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格闘家として一皮むけた?

林師範は、じっと俺の目を覗き込んで、静かに言った。

「君は武道の経験は?」

「はい、柔道を少し」ホントに少しなんですが。。。

「じゃあ受け身は取れるね。私と手合わせ願えるかな」


む!ハナ模擬戦とか実戦とかで試してからにしたいのはやまやまだけど。

「はい、お願いします」

だよねー、折角の機会だもんねー。


林懐石 人 78歳 レベル-

筋力18/俊敏性22/生命力28/気力118/気速193/気量235


なに!? 78歳だったのか。鍛えているから見た目が若いのか。

レベル表示が無い。どゆこと?

気関連が3桁だ!日本では他の人は1とか2とか、よくて3なのに。化け物か!?

色々と謎な爺さんだ。


やはりアストラル体は気との繋がりが深い。

だとすれば、気関連が全て∞の俺の優位は揺るがないだろう。

しかし、力ずくで捻じ伏せても意味がない。

達人の技を見て、覚えて、使えるようにすることが肝心だ。


俺は幽視で達人のアストラル体を凝視しつつ、対峙する。

アストラル体を意識的に動かしたことは無いけれど、できるのか?

「さあ、はじめようか」

「はい」


達人の幽体アストラルたいが俺の幽体アストラルたいを捕まえに来る。

さて、どうすれば逃げられるのか。お、逃げることが出来た。

そうか、逃げたいという意思が生じればその瞬間に逃げられるんだ。

体を逃がすよりも早い。

そして、次に気が、その次に体が、ゆるゆると追随する。不思議な感覚だ。


しばらく幽体アストラルたいをクルリスルリと、逃がし続けた。

達人は、驚いたような表情。幽体アストラルたいの攻防になっているのが予想外だったのだろう。


そうこうするうち、達人は俺の幽体アストラルたいをペシッと弾いた。

そして、ベクトルを乱されて一瞬迷走する俺の幽体アストラルたいを、捕まえに来た。

俺は、ふいっと速度を上げてア体を逃がす。

やはり、俺の方が早くア体を動かせるようだ。気速の差が大きいからな。


達人、再度驚く。幽体アストラルたいの攻防が俺の意図的なものであることを確信し、かつ、

俺のア体が想定外の速さで動いたからだろう。


その心の隙をついて、達人のア体を、俺の幽体アストラルたいが素早く掴みに行く。

掴んだ!

よし、捻じ曲げて、っと、達人の幽体アストラルたいが細く形を変えてスルリと抜けた。

こんなことも出来るんだ。

達人の顔に笑みが張り付いている。楽しくなって来たようだ。

気が付くと俺もにやついていた。


俺は再度、速度を活かして、達人の幽体アストラルたいをやや強引に掴みに行く。

む、達人の幽体アストラルたいが俺の幽体アストラルたいの動きに沿って、潜り込んだぞ。

上手いな、さすがだ。

幽体アストラルたいが潜り込んだことによって、両者の気の面が合わさった。

幽体アストラルたいを掴んだのと結果的に同じになっている。


幽体アストラルたいの動きに追随させずに、気を無理やり剥がそうとすると、ミシミシといや

な痛みを感じる。精神体に無理な動きをさせようとしているということか?

とりあえず無理せずに、流れに委ねてそのまま気を進ませてみる。


ということは体レベルでは?

気が付けば、俺の右肘は下から突き上げられて肘関節と肩関節の逆を取られ、

左手は手首内側を上から下後方に押されて、左肘と肩関節のそれぞれ逆を極めら

れていた。達人の上体は俺の上体の下に潜り込んでいる。

そして俺の右半身は上に、左半身は下後方に回転しようとしている。

このままだと、達人の背中に乗っかるようにして、反時計周りに斜めに回転しな

がら投げ飛ばされる。


幽体アストラルたいは拘束されていないので、思い切って振り切った。

それに連動して気の面も離れた。

俺の体は、回転方向に逆らわずむしろ回転を加速させて、関節の極めから逃れ、

体軸を立て直すことによって、達人の投げの軌道から外れて、辛くも逃れることに

成功した。ふう、危なかった。


ん、達人の幽体アストラルたいが引いて行く。戦意消失?

「はっはっは。ここまでにしよう。全く驚くべき少年じゃ」

何を言う、そっちこそ。

「あなたこそ、とんでもない爺さんですよ」



一瞬の間の後、どっと受けて、周囲が沸いた。

皆さん楽しそうだぞ。

え、俺本気で言ったのに。可笑しいですか?


「ははは、君には大器の片鱗がある。是非合気道をやりなさい」

あれ、なんか、デジャブ。昨日と同じような流れか?


「あの、実は俺、受験生で、今日から柔道教室に入ることにしたんですが、

両親からは、受験に障らないようにしろって言われてまして」


「む、今日から柔道教室とな。では他の格闘技の経験は?」

「我流での実戦は結構やってます」

再度どっと周囲が沸いた。


え、本当なのに。でもこれは日本ではちょっと変かな。うん変だね。

やばいな、常識感覚がずれるのは二重生活の弊害か?


「はっはっは。まあ、合気の方にも余力があったら顔を出してくれれば良いわい」

「は、はい」

ふう、どうしようか。まあ、成り行きに任せよう。



4時からは柔道。

中高生の部かと思ったら、大きな試合を控えた選手のための、強化練習だった。

それなのに熊田さんと小島さんが、俺に付きっ切りで熱血指導してくれる。


ストレッチ、体操から始まり、まずは受け身。不要だと思うけど一応素直に聞く。

そして次に、背負い投げの理論の説明、実技見学、実際に投げられ、今度は投げる。

俺が昨日やったのと比べると、襟をもつ右腕の使い方が少し違っていた。右肘を

折りたたんで自分の体に引き付けて置くと、襟を上に持ち上げる力を掛けやすい。


こんな感じで次々に技を教えてもらう。体落とし、内股、大外刈、払い腰、etc.

全て一回で覚えるので教える方も楽しそうだ。

俺としては、技を型通り完璧に習得するつもりはない。

自分の体の使い方、相手の重心の崩し方、体を回す軸の想定の仕方、支点力点作用点

の設定の仕方、これらの基本例さえ示してもらえば十分だと思っている。


さて、お待ちかねの立ち技の乱取りだ。

ここで、さっき覚えたての、幽体アストラルたい、気、体の関係性を柔道に応用してみる。

いわば創流柔道。


幽体アストラルたいの動きで、その後の気と体の動きを予測したり、幽体アストラルたいが動こうとする方向に

働きかけてその動きを助長し、隙を作ったりする。

この初動というか初手が非常に重要だ。


気については、合気道のように合わせるのではなく、相手の気の向く方向を邪魔し

ないようにしてその勢いを活かし、自分の気を潜り込ませたり、引っ掛けるように

裏を取ったりする。


そうすると体的には、道着を掴んで重心を崩し、想定する軸に沿って、支点力点作

用点を活かして相手の体を回す体勢に入っており、そのまま回して、即ち投げて、

相手の背中を、畳に勢いよく叩きつけて、フィニッシュ。


こんな感じだ。


面白いように技が決まる。

幽体アストラルたいの初動で勝負が付くのだから一瞬だ。組んだ直後、1秒掛からないくらい。


ザースでの実戦を想定すれば、そもそも勝負は一瞬で決めなければならない。

敵に密着するほどの至近距離に、長くとどまる危険を冒すわけには行かない。

そもそも敵が単体とは限らず、多対一の想定が必要だ。

そんなこんなで、創流では瞬殺が基本戦略だ。


瞬殺と言ってもごり押しではない。

なるほど、今の組手の相手と俺とでは、力も俊敏性も圧倒的な差がある。

けれど、その差に任せて強引に勝ちに行くことはしない。


力押しで投げても美しくない。

なので、専ら技の切れで勝負する。

位置取り、重心移動、力の入れ方・方向・タイミング、それら全てを最適解で、

スパッと、美しく決める。

最適解は、演算速度に自信ありのジョーの補助があるので、ほとんど無意識に到達

可能だ。


技への入りの瞬間には、敏捷性を少し発揮して速度を上げる。全速ではなく少しだけ。

投げに入ったら、後は比較的ゆっくりめ。早過ぎると相手が怪我するのでセーブする。


技が切れると、投げても、投げられても、見ていても、実に気持ちいい。

芸術的な美しさと、スイートスポットを打ち抜いたような爽快感がある。


最初は皆あっけに取られ、次に驚きが支配し、そして大騒ぎになった。

ポンポン投げるその相手はムキになるけれど、それでもほとんど立っていられず、

見ている周りは大笑い、大はしゃぎ。しまいには投げられる方も笑っている。

相手を交代すると、今度はムキになる人が替わって、さっきの人は見物大笑い組に。


余りの実力差に、そして、昨日初めて柔道をしたばかりという白帯の15歳の少年

の天才っぷりに、皆さん心底惚れ込んでしまったようだ。

さすがスポーツマン、気持ちの良い人達だ。


乱取りの次は、実戦形式で、2分1本勝負。ここでも俺は1秒殺。

乱取りと違い、組手争いから入るのだが、俺にとっては事情は変わらない。

むしろ明確な動きがある分だけ、ア体の初動に付け込みやすい。


全然疲れる暇もないので、30人くらいの参加者全員と対戦して全て秒殺の全勝。

これを3周りくらい。一人あたり3回ずつ投げた計算だ。

昨日はやっと勝利を拾った小島さん、熊田さんにも、今や全く負ける気がしない。


俺が全勝街道を突っ走ってる間に、熊田さん達はひそひそ相談していたが、

「あー実は、明日が大会のブロック予選なんだが、藤堂君、出なさい」

「え、まじですか!いいんですか?」

「ああ、オープン形式で参加資格の制限は無い。明日の朝、試合前に届ければい

いだけだ」


「でも、選手枠は決まってたんじゃあ?」

「これだけ皆を投げておいて何を言う。誰も文句は言わない。というかその実

力が発揮できれば優勝間違いなしだ。藤堂君程の実力者は見たことないからな」


何だかとんでもないことになって来たぞ。







ネット上の合気道の動画は、結構面白くてお勧めです。


なお、創のアストラル体の総体は巨大ですが、達人と攻防を繰り広げているのはそのコアの部分であり、

コア部分の大きさには、さほどの差はないという設定になっております。

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