第4話
飛行船がついに飛び立った。
ホイナはラサギを伴い、舷側の遊歩道に設けられた大きな窓から外を眺めていた。
窓は遊歩道に沿うよう全体に長く大きく設置され、外の景色を存分に目にすることが出来る。
「飛んだよ……」
ホイナは小さく呟き、ラサギの腕を抱きかかえた。
「うん、飛んだね」
ラサギはホイナへ応える。彼も、上昇に伴って高くなってゆく窓の外へ見入っているようだ。
空へ浮いているはずだが、その実感はホイナにはない。もし窓がなければ、本当に空へ飛び立っているのか分からなかったろう。それほど静かな浮上だった。
窓の外には、緑色の大地があった。草原と、森だ。そこに群生するようにひしめいているのは、地上に残された人間たちだ。飛行船の影がそれらの上を覆い隠す。巨大な影に匹敵できるものは、格納庫と整理された発着場だけだった。
飛行船は浮上を続ける。あの大きな格納庫さえ小さく見えてしまうほどの高度に達し、そこでようやく停止した。
飛行船が前進を開始する。船体に付けられた四基のプロペラエンジンが稼働を開始したのだとホイナは想像した。
ラサギの説明ではエンジンは一二〇〇馬力の強力なものだというが、それが発する音はほとんど遊歩道には聞こえてこない。飛行船は静かに飛行場を離れ、西へ針路を取って進んでいく。
「すごい、空を飛んでる」
ホイナが再び感嘆の言葉を飛ばす。下には森が広がり、少し視線を上げれば、その森の果てと蒼穹の境界線を彼女は見ることが出来た。鳥たちの視界だ。大地に足を付けたままでは、けっして見ることの出来ない世界。
森の上、大空の下、風の中を、ホイナは飛んでいる。巨大なる船に乗って。
ホイナはしばしの間、そんな自分に酔いしれていた。
それを醒ましたのは、視界の隅に、ひとりの人物を見つけたからだ。青い服を着た、茶髪の女性。
「ラサギ、ちょっと待ってて」
ホイナは夫にそう言い、遊歩道の端にいるその人物へ近付いていく。
「ユナ」
呼びかけたホイナだが、少しだけ後悔した。なぜならユナが下界を眺めるその姿は、ひとつの完成された絵画のように見えたからだ。ユナは他の乗客と同じように窓の外を見ているだけなのだが、彼女の周りだけ空間が切り分けられている感覚をホイナは持った。しかしその感覚も、周囲と隔絶した空気を醸し出していたユナがホイナの方を振り向くと、途端に消えてしまう。
「ホイナ。こちらに見に来ていましたか」
ユナはゆったりとした微笑みでホイナを待った。そんな彼女のもとへホイナは寄る。
「こちらって?」
「遊歩道は反対側の舷にもありますから。そちらもこちらと同様に窓から外が見られるそうです」
「あ、そうなんだ」
ホイナはユナから、この上部デッキは客室区を囲うようにU字型に通路があり、左右どちらの遊歩道へすぐに行けることを教えて貰った。
ホイナたちが眺めている窓の反対側、遊歩道を挟んで小さな仕切りの向こう側にはラウンジがあり、すでに喫茶を楽しんでいる人々の姿があった。ホイナはそのラウンジの中から、空いている席を素早く発見する。
「私達もお茶にしよう」
「御相伴にあずかります」
ユナの言葉は軽やかで、その足取りも同様だった。単にラウンジへ歩みを始めただけだというのに、いちいちホイナの目を奪う。
ホイナとユナは遊歩道との仕切りの切れ目を通り、ラウンジへ入る。
ラウンジは白い壁面に世界地図が描かれ、隅にはピアノが設置されていた。その他、茶色に統一された卓と椅子。ホイナ達はそこに座り、すぐにやってきた給仕へ紅茶を頼んだ。
「あ、そういえばうちのひと置いて来ちゃった。まあ、いいか」
ホイナは思い出したように言う。その言葉に、ユナが首をかしげた。
「旦那様ですか?」
「うん、新婚旅行なの」
「それは、おめでとうございます」
ユナが、心の中心から放ったような輝きのある笑顔でホイナを祝う。その笑顔は、ホイナには本当に眩しかった。ユナの言葉に嘘や偽りがないと容易に分かる、そんな祝福の仕方だった。
「ユナは、ひとり?」
「いえ。一応、旅の道連れがいます。でもその人は外なんて興味ないようで、部屋で本ばかり読んでいます」
やれやれ、という感じでユナが首を振る。その動作がホイナには面白く、くすっと笑ってしまった。ユナも同じように笑顔になる。
共鳴するように、ユナの表情とホイナの心が一致していく。ホイナは自分でも何故なのか分からないが、このわずかな時間でユナへ心を許していた。
「ユナは、飛行船の旅ってはじめて?」
給仕が運んできたふたつの器の片方を口元に運びながら、ホイナは訊ねる。ユナが頷いた。
「ええ。こんなに大きなものだとは思っていませんでした。空を飛んでいるのを見たことはありますが、実際に近くに来ると、まるで怪物のようです」
彼女の口調は楽しげであったが、品の良い抑えた声だった。まるで楽器のような声音だと感じながらホイナはユナの言葉を聞く。
ユナの口から突然、弦楽四重奏が流れ出しても私は驚かないぞ。ホイナはそんな突拍子もないことを思ってしまった。
「ホイナは、西の大陸には行ったことがあります?」
今度はユナが訊ねてくる。ホイナは首を横に振って応えた。
「ううん、今回がはじめて。まずは摩天楼の街にいくつもり」
「はじめての乗り物で、初めての場所に行く。良いですね」
ユナは本当に、良いことを言葉にしている嬉しさがたまらないといった風に笑う。ホイナはそのような透明な笑い方をする人間を知らなかった。
「ユナは、変わった人って言われない?」
「よく分かりましたね」
「分かるよ。なんだか、すごい遠い海の向こうの陸地の、そのさらに向こうから来た人みたい」
ホイナが言うと、ユナはその不思議な笑顔で少しだけ首を傾けた。
「それほど広くはないですよ。川の向こう程度で結構です」
そしてやはり、よく分からないことを言うのだった。ホイナはその言葉に深く詮索をせず、紅茶を飲んで間を作った。
そうした一拍の中でも、ユナの仕草を観察してしまう。
青い外套をユナは屋内でも纏っていた。本来なら室内向けのものを着込むべきなのだが、ユナがそれを身につけているのはごく自然な印象で溶け込み、その場にそぐわない違和感というものがなかった。
年代物の外套ではあったが手入れは行き届き、まるで生きているような瑞々しさがあった。
「ホイナは」
ユナも紅茶を飲み、一拍の間の後で口を開く。
「ヒーエと友達でしたね」
「……うん」
ヒーエの名前に、ホイナの瞳が揺れる。目に見えないホイナ自身の部分が音もなく強張り、あの心の扉が静かに身震いするのが分かった。
「ヒーエは私の知人ですが、友達ではありせん。なので、私は彼女の神に興味がありません」
「あの神様のことも、ヒーエはあなたに話したの?」
ホイナは驚きとともにユナの顔を見詰める。ホイナの強い視線と声質を受けても、ユナは変わらず涼しげだった。
「ヒーエのことを、たいてい私は知っています。しかし知っているだけで、共感しているわけではないのです。彼女の神は、やはり彼女だけの神なのです」
ユナが青い瞳を細める。その瞳でホイナを見据えた。
「あなたの旦那様のいた村は、豊かになりましたか?」
「……」
ホイナは何も言えない。
ユナは構わず続けた。自分の問いかけの答えを知っている口調で。
「彼女が死んで、彼女の村は豊かになった。そのことを認めれば、ヒーエの神を認めてしまいます。だから、誰もヒーエのことを口にしないのではないですか? ただ、呪いのようにあの子の名前を胸に刻んで過ごしている」
「ラサギは、違う」
喉元を絞り上げるようにして、ホイナは言う。
「ラサギだけは、ホイナが森の神様のところへいったと思ってる。村がああして豊かになったのも、ヒーエのおかげだと思ってる」
「けれども、彼には彼の神様がいらっしゃる」
「……」
「彼はヒーエの神を認めた。けれど、その神の信者にはなっていません。私もそうです」
ホイナの双眸は、ユナの射貫くような、しかし激しさではなく静謐な瞳の光に眇められる。
「では、あなたは?」
「私は、神様なんて信じない」
ホイナは自分で思っていたより、あっさり告白した。それは彼女が子供の頃から親にも秘密にしていることで、特別な相手でなければ打ち明けないはずのものだったというのに。
しかしユナを前にすると、魔法に掛けられてしまったように、秘密にしていたものを放ってしまう。これは危ういことなのではないかとホイナは思ったが、逆らわなかった。
「私は神様を見たことがない。神様を信じてる人しか見たことがない。だから、神様なんて信じてないよ」
「ヒーエは、死すれば神がやってくると信じていました」
ユナは静やかに言う。
「生きている間はけっしてやってくることのない神でした。あなたの言うとおりです」
「私は、あの子の神様の信者じゃないよ」
「あの子の神は彼女の生死に意味を与える存在でした。無意味な死を、あの子は忌み嫌ったのです」
「それは……」
ホイナは言葉に詰まった。それは、おそらくラサギも同じだと思ったのだ。ヒーエは死んだ。しかし、その死と引き替えに村へ恵みを与えた。
ラサギはそう自分に言い聞かせて、ここまで立ち直ったのだとホイナは自分の夫にして人生の相棒の心を想った。
では、自分は?
ホイナは自問する。
あの村の豊穣は、ヒーエと関係しているのだろうか。ただの偶然なのか。
ヒーエは何の意味もなく死んだのだと、自分は思っているのだろうか。
ホイナは自分の心に聞いてみる。すると、待ち構えたように、心の扉から声がやってきた。
あの子は、死んだ。その後に何が起こっても、それは私には関係ない。
そうだ、とホイナは頷く。
「あの子は、自分の生死にしか興味がなかった。死んだ後のことしか見てなかった。私のことも、本当に友達と思っていたのか分からない」
吹き返すように思い出がやってくる。ヒーエとの記憶だ。森の中の川縁、水音が添えられた、秘密の場所。ヒーエの教義。森の神様。
「でも」
ホイナは頭を振る。
「私は、あの子が好きだった」
甘やかな時間が、あの川にはあった。
鳥の囀りや羽ばたき、木々の間をすり抜けて枝葉の匂いをふんだんに含んだ風、いくつもの色の層を光で織り交ぜながら流れる川面。
ホイナはそれらを感覚の奥底、閉じ込めた記憶の中から浮かび上がらせることが出来た。大切な大切な、幼い頃の思い出だ。
だというのに、どうしてか、ホイナは胸が痛かった。
ヒーエのことを思い出すたびに、ずきり、と自分にしか聞こえない音が鳴る。苦みと痛み、それらが記憶と共にホイナを苛んだ。
「私はあの子が好きだった」
ホイナはその苦しみに堪えながら、ユナへ告げる。
「でも、私は神様を信じてないの。みんなの神も、あの子の神も」
遊歩道の展望用窓から光が差し込む。和やかな陽を浴びてラウンジが一瞬だけ輝く。
その輝きの中、ユナは目蓋を落とした。そしてホイナへ頷く。
頷きながらユナが浮かべた表情の複雑さに、ホイナは酔いそうだった。憐れみや哀しみ、淋しさや懐かしさ、そんな感情を幾重にも束ねて肉と皮膚にしたようなユナの貌。
ユナが言った。
「それが、ホイナの未練でした」
彼女は閉ざしていた目蓋を開き、青い瞳でホイナを見る。ホイナの心の芯まで見るような、あの奇妙なまでに透明な視線で。
「あなたに、ヒーエの死の影が見える」
とユナは言った。ホイナは何故か妙に納得してしまった。この心の中にある扉から漏れた、重く硬く、それでいて形の掴めないものの正体を知った気になったのだ。
その途端に思い出したのは、ある雨の日だ。
そう、あの日、飛行船を見た。ホイナは思い出す。いつもの川縁、突然の雨、曇天の下の飛行船。ヒーエの嘆願。ホイナの抱擁。
そして、彼女からの拒絶。
思い出してしまった。ホイナは思い出してしまった。
ホイナは思わず、自分の口元を両手で押さえた。叫びを上げそうになった。どうして忘れていたのか。あの雨の日の夜。
ホイナはヒーエが好きだった。
ヒーエは死を望んだ。ホイナはヒーエに死んで欲しくなかった。しかしその願いは踏みにじられた。
だからホイナは願った。雨の日の夜に憤怒で狂い悶えたホイナは願ったのだ。
「私は、あの子なんて死んじゃえ、って思った」
ホイナの唇が、告白の怯えに震えていく。
「死んじゃえばいい、って願った。初めて、神様に願った。神様なんて信じてないのに」
そしてヒーエは死んだ。
神様が私の願いを叶えてしまった。ホイナはそう思った。しかしその思いは封印された。そうしなければ、自分の前で崩れ落ちるラサギを支えられなかったからだ。
しかしラサギには、もうホイナの支えは要らない。
ホイナは、扉の向こうの記憶を蘇らせる。
恐怖した。ホイナはどこまでも怖さに突き抜けていく身体と魂自体が恐ろしかった。
「あなたのそれは、神ではありません」
ユナが言う。その言葉はひたすらに静かで、震えに走るホイナの身をなだめてくれるかのようだった。ホイナはユナを見た。ユナはホイナに言葉を供する。
「ヒーエの死は、ヒーエの神が行いました。ヒーエにとっては神によるものでした。けれどあなたは神を信じていない。故にあなたの願いを叶える神はなく、あなたを苦しめるものも、神ではありません」
「じゃあ、これはなに?」
「死の影です。あなた自身が創造した、あなたにこびりついた、死です」
ユナの言葉に、ホイナは何も返せなかった。もう紅茶を飲むことも、席を立つこともできない。
時間が流れる。飛行船は飛び、進む。ユナはいつまでもホイナを見詰めていた。
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ミュルツは言った。
「現在、人類社会構造体は複数存在している。それぞれの所属者は各構造体内の価値基準で物事を評価するため、異なる構造体に属した者同士が分かり合うのは大変難しい」
敷き布の上に置かれたものが、いつの間にかさらに増えていることにホイナは気付く。
燭台に混じり、木の彫像がまばらに点在していた。それは鷹であったり牛であったり、竜や鳳凰のような幻想物語に出てくるものの彫り物もあった。
それらを何気なく眺めながら、ホイナはミュルツに訊ねる。
「私は、ヒーエを好きじゃなかったのかな?」
ミュルツは胡座をかいた姿勢を崩さず、首を横に振った。
「君はヒーエを町の人間と同じに見ていた。好意を持った相手でなければ、そのようなこと、つまり自分の属する構造体へ取り込むようなことはしないだろう」
「町?」
「君はヒーエを町の人間にしたかった」
ミュルツは言い切る。
「問題なのは、ヒーエは村という社会構造体の中の、さらに特殊な位置に属していたことだ。君にはその構造体を理解することはできなかった。君の属する構造体にはないものばかりだからだ」
「……」
「それはヒーエにも言えた。君の構造体の中にある価値観をヒーエは理解できなかった。しかし理解は出来なかったが、自分が取り込まれることは分かった」
対人解析機が言う。
「だから、君を拒絶した」
ミュルツの言葉に、ホイナは眉根を寄せて応えた。
「何が言いたいの?」
苛立ちを混ぜて放たれたホイナの言葉だったが、ミュルツは無表情を解くことをしない。平板な口調で言葉を返す。
「彼女は異なる人類社会構造体に取り込まれることを拒んだ。しかしそれが即ち、好きではなかったという結論になるかと言うと、そうではないと思う」
じゃあ、と言おうとしたホイナの言葉を遮り、ミュルツは自分の台詞を言い切った。
「ヒーエも、君のことが好きだったかも知れない」
ホイナはその言葉を聞き、思わず立ち上がる。熱く流れる何かが全身を巡っていることに彼女は気付いた。血液か、情念か。
「それなら、私のあの願いは何だったの? 私はヒーエが好きだった。けど私があの子を好きなほど、あの子は私の事なんて好きじゃなかった。だから、願ったのに」
死んじゃえ、と。
「君のその願いに価値をもたらすためには、君の言うとおり、ヒーエが君を嫌っていたという事実が必要になる。逆にヒーエが君を好きだった場合、その願いはまやかしだ」
ミュルツは言った。
「そしてその願いから生まれ出た君の影も、まやかしだ。しかし、君にとってはまやかしではない。君は創造してしまった。君にとって実存なら、それは本当に存在する」
その創造能力は個人の中で限定的に発動されるが、と彼は続けた。
ミュルツはホイナを見上げる。彼の瞳は徹底して揺らぐことなく、まっすぐにホイナへ視線を向けていた。
「人間の理の中では、個人の中でのみ実存するそれを外部へ顕現させることは不可能だ。それを可能とする領域にまで、人類社会構造体は達していない」
「それと、私のこの気持ちが、どう関係するの?」
「君が造り出したものは、他のいかなる個人も、人類社会構造体すらも干渉できない強者だ。そして死者となったヒーエは、それと同格の強者と表現できる。君は死者と同等の者を相手にしなければならない」
「……」
「もし、君が生み出したそれを打ち消す可能性があるとすれば、それはヒーエの赦しだけだろう。君の願いを赦せるのはヒーエだけだと君は思っている。少なくとも、君は君自身を許さない。そうじゃないのか?」
「そんなこと……」
ホイナは言葉に詰まった。心の中を言い当てられた、どきりとした感覚。しかしこれはホイナの夢なのだ。つまり、ホイナの心を自分で見つめ直しているのに等しかった。
ホイナは訊ねる。
「ヒーエの許しは、どうすれば分かると思う?」
「彼女は死んだ。もう応えることは出来ない。死の川の向こうにまで、人類社会構造体は領域を伸ばしていない」
「伸ばせる日が、来ると思う?」
「可能性がないわけではない。竜殺しが危惧しているのもそこだ。人類社会構造体は領域内のあらゆるものを管理しなければならない。そのために、決まりと仕組みを作った。魔術における秘儀や、科学技術の物理法則がそれにあたる」
彼らは無数の仕組みを組み合わせ、巨船を空中へ飛ばすことも可能とした。ミュルツはそう言う。
「この決まりと仕組みが、人の理だ。それは拡大する。どこまで伸びていくのか、現段階では予測できない。いずれ死者の領域にまで達するかも知れない」
「そう」
ホイナはそれを聞いて、もし自分が生きている間に、死者と話せるようになればいいな、と思った。
しかしヒーエと会って、何を話そう、とも思う。あの雨の日の夜、自分が彼女の死を願ったことを話すのか? ホイナは力なく座り込む。
微睡みがやってきた。夢の中であるというのに。
ミュルツが、どこから取り出したのか掛け布でホイナを覆った。視界が暗くなる。
そして、彼女はさらに深く眠った。