極超新星爆発
ザース春18日の朝。ライザさんと一緒に朝食。
と言っても、ライザさんはホログラムなので、食べずに俺達が食べるのを見てるだけなんだけど、それでも楽しいらしい。
収納空間から取り出す転写した食べ物や、万物創造で作り出す食べ物が食卓を飾る。ちょっと面倒な作業だけど、今日はギャラリーがいるのでちょっと頑張って見る。と言っても本当に料理するのとは比べ物にならないほど簡単な作業なんだけどね。
慣れは怖い。日本でも食洗機に食器をセットするのとか、洗濯物を全自動洗濯機に入れてスイッチを押すのが面倒になったりするもんなー。
プルリンは、10歳くらいの男の子の人型になって、俺とハナの真似をして行儀よく食事する。
「歯で噛んで舌で味わって食べると美味しいね。あんまり食べた感じはしないけど」だそうだ。
「精霊族の仲間に、生命エネルギーから進化して意識を得て魔法生物になった妖精族がいますが、ライザさんも魔法生物になれるんじゃないでしょうか?」
「私は生命エネルギー起源ではありませんが、魔法生物的な存在には成れるかも知れませんね。ちょっと試してみます。次回いらっしゃる時の楽しみにしてて下さいね」
「うわぁ、それは楽しみだー」
「ところでライザさんは精霊族のこと知ってました?」
「月の地下にいらっしゃるとは知りませんでしたが、ザースの深い森の中や温暖な島に、認識接近妨害の結界を張って暮らしている高度な種族がいることは気が付いていましたよ」
「あ、それです。ザース上にリゾートを持ってるって言ってました」
*****
朝食終えて、ライザさんとしばしのお別れをして、それから今朝は、趣向を変えて海中で訓練をしてみよう。
ザースの水棲生物は数が多く、中にはレベルの高いものもいる。
最初はおっかなびっくりだったプルリンも、すぐに慣れて夢中で戦いかつ食べている。
俺とハナは汎用気密服もあるし、海中でも全く問題ない。
海面近くで小魚やクラゲを食べて、プルリンは既に毒系と麻痺系のスキルを獲得していた。
水深50m~100m辺りになるとやや薄暗い。鮫や海蛇の魔物がいる。更に深く潜ると鯨や水竜系の魔物や獣がいた。この辺の竜はさほど知性的ではなく、野生そのものという感じだ。レベルは30代くらいまで。ハナはせっせと狩り、プルリンは狩りかつ食い、俺は主にプルリンの生餌用に捕獲して収納した。
暗い海の中で感覚域だけを伸ばすして、音と気配を楽しむのも心地良いし、光操作で明るくして幻想的な景色を楽しむのも良かった。
プルリンは5つもレベルが上がり、水系と超音波系のスキルを獲得した。プルリンレベル26。
ハナは一つレベルアップ。ハナレベル60。そして宣言通り式神のギフトをゲット。
俺は大量の生餌をゲット。。。うーん、ほとんど消耗せず、俺の訓練にはならなかったな。
なんか、海中公園で遊ぶための引率をしたような感じ。
*****
月地下の森の街へ転移し、エレーヌさんと会う。新しい仲間としてプルリンを紹介する。
そのプルリンはさっそく妖精たちと戯れている。光合いっこをしてくるくる飛び回り、ハナも混じって、キャーキャーわーわー遊んでいる。
エレーヌさんにライザさんのことを話してみた。
「ウルマ迷宮近くの埋没した宇宙船ですね。知っていますよ。随分前からあそこにありますが、生命反応はないものの防衛装置が稼働を続けていて、調査不能の謎の遺物と受け止めています。そうですか、彼女は疑似生命体というべき存在ですね。更なる進化がたのしみです」
「そう言えばザース上の精霊族リゾートですけど、認識妨害、接近妨害の結界が張ってあるんですか?」
「ええ、とても簡単なものなの。こんな感じでパキッと張ってあるのよ。こうするとぼやっと見えるから、こうしてスルッと抜ければ出入り自由よ」
全然簡単じゃなかったけれど、ジョーが頑張って結界を解析してくれた甲斐があって、自分で張ることは出来ないものの、発見してくぐり抜けることまでは出来るようになった。
今日時間があったらリゾートのひとつに連れて行ってくれるそうだ。
うん、楽しみだ。
*****
「ハジメ、今余裕があるなら、新しい任務をやってみる?」
リゾートというご褒美は、これをやってからということだな。
「どういう任務ですか?」
「20光年先で、極超新星爆発が発生して、強いジェットがザース恒星系に向けて噴射されてしまったの。届くのは500年以上先だけれど、放置するとザースは生存不可能な星になってしまうわ」
「そのジェットを消滅させればいいんですね」
「ええ、消滅させるか向きを変えるかすればいいのよ」
「前の爆食虫より簡単な感じですかね?」
「うーん、極超新星爆発は爆食虫と違って、純然たる自然現象だけれど、エネルギーとしては比較にならないほど強力なので、危険度は爆食虫より上ね」
「エレーヌさんが考えた作戦は?」
「さんは付けなくていいわよ。拡散前の早い段階だとエネルギーは強いけれど働きかける範囲は比較的小さい。逆に時間が経過して拡散が進めばエネルギーは弱まるけれど広範囲に働きかけなければならない。ハジメの力なら早い段階でも結構行けるかも知れないと思うの。遮断したい範囲はザースと太陽近辺の直径30光分程度。現段階なら僅か直径1500㎞範囲の遮断でOK。試してダメでも全く問題ないので、お試し得よ」
「じゃあやってみましょうか」
「ブルンが休暇中なのよね。20光年先なんだけど、ハジメも飛べるんじゃない?」
「いやー、1光秒の月までなら飛べるようになりましたが、20光年はどうなんですかね」
実際やってみたら、ハナの魔法サポート込みで1光年が精一杯だった。19回繰り返してやっとこさ19光年先まで来て、そこからジェットの端まで1光日、更に端まで1光時、2光時、1光時と刻んだ。
近付いてみると、極超新星爆発によって噴出されたジェットのエネルギーの膨大さに冷や汗が出る。
「凄いですね。想像を遥かに超えてます」
「ええ、爆心地に近いから、まだそこらの恒星なんか軽く吹き飛ばすくらいの勢いがあるわねー」
「これ、ちょっと無理ですよ」
「ええ、どうせダメ元だから」
うーん、エネルギー質量変換でも断裂空間でも、瞬間的に過負荷でダメになるから、ジェットを消滅させるのは無理だわ。
ジェットの方向を変える方法を考えるべきだな。さてどうしよう?
まずは、斜めの面を展開して、ジェットにぶつけて、流れの向きを変える方法を試してみる。
あ、これも無理だ。ぶつかった瞬間に面が消滅するので向きを変えるも何もない。
物質の壁でもエネルギーの壁でも到底無理。
ぶつけること自体が無理筋なので、別の方法を考えるしかない。
『あのジェットが通過して無事なのは空間そのものしかない。よって空間を曲げることを考えよう』
「そんなことができるの?」
『重力レンズというものがある。強い重力に空間が引き寄せられて曲がる。その空間を通過するジェットも曲がることになる。これを利用しよう』
ジョー案によって、直径1000㎞の反重力リングと中心部に重力点を作ることにした。反重力リングにより、リングの外のジェットは外側に曲がる。リングの内側は反重力リングと中心重力点の影響で集約する方向に曲がるが集約点を過ぎるとそのまま拡散して行く。いずれにしても、特定の直径1500㎞の範囲のエネルギーはザース周辺には届かないという寸法だ。
「この方法は行けるかも知れないわね!」
「じゃあチャレンジして見ます!」
重力レンズを形成するほどの重力と反重力を生み出すのはなかなか骨だ。ハナの魔法サポートも借りて、やっとこさ作り上げる。
「さあ、そろそろ、ジェットが重力レンズ領域に届くぞ!」
届いた。ジェットが僅かに曲がってる、1,2,3,4,5、あ、重力レンズが消滅した。
『曲がった角度は僅かだけれど、ザースまでの距離を考えればこの曲がりで十分だ』
問題は5秒しか持たなかったこと。重力操作した仕掛け自体がジェットで吹き飛ばされてしまうようだ。直接ぶつかっているわけではないが、重力操作した空間をジェットが通過する際の負荷に短時間しか耐えられない。
エレーヌがジェットの厚みを探知して計算したところでは、合計でおよそ1日すなわち、86400秒間、重力レンズを維持する必要があるとのこと。
回復を繰り返しつつ、3~4時間頑張って、レンズを作ること70回。超回復による強化のおかげで持続時間は徐々に伸びて、最後には160秒も持続できた。本日のレンズ存続時間は、合計5600秒。
「はあ、まだまだだなあ」
『いや、この調子なら明日には終わるはずだ』
「え、そういう計算なの?」
気力が1日で4倍、気量が8倍になるので、魔法効果としては32倍。ああそれで大丈夫かもな。
そして実は地球でも32倍になるから、32×32=1024倍。うん、これなら楽々だ(笑)。
今日はここまで、続きは明日ということにして、月に帰る。
ヘロヘロになっていたので、休み休み転移してやっとのことで戻って来れた。
*****
森の街の他に、月地下には、海の街、砂の街、山の街、草原の街、洞窟の街、風の街、夜の街があるということだが、今日はお疲れ様のご褒美ということで、ザース上のリゾート南の島に連れて行ってもらった。
「ああなるほど、これが例の認識接近障害の結界なんですね」
「スルッとくぐれるでしょう」
ちょっとコツがある。直接転移だと結界に衝突するので近くに降り立ってから、結界に手をかざして入れてねっという感じに気を込めると、スルッと入ることができる。
綺麗な島だった。サンゴ礁、白い砂浜、ヤシの木、南国の花、草原から続くそこそこの高さの山の緑と岩肌。静かで誰もいない。生物は、小鳥と蝶と蜜蜂、それに小動物だけかな。
「リゾートの数は多くて、住人が少ないので、どこのリゾートもいつも空いてるのよ。月の街自体も空いてるけどね」
「プライベートリゾートみたいでいいですね!」
「わーキレイー」
「お花のいい匂いがするよ!」
エレーヌが手慣れた様子で、椅子テーブル、パラソル、飲み物と食べ物を、ささっと準備する。
素材にほとんど手を加えていない素朴な料理なのだけれど、味が驚くほど洗練されている。焼いただけの肉、魚、具材ぶつ切して煮込んだシチュー、採れたての果物、野菜。
「もの凄く美味しいですね!」
「長い長い時間を掛けて、自然淘汰された磨き抜かれた特別な食材なのよー」
「うん?まあまあ美味しいよ」
「普通に美味しいねー」
お子様向けではないな、ハナとプルリンに食べさせるには勿体ない!
再びライザさん関係のことが話題になる。
「ザースを訪問する異星人は結構多いのよ。1年に1回はあるかしら。一番多いのは観光で、次が調査。侵略は稀ね。気が付いたらすぐに潰すけど。初期段階で強い防衛力があると分かると諦めるのよ」
「なるほど、最初が肝心なんですね」
「遺跡の宇宙船は、ただそこにいるだけだから、私たちも静観放置って感じね」
「そういえば、俺を召喚した理由になっていた脅威ってどういうものなんですか?」
「うーん、何と説明したらいいか。実は私達にも良く分からないの。ダークエネルギーとかダークマターというものに私達の宇宙が浸食されていて、向こうからこちらには干渉できるけれど、こちらから向こうには干渉できないのよ」
「えっと、おっしゃることがさっぱり分かりませんが」
「ごめんなさい、私も良く分かってないから。いずれもっと詳しい者に説明させるわね」
いろいろあるんだな。
エレーヌさんは「じゃあまた明日ね」と月へ戻って行った。
夕方まで、南の島の内陸をぶらぶら探検したり、ビーチでごろごろしながら景色を眺めてぼーっとしたりして過ごした。
たまにはこういうのもいい。
プルリンが波打ち際で、カニと戯れていたと思ったら、包んで溶かして食べている。
ハナがスクール水着姿で浅瀬でぱちゃぱちゃ遊んでいる。どうしてスクール水着?
海が透明だ。綺麗な海に夕陽がさすと、一面金色になり、夕陽が水平線近くなるとオレンジ色の柱が海面上に長く伸びる。
夕陽が没すると、空の色がグラデーションのように変化して藍色に近くなっていき、まだ明るい空にちらほらと星がまたたきだす。
あー、平和だ。この平和な世界が壊れないように明日も頑張ろう。
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ハジメ 人族 5歳? レベル75
称号 爆食虫殺し
職業 冒険者
装備 汎用気密服
基礎値 筋力∞/敏捷性∞/生命力∞
気力∞/気速∞/気量∞/∞
ハジメ ギフト ポイント62 残7
万物創造 発動妨害 透過 遠隔操作 選択行使 念体
分身 空間時間設定 繭形成 ドリル弾 天翔
ギフト創造登録
式神 再生 幽視 変化 転写 認識領域拡張
魔法創造登録 罠対応
理力操作/熱操作/地操作/空気操作/光操作/水操作/聖操作/闇操作/
素粒子操作Ⅱ/電磁操作/空間操作Ⅱ/重力操作/時間操作Ⅱ
気授受/生命力授受
危機感知究/危機対応究/物理耐性究/魔法耐性究
隠形/状態異常耐性究
索敵/鑑定/判別
自然充填究/自然回復究/成長促進究
蘇り 武器技能 付与
自己確認/他者確認/言語対応
神知/自由設定
冒険者カード
氏名 ハジメ ランクSS 1級
種族 人族
年齢 5歳
レベル 75
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ハナ 獣族 銀狼王(進化種) 1月半 レベル60
称号 ウテナⅡ遣いの超獣戦士
職業 冒険者
装備 汎用気密服
基礎値 筋力∞/敏捷性∞/生命力∞
獣力∞/獣気速∞/獣気量∞/活力2295億
ハナ ギフト
式神 視固 時間操作Ⅱ 魔法アシスト 天翔 再生
スキル サイズ変更化 念話 人化 王の威信
冒険者カード
氏名 ハナ ランクSS 1級
種族 銀狼王
年齢 1月半
レベル 60
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プルリン 魔物 水色スライム ?? レベル26
筋力4522/敏捷性4522/生命力44,317/魔気力45,223/魔気速22,612/魔気量177,347/活力11,306
ギフト 万能変化 食奪 重力操作
スキル 再生 溶解 硬化 癒し 火魔法 火耐性 物理耐性 理力魔法 理力耐性 毒耐性 毒攻撃 麻痺攻撃 麻痺耐性 水魔法 水耐性 音波耐性 音波攻撃
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異世界定期便 第16便 ザース 春18日 南の島 → 日本 7月28日木曜日 自室




