表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/136

精霊族

光の中から現れたのは、すらりとした細身の女性だった。絹のような薄手の布を巻いたような掛けたような、ゆったりとしたひらひらの裾長のドレス風の服。まさに天の羽衣という感じ。20代後半くらいに見える。白い肌、プラチナブロンドの長い髪、整った顔立ち、緑の瞳の切れ長の目、切れ長の耳。耳!?そう、彼女はエルフだった。


「初めましてハジメさん、ハナさん。私はエレーヌです」

「ど、どうも」「こんばんわー」

「ああ、やっと会えました。うふふ、あなたをザースに呼んだのは私です」

「えええええー!」

さらっと伝えられる衝撃の事実!


「詳しいお話は、私の執務室でお聞かせしましょう」

エレーヌがすっと手をかざすと、床と天井に光の魔法陣が現れて逆方向に回り出す。

視界が少しぶれたと思ったら、そこはもう別の場所だった。


不思議な空間だ。円形の広い部屋。部屋の中央部には緑のローテーブルとソファ。部屋の中には植物が多い。壁や天井にもつる植物が這っている。壁面は全方向に大きな窓。窓外は街を見下ろす景観だが、森に人手が入ってやや庭園風になった中に、街が控えめに自己主張しているような奇妙な街だ。


起伏のある地面には、木立と草花。道は細く曲がりくねり、小川が流れ、木漏れ日が溢れている。ところどころに窓のある大木があるが、あれが建物なのだろう。

全体に美しく調和がとれて、清潔で、静かだ。街だというのに動きが少ない。小動物や小鳥の姿は散見されるが、人影が少ない。


「ようこそ精霊族の国へ。ようこそ森の街へ」

うん?位置情報が分からない。ジョーGPSが反応しない。

「ここは、どこにある国ですか?」

「月の内部なの。空も雲も太陽も人工物なのよ」

ふーむ、やっぱりそうか。


「どこからお話ししましょうかしら?」

「お任せします。なるべく全体像が分かるようにお願いします」

「わかりました。そうね、、、精霊族はもともとは、平和を愛する古代種族の生き残りでした。

ザースでは10億年前ぐらいから様々な種族が繫栄しては滅びることを繰り返してきました。その中で稀に種族が滅びても不死性を獲得したほんの一握りが生き残ることがあります。種族が魔法的に進化すると長命になりやがて不老不死になる一方で繁殖力が衰え、結果的にごく少数の固定された個体だけが残るのです。エルフ、ドワーフはこのタイプの生き残りです。

それとは別に、ザース上のある種の生命エネルギーが意識を得て魔法生物となり、ごく少数が高度に成長してそのまま永遠の存在の個体となった種族もあります。妖精族がこのタイプです。

もうひとつは、他の星から流れて来た生き残りの種族です。遥かな距離を克服できる強い個体の中で、思想的に我々に共鳴する者が、我々と共存することになったのです。ノーム、小人族、巨人族等がこのタイプです。」


「精霊族って全部で何人くらいなんですか?」

「約1000人。そのうち100人が守護者。残りはその関係者です」

出た!守護者。

「守護者って何ですか?」

「守護者は惑星ザースを、宇宙からの侵略や災厄から守る者。一定の水準に到達した者の中から、思想的に守護の適正を持つ者が選ばれます。ハジメさん、あなたにも守護者になっていただきたいのです」


ちょ、ちょっと待った。

「俺は精霊族じゃないですよ」

「人族、獣人族、魔族からもそれぞれ10人合計30人、関係者も合わせると約100人が精霊族の国に籍を置いています」

うーん、なんか混乱してきた。


「ザースは4億年前に一度、ある種族の科学技術の暴走で死の惑星となりました。我々はその時、惑星を離れてこの月の内部に新たな精霊族の国を作ったのです。その後、ザースの死の影が薄れ、新たな生命が芽生え、新たな種族による栄枯盛衰の歴史が再生しました。

そして転機となったのが1億年前。ザースは超越者と接触を持ちました」

出た!超越者。

「超越者ってなんですか?」

「我々にもはっきりとは分かりません。我々を遥かに凌駕する大いなる存在であり、強大な力と慈愛の心を持つ存在と認識しています」

「超越者は個人なんですか?」

「我々と接触したのは1人の超越者ですが、同様の立場の超越者が複数おられると聞いています」


「その超越者はザースの現在及び将来の危機を告げ、我々に守護という方向性を示唆してくれました。

惑星ザースを守るという任務は、ただ周りを見て静かに生きるだけだった我々に、生きる目的、生きがいを与えてくれたのです。


それと同時に超越者は、ザースに魔法的な進歩を促すための仕組みを設けました。それは、惑星ザースを強くするための魔法的成長システムです。経験を積みレベルアップすることにより能力が向上すること、誕生時及び一定のタイミングで与えられるギフト、呪文により魔法効果の発生を補助する契約、迷宮の存在、これら全てが魔法的成長システムです。更には、人、獣、魔物の3種族を拮抗させ、相争わせて戦争補助により成長させるのも、このシステムの一環です。

魔法的成長システムにより、惑星上の個体の進歩は飛躍的に向上し、母集団の底上げを図ることになり、その結果、多くの守護者を生み出す基礎が出来上がりました」


「慈愛の心を持つ超越者が、戦いを、特に戦争を促すのは妙な気がするけれど?」

「超越者によれば、3種族の本能を考慮した有効な成長システムを構築しただけだそうです。戦争を成長に利用することは、率直に言って、我々精霊族の心情に沿うものではありません。しかし我々も進化の途上に於いては、多くの他種族を駆逐して来たのであり、戦争を忌避する気持ちは進化を遂げた者の傲慢との意見もあります。ともかく我々は超越者を信頼し、その処置を静観しています。

いずれにしても、この超越者の処置により、5千年前頃からザースに勃興してきた人、獣、魔物の3種族の進歩は早く、既に多くの到達者を生み出し、その中から30名の守護者を生み出すまでになったのです」


「残りの到達者は守護者にはならなかったんですね」

「はい。まだ色が付かない未分化の者、無所属を決め込む個人主義の者、他種族を滅ぼし自主族のみを繁栄させることを目的とする種族至上主義の者に分かれます。最後の種族至上主義者のトップは各種族の神、人神、獣神、魔神と呼ばれる有力な存在となっています」


「そうすると守護者は、人神、獣神、魔神とは仲が悪いんだ」

「我々は、神に対しては敬遠する立場、各種族の国家活動は静観する立場、冒険者ギルドと迷宮には比較的近い立場を取っています」


「守護者も超越者も、魔法重視で、科学技術にはあまり期待してないんですか?」

「超越者は科学技術を諸刃の剣と見ていますが、我々はむしろ毒に近いと考えています」

「毒?」

「上手く扱えば薬になりますが、扱いを間違えれば自らを滅ぼします。文字通り種族滅亡になりことも多いですし、科学技術に頼るようになると魔法の力が衰えて行きます。科学技術優位になった種族は短命です。稀に長命な科学技術種族は、母星の寿命を超えて繁栄すると他惑星を侵略する害悪となります」

翳りを帯びたエレーヌさんの表情が印象的だった。ザースの歴史という経験がそうさせるのか?


エレーヌさんの顔を見ているうちに、ふと気が付いた。

「あの、転生執行官として白衣を着たりします?」

「え?ああ、私の係累の一人が転生管理局で仕事をしています。彼女に会いましたよね」

そっか、あの白衣の美人の転生執行官は親族だったんだ。

「妹さんですか?」

「おほほほ、彼女エリンは、来孫らいそんですのよ」

えっと、それは?

『孫、ひ孫、玄孫やしゃご、その次が来孫だ』

なんとまあ。


「大体の背景事情は分かりました。それで、俺が召喚されることになった経緯を説明していただけますか?」

ザースの秘密?の一端が明らかになりました。

魔法的成長システムは、個人の成長を促進し、最終的に惑星防衛力を上げるためのものだったんですね。


守護者や超越者のニュアンスは地球でのそれと微妙に異なるようでもあります。ザースと地球とでは色々と条件が異なるからでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ