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夢の中なら  作者: 鈴本恭一
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第1話



 新婚旅行の初夜、ここは君の夢だ、とその青年はホイナに言った。



 青年は自分のことを、竜殺しの対人解析機と自称した。名前はミュルツ。


 年齢はホイナとそう変わらない、二十歳程度に見えた。



 彼のやや長めの黒髪は無造作に伸ばした印象をホイナに与えた。その髪の下の整った顔立ちは無表情で、自分は人間ではない、という彼の言葉に説得力を持たせている。






 変な夢を見ているなあ、とホイナは思った。



 森の中に数多の鳥獣が駆ける図を模様にした敷布が、何枚も折り重なってどこまでも広がっている。端は見えない。


 ホイナはその上に座り、彼女の対面にミュルツがいた。彼はまるで鎧と剣の時代から抜け出してきたような、時代がかった上下の外衣を纏っている。




「夢の中で、これは夢だ、って言われるのは、なんだか変な気分」


「夢見を悪くさせる気はない。何か欲しいものがあれば、なんでも言ってくれ。ここは夢だ。なんでも出せる」




 そう言われて、ホイナは自分の家にある気に入りの紅茶と、ラサギが以前買ってきて美味しかった焼き菓子を所望した。

 すると彼女の前の布の上に、ポットに入った紅茶とカップ、皿に乗せられた焼き菓子が現れる。



「お、これはなかなか便利」



 ホイナはカップに紅茶を注ぎ、それを冷ましながら口にする。記憶に違わない、彼女好みの香りだった。




「ええと、ミュルツだっけ。このお菓子美味しいから、あなたも食べなよ」


「では、お言葉に甘えて」




 ミュルツは革の手袋に包まれた手で焼き菓子をつまみ、口の中に入れた。それを嚥下しているときも、彼には表情が浮かんでいない。




「ミュルツは人間じゃないの?」


「違う。竜殺しが、人類社会構造体に対する情報の収集と解析を目的に使用している道具だ」


「竜殺しってなに?」


「竜殺しは竜殺しだ。竜を殺す存在だと思ってくれればいい」




 ふうん、とホイナは相槌を打ち、自分も菓子を頬張った。そんな彼女に、ミュルツは説明を続ける。




「君たちは竜を認識できないだろう。竜はかつて竜として確かに存在していた。しかし現在はその存在を変化させ、人間には勿論、竜殺しにさえ認識できないものとなった」


「じゃあ竜殺しは、もう竜を見つけられないんだ」


「いや、発見した。竜は人類社会構造体に共生する形へ状態を変化させていた。人類社会構造体が竜を使って力を得る瞬間のみ、竜殺しはそれを竜と判定する」


「力?」


「動力、と言い換えてもいい。竜は人間に使われなければ、生きても死んでもないただのモノだ。しかし人間がそれを使用し、動力を得ると、それはモノから竜へ変化する」


「……それは、燃料のことを言ってるの?」




 ホイナが訊ねると、ミュルツは頷いた。




「竜はある時期を境に、地下へ潜った。人間に使われる為に」




 ミュルツはどこからかカップを取り出し、ポットの紅茶をそれに注いで、冷ますこともなく一気に飲み干した。




「もし仮に、現行の燃料の代替を人間が生み出した場合、竜はそれへ成るだろう。人間が、例えば月まで支配領域を広げ、月面の鉱脈で新燃料を使い出しても、やはり竜はそれに変化する」




 そして、竜殺しはそれを殺しに行くだろう、とミュルツは言った。




「竜殺しは人間と戦うの?」


「それは正確な表現と言えない。あくまで竜殺しの標的は竜だ。その竜の共生相手である人類社会構造体は、竜殺しの狩猟行動の巻き添えになる、と言う方が正しい」






 これはいったい何の話をしているのだろう、とホイナは話しながら不思議に思った。





 ラサギと旅客飛行船で大洋を渡る旅の中に、自分はいるはずだ。


 だというのに、その旅の夢の中で、聞いたこともない単語の羅列をまくしたてる男と喫茶をしている。





 変な夢だ、とホイナは改めて思う。




 その原因は、きっと昼間のせいだと考えた。




 ユナという女性に出会ったせいだ。



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