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闇夜師と館

作者: 遥 一良

                    紅に染まりし朧月



 住み込みで部屋を探していた俺、上梓じょうし 顕示けんじ。俺にはとある特殊な力があった。この力は普通の人が宿してはいけないモノだ。その力も込みで、住み込みの主人は俺を受け入れてくれた。


 古びた洋館が目の前に広がっている。周りの家々はこの洋館を意識的に避けているのか、敷地から相当離れた所に家を構えているようだった。常人には見えなくとも、ただならぬ気配は感じ取られている……ということだろう。現に、ここにたどり着いただけの俺は洋館に潜んでいる何かにずっと敵意を向けられている。


 空を見上げると今宵は、朧月。しかも紅く染まっている月だ。こういう時は、ソレらの気配が色濃く出るものだ。さて、洋館の主人は人か、あるいは?


「ごめんください。住み込みで参りました、上梓と言いますが……」


「……入れ」


「失礼します」


 案外素直に返事が返って来たな。と言うことは人か。玄関で履いて来た靴を脱ぎ、礼儀を忘れずに揃えて入ると、気配が変わった気がした。


 これは俺を試している……か。住み込みの募集は今まで何度かあったはず。ただ、それは俺の様な力のある者限定。それでいて、作法を知らぬ者はことごとく追い払われて来たとのこと。玄関も入れずにな。


 玄関より目の前の廊下を見通すと、長く長く伸びた先の奥に影が視えた。しかもこちらをジッと見据えているようだ。彼が主人か?


「ここへ来い」


「はい、ただ今」


 何だ? 椅子に腰掛けているようだが、ピクリとも動いていないのか? 見た感じは老人に見えるが……


「お前、何か感じたか?」


「そうですね。まず、敷地に潜んでいるモノ。そして、玄関。最後に、あなただ」


「ふっ、面白いことを言う。お前には小生がソレに視えるとでも?」


「違いましたか?」


 案外若いな。老人のようにも視えたが、白髪がない。だが、足は不自由か。


「今宵の様な日は彼らが騒ぐ。それをお前は感じたのだろう? 小生はソレなどではないが、気に入った。お前をここへ置く。小生の世話をせい」


「それはありがたいことで。あなたは齢いくつになられるので?」


「老人にでも視えたか? 50だ。ふっ、お前からしたら老人であろう」


 ああ、案外若かったな。だが、言葉遣いと言い雰囲気と言い……見た目と中身は別人のようだ。



 俺は、この主人の身の回りを補助する為に来た。椅子から動くことなく、それでいて食事をまともに摂っているようにも見えない。だが、肌は白いもののやつれているわけでもなく、病弱と言うわけでもない。


 思うにこの洋館に潜む者らが彼を生かしている。そうだとしか思えなかった。だとすると、俺をここへ呼んだのは何故だ。俺が彼らを排除してしまえば、主人は生きられないのではないのか?


「お前、上梓と言ったか。それを心配するつもりなら帰っていいのだぞ?」


「おや? 心でもお読みになられたので?」


「ふ。子細無いことだ。足を動かせぬ小生であっても、こうして生きているのだ。ここの者たちはそこまで悪さはせぬ。上梓を呼んだのは排除の為ではない。小生の世話だけだ」


「それでいいので? 俺の力は少しの悪さも除けるのですよ」


「上梓よ。お前は小生にとって、漉し餡なのだ」


「は? こしあん? と言うと饅頭のアレのことですか?」


「甘い考えを持って過ごすことが出来る人間なのだろう? 漉し餡は比喩だ。お前は漉し餡から粒あんに変われる人間かもしれぬが、ここでそれは無用だ。小生の為だけにその力を使えばよい」


「あぁ、やはり分かっておいででしたか。紅い朧月には気配を濃くする奴等を排除するつもりだったのですがね。主人がそれを望まないとすれば、俺は漉し餡のままで過ごしますよ。それでいいのですね?」


「構わぬ。洋館にはそうしたモノたちの在も必要となるのだよ」


「では、俺は主人の世話をしつつ、なるべく彼らを処することなく過ごすことを約束しますよ」


 そういう考えもあるのだなと思うしかないが、住み込みで奴等と共生するしかないのかと思うとこれから先、無駄に気苦労しそうだ。


 俺の眼は常人には視えない霊体が視える。洋館には彼らが無数に存在している。住み込みで来た理由はそれらを排除する為でもあったが、主人がそれを望んでいない。最も、悪さをする奴は容赦なく熱を加えて浄化させてやるけどな。


 姿無きモノたちを浄化するために来た俺だったが、主人に仕えるタダの人と成り果てそうだった。幸か不幸か、それを望むのは俺では無く主人だ。さて、主人の知らぬ敷地内で俺は罪を浄化しますかね。 

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