断裂空間と地球の迷宮と
自宅で眠って、日本の7月25日(月)の朝を迎える。
まずは訓練。今日は空間操作Ⅱの断裂空間に挑戦する。これは空間の一部を切り取って、空間の狭間を作り出すものだ。空間の狭間は、無の世界へ繋がっており、何物も狭間を飛び越えることはできない。物質はもちろん、エネルギーも光も何も通り抜けられない。なので見た目は真っ黒だ。個体があるとそこで断裂空間は遮られてしまい展開失敗となる。個体をぶった切っての展開はできない。気体か液体の領域のみが、断裂空間に置き換わる。
まずはこれを防御に用いる。面展開して暗黒の盾、球状に包んで絶対防御球。難点は、こちらからの視界も失われること、及び、断裂空間を飛び越えてこちらからも攻撃できないことだ。
次はこれを攻撃に用いる。敵を断裂空間球で包めば、敵は攻撃を外に撃ち出すことが出来ない。更にはマイクロブラックホールや質量エネルギー変換とセットで、敵包囲を同時発動させると、自分の攻撃の余波を気にすることなく攻撃できる。質量1gをエネルギーに変換すると原爆約1発分となる。これまで、質量エネルギー変換を発動させようとすると自身の身が危険で危機感知が発動していた。マイクロブラックホールも同様である。それらを断裂空間球で包めば、影響が球内にとどまり、安全に攻撃が出来るのだ。
これらは、暗黒楯、絶対防御殻、断裂空間内ブラックホール、断裂空間内質量爆発として魔法登録できた。
ちなみに、質量エネルギー変換は、燃料となる質量は敵の体の一部を充てることもできるので省エネである。他方ブラックホールは超重力を作り出し、更に攻撃終了後はそれを消滅させなければならないので2度手間である。
いずれにしても、質量エネルギー変換もブラックホールも、万が一制御が乱れれば大変なことになるので、伝家の宝刀扱いにして、発動場面をよく考えて使おうと思う。
さて、日本時間午前7時。NY時間は午後5時か。ガーディアンズ本部に連絡後、転移した。ここには転移室があり、インターホンも設置してある。スティーブさんは勤務中ですぐ会えた。
「身分証明とキャッシュカードを渡しておこう」
氏名がクリエ・イトとなっている。そう言えばそのように申告してたんだった。
「そのキャッシュカードはマルチカレンシー対応で、世界中の通貨に対応している。カードが使える場所ならどこでもOKだ。通貨の引き出しも主要銀行支点で対応している。キャッシングも無利子で可能だ。好きに使ってくれていい」
ほうほう、これは良いではないか!
「クリエの前の世界には冒険者ギルドとかギルドカードというものはあったかね?」
「ええ、ありました」
「ここでは勇者クラブのメンバーズカードを使ってもらう。ギルドカードと似たような機能のカードだ。
ここにクリエをパーティーのリーダーとして登録してもらいたいのだが、いいかね?」
「ええ、そうなりますよね」
俺の情報を開示する場面が来た。どうするかな?
『隠蔽し過ぎると行動が窮屈になる。なるべくオープンで行こう』
「秘すべきは秘して、とりあえずこんな感じだな」
クリエ・イト 19歳 レベル27 筋力5171万/敏捷性5171万/生命力8億2743万/気力∞/気速∞/気量∞/活力121万/工作/付与/式神/再生/理力操作/熱操作/地操作/空気操作/光操作/水操作/聖操作/闇操作//空間操作Ⅱ/気授受/生命力授受/危機感知究/危機対応究/物理耐性究/魔法耐性究/状態異常耐性究/索敵/自然充填究/自然回復究/成長促進究/言語対応
「これは!凄まじいな。ところで操作というのは魔法のことかね?」
「まあそう思ってもらっていいです」
「君は地球でも前の世界と同じように魔法が使えるのかい?」
「威力1/10、速度1/10、燃費10倍増ですけどね」
「それでも使用可能でかつ全種類対応できるのは素晴らしい!なぜか魔法が使えなくなる者がほとんどなのだよ。ルーキー組も攻撃魔法はほとんど全滅だ。鑑定、索敵、強化、転移、武術などが多少使える程度に留まる」
なるほど。気は薄いし、そもそも詠唱頼りの契約魔法は無効だもんな。
『オリジン魔法としての気の遣い方を身につける必要があるだろう』
「コーチングが大変そうだな」
あ、声に出てしまった。
「魔法の力を使えるようになるのか!!」スティーブが興奮気味に尋ねる。
「可能性はあります。使えるようになっても、地球では気の力が弱いので以前より弱くなりますけど」
「それでも再召喚組の勇者は自信を取り戻す!ルーキー勇者組もはずれギフトと思っていたものが有効になるのなら大喜びだろう!!」
なんか、大事になってきた。魔法の先生として責任重大みたいだ。
「レベル上げはどうしてるんですか?」
「機能していない。実は迷宮創造のギフト持ちの勇者が一人いる。デリー支部リーダーのタミルだ。彼が作った迷宮が訓練場になるはずなんだが、上手く行ってないのだよ。仕方がなく各地の武道場などを訓練場にしているがレベル上げは全くと言っていいほど出来ていない」
「迷宮があるのは良いですよね」
「思うような迷宮が出来ればね。タミルと打ち合わせをしてみるかい?」
デリーの現地時間は午前4時。真夜中だけど大丈夫なんだろうか?
「タミルにはこれ以上ない重要事項だから問題ないだろう」スティーブが端末をタップして繋げる。
「なんやこないな時間に?」パジャマ姿の男がモニターに映し出される。
「済まないが、クリエが迷宮の話をしたいとのことだ」
「ほ、あの切り札はんですな!よろこんで!」
なぜ関西弁?多分英語で話してるんだけど、俺の言語対応ギフトがなぜかエセ関西弁に訳す。
「迷宮の作成は上手く行かないんですか?」
「気力不十分でんねん。魔物もおらんし」
現地に行ってみたい。タミルに屋上に出てもらった。ジョーGPSがインド北部で手を振るタミルを捕捉する。
「今から飛びますね」転移した。
「全く規格外だな、この距離を軽く転移するとは。。。」スティーブがぼやいていたが、気にしない気にしない。
「わお!ホンマに来はった」
「よろしく。さっそくですが、迷宮はどこにあるんですか?」
「ヒマラヤの奥地ですわ」
地図で大体の位置を教えてもらい、タミルを抱えて上空に転移、地形を見ながら迷宮前に降りる。
「こら便利でんなー。クリエタクシーと呼ばせてもらいまっせ」
「ははは、じゃあ略してクリタクで」
扉が岩でカモフラージュされていてちょっと見では分からない。その岩扉をタミルが鍵で開ける。階段を下りて行くが、あたりは暗い。光操作で明るくする。
「光あれ」
「えらいすんまへんなー。気力も気量も足りんので、暗いままですわ」
「地球は気が薄いですからね」
「やっぱりそういうことでんな」
地下1階の扉を開けて、部屋へ入る。ここも暗いので明るくする。10m四方程の部屋。迷宮としてはかなり狭い。
「モンスターは?」
「一応、アレですわ」
真ん中ほどにスライム風のゼリー状の物体と、身長50センチくらいのゴーレムらしい物体がある。ゼリーはプルンと揺れるだけで移動しない。ゴーレムは頬杖をついて寝転がってる。
「なんだかこいつら、やる気がないみたいですね」
「式神でやっとこさ作ったんですが、そっちの能力もアカンのです」
「これでも前の世界では、もちっとましな迷宮を作っとったんです。ホンマでっせ」
タミル 35歳 レベル46 迷宮創造/空間魔法/土魔法/身体強化/剣術/式神
試しに部屋の中に俺の気を満たして、ザース並みの密度にして見た。すると、ゴーレムは立ち上がり、スライムは発光しながらうねうねと動き始めた。
「おおお、これは凄い!何や私まで元気が満ちて来よったで!」
「これで結構行けそうですか?」
「結構行けそうやね!」
「ところで、人間を迷宮守護者、あるいは迷宮のモンスターに指定できますか?」
「やったことありまへんが、できるはずや。」
「そうすれば、その人間が迷宮内で死んでも復活しますか?」
「ええと、、迷宮契約がきちんと締結でけたら、死んでも復活します!」
タミルさんが迷宮契約書という書類を出した。細かい字で色々書いてある。復活のことも記載されている。血を一滴落として、それをインク代わりにして契約書にサインした。迷宮での登録名はクリエイトにしておいた。
『クリエイト、汝を我宮地下1階の守護者とする。鋭意勤めよ』
無事迷宮契約が発効した。俺=クリエイトで認識してくれた。
「では、実戦訓練と行きましょうか?」
「え!ええ!?すんまへんが装備がおまへん」
亜空間収納から9属性剣を2本取り出し、1本をタミルさんに渡す。
「あ、そうだ、それを持って土魔法を撃ってみて下さい」
「 किला土槍!」・・・・・「あきまへんな」
「詠唱に頼らないで、直接気を練ってやってみて下さい。きっと出せますよ」
「ホンマでっか?」
ボコッ!出た。以前使った経験のある人は、魔道具があれば確実に出せるはずだとの見込みどおり。
「おおおおおー!これはごっついわ!久々や!地球初や!というか無詠唱は自分初や!」
まあ、無詠唱対応の優秀な魔道具を使ってますから。
「では次は属性剣無しでやって見て下さい」
「にょほほほほー!」
ぽこっ、出た。鉛筆みたいな小さい土槍だが。これは意外だ、タミルさん凄いじゃん。やはり土魔法持ちは土のオリジン魔法に適正があるようだ。
「自力でも出ましたでー!」
うん嬉しそうで良かった。これなら訓練さえ積めば、迷宮外でもそれなりの土魔法が使えそうだ。
次に、タミルさんと俺とで、試しにゼリーとゴーレムを軽く始末する。
「死んでから復活までどれくらい掛かりますか?」
「討伐者がその階を出れば直ぐに復活でんな」
「この迷宮は何階まであるんですか」
「実はまだこの地下1階だけですねん。サクッともう1階作りますよって」
新造の地下2階を覗いてから戻って来ると、ゼリーもゴーレムも復活していた。うん、ちゃんと迷宮が機能している。
そして、今度はタミルさんが地下2階の守護者として迷宮契約を締結した。
「ではメインイベントということで、タミルさん私とでお手合わせ願います」
「やはりそう来ますわな。復活は任せといて下さい。お互い死んでも恨みっこ無しでっせ!」
タミルさんはなかなかの腕だった。さすが出戻り組勇者。さすが身体強化と剣術のギフト持ち。理力も闘気も使わないとレベル差で俺の方が分が悪いくらいだ。タミルさんの剣捌きは戦うにつれて鋭さを増してきた。多少実戦から離れて鈍っていた勘が戻って来たのだろう。相手に合わせているうちに、俺の剣の動きがタミルさんに支配される。こう来ればああ受けるしかないという意味で事実上制約されるのだ。このままだと、あと2手で致命的な斬撃を受けることになる。
俺はここで拡地を発動して死地を脱する。スカッと空振りして、束の間呆けているタミルさんに向けて、縮地プラス無拍子の斬撃。ズパッと見事に決まる。目の下あたりを横に薙いで、一撃で頭蓋骨ごと両断した。防具が無いので手ごたえは軽い。
タミル レベル46を倒した
創はレベル28になった
創はレベル29になった
タミルさんの方がレベルが高いからだろうか、2レベルもアップした。何てお手軽な!
さて、階を跨いで入り直すと、タミルさんが無事復活していた。
「はー、見事にやられましたわ。いやいや、久々に死んだー。復活の試運転上々やね。わははは」
双方迷宮契約者の勇者同士でバトルすれば、安全に本気の訓練ができて、レベルも上がって良いこと尽くめ。俺としても、迷宮特典を受ける者としての初バトルだったが、相手の力を引き出すための加減は出来ても、わざと負けることはできないことになっている。これが迷宮契約の効果とのこと。なかなかに良く出来ている。あとで暇があったら迷宮契約書をキチンと読んでおこう、いや、ジョーに読ませよう。
俺が持ってた各種式神、武装ゴーレム、ザースで見た人造生物のうろ覚えの複写を加えて、タミルさんにモンスター候補として提供する。大喜びのタミルさんが地下10階まで迷宮を拡張したので、俺は各階に気を充満させて、その後の各階の仕様はお任せする。地下1階を教室、2~5階をモンスター階、6~10階を勇者階にするとのこと。
俺の守護階層は地下10階に変更になるようだ。今後も俺は、迷宮の主として最下層に自動的にスライドするらしい。また、勇者階の守護勇者を倒した者が新しい守護に入れ替わるように、契約が仕組まれているとのことだ。面白いではないか!勇者クラブメンバーが楽しんで訓練してくれるといいな。
「今充満している気はどれくらい持ちますか?」
「そやね、2~3日は行ける思います」
「不足したらこれで補充して下さい」気袋から気の結晶を取り出して渡す。
「こんだけあったら、10階層全体が1か月は持ちまっせ」
「無くなりそうになったら言って下さいね。いつでも補充しますから」
迷宮の核は、最下層の下に小部屋を作り特別に隔離した。俺も繭を提供して核保護に万全を期すことにした。まあ最下層の主が俺である以上は、まず大丈夫だと思うけど。
2時間後に、デリー支部と遊撃隊のメンバーを集めて再訓練することを約して、いったんスティーブの下に飛ぶ。
「そういう訳で迷宮で訓練を行いたいと思いますので、遊撃隊のメンバーに連絡をお願いします。上空から見える場所さえ確保してもらえれば、私クリタクが迎えに行きますから」
「了解した。これが遊撃隊メンバーの資料だ。よろしく頼む」
さてあと2時間か。どうやって時間を潰そうか。日本時間の午後1時からは記録会があるから、あと5時間はクリエイトとして過ごせる。
まずは銀行に行って、カードで現金を引き出すことにした。カードをスリットに入れる。おお!10万ドル入ってる。とりあえず、5万ドル分を支部のある各国通貨にして引き出す。日本円も50万円ゲット!!ドルキャッシュもお札とコイン各種を取りそろえ、亜空間財布に収納する。
現金にしておけば足がつかないもんな。キャッシュイズキング!!俺は現ナマしか信用しねぇー、ってことはないけど、なんとなくね。。。
急に金持ちになってホクホクしながら、カフェに入る。転写ネタになるので、朝食と飲み物を多めに注文して、遊撃隊メンバー資料と勇者クラブメンバーズカードを取り出す。さて、どんなメンバーがいるのかな?
エセ関西弁、エキスパートの皆様にはウザいと思われるでしょうがご勘弁を。
創のイメージで翻訳されているので、不自然なところが出てしまいます。




