第2話
ホイナとその夫ラサギが新婚旅行で乗るのは、巨大な硬式飛行船だった。
浮遊ガスを入れた袋をそのまま船体にする軟式飛行船ではない。ジュラルミン製の骨格の隙間に、まるで内臓のように幾つもの浮遊袋を入れ、巨大な木綿の布で船体を覆う、大型の飛行船だ。
船の胴体は長く、流線型をしている。深く済んだ広い青空と、アクセントのように散りばめられた小さな白雲の下、その巨船は地上に佇んでいた。
無骨な鉄塔の係留マストに舳先を繋げ、船体を無数のロープで固定し、底部を接地させている。飛行船の後ろは半円柱の格納庫があり、こちらも船体同様巨大な建造物だった。
飛行場は広大な草原の中にあった。灌木の切れ目から続く緑色の地面に、何人もの人々が集っている。
飛行船の運用要員、旅行関係者、警備員、見物客、そういった人々相手に商売をする人間、人間の群れ。
ホイナが目を覚ますと、自動車の揺れる車窓越しに、それらが目に入った。
ホイナは思わず自分の喉元に手をやった。特に何も感じ取れない。だが呼吸が乱れていた。気持ちの悪い汗もかいている。
「ホイナ、大丈夫?」
彼女と同じ後部座席の隣にいたラサギが声を掛けてきた。ホイナの父親を前部座席の助手席に座らせ、運転席には雇った運転手、そして後部座席にホイナとラサギがいるという配置だ。
ホイナは思わず、眠っている間に見たことをラサギへ口走ってしまいそうになる。しかしすんでのところで堪え、
「大丈夫。ちょっと、車に酔っただけだと思う」
と誤魔化した。
長い付き合いであるラサギはホイナの嘘を感じ取ったかもしれないが、だとしてもホイナの心中を察してくれたに違いなく、「もうすぐ着くから、それまでの辛抱だよ」と言葉を合わせた。
ラサギには、ホイナの見ていた夢の中身を言うことが出来なかった。
ヒーエが、夢に出た。
結婚式を行っているときの夢だった。式に突然ヒーエは現れ、そして花嫁であるホイナの首を絞めた。
その苦しさでホイナは目覚めた。
ヒーエの夢を見るのは、久しぶりだった。夢の中のヒーエは子供の頃のままの姿をしていた。当然である。彼女はホイナが子供の頃に、死んでしまったのだから。
ラサギがまだ、自分の村にいた頃の話だ。あの頃は、今のようにホイナは父親と彼に雇われた運転手に連れられ、奥深い森の向こうにある小さな村へ頻繁に訪ねた。
都会育ちのホイナにとって、畑と家畜を相手にするばかりの村は退屈で仕方なかった。父親はこの村の出身なので、親友である村長と話が弾んでいたが、娘が寂しい思いに囚われていることには気付かないようだった。
その頃父親に言われたのは、
「ラサギと遊んできなさい」
という放任の言葉だった。
将来の夫になる同い年の子供と、今のうちに仲良くなっておけという親の意図をホイナは子供心に感じた。
だがホイナにとって、この村に来て一番の楽しみは、ヒーエという村娘に会うことだった。
ヒーエより痩せこけた子供を、ホイナは見たことがなかった。ひどく細い手足と胴体、手入れなどされていない黒い髪、そして、街の人間には持ち得ない奇妙な光を宿した黒い双眸。
ヒーエは、仕事がないときは秘密の場所にいた。ホイナは彼女からその場所を教えて貰っていたので、ラサギを連れてそこまで行く――ふたりだけの秘密の場所なので、ラサギは途中で置いていくのだが――それがいつもホイナの胸を躍らせた。
いつも、ヒーエは川縁にそっと座ってホイナを待っていた。
ホイナはそのヒーエの姿が、たまらなく好きだった。都会から遠く離れ、山村からも切り離された場所にいる、風変わりな少女の姿が。
町でも村でもない、どこでもない場所にいる、同い年の女の子。
それが、ホイナの、この村での唯一の女友達だった。
しかし、ヒーエは十二歳のとき、ホイナ達が新婚旅行をする八年前に、死んでしまった。
町にいたホイナは、ヒーエが死に、その葬儀が行われたことをラサギから聞いた。
ヒーエの溺死体が川辺に上がっていたのを、村人のひとりが発見した。その前日はひどい雨の日であったため、増水した川の流れに巻き込まれたと推測された。
村で最も貧しい家の子であったヒーエの葬儀は、とても簡素に行われた。
一応作ったという棺にヒーエの小さな体を入れ、墓地に埋めた。適当な石を墓石にし、名前を彫られ、短い祈りの儀式が執り行われた。それで終わりだった。
村はすぐ普段の姿へ戻った。異なる点と言えば、ヒーエの父親が村から完全に失踪してしまったことだが、彼は村ではいてもいなくても変わらない男であった為、村の住人はたいしたことだとは思わなかった。
その年、村はかつてないほど豊作だった。
溢れんばかりに麦は実り、家畜たちもたくさんの子供を産んだ。村では病気にかかる人間がいなくなり、いつもなら冬に生まれた子供は何人か病気にかかるのだが、それさえなかった。
村は豊かになっていった。森を切り開き、村を拡げることにも成功した。収穫した作物や家畜もよく売れ、暖かく穏やかな気候が続いた。
誰も口にはしなかったが、それがヒーエが死んだ年からだということを、胸の裡では分かっていた。
ということを、ホイナはラサギから聞いた。
「ヒーエは、森の神に召されてしまったんだ」
当時の彼は、そう言った。
そう言って、ホイナの前で泣いた。
きっとあの村でヒーエの死に悲しんで泣いたのは、ラサギだけだろうな、とホイナは思った。
ラサギはヒーエが死んだその年、ホイナの町へ移り住んだ。本格的に、ホイナの父親が経営する店で働かせる為だ。
村育ちのラサギだったが、彼は要領も愛想も良かったので、店の人間達に嫌われることなく受け入れられ、ホイナの協力もあり、町の空気にもすぐ馴染んでいった。
そんなラサギだったが、ホイナとふたりきりになると、いつも悲しみに崩れ落ちた。
ラサギはヒーエの死を、ずっと悼んでいた。しかしその悲しみを決して表には出さず、よくできた婿養子として振る舞った。
ホイナは、彼の苦しみが癒えるのを待った。だからずっと、彼の側にいた。ラサギが恥も外聞もなく泣き崩れるのは、ホイナといる時だけだった。
ごめん、とラサギは口癖のように言った。
それがホイナに対してなのか、もうここにはいない少女に対してなのか、ホイナは訊ねなかった。
ただ、時が経る。
二十歳になり、ホイナとラサギは結婚式を挙げた。富裕層に属するホイナの父と、豪農となったラサギの父親は盛大な式を行った。
ホイナには、町の友達が何人もいた。ラサギの村の人間も何人か来た。皆、新しい夫婦の門出を祝った。
そして昔からの約束通り、西の大陸へ新婚旅行をすることになった。乗るのは巨大で豪華な旅客飛行船。優雅な旅の始まりのため、彼らは飛行船の発着場へ向かった。
その移動の中でホイナは眠り、ヒーエが夢に現れた。
これは何を意味するのだろう、とホイナは不思議がる。
そうこうしているうちに、自動車は飛行場のすぐ近くへ到着した。ラサギが先に車を降り、外からホイナの扉を開ける。ホイナはラサギに手を支えられながら、外へ出た。
草の匂いをはらんだ風が、微かに吹いている。ホイナはその風がそれほど強くないのを確認すると、白い日傘を開く。
そしてラサギにエスコートされ、飛行船へ歩いて行く。彼らの後ろに、ホイナの父親も続いていた。ホイナは後ろを振り向き、父親へ言う。
「大丈夫、お父様。ここからは私達だけで参ります」
「飛行船には、儂も乗ったことがない。初めての乗り物だ。十分注意しなさい」
ホイナはその言葉に頷き、ラサギから離れ、父親へ小さく抱きついた。父親も娘へ抱き返す。そして彼らは離れた。
ホイナの父親はラサギへ顔を向ける。
「ラサギ、ホイナを頼んだぞ。いつまで経ってもやんちゃが抜けんからな」
「お目付役の任、肝に銘じています。ホイナなら、突然プロペラを見に行こうと言い出しかねませんから」
微笑と共に返す義理の息子へ、ホイナの父親は満足げに笑む。
そして親子は別れた。新婚の夫婦は歩を前へ進めた。
ごった返す人の群れをかき分けて、乗船手続きをしている場所を発見した。旅券と乗船券、その他の必要書類を係員に提出し、乗船の許可を得る。
飛行船の底部から乗船用の階段が地上へ伸びていた。そこから船内へ入るのだと説明を受け、ホイナとラサギはそちらへ歩いて行く。
間近で見る飛行船は、まさに巨獣だった。
全長は二四〇メートルを超え、直径も四〇メートルに達するという。そういった数字はともかく、ふたりからすれば地上に横たわる飛行船の姿は、白灰色の巨大な長城のようだった。
自分たちは今から、このとてつもなく巨大な建造物に乗り込み、そして宙へ舞い上がるのだ。
そう思うと、ホイナは小さく身震いする。幼い頃から自分が飛行船に乗ることは知っていたが、実際に目の当たりにすると、この乗り物は相当非常識な代物だと思った。
かくしてホイナたちは乗船用階段を昇り、その常識破りの巨船内部へ足を踏み入れた。
そこは上品な廊下につながっていた。
床一面に赤い絨毯が敷き詰められ、踝まで埋まりそうだ。壁に取り付けられた照明は派手ではないが、さりげなく寛ぎを与える大きさと形をしている。あの恐ろしいまでに巨大な物体の内部とは思えず、まるで高級ホテルの中へ入ったようだ。
階段は折れ曲がってさらに上へ続いている。この階層は喫煙室やバー、シャワールームのある下部デッキで、客室は上部デッキに設けられている。
ホイナはとりあえず階段を昇ることにした。ラサギはホイナより先に昇り始めている。ホイナより早く上へ昇り、彼女が部屋を探す手間を省くつもりのようだ。
長い付き合いなので、彼のそういった気遣いはすぐに分かった。なのでホイナはゆっくりと階段を昇り、上部デッキへ辿り着くことができた。
そのときだった。
「……ホイナさん?」
背後から、名前を呼ばれた。
ホイナはその意外な出来事に驚きながらも振り返った。
白い壁と赤い床の廊下に、青い服を纏った女性が立っていた。
不思議な人だ、とホイナは感じた。
具体的にどこが不思議なのか、はっきりとは分からなかった。青い生地に枝葉や草花の刺繍がされたその大きめの外套がかなりの年代物で、現代的な廊下の中では非常に浮いているせいだろうか。
それとも、編み込んだ長い茶髪の下、ひどく白い肌にある青い瞳が、どこまでも深い色を湛えていたためだろうか。彼女の双眸は、端のない天頂のような、空に似た青さがあった。
その女性がほんの僅かに周囲へ発している空気は、その衣服同様に浮世離れしていた。
彼女以外の乗客は、みな身なりの良い紳士や淑女で、ホイナと同様に都会の空気をそのまま引き連れていた。
しかし彼女が連れてきているものは、まったく違う毛色をしていた。不作法な田舎臭さでもなく、威張った傲慢さでもない。
静かにそこにいる。けれど、他のものとは違う。そういった不思議さだった。
そんな女性に声を掛けられ、しかしホイナには見覚えのない顔だった。このような独特の気配を持つ人間であれば、なかなか忘れることはできないはずだ。
「失礼ですが、どなたでしょう」
ホイナは訊く。すると女性は慌てた様子もなく、ゆるやかに微笑んで口を開いた。
「はじめまして、ユナと申します」
女性はそう名乗ると、小さく一礼した。その動きの流れはやはり独特で、彼女がその身を動かすだけで、ホイナは今まで見たことのないものを見る感覚に陥ってしまう。
「知人があなたを知っていたので、つい声を掛けてしまいました。馴れ馴れしく申し訳ありません」
ユナと名乗った女性は、ホイナに向かって頭を下げた。
ホイナは彼女の説明に少しだけ違和感を感じたが、頭を上げるよう言った。
「構いません。共通の知人がいる人と同じ船に乗れて嬉しいです」
その言葉にホイナは嘘を混ぜていなかった。長い旅で、知り合いを作るきっかけが出来たのは正直嬉しい。変わった相手ではあったが、喋り方や仕草は穏やかなものだったので安心できた。
だから、ホイナはユナにこう訊いた。
「よろしければ、その知人の方のお名前を教えて頂けないでしょうか」
ユナはホイナの許しに安心し、口唇を安堵で緩ませる。彼女はその小さな唇で、ホイナに応えた。
そしてその名前を聞いて、ホイナは凍り付く。
「ヒーエ、という子です」
ホイナの耳に、音でない音が聞こえた。
「……」
その音はホイナの中から発せられたものだ。
まるで彼女の心の中に、木の板を釘打って封印した戸口があり、その釘や板が突然ぼろぼろに朽ちて崩れてしまったような、そんな音だ。
そして、その扉を開くのを遮るものは何もない。
そういう実感が、ホイナの中で生まれた。
「……ヒーエは、死にました」
なんとか、といった重々しさでホイナは言葉を作る。
対して、ユナはその静かさを崩すことなくホイナの言葉を受け止め、頷いた。
「存じております。その最期も」
「あなたは、ヒーエの村の人なんですか?」
「いいえ。私はどこの人間でもありません」
ユナは不思議な台詞で受け答え、右手を差し出す。その細い手首には、青緑色の紐飾りが巻き付けられていた。異国風の装飾がされた手は、ホイナに握手を求めている。
「ですが、あなたと友好は交わしたい。あなたが不快でなければですが」
「……」
ヒーエの心の中は、混乱していた。何年も胸裡の奥底へ放置していた扉が、今になって突然、その存在を主張し始めている。その扉を開くべきかどうか、その奥には何があるのか、ホイナには分からなかった。
だがこの船に乗る直前、夢に現れたヒーエの姿が、ホイナの行動を決定する。
ホイナは、ユナの手を握った。ユナは微笑みを浮かべる。
「宜しくお願いします、ホイナさん」
「ホイナでいいです。みんなそう呼びます」
「では、私のこともユナとお呼び下さい」
ユナの笑みに、ホイナもその場では笑みを返した。心中の海にある浜辺、その波打ち際でいつまでも音を立てる白波のような騒がしさを抑え付けて。
客室は狭すぎず広すぎず、という印象をホイナは受けた。必要充分な空間を確保しているため、彼女は部屋の大きさには不満を感じなかった。
しかし客室は飛行船の船体中央に配置されているらしく、窓が一切無かった。また客室内にあるものも、二段ベッドの他は手洗い用の蛇口のみという質素なものだ。
「豪華客船って聞いたのに、ちょっとがっかり」
ホイナはベッドの下段に自分の荷物を置きながら、愚痴をこぼす。
「ここは寝る時専用、という感じで使うみたいだね。だいたいはラウンジか読書室で過ごすと良いそうだよ」
ベッドの上段に昇ったラサギが、下にいるホイナへ説明した。
「あとでラウンジに行ってみよう。遊歩道は外が見られる窓があるらしいからそれも見に―――」
「ねえ、ラサギ」
ラサギの言葉を遮って、ホイナは彼へ呼びかける。その声質は硬かった。
「ちょっと降りてきて」
「うん」
唐突なホイナの要求に、ラサギは素直に従う。彼はベッドから降り、部屋の中に立つホイナの前へやってきた。
「さっき、ある女の人に会ったの」
「うん」
「ヒーエの、知り合いだって言ってた」
「……そう」
ラサギは、それだけしか言わなかった。ホイナは彼の瞳を見る。憂いの色合いは確かにあった。けれど、かつてのように、崩れ落ちたとき特有の揺らぎは見当たらなかった。
なので、ホイナはラサギに再び要求した。
「ラサギ」
「なに?」
「ぎゅっ、てして」
「わかった」
ラサギはホイナの、やはり唐突なその言葉へ頷いてみせる。
彼は妻へ近付いた。そして丁寧に、壊れ物を扱うような動きでホイナを抱擁する。ラサギはそのまま、優しい力の込め方で、ゆるやかに抱きしめた。
ホイナはラサギの胸に耳を当てる。彼の心臓の音を聞く。抱きしめる腕、そしてその根本、肩を感じ取った。そこに震えや怯えはなかった。
心を壊してしまうような暴力的な悲しみではなく、もっと純度の高い、誠実な悲しさがホイナに伝わってくる。
ラサギは、もう大丈夫だ。ホイナはそう思った。
ヒーエの名前を出しても、もうラサギはふたりきりのときであろうと、悲しみに千切れられたりしない。
彼を支える必要は、もうないのだ。
ホイナはそれを実感したかった。ラサギが崩れている時に、自分まで悲しみに潰れていては、きっとどうしようもなかっただろう。
脈動をホイナは聞き取る。それはラサギのものとは違うもので、自分の中から滲みだしたものだとすぐに分かった。
その音は、あの心の中の扉から出てきたものだ。
ヒーエが死に、ラサギが悲しみに暮れたあの頃から、ホイナはあの扉を閉じた。封印し、奥へ奥へと追いやった。見ることも思い出すこともしなかった。
だが、ここへきて、その封は破られた。
どうしてだろう、とホイナは思い、そして気付く。
時期が来たのだ。
ラサギが哀悼の辛苦を乗り越えるまで、時間が必要だった。そして時は経た。彼は、もう潰されたりはしない。
次は、私だ。ホイナは思う。
ヒーエに関するあらゆる感情は、あの扉の向こうに押し込んでしまった。それを開ける時期が来た。
思い出すことを、自分に許そう。
ホイナはそう決めた。
その途端、どういうわけだか、寒気が全身を駆け巡った。
「……?」
震えがホイナの体に湧き起こる。自分でそれを止めることが出来ない。目に見えないものが戦慄いている。ホイナはラサギにしがみついた。恐怖のあまり。加減も考えず、助かりたい一心で。ホイナはしがみついた。
そんなホイナを、ラサギは優しく抱きしめる。ホイナの頭を抱え、撫でた。何度も、何度も。
ホイナは、ラサギが伴侶で良かったと、心の底から思った。
そして彼に抱かれながら、追いやっていた扉が少しだけ開くその音を、ホイナは聞いた。
… … …
《竜殺し》の対人解析機は《輝きの霧》の大使へ警告する。
「貴殿は《竜殺し》の狩猟対象に極めて接近しており、当方の攻撃に巻き込まれる危険あり。その場からの即時退避を勧告する次第」
《輝きの霧》側から《竜殺し》へ返答文書が送られた。
『貴公の当該目標への攻撃を了承した場合、旅程に大きな変更をもたらす。我が方の大使は旅程変更の必要を認めない為、貴公の退避勧告を拒否、及び攻撃中止を要請する』
《竜殺し》の対人解析機はその返答文書を解読し、再び竜殺しの意思を返信する。
「攻撃行動は決定事項であり、中止はあり得ない。よって当方の攻撃により貴殿が損害を被った場合、その責任は貴殿自身である。繰り返す、攻撃行動は決定事項であり、中止はあり得ない」
《輝きの霧》側は文書を再度送った。
『大使の旅程上でのあらゆる艱難は、輝きの霧の名の下に排される。我が大使を巻き込んでの戦闘行動は、いかなる事情があろうと、我が方への宣戦布告とみなす』
《竜殺し》の対人解析機は《輝きの霧》の大使へ文書の回答を行う。
「当方の攻撃目標は竜であり、貴殿ではない。しかし貴殿がそれを宣戦と解釈するのであれば、当方は貴殿を竜の守護者と認定する。当方の狩猟行動を阻む者は、全て敵である」
こうして《竜殺し》と《輝きの霧》側との戦闘が始まった。