実り多き王都、実り多き地下54階
用語注釈
異世界から呼び寄せるのが召喚、呼び寄せられるのが被召喚、被召喚のうちこれまでとは別の体に入るのが転生という設定です。
創は何らかの存在により召喚されて、ザースでハジメとして転生し、自力で地球に戻りました。創からクリエイトになっているのは変化のギフトのしわざです。
ドロシーは、クリエイトが召喚されて異世界から地球に転生したと早とちりし、スティーブは、クリエイトが地球から異世界に召喚されて転生して成長し、更に地球に再召喚されて再転生したと早とちりしています。
ややこしくて済みません。
なお、前話で、スティーブが藤堂創と知っているかのような記載がありましたが、単純ミスです。修正しました。スティーブには、19歳長身洋顔の青年クリエイトとの認識しかありません。
ザースで快眠後の春14日、朝の訓練。
ハナを相手に時間操作Ⅱの超短時間行使である無拍子を試す。上手く嵌ると抜群の切れ味!ハナが目を白黒させている。良いことを思いついた!あまり使っていない魔法創造登録、ここに実時間0.01秒を千倍に加速する効果を持つ無拍子を登録する。そして無拍子を発動させて直後に攻撃する。これで無拍子からの攻撃が確実に!
「何か来るって思うけど、何が来るのか分からないし、思った時にはもう撃たれてる」
いやいや、そう言いながらも3回に1回は勘で対応するハナも凄いって。
次に空間操作Ⅱ。短距離転移のようにいったん亜空間を経由せずに、実空間そのものを曲げてつなげて位置を変える。これでセヌエフの転移以上の、素早く的確な移動が実現する。特に攻撃の間合いを詰めるのと外すのが効果的。空間をつなげて攻撃の間合いを詰める技を縮地、逆に相手の攻撃の間合いを外す技を拡地と命名して魔法登録する。これもハナさんによればかなーり凄いとのこと。
「何が凄いかっていうと、ハジメが接近戦の超絶的な達人に見えることだよ!」
見えるか、、、本物の達人になりたいんだけどな。。。
他にも、俺の時間をわざと減速させるハンデ戦とか、ゴーレム対ハナとか、新登場狼型ゴーレム対ハナなんかも試した。いやー、訓練も多彩になったのー。きっちり超回復2巡、準超回復1巡させる。
さてと、訓練後は王都の朝市を覗いてみる。さすが王都、出店も多く売り物も多種多彩だ。これはと思うものを次々と1品ずつ購入して行く。へへへ、転写元の種の仕入れでござるよ。あーこらハナ、すぐ食べない!あーもう、ひとつ余計に購入しなきゃだ。転写してから食べなさい!
調理済みの食品、食材、各種材料、日用品、武器防具、どんどん仕入れますよー!
珍しい物を見つけた。人造生物。気を込めると活動を始める疑似生命体。魔物、獣、人造人間もある。式神に似ているけれど、式神が魔法寄りで人造生物は生き物拠りっていう感じ。キメラとかマンティコアはこの延長上にあるのだろうか。とりあえず、人造生物を各種1体ずつ購入する。気を抜き切ると生命活動が消えて収納可能になるのがいいな。本場魔族の国に行けば、もっと大型のものもあるとのことだ。
売却にも挑戦してみよう!店先の商人に聞いたら、大量に売るには商会が良いとのこと。商店街の奥の方に商会があった。バウム商会と看板が出ている。そこで白砂糖の売却を申し入れる。イメージバッチリなのでいくらでも転写で生産(笑)できる。
「こ、これは!なんと品質の良い砂糖!!これを売って下さるのか!?」
買い取りカウンターで恰幅の良い商人が驚いている。奥から呼び出されたこの人は責任者か?
「値段に拠るな。在庫はたっぷりあるが」と言ってみる。
「砂糖一握りで銀貨7枚、と言いたいところですが、この品質なので金貨1枚でどうです?」
一握りとは重さの単位で、100g程度。それで金貨1枚つまり1万円とは良い値段だ。
「それでいいだろう。それで、どれ程ご所望か?」
「あるだけお願いしたいのですが」
「ふむ、この商会の建物が砂糖で埋まっても良いというなら」
結局10樽分を売却することになった。1樽100キロ、金貨1000枚。全部金貨では用意が無いとのことで、金貨1000枚の他には金貨1000枚相当の手形10枚を受け取った。利子がついてる!
「バウム商会の手形ですから、どこの商会でも冒険者ギルドでも換金できます。最短が10日満期、最長が100日満期です」
「うむ、問題ない」
「今後とも良しなにお取引をお願い致します。それにしても凄い容量の亜空間収納ですね」
バウム商会のバウムさんが愛想が良いので、ちょっと思いついて品物を渡す。
「お近づきの記念にこれを差し上げる。カステイラというお菓子なのだが」
ふふふ、砂糖を使ったお菓子の入門はこれがいいよね。
「こ、これは!この品物の在庫はございますか!!」
大興奮のバウムさんに、カステラ10本と、小麦粉、卵、はちみつ相当量、そしてレシピを教えて上げた。
「カステイラの製造販売権を当商会にいただけると言うことですね!!」
「ああ、美味しく作って貰えたら、別の品もお願いしたいと思う」
更に手形を20枚貰った。絶対に売れる商品だとのこと。まあ頑張って下さい。レシピまだ沢山あるから。
商会を後にしてぶらぶら散歩する。
「ふっ、またつまらぬ金儲けをしてしまった」
「もうお金には困らないね。一生戦って暮らして行けるね!」
えーと、ハナさん、そこは一生遊んでって言うのが普通だと思うんだけど。。。
戦い大好きっ子もいることなので、迷宮地下54階へゴー!
む、暗い。湿度が高い。ここは地中の空洞だ。かなり広い。ドーム球場の数倍程はある。
「私はクイナンツ。ようこそ我が領土へ。久々の強者の来訪、歓迎します」
「光あれ」光操作で空間を明るくした。中央にスックと立っているのは裾長の白いドレスに漆黒の肌の女傑だ。手が4本。うち2本には大鎌と杖。魔法と物理のバランスタイプか?スキンヘッドの頭には王冠。顔には大きな複眼。昆虫系のようだ。
クイナンツがさっと手を上げた。周囲からざっざっざっと音がする。軍靴の響きという感じの音。
俺は無拍子プラス縮地で剣の一撃をクイナンツにお見舞いする。クイナンツ、近寄るとデカイぞ。身長5メートルはある。ガインッ!硬い。防護障壁に阻まれて、俺の一撃は奴の体に届かなかった。ただ俺の攻撃に反応はできなかったようで、俺の速さに驚愕している。
ズバッ。大鎌が一閃する。俺は拡地で素早く射程外へ逃れる。ビシュッ、俺を追い掛けるように水魔法系の液体攻撃が発せられるが難なく回避。ジュッ地面が溶け、どす黒い紫に変色する。酸と毒の特性を持つ攻撃のようだ。
空間の壁からワラワラと漆黒の肌の兵が湧き出す。クイナンツより小型だ。腕は4本。これは、、蟻だな。クイナンツは女王蟻か。蟻兵に対抗するために武装ゴーレム軍団を呼び出す。おお、強いぞゴーレム!1対1なら蟻兵を圧倒する。かつ陣形を組んだ連携攻撃も見事だ。魚鱗の陣で蟻兵軍団を迎え撃つ。最前線を交代しつつ、下がったゴーレムは自動修復で完全体に復帰する。
むむしかし、ゴーレム軍がむしろ押されているのはなぜだ?なるほど、羽蟻タイプの空中からの攻撃に対抗し切れていないようだ。ゴーレム軍の援軍を出す。羽蟻を汎用銃で打ち落とす対空部隊だ。地上部隊よ、地中からの蟻兵の攻撃にも注意しろ!
その間、ハナとクイナンツは激闘を繰り広げていた。
クイナンツは杖から放たれる魔法を駆使して糸、網、触手などでハナの瞬動を妨害し、大鎌で闘鎧に切れ目を入れては、そこへ酸毒攻撃をぶつけて来る。残りの2本の手には槍の穂先に鉄塊がついたような細身の鎚と、先端に鉄球のついた鞭を持ち打撃攻撃を加える。闘鎧は斬撃に強いが、打撃によるダメージは少し通ってしまう。ハナにはダメージが少しずつ蓄積されて行く。
ハナは瞬動の素早さを網などの妨害で打ち消されているが、4本の脚と尾、角、翼の先の鍵爪、その他ウテナⅡの臨機応変の形状の刃に加えて汎用銃、という手数の多さで優位に立っている。同一箇所への攻撃を何発も当てて、謎の障壁の修復速度を上回るダメージを加えて障壁に穴を開け、そこから銃撃を入れている。クイナンツは自身の外殻も頑丈だが、反重力爆縮が適正にヒットした箇所は抉れてボロボロだ。
激闘はハナがやや有利か。ハナが凄く嬉しそうに戦っているからクイナンツご本尊は任せておこう。目はギラギラ、口は残忍に裂けて、覗く牙は獰猛。狼ハナさんが活き活きしてると、かなり怖い。。。
俺は蟻兵対応で、ゴーレム軍団の指揮に専念する。まずゴーレム数を適正に保つ。限定空間だから数が多過ぎても味方の動きを阻害して良くない。そして土壁に余分な衝撃を伝えないような攻撃に留める。壁を崩すと埋まっちゃうからな。深刻なダメージを負ったゴーレムは、修理したり交換したり。戦線が崩れないようにしつつ、余力が生じれば敵集団の効果的な位置に、攻撃を集中して敵戦線を崩す。
しかし、、、有利に戦っているはずなのに拮抗したままだ。なぜなら蟻兵軍団は際限がない。死体は自然消滅しているから迷宮特典で再生しているのだろう。土壁のどこからでも出現して戦線に復帰する。そしてゴーレム軍はどんなに押しても、土壁の手前で止まる。土壁に衝撃を与えないように命令しているからな。はて、これはどうする?このまま拮抗しつつ、ハナの勝利を待つのも良いが、もう一工夫できないかな?
『蟻兵の援軍を断とう。そのためには、、』
ジョー軍師の助言に基づいて、地操作により土壁を鋼のように硬化することにした。併せて蟻兵の死骸を消えないうちに亜空間に収納する。なんか、、、指揮官というより工兵兼掃除夫のような。。。
しかし俺のこの地味な努力は、確実に実を結ぶ。蟻兵の援軍は徐々に減少し、やがて途絶えた。そうなると均衡は崩壊して、ゴーレム軍が圧倒する。そして最後の蟻兵が倒れ、俺が収納して終わり。
「こっちは決着がついたぞ。そっちはどうだ?」
念話で尋ねる。
「もうすぐだよー」
クイナンツは腕2本、足一本と片目が欠損している。戦力半減だ。ドレスはもはや端布、王冠も無く、あ王冠の下には角というかクワガタのような顎があったのか。他方ハナは無傷、ダメージは全て自然回復済みのようだ。毎日の訓練でハナの回復速度も尋常ではないくらい速い。
クイナンツは今や防衛に専念している。しかしあの障壁は優秀だなあ。同一箇所にハナの攻撃が2~3発当らないと破れない。いったん破れても修復が速い。お、先端をドリル状にした槍の螺旋撃で障壁を破った、と同時に槍の先端から渾身の反重力爆縮。槍の中心に管状に汎用銃の銃身を通していたんだな。ハナとウテナⅡと汎用銃の見事な連携プレーだ。クイナンツの体の大部分が消滅した。勝負あったな。
クイナンツ 魔蟻女王 レベル62 を倒した
ハジメはレベル40になった
ハジメはギフト創造登録のギフトを得た
ハナはレベル40になった
ハナはギフト共有のギフトを得た
ハナは銀狼王に進化した
「ふー参ったわ。流石の強さね。鍵をどうぞ。それと、ひとつお願いがあるんだけど」
「何?」
「うちの兵隊達を戻してもらえないかしら」
「ああ、そうだな。悪いわるい」
蟻兵を収納から出す。即座に消えて行く。クイナンツの下へ戻ったのだろう。
「ありがとう。お礼に何か私からできることがないかしら?」
「あの優秀な障壁のことを教えてくれないか?」
「あれは透明な繭。魔気を糸状の粘液にして固めて作るのよ」
「そ、そっか」これは真似できそうもないかな?
「それじゃあまたね。下層で会うかも知れないわよ」
そして新しいギフトを得た。ギフト創造登録!
「これは、猫型ロボットのポケット的なものかな!?」
『いやそれほど万能ではない。発現の仕組みのイメージと、基礎となるギフト力がないと創造はできない』
「魔法創造登録のギフトレベルのものということか」
ハナもギフトを得た。ギフト共有?
「ハジメのギフトが全部ハナのものになるの?」
『魂の連結が出来るほどの信頼関係を築いた者間で、連結の度合いに応じてギフトが共有できるというものだ』
念話でつながっているので、俺の脳内でハナとジョーが会話している。むろん俺にも聞こえる。
「連結ってこれね!」
ハナの尻尾の先からコードのようなものが出ている。ぶんぶん振られる尻尾の振幅を増幅して鞭のようになっていて見え辛い。
「ハナじっとしないと良く見えないぞ。おおっ!俺からも!」
俺の胸からもコードが出ていた。先端が指をくっと曲げた手の平のような形。電車の連結器の形だ。俺のコードとハナのコードを繋ぐ。お、指示が出た。
魂の連結ができました 共有するギフトを選択して下さい
俺は天翔を、ハナは時間操作Ⅱを選択した。現段階ではひとつずつの共有止まりのようだ。
「むふふふふー」
嬉しそうなハナ。あれ、ハナが成長してる!?そう、ハナはまた進化した。銀狼王。
人型だと16~7歳くらいに見える。少女から大人の女性に代わる直前の微妙なお年頃。胸のあたりがすこし膨らんで、腰を始めとして体全体が柔らかく丸みを帯びて来たような感じ。清楚で爽やかなお色気。それに、妙に気品がある。
「む!?ハジメの視線がなんか変!」
「い、いや、ハナが進化したから。銀狼王か。貴人から王様に昇進したぞ!」
おれは姿見を取り出した。ハナが色々とポーズを取りながら自分の容姿を確認している。ぼふっ。おお、狼型もこれはまたこれで!体高2.5m、体長(尻尾を除く)5m。一段と大きくなった。毛並みは煌めくような白銀、肩から胸にかけてやや青味を帯びた銀のたてがみ、尻尾と耳は黒みがかった銀、つぶらな目は黒目勝ち、頭には銀のティアラ。角は無くなった?
「角、出るよ」
シュッと3本の青味を帯びた銀色の角が出る。中央が長く、両サイドはその半分ぐらいか。
「ほーっ!いや、見事な狼っぷり!」
「うん。えへへへへー、我ながら満足!」
54階凄い!レベル40万歳!
獲得したギフト創造登録、さっそく挑戦してみたい!!




