合気で大収穫
「ジョー、変化のギフトって分かるか?」
「データなし。詳細不明。ただ、ハナの人化やサイズ変更に近い波動を感じるジョ」
やっぱりそっちか。
では、印象が強烈なところで、「灰色熊になれ!」
何も起こらない。
ヘラジカも、仁王様も大仏様もダメ。
「ハナになれ!」これもダメ。
「大きくなれ」
サイズ 年齢
おお!選択肢が現れた!
「じゃあ年齢で」
5歳~25歳
「20歳で」
ぼふっ
「おおおおおー!?」
視点が上になった。背が伸びた。手足も少し逞しくなっている。
工作ギフトで姿見を作り出して、全身を映して見る。
「な、なるほどー。確かに成長した俺だわ」
しみじみ見る。おおーなかなか良い漢じゃん。へへへ。
試行錯誤すること数10分。判明したのは、
・基本形は、年齢変化。5歳から25歳まで。1歳刻み。
・サイズ変更は1mから2.5mまで。基本形の相似形的な変更。
・身長のみ、横幅のみ、の変更も可能。
・髪の色、目の色、肌の色、目の形、耳の形等の細部変更可能。
・服は、変更後のサイズに自動変更される。
・服のみの変更も可能。
・姿形が変わっても能力的な変更はない。
・リーチ変更に伴う戦闘の質の違いはある。
こんなところ。
ちなみに5歳の創とハジメは別顔だった。ハジメの方が整ってる。
ハジメが幼稚園で一番のもて王子とすると、創はその他大勢の豚児の
1人というくらいの差がある。まあ分かってはいたんだけどさ。
ちょっと負けた気分で悔しい。どうせ俺は不純物まじりだよ、ふん!
それにハジメだって俺なんだよ!ふふん!
「うーん、戦闘に直接役立つものじゃないな。はずれギフトかな?」
「非戦闘活動では色々役立ちそうだジョ」
「まあそうだな。服変化なんかも地味に助かる」
普段着を鎧風味にしても、防御力の増減はないけどね。
とりあえず、元の15歳の創の姿に戻って、灰色熊の狩りを再開。
レベルの高い個体はなかなかいない。やっとレベル4を発見する。
判別黄色。俺のレベルが上がったので、熊の危険度が相対的に下がった。
今度は剣で相手をする。
フットワークを駆使して、左右への回り込みと、バックステップで熊の牙と爪を
躱し、剣の射程に入った鼻面や前足に、斬撃を加えて的確にダメージを与えて行く。
戦闘開始から約1分。もはや勝負は決した。
前足の片方は手首から先、もう片方は肘から先を切り飛ばされ、片目と顎の大部分
を失った熊は、もはや逃げることも叶わず、怒りと諦めを湛えた目で俺を見つめ、
ただ佇んでいる。
俺は少しいたたまれない気分になり、踏み込んで一刀の下に熊の首を刎ねた。
灰色熊レベル4を倒した
創はレベル11になった。
後味が良くない。
レベルアップはギリギリだったと思うし。
もう狩りは終了にしよう。
これ以上続けても効果は限定的だろうし、気分的にもやっぱりね。。。
地球ではザースよりもレベルアップが早い気がする。
レベルを上げようとする行為そのものがレアだからだろうか。
ちなみに、魔法の効きは悪い。
気力も気速も10分の1程度に落ち、気量の燃費は10倍悪い。
これは惑星の生命エネルギーというか立ち上る瘴気というか、それがザースの方が
圧倒的に濃いせいだと思われる。
熊の死体は収納する。ここまで狩った獣の死体は全て収納している。
流石にアレをそのまま置いては行けない。切り口とか不自然だもんね。
とにかく、狩りの現場を綺麗にして、痕跡を拭い去ってから、亜空間訓練所に飛ぶ。
今回は、種々の年齢とサイズに変化した上で、戦闘シミュレーションを行う。
結果、物理戦闘の取り回し的には、19歳以上の成人タイプが、最もしっくり来る。
身長は180センチから195センチくらいまでが安定するようだ。
ふふふ、剣を振ってるだけでも何か楽しいぞ。
魔法は、年齢やサイズには関係がなかった。
闘気も、威力自体は変わらなかった。
いつも以上に訓練に熱が入り、超回復2巡、準超回復1巡させて、基礎数値は、
筋力4921/敏捷性4921/生命力39,366/気力∞/気速∞/気量∞/活力115
創の体力系も、早くも常人離れした域に達している。
もっとも小さい数字の活力も、今まで見た日本人でここまでの人はいなかった。
訓練を終了。
熊田さんに電話して、柔道教室への入室に親の承諾を得たことを伝える。
「おおそうか!良かった良かった。これで腹を切らずに済んだわ」
あのー、何の話ですか!?
今日の4時から6時まで地下2階の武道場にいるから来なさいとのこと。
まだ余裕があるな。現在時刻は午前11時。
ハンバーガーショップでモフバーガー、ポテト、コーラのコンボを楽しむ。
あーこれ、たまに食べると最高だな。
日本ではお小遣いしかないので結構大変だ。頻繁に散財はできない。
ザースの金貨を持ち込めればなー。
お金を節約するために、南麻布の都立中央図書館まで空を飛んで行く。
転移でも行けるけど、都内の土地勘というか空勘を養っておきたい。
透明化して、重力操作・空気操作を使って、それと電線には注意して。
都立中央図書館は、本マニアのジョーによれば、国内最大級の公立図書館で年齢
制限が無く、15歳でも自由に利用できるのがミソだという。
それから数時間、ジョーの好みの本を、散々めくり倒した。
電子工学とか機械工学の本が多かったような。
ああ、眠い。熱いジョーと眠い俺が、一つの脳で同時存在するこの不思議。
言語対応のギフトのおかげで、外国語の原書でも全く違和感がなく読める。
ジョーは、原書の論文がもっと読みたいと、ご不満のようだ。
俺は、、、英語の勉強がもはや不要と気が付いて、凄く嬉しい。ふふふ。
本をめくり過ぎて精神的に疲れたこともあり、午後3時には切り上げて隣町の警察
署まで飛ぶ。場所にいまいち不安があったので少し早めに行って確認したかった。
うん、ここで間違いないな。掲示板には柔道教室の張り紙がちゃんとある。
ん、合気道教室? 2時から4時まで。
同じ道場を使ってるようだ。
受付に一声掛けて、地下2階の道場へ。
やってるやってる。
「見学の方ね。ちょうど林先生の演武が始まるところよ」
お姉さんが俺を隅の方に座らせてくれる。
『達人 林懐石師範 模範演武会』と横断幕に書かれている。ほう。達人とな?
普段着の子供や大人たちが笑っている。一般見学者だろう。なぜ笑う?
案内のお姉さんはややあきらめ顔だけれど、慣れた風。何が起こってる?
道場では、人が連続して宙に舞っていた。
中央に60代かと思われる初老の男性。この人が達人だろう。
全員柔道着のような上着に黒い袴。これが門人というか合気道の練習生だろう。
達人がひょいっと手を振ると、人が飛ばされる。この現象が次々と矢継ぎ早に
連続する。1秒に1人、下手すると2人。
いやー、さすがにこれはやらせでしょう!思わず笑いが漏れる。
しかし、道着の人々は、演武に参加している人も見ている人も、みんな真剣だ。
俺もちょっと真剣になって、演武をじーっ観察する。
「ん、これは! ジョー?」
「そう、そのとおり。関節の逆をとり、反射を利用する。術者がこの技で相手の
重心を不安定にした上で、関節の曲がらない方向に力を向けると、痛みを避ける
ため、相手は自ら動いて飛んでしまう、という仕掛けだジョ」
「演武だから決まった動きをなぞってはいるけれど、インチキじゃない。本物だ」
こんな技の体系があるとは!
そして、『合気』というからには、気はどうなっているのか、そっちに注意を向けて
みると、これがまた!
「気が合わさっている」
術者と相手の気が触れ合い、合わさり、術者の意図する方向へ気が向うと、相手の
気はそれに寄り添うこととなり、その結果、相手は宙を舞って飛ばされる。
うむー、なかなかに美しいシンクロだ。
気を合わせ、添わせて、投げ飛ばす。
ふと、アストラル体はどうなっているのかな?と思って幽視で見てみると、
「おおおおおー!?」これまたびっくり。
達人のアストラル体が相手のアストラル体をがっちり掴み、方向を捻じ曲げ、放り投
げている。
アストラル体レベルでは、強引に捕まえて、捻じ伏せて、放出する。
肉体と気とアストラル体を重ねて見てみる。
まずアストラル体が動き、達人が相手のアストラル体をがっちり掴む。
すると両者の気が合わさる。
アストラル体を捻じ曲げると、その方向に合一した気が向き、肉体はバランスを崩し
て関節の逆を取られ、技に入る仕掛けが完了している。
アストラル体を放り投げると、両者の気もそちらの方向に流れ、相手の体は宙を舞う。
次の相手も、これの繰り返しで投げられる。
アストラル体的には、強引。
気的には、シンクロ。
体的には、関節と反射。筋力はほとんど使わない。
3種の重ね見をした結果、まずアストラル体、次に気、それから体の順番で動きが
発生し、連鎖的に流れている。
「アストラル体は脳細胞からの意思の発生時に、気は神経を流れる微弱電流の発生時に、
体の動きは神経電流が到達した後の筋繊維の収縮の発生時に、それぞれ対応する。
アストラル体、気、体の一連の流れは、これらのタイムラグに一致するジョ」
おおおー、大発見!コンマ何秒かの話だけれど、戦闘時には値千金だ!
一種の未来視になる!
そして、アストラル体を制する者は気を制し、気を制する者は体を制するという
この関係性!
これも大いなる発見だ!
型の演武が終わり、模範立ち合いへと移った。
練習生が5人前に出る。どうも経験の浅い順番で立ち会うようだ。
まず弱い方からの2人。と言っても実力には差がある。
アストラル体は両者バラバラ、無防備。全然意識してないな。
気は避ける暇もなく強い方が弱い方を捉えて合一化。これも無意識だな。
そして2番手が1番手の関節の裏を取り、軽く簡単に投げる。観衆は拍手。
これは見ていて面白い。
2番手以降もほぼ同じ展開。アストラル体には両者意識が行ってない。
気にも意識は無いようだ。
体を見て戦っている。
ただ偶然に気が捉えられて、合わさると、技が掛かる感じ。
順当に強い方が勝つ。5番手は、門人の中の高段者だろう。
この人は、明らかに、肉体の動き以前に、気を感じて戦っている。
高段者の気が相手の気を捉えようとして動いているのが分かる。
気を合わせた、添わせた、体も連動する、投げた。
さて、いよいよ、勝ち抜いた5番手の高段者と達人の対戦。
達人は仕掛けずに様子を見ている。高段者の気が達人を捉えようとし、
達人の気がそれを躱す。
気レベルでの戦いがここにはある。
ではアストラル体レベルではどうか。
無意識的にただ揺らめく高段者の無防備なアストラル体を、達人のアストラル体が
意図的に撥ね退けた。
と、それをきっかけに高段者の気はそらされ、高段者の体も受け流される。
おお!受け流しをアストラルと気の流れで見ると、こんな感じだったのか!
あ、攻撃に出た。達人のアストラル体が高段者の無防備なアストラル体を掴む。
両者の気が合わさる。
アストラルを捻じ曲げて放つ、それに連動して気が流れる、最終的に体が飛ぶ。
勝負あった。
「こ、これは!!!」
俺はちょっと呆然とした。震えている。今まで知らなかった世界を、垣間見た。
ザースで出会った旅の武芸者ツカハラ。
彼の、理解不能だった読心術はアストラル体レベルのものだったに違いない!
ツカハラに会って勝負してみたい!
アストラル体を使って、ハナと模擬戦をやってみたい!
敵との実戦でも使ってみたい!
あれ、達人が俺を不思議そうな顔で見ているぞ。
おいおいどうしてこっちに歩いてくるの?




