ジョーの本領発揮と、地球でのレベル上げ
チュンチュン。良い朝だ。日本7月23日土曜日。
我が家の朝は早い。午前6時に朝食だ。大体はトーストと出来合いの簡単調理惣菜
だが結構美味い。
日本ではお金を掛けさえすれば、簡単調理モノでもザースではあり得ない上質の味
だ。
まあザースの食事は、素材の新鮮さと野性味が持ち味だから、勝負の土俵が違うと
いうべきか。
父親は商社勤めで家にいないことの方が多い。
母親は証券会社勤めで出張はないが朝早く夜遅い。
我が家の朝が早いのは通勤ラッシュ時間帯の前に通勤を済ませてしまうためだとのこと。
「創が習い事をしたがるのは久々だな。どんどんやりなさい。ただ怪我には気をつけろ」
「あら、男の子なんだから多少の怪我くらいはね。死ななきゃいいわよ」
「まあそうだな、受験に障らない程度に頑張れ」
「続くかしらね」
こ奴らは俺を甘く見てる!まあこれまでの実績からそう見られても文句は言えない。
「何か俺、すごい逸材かも知れないとか言われてさ」
「ははは、指導員は見る目があるな」
「ふふ、良かったわねー」
全く本気にしてないな。ちょっとむかつく。
まあ了承してもらって、承認印も押してもらったからよしとするか。
朝食後、ジョーがネットをいじくる。
GPS関連をあちこち見ていたと思ったら、驚くべきことが起こった。
「えええええ!全世界が見える!なんじゃこりゃー!?」
「GPSの静止衛星と、電磁操作・光操作のギフトを組み合わせれば簡単なことだ
ジョ」
「おいおい、軍事機密にハッキングはやばいんじゃないの?」
「いや、既存の回線への侵入ではなくて、衛星を発信点反射点とさせてもらって
新たな仕組みを構築しただけだから大丈夫だジョ」
「いつの間にそんな技を身につけた?」
「電波を追いかけて衛星の位置を掴み、電子を追い掛けて回路回線を巡れば、シス
テムの把握は容易。仕組み自体はさほど複雑じゃなかったジョ。」
「そういうもの?」
「それと図書館で得た知識と、ネットで得た知識が役立ったジョ」
いやしかしこれは、微細なところまでドアップに堪える精密さ、毛穴まで見える
レベル。しかも相当の遮蔽が無い限り、X線透視も可能。
どんなスパイ衛星にも勝る性能なんじゃないの?
これは露天風呂、、、い、いや、なんでもない。
「ジョー凄い、凄すぎる!」
「私はハジメ即ち創のギフトのひとつだし、利用しているのも創の脳と創のギフト。
私を誉めることは、自画自賛ということだジョ」
「あ、ああそうだな。偉いぞジョー!凄いぞ俺!」
ご褒美に、時間が開いたら南麻布にある都立の中央図書館に連れて行ってあげよう。
区立図書館ではもはや物足りないらしい。
本当は国立国会図書館や大学付属図書館、企業の資料室を覗きたいらしいけど、
年齢制限や所属制限をどうクリアするか検討中とのこと。犯罪系はだめだぞ。
ジョーにはどんどん知識を食わせてやりたい。それが俺の血となり肉となる。
知識系の訓練みたいなものだ。時間を充てる価値充分だ。
ジョー先生の知識方面の進歩が楽しみだな。
さてもう一つの課題。こっちでのレベル上げにも取り組もう。
まずは熊田さんにヒントを得た、狩り。
基礎値が低い状態で臨む方がレベル上げには効果的なので、朝の訓練をしないまま
で狩りへ向かう。
武器は日本で昨日のうちに作成しておいた物を、亜空間に収納してある。
ジョーのおかげで地球上どこでも、くまなく見ることできるようになった。
なので、どこへでも転移できる。
アラスカの狩猟可能な地区を上空から精査して、雄のヘラジカを発見。
スパイ衛星の視点を警戒して光学迷彩のシールドを頭上10mに展開し、監視不可
にした上で、ヘラジカの至近距離に降り立つ。
うむ!間近でみるとデカい!頭の先までの高さは2m超え、角の先までは3mは
あろうか。想像外のサイズだ。
体重は800キロほどか。
ヘラジカは俺を敵とみなして突進してきた。
理力及び闘気の底上げも、魔法も使わない前提で、判別してみると赤。
今の俺には危険な敵だ。
速い。人には出せない速度だ。そして幅広の熊手のような角は横幅も2mくらいに
広がっていて避け辛い。
さすが、年間200人以上もの死者を出すヘラジカ、別名ムース。エルクとも言う。
しかし俺には通用しないぞ。
ザースではもっと巨大な獣や魔物はいくらでもいたので、特に恐怖は無い。
しかも即死さえ免れれば治癒は可能なので、心はいたって冷静。
そして体力的には創だが、脳の中味はハジメに鍛えられた高みにあり、神経系もその
脳の影響を強く受けて、動体視力も反射速度もなかなかのものだ。
ヘラジカの突進を横幅の広い角をものともせず躱して、すれ違い様に収納から取り出
した短槍を腹部に打ち込む。
ヘラジカは通過後に向きを変えて、再突進。
俺は再度躱して、反対側の腹部にも短槍を打ち込む。
もう一度向きを変えて突進しようとしたヘラジカだが、脚がもつれ、脚を折りたたむ
ようにして座りこんだ。それでも燃えるような目で睨みつけてくる。
頭部もでかいな。座っていてなお、角の先端は俺の身長より高い。
3本目の短槍を出し、角に絡めてみる。奴は角を振り上げて槍を飛ばそうとする。
俺は素早く槍を手元に引いて、振り上げて隙の見えた喉元に槍を突き入れる。
奴の動きが止まった。
ヘラジカ レベル1を倒した
創はレベル3になった
創はレベル4になった
創はレベル5になった
創はレベル6になった
創はムースハンターの称号を得た
おお!4つも上がった。
さすがに、巨大ジカはレベル2の人間が生身で相手をするような代物じゃないって
ことだな。
そして称号もゲット。
創だとハジメとは別個の独自の称号なんだ。
鑑定画面も別物だし、魂が共通なだけで別個人扱いなんだろうな。
それにしても称号ってなんか役に立つのかな?
「ジョー、その辺どうなの?」
「諸説ある。称号には隠れポイントがあり、より高いポイントの称号を得ると書き
換わるとか、高位の称号には基礎数値の変化やギフト等の付加価値が付くという説
もある。でもいずれにしてもレベル50未満の人族で効果のある称号を得たという
記録は見つからないジョ」
「なんだ、じゃあ気にしてもしょうがないな」
お!そんな話をしているうちに、雄のヘラジカがもう一頭来たぞ。
さっきの奴よりも更にデカイじゃないか。
こいつ、さっきの戦いを見てたのか?
通り過ぎずに至近距離で停止して、体重を掛けたショートレンジの角の突きを繰り出
して来る。一発でも喰らって地面に倒れたら巨体の蹄で蹂躙されてしまうな。
俺が回り込もうとしても、ヘラジカはそれを許さず正面での正対を維持する。
こいつはやっかいだ。
4レベルアップによって俺の筋力と敏捷性は162に跳ね上がっている。
更にジョーの支援を得ている反射神経と運動神経の助けも借りられる。
俺は勝負に出た。
2本の角の先端を両手で掴む。
奴は角で俺を跳ね上げようとするが、俺はその動きを利用し体を反転させて、奴の
背中に飛び乗る。俺を振り落とそうとシカが跳ね回る。ロデオ状態だ。
おれは片手を上に上げてバランスをとり、ポジションを維持しつつ、空いた手で剣
を取り出し、首の付け根あたりに頑丈な骨格の隙間を見つけ出して、剣を根元まで深
く差し込んだ。
奴の体がビクンと震え、それからゆっくりと横倒しになる。俺は急いで離脱する。
ヘラジカ レベル2を倒した
創はレべル7になった
創はレべル8になった
あいつはレベル2か。群れのリーダーだったのだろうか。
今度の戦いではレベルはふたつしか上がらなかった。
そろそろヘラジカは限界かも知れない。
索敵マップとGPSの視点で周囲を探査してみたが、適当なヘラジカはいない。
レベル2はおろか、1匹めに匹敵する個体すら見つからない。どうやら近辺の
ナンバー1と2を倒してしまったようだ。
ヘラジカ狩りはここまでとしよう。あまりいじめてはいけない。
そして偶然、ヘラジカに代る標的を見つけた。
灰色熊レベル4、いわゆるグリズリーだ。
草食獣のシカですら手強かったのに、熊はどうかとも思ったが、
まあせっかくだからチャレンジだ。
標的の近くに降り立つ。迷彩シールドを頭上に展開するのも忘れない。
灰色熊が俺を敵と認識した。判別はやっぱり赤。
レベル6でも生身の俺では無理筋の敵、との判定だ。
4つ足でドッドッドと走り寄った熊は俺の手前で停止して後ろ足で立ち上がった。
2m以上はあるな。体重は500キロくらいか。
ん、なんか既視感があるぞ。
ああ、穴ぐ魔だ。ザース初期で遭遇した。
灰色熊の方が素早く、力強く、レベルも高くはある。
でもなんかむしろ安心感があるな。
穴ぐ魔の方が大きく、爪が長く、毒も魔法も使う難敵だった。
俺は穴ぐ魔に勇気をもらい?、灰色熊と冷静に対峙する。
熊の奴、俺を怯えさせて優位に立つつもりだろうが、立ち上がったりしたら
弱点の腹部が目の前に無防備にさらされている状態だ。
俺は、長槍を取り出し、熊の鳩尾あたりに突き入れた。
強固な腹筋を切り裂いて、槍が刺さる。
「ガァー」
灰色熊が太い前足を振り下げる。俺は軽くバックステップで躱す。
熊の一撃は俺には当たらず、槍を直撃する。
うん?腹筋を支点にして熊体内の槍の先端部分が上に斬り上がり、
胸郭内部に侵入したようだ。
馬鹿な奴だ。墓穴を掘った。
心臓は機能しているようで即死はしていないが、臓器を多く傷付け致命傷だろう。
熊は、それでも手負いとなって、より強烈な戦意を保っている。
今度は四つん這いになって吠えた。
熊の頭部が俺に最も近い位置にあり、俺の胸の高さで狙い易い。
俺はもう一本長槍を取り出し、開かれた口の中に突き入れて、首の後ろまで貫通させた。
延髄を破壊した手ごたえがある。
灰色熊 レベル4を倒した
創はレベル9になった
創はレベル10になった
創はグリズリーハンターの称号を得た
創は変化のギフトを得た
強敵のはずだけど、思いのほか呆気なかった。敵が俺を甘く見たからだ。
それにこの熊は、槍をもった相手との闘いの経験が全く無いのだろう。
あ、思い出した。
穴ぐ魔は冬眠あけで、体調万全ならやられていたはずの相手だった。
しかも俺が魔法を使うという前提で。
まあいいや。とりあえず、灰色熊を倒して自信がついたからね。
む?新しいギフト!
そうか、レベル10になったからだ。これは美味しい。
それにしても変化のギフトって、狐狸じゃあるまいし。。。
果たしてどんな変化ができるのか、色々試してみるとしよう。




