋ねた。

「小山が...」

 その名前を聞いた瞬間黎乃の体にグッと力が入る。

「小山が逃げたの。ソロモン府の警備署本部に移送される途中にっ」

「なっ...」

 黎乃は絶句する。

 そもそも移送されているという話さえ初耳だ。

「なんだ、どういう事だっ」

 黎乃はつい大声を出してしまった。

 美空は一瞬体をビクッと震わせた。だが、すぐに黎乃の目を見て話し始めた。

「詳しいことは分かんない。でも移送中の車を何者かが襲撃したって。もうニュースにもなってるよ」

「なん...何なんだよ、一体」

 黎乃は頭をグシャグシャと搔きむしり、苦しそうな声を出す。

「黎乃くん、大事なのはここから!」

 そう言って美空はガッと黎乃の肩を掴んだ。

「その移送車を襲った奴らが...」

 美空はグッと歯を食いしばり、黎乃の目を真っ向から見据えた。

 その様子を見て黎乃の嫌な予感は更に増していく。

「無差別に人を殺し始めてる!」



魔暦523年 6/7(水) シブヤ区画


 人々の叫び声が聞こえる。

 男、女、子供、老人、魔術師、非魔術師。それぞれ違う人間。

 共通しているのは、この理不尽な世界を傍観しているという事。

 ならばそれは敵だ。変わらなければいけない世界を変えようとしない者は全て敵だ。

 荒本康樹は自分にそう言い聞かせると、小型の爆弾を人の群れに向かって投げつけた。

 爆発音と人の悲鳴。いつの間にか聞き慣れてしまった、いわば生活音のようなものだ。

「康樹」

 後ろから声をかけられる。声の主は小山輝だ。

「どうした?」

「警備隊が包囲網敷こうとしてやがる。この数で切り抜けられるか?」

「はっ。警備隊なんざ魔法に依存した野糞野郎どもだ。負ける気がしねえな」

「魔断石も無限にあるわけじゃねえんだろ。油断してっと足元すくわれんぞ」

「ハハッ、輝は相変わらず心配性だよなぁ。万が一魔断石がなくなったら魔術師の野郎どもが出張ってくるよ」

「アイツらに頼るの...嫌じゃなかったのか?」

「使えるモンは使う主義なんだ。いつかアイツらもアゴで使ってやる」

 荒本はそう吐き捨てると小山の肩を叩く。

「警備署を叩くぞ」

 そう言うと荒本はどこから持って来たのか、装甲車に乗り込んだ。

「まったく、こんなモンに乗ってここまで来たのか?」

 荒本に続いて乗り込んだ小山は呆れたように尋ねる。

「バーカ、んなわけねえだろ。目立ちすぎてしょうがねえよ」

「だったらこれ、どこから...」

 小山の質問が終わらないうちに、装甲車がガタンと揺れた。

「どうやらおいでなすったみたいだぜ」

 荒本がニヤリと笑う。

 視線の先には警備隊が魔法陣を出して待機している。

「テロリストどもに告ぐ!今すぐ投降せよ!さすれば罪も軽くなる。これ以上罪を重ねるな!」

 警備隊の先頭に立つ者がそう叫んでいる。

 荒本はそれをバカにするように鼻で笑った。

「バカかよ、アイツは。こんだけの事やらかして罪が軽くなるとか、生まれたばっかの毛も生えてないようなガキでもあり得ねえって分かるぜ」

 そう言った後、荒本は無線機に向かって一言こう言った。

「やれ」

 その直後外にいた仲間たちが一斉に銃を乱射し始めた。

 もちろん魔術師は防壁魔法を張る。

 しかし次の瞬間。

 警備隊の防壁はドンドン破れていく。いや、徐々に消えていっているのだ。

「な、なんだ!何が起こってる!」

 叫ぶ警備隊をよそにスレイヤーズのメンバーは銃を撃ち続ける。

 そのうち警備隊の人間は銃弾の雨にあてがわれ、次々と倒れていった。

 倒れた警備隊員の上を装甲車で容赦なく走っていく。

 グチャグチャと人が潰れる音が装甲車の中にも確かに聞こえた。

「何やったんだ?」

 小山は荒本にそう訊いた。

「銃弾に魔断石をコーティングしたんだよ」

 荒本は涼しげにそう答えた。

 魔断石は魔力を流すことによってその効力を発揮する。

 一定時間周りの魔力を吸い上げるのだ。

 そのため魔法を使おうとしても魔力が魔断石に吸われ、魔術師は魔法が出せなくなる。

「銃弾で防壁魔法を撃てば、銃弾の周りの魔断石が防壁魔法の魔力に反応して魔力を吸い始めるって寸法だ」

 荒本は自慢げにそう話す。

 魔断石は効力を発揮させるために、直接魔力に触れさせる必要がある。

 しかし一度魔力に触れれば、周りの魔力を問答無用で吸い取り始める。

 非魔術師にとっては魔術師に対抗できる数少ない手段だ。

「さあ、今からが本物の祭りだぜ」

 荒本はそう言って舌舐めずりすると車中のスイッチを押す。

 外でドンという男が聞こえた。恐らくは砲撃の音だ。

 人の悲鳴も聞こえる。

 荒本がそうであるように小山にも聞き慣れた音だ。

 そのはずだ。そのはずなのだ。

 だが、小山の中で男の声が響く。自分より若い、どこか優しい雰囲気を含んだ男の声。

 自分たちとは別の方法でこの世界に立ち向かおうとする者の声だ。

 その声が小山の感覚を狂わせる。

 砲撃はとてつもなく恐ろしい音のように聞こえる。

 人々の悲鳴は今までになく悲愴に聞こえた。

(ダメだ...こんな時に何考えてんだ俺は。今までやってきた事だ。そしてこれからもきっと続けていく事だ。弱気になるな!)

 小山はそう自分に言い聞かせて心を奮い立たせる。

「康樹、砲手は俺に任せてくれ」

 迷いを払うように小山はそう申し出る。

「おお、任せたわ」

 荒本はどこか楽しげにそう言うと、席を小山に譲る。

 装甲車の先には民間人が逃げ惑っているのが見える。

 小山はぐっと目を瞑りスイッチに触れた親指に力を込めた。

 小山は砲撃の音と人の悲鳴がゆっくりと自分の耳に沈んでいくのを確かに感じた。

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