#の事情と涙の熊田と活況タミル迷宮と
前半は異星人#視点です。こんなことになってたんですね。
地球作戦の副指令として赴任してから早10年か。順調に進んできたはずの作戦が、ここのところ暗礁に乗り上げている。そろそろ任期満了でシャプル星の本国に帰れるはずだったというのに。。。
フランス空港テロの失敗。失敗の原因は不明。支配下の地球人も含めて全員謎の死。最後の一人の死は勇者の仕業のようだったが。勇者とかいう地球人の自警団。たいした実力も無い小癪な奴らだ。早々に潰してしまわねばならん。
そして、空港テロ失敗の責任絡みと思われる、ニューヨーク拠点の集団失踪事件。
どこに何のために失踪したのか?
1人2人ならともかく、30人以上が機密資料も携えて集団失踪するなど前代未聞だ。色恋がらみか?
まずい、大変まずい。このままだと降格は必至だ。へたすると失職するかも知れん。
今日は中間管理種族であるゴブレム星人の査察官が来る。
今頃地下司令部で上層部揃い踏みでお迎えしているはずだ。
なぜ自分だけが外されて、空軍機の中で現場指揮をとらされているのか?ABC3国の軍事演習への警戒と牽制任務という話だが、俺が出る意味が分からん。どうも俺が諸々の責任を被せられるような気がしてならん。
地球人の作った航空機など全然信用できんな。
防具の魔道具でガチガチに固めておこう。さらに、飛行能力のある戦闘スーツを装備させた護衛を同乗させているから、もしもの時でも心配はないがな。
この地球最新鋭(笑)の電子戦機1機で、P国の財政が傾く勢いだが、知ったことか。
そもそも、こんな辺境の星に手を出すことが馬鹿げている。地球人が希少資源だと?なんじゃそりゃ。
ゴブレム人の指示どおり、地球人のT限界値の統計調査を進めているが、特に見るところは無い。確かに少々高めではあるが、ゴブレム人の求める変異体は見つからない。というか、そもそも存在しないと思うがな。
並行して、地球人を家畜化して優良種交配による品種改良も進める計画だが、1世代15年もかかるから気の長い話だ。ゴブレム人、ひいては帝国が要求するT限界値の高い個体の早急の確保なんて、無理無理。
うん?宮殿内の元首役の中尉から連絡だ。なに!?クーデターらしき不審な動きだと!
C国軍内に潜入させて諜報員からもたらされた、『P国クーデター発生時への備え』という演習項目はやはり根拠のあるものだったのか。ふん、だとしてもクーデターなど下らん。即座に握りつぶす!
P国元首役の中尉からの連絡が唐突に中断した。通信機が破壊された?馬鹿な。中尉の部屋の防御は完全だったはずだ。地球人はあれを破る手段を持ちえないはず。
それにP国宮殿内には多数の戦闘スーツもあるはずだ。
あれを地球に持ち込むについて、軍経理と大もめにもめた、白兵戦ではシャプル星最強の高価な装備が。
宮殿に異常発生というのなら、幸いなことに臨戦体制にあるP国空軍で対処してやろうではないか。
この際、宮殿にミサイルを打ち込んでもいい。
クーデターに勇者共が噛んでいるなら目に物見せてくれる。
うん、どうなってるんだ?アラートが点灯した。
戦闘機5機に異常発生?機内に侵入者?
(彼の意識はそこで途切れた。何が起こったか気付くことも無く)
*****
「司令、電子戦機内の副指令との連絡が途絶えました。レーダー上では、航行中のP国空軍機が全機消失!」
「なんだと。機器の障害ではないのか?」
「君達シャプル人は、地球作戦を軽視し過ぎだよ。機器のメンテくらいしっかりやっとかなくちゃ。帝国内のシャプルの地位がまた低下するよ」
ぐっ。。。このゴブレム人め。ちっとばかり魔法能力が高いからと言って偉そうにしやがって。
こんな矮小で醜い奴らが中間管理職と言え我らの上位種族だとは。なぜシャプルが末端なのだ!?
全く我らの先祖は何をやっていたんだか。
「ことを急がないと、自由主義連合の横槍が入るよ。地球が自然保護の対象になったとは知りませんでしたという話はもう通用しなくなるよ。奴らと正面からことを構えるのは帝国が許してくれないからね。地球作戦が失敗したら君らの責任になるよ」
うぐぐっ。こいつ、我々の足を引っ張る気満々だ。
このゴブレム人ときたら、蜘蛛3台を同行しているだけでも異常なのに、更に10台追加した。
これは、この惑星を力づくで屈服させるに足る戦力だ。
力づくでことを進めて、これまでの我々の手柄を横取りするつもりか?
「いえいえ、多少のイレギュラーはありますが、地球作戦は順調です。成果はまもなく上がります」
「司令、宮殿内で異常発生中。懸念されていたクーデターのようです。1階と12階の連絡が途絶えました。宮殿外部と2階で戦闘継続中です」
な、なんだと!?よりにもよってこんな時に!ちんけなクーデターなどいちいち報告せずに即時に鎮圧できるだろうが!
「宮殿内部の情報は、ここ地下司令部は直接入らないのかね?」
「ええ、機密保護のため、一部端末に情報を集約して、連絡経路を絞っています」
くっ、査察対策で、本日限りで司令部機能を電子戦機に移転しておいたのが裏目に出たか。
「君らの指揮命令系統は随分特殊なようだね。君らは変化以外に取柄はないのかな?じっくり検討させてもらうよ。まずは資料を見せてもらおうか」
困ったことになった。
査察官にお茶とお菓子と資料を出す。
奴が資料に夢中になっている隙に、こっそりとP国軍に指示する。
宮殿周囲の警備兵は、1階を奪い返すため集結すること。
陸軍駐屯部隊は、宮殿へ向けて2個大隊を進軍させること。
ミサイル基地は、発射の準備を進め、電子戦機もしくは12階からの連絡が途絶えたままなら発射すること。
ブロックサインと筆談でこっそり指示しなければならんとは、嘆かわしい。
しかし、ここはなんとしても査察官に知れる前に事態を収めるのだ。
ジュッ!
蜘蛛が室内でビームを発射した。何事だ!?
「スパイ。処理シタ」
スパイ、どういう意味だ?まずい、査察官が資料を閉じて不機嫌な顔で睨んでいる。
っ!なんだ、何者かが室内に転移したきただと、あり得ん。
とにかく迎撃だ。
ああ、戦闘スーツが、シャプルの国富が。更に護衛達が、侵入者のただの一薙ぎで全滅。
夢か、これは悪夢なのか?
蜘蛛が糸を吐き始めた。あれに触れると身体機能が損なわれる。
将来どころではない、現在の俺の命が危ない。
おああ、糸が多方向から降って来る。逃れられない、終わった。
体は硬直して動かない。だが感覚だけはまだ活きている。
侵入者はやや大柄だが普通の地球人の男だ。なのになんだ、あの動きは!自在に変化するあの武器は!
残像を残すほどの変幻自在の素早い動き。あの蜘蛛達が男を捉えられない。
逆に蜘蛛達の方が目茶目茶にやられている。だがさすがに生命機械技術の粋、斬られても突かれても機能は失われない。
あっと、蜘蛛が1機脱落。虚空に引き込まれたように見えた。
蜘蛛達の糸の前にも黒い虚空が口を開けている。糸がそこから吸い込まれて消える。
理解不能だが事実だ。我々にも未知の技術なのか?
よし、蜘蛛の追加の10台が、タイミングよく転送で到着した。
これですぐに侵入者を制圧できるだろう。むしろ過剰とも言えるほどの戦力だ。
な、転送機が壊された!保護バリアがしっかり張ってあったはずなのに!?
ああ、帝国からの借り物が!もうだめだ。俺の地位が、将来計画が、、、もう滅茶苦茶だ。
糸は縦横無尽に吐き出されている。もう開けた空間はどこにもない。
男の自由を奪ったところに、ゴブレム人からの暗黒エネルギー銛が襲う。
仕留めたか?惜しい、かすっただけだ。
しかし男は顔を顰めている。流石に追い詰められたと見える。そろそろ決着か。
ふいに男が消えた。蜘蛛が何かしたのか。ん?体がぶれる、熱い。光が、、、、。
(彼の意識はそこで途切れた。何が起こったか気付くことも無く)
*****
今日も1割創の俺は東京で単独別行動だ。
今日は柔道の全国大会だ。これがオリンピック選考会を兼ねるらしい。
試合会場はブロック大会会場でもあった後楽園の会場だ。ここは柔道の聖地とのことだ。
俺に全く緊張感はない。1割の分身体だけれど、基礎数値的には2日前の10割創を上回っている。
ギフトが少ないのは難点だけれど、魔法はそもそも使用しないので、ギフト云々は関係ない。
団体戦は前と同じく勝ち抜き戦。
ブロック大会での俺の試合内容は衝撃的だったらしく、凄く注目されて、凄く警戒されている。試合相手は色々研究してきたようだ。
基本的に逃げられる。相手をせずにあわよくば引き分けを狙うということのようだ。
つまらん。わずらわしい。
逃げようとして重心を崩すところに付け込んで、宙を舞わせて背中を畳みに叩き付ける。
一本!これで試合終了だ。
今日は小島さんは団体戦に出ていない。個人戦に集中するそうだ。
俺は団体戦の大将としてチーム5人の最後に出る。
さすが全国大会、相手も強くて、前の4人は1勝3敗くらいのペースで、俺の対戦相手は次鋒か中堅からだ。
そこから俺が4連勝か3連勝して、チーム戦で勝利し、次の試合に進むという流れだ。
時々日本代表クラスの選手と当たった。強いとは思う。小島さんや熊田さんと同等かそれ以上だ。
けれどそれだけだ。俺が苦戦するほどではない。
ただ、勘が良くて、俺の動きに反応することがあるのには、ちょっと驚いた。
その場合は、当初の予定を変更して、変化した相手の動きに合わせて、適切な決め技にスイッチして攻めるだけの話なのだが。
相手が重いクラスの選手でも問題ない。
力比べでも全く問題無く勝てるのだが、そっちでは勝負せず、技で決める。
体重が重くても、動きを先読みして、動こうとするその方向に、ほんの少し力を加えてやるだけで、相手が思う以上に重心を崩すことができる。
その重心の乱れを利用して、てこの原理を利用できる位置に体を入れて、相手の力の向かう方向を活かしながら投げる。
重い相手の体を一瞬支える力さえあれば足りる。
自分の体の縦軸がしっかりしていさえいれば、相手の体はとても軽く感じる。
こんな調子でほぼ秒殺で全勝した。俺は20勝くらいしたかな?自チームも優勝だ。
団体戦終了後、控室では熊田さんがおいおいと泣いていた。
「く、熊田さん、どうしたんですか?」
「うれしゅうてな。藤堂君のおかげでオリンピックで無差別級が復活する。実に30年振りだ。俺の夢だった」
自分自身は重量級で間違いない体格の熊田さんに、そんな夢があったとは。
「連盟の言質はとってある。この大会の活躍で、60キロ余りの藤堂君が無差別級の代表に決定する!晴れて『柔よく剛を制す』を世界に示すことができるのだ!おおおおお、おーいおいおい(泣)」
熊田さんがでかい体を丸めて、俺にすがって泣く。
掛ける言葉が見つからず、背中をぽんぽんと叩く俺であった。
無差別級代表が事実上決定したので、階級別の個人戦には、俺は出なくてもいいそうだ。
それは助かる。
その代わりということで、スポーツ科学センターに拉致されて、プールでタイムを計った。
50mが21秒、100mが47秒。周りが喜んでいたので良いタイムなのだろう。
今週中に俺が出場予定のオリンピック種目の全種目の選考会が行われるそうだ。
まあその辺りはお任せします。
オリンピック関連のお仕事(笑)が終わって、やっと解放された。
自宅に帰っても、もちろん誰もいないことは確定なので、熊田さんと別れてから、早々にタミル迷宮に転移して本体に合流する。
*****
ニューヨークのガーディアンズ本部での衝撃の会議が終了した後、タミル迷宮に転移する。
「お待ちしておりましたで。クリエはん待ちの行列が出来てまっせ!」
各階の守護者は基本は参加者から選ばれるが、俺は迷宮の主にして名誉守護者(笑)とのことで、敗れるまで最下層固定だそうだ。ちなみに本日は、9階リー、8階タミル、7階ユリアがほぼ固定の階層守護者。6階は激戦で、白石、エンゾ、アンソニー、ドロシー、テレサ、藤堂夫婦で入れ替わり立ち替わり短期守護者になっているとのこと。
6階、楽しそうだな。しかし、藤堂夫婦とは戦いたくないぞ!どうすんの?
ユリアは化けたそうだ。タミルさんは、どう化けたかを笑って教えてくれない。
「自分の目ぇで確かめるのが一番でんがな」
迷宮が盛況なので、近々に階数などを拡張できそうとのこと。
迷宮内で激しい戦いが行われると迷宮が活性化し、迷宮の核が成長するそうだ。
万物創造で、下級の魔物的生物を迷宮用モンスターとして提供できるかも知れないな。相談してみよう。
さて、地下10階挑戦の順番待ちの1番手は、上海支部リーダーのリーさんだ。
素手の格闘は、そもそも武器での戦闘と比べて反応が早く手数が多い。短所のはずの射程の問題は、転移で懐に潜り込んでしまえば逆に長所になる。一発の威力さえあれば、転移プラス素手は最強武技と言えるだろう。
リーさんは格闘術の名人だから、闘気功及び転移のギフトとの相性は抜群で、1対1の戦闘では相当強いはずだ。果たして加速を使わずに勝てるだろうか?




