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怒りの大巨人

南側では、フィリプ王国軍の魔法障壁と魔物軍の攻撃魔法が激しい鍔迫り合いを

展開していた。

軍前方の地上から中空までをカバーする透明な湾曲する障壁が築かれており、そこ

に火、風、土、水、雷、氷の攻撃魔法が衝突して壁外に拡散し、障壁に沿って色と

りどりの派手派手しい装飾が施されているかのようだ。


魔法障壁はよく耐えている。しかし目を凝らしてみると、攻撃魔法の衝突箇所には

波紋が生じ、各衝突箇所の波紋が干渉し合って複雑な編み目模様を形成している。

どうも盤石という感じでは無い様だ。


魔法障壁内では、人族の兵と魔物達が死闘を繰り広げている。

俺は例によって、戦場を走り回り転移し回って、厄介そうな敵をさっくりと始末し、

負傷者を治癒した。

俺のてこ入れによって、フィリプ軍が目に見えて優勢になった。

これで物理戦は当面は大丈夫だろう。



障壁は魔法だけをブロックしている。

弓は障壁を通り抜けるし、魔物も通過する。

それでも障壁外で拡散している攻撃魔法が障害となって、魔物の通過はかなりの程

度制限されている。

魔法障壁はここでの生命線だ。これが破られれば全てが崩壊するだろう。



フィリプ軍の魔法障壁を支えている魔法使いは稼働中が約300名、床に伏せたり

座り込んでMP回復薬をラッパ飲みしている脱落組が200名といったところ。

「まだ行けますか?」

「そろそろ気量が尽きそうじゃわ」

リーダーとおぼしき背の高い老魔法使いが、額に脂汗を浮かべながら苦しそうに答

える。


「俺は気量に余裕がありますから、皆さんにお分けします」

俺は素早く魔法使い500名全員の気量を満タンまで補充する。

「うほっ!これでしばらくは行けるわい」

「助かった!かたじけない」

「ありがたや~」

「この常識外れめが」

若干ディスられたようだが気のせいだろう。


「敵魔法使いを攻撃してきます。

敵攻撃魔法が止んだら、付近の敵攻撃と治癒にも魔法を回して下さい」

「お、おう。お主のことじゃから、常識は通用せんな。無事を祈るぞ」


魔族側からの攻撃魔法の射出場所は一か所に固まっている。防御の便宜上だろうが、

こっちにも好都合だ。

俺は、透明化して姿を消し気配も隠蔽して、攻撃魔法の射線をたどって、

敵陣へ一気に飛び込んだ。


奇妙な天蓋の下辺りから下級魔族らしい約100人が攻撃魔法を放っていた。

余裕が感じられる。

食べ物を口にしている者もいる。何とサンドイッチではないか。美味そうだ。

雑誌を見ながらの若い女性魔族もいる。挿絵を見る限りではファッション雑誌のよ

うだ。

外見上は人族とほとんど変わりない。魔力と気力の質もほとんど同じだ。

魔力量は100代から2000程度まで。フィリプ軍の魔法使いの10倍程度。

優秀だ。


ソマーナの魔道具商と迷宮案内人の顔が浮かぶ。

この魔法使い達を殺したくないと思う。


俺は透明かつ気配を消したまま、魔力量が多い者から魔力を吸収して回った。

トンと体に手の平を当て、1秒かからずに全魔力を吸収して失神させる。

異変に気付いた者は軽く凍らせて動きを封じた。

失神した後には解凍して死なないようにしておく。

約100人全員を失神させた。これでよし。

吸収した魔力は、フィリプ軍魔法使い達に授与した分を補って余りある分量だった。



戦線の全域にわたり、人族優位が揺ぎ無い状況になった。

後方に逃げて行く獣、魔物もちらほら目につく。


「ハナ、去る者は追わずでいいぞ。それよりも交戦者をサポートしてくれ」

「オッケー、猿もモノも追わないよー」

ハナの脇をゴリ猿がウホウホ逃げて行った。そして手足の生えた消しゴムも。

あれは目の錯覚か?まあいい。

ハナが理性を取り戻して何よりだ。


最前線から復帰したハナは、味方に討たれないように人型に変化。

属性剣と汎用銃を駆使して、苦戦地点の補助をしつつ移動している。



さて、一段落したようだ。

中央の司令部に入ってみると、戦勝の予感に沸いていた。皆の顔が輝いている。


そこへ斥候が急報をもたらした。

「黒の森から獣族援軍1万がこちらへ進軍中。半日以内に到着の見込み。

レベル30から40の竜族7体を確認しています!」

司令部の雰囲気は一転、水を打ったようにシーンと静まり返った。


斥候の連絡役がもうひとり入って来た。

「申し上げます!魔の谷から魔族主力5000が出ています。

レベル50代の中級魔人数人を含みます。半日から1日の距離を進行中」

ダメ押しだ。静けさが更に凍り付いた。


・・・ん?何か視線を感じる。あ、あれ、めっちゃ見られてる。

皆さん、俺がどうかしましたか?

そんな、捨てられた子犬が縋るような目で、見ないで~~。

「は、ハジメ殿。。。」

「ハジメさん、ここは何か、、、」

何かってなんすか~?


「考えがあります」

は? 誰? 何言ってんの? 

ってこれ、俺の口から出てる言葉じゃん。

考えなんて無いだろうがー!

どうする俺!?


とりあえず、スタスタと司令部を後にする。

目の前の戦場はほとんど決着がつくところまで来ている。

はるか遠くには、獣族と魔族の後続主力の気のゆらぎが感じられる。


任せろみたいなこと、言わずにはいられない雰囲気だったもんなー。

言っちゃった手前、何とかしなきゃなー。

さあ、考えろ。


とりあえず、さっきまでの獣魔連合前線のあたりまで飛んで行く。

後続との合流に向けて逃亡する獣魔軍がちらほら目につく。


後続の敵はそこそこ強い。

セヌエフやピスには及ばないものの、数が数だから、今の俺とハナでも下手すると

下手する。

それに、セヌエフとピスに感化されたのか、将来の強者となる可能性のある個体を

滅ぼしてしまうのはどうも気が進まない。

ここは何とか手を引いてもらいたいところだ。


そうだ、こちらの力を思いっ切り見せつけよう。

こけおどし上等!恐れおののきやがれ!



まずは光操作で、大規模な闇の領域を作る。暗幕を広げた感じ。

そして、その闇の作業領域の中で、せっせと土をこね始める。

フィギュアというか、巨大ゴーレムの式神を作ろう。


周囲の土をかき集めて、手前に掘りを作ると同時に、ゴーレム作成に取り掛かる。

大きいので自重に耐えて維持するための気が膨大に必要だ。少々工夫しよう。

ということで、可能な限りの薄い外殻に心棒を入れることにする。

心棒はスカイツリーのコピーでも入れておくか。


形状は、、、見た目怖くて威厳があって、神性も感じられるもの。。。

そうだ、お寺の門の左右にいる仁王様こと、金剛力士像の形状にしよう。


出来た。日本でジョーが仕入れた物理化学工学の知識のおかげもあり、巨大で精巧な

仁王様フィギュアが完成したぞ。高さ634m。張りぼての仁王様3体。


右方には、激した憤怒の表情、阿形あぎょうの仁王。片手を開いて前に突き出し

片手は腰に。獄炎に包まれた炎の巨人。


左方には、抑えた憤怒の表情、吽形うんぎょうの仁王。両手を胸に組んで、背後

には放射状の氷の槍輪がゆっくり回転し、ダイヤモンドダストを纏っている氷の巨人。


中央には、歯をむき出した不気味な憤怒の表情、イオリジナルの仁王。

片手を天に上げ、片手は指を2本立てて拳銃風に正面を指す。

大電荷を纏い、全身くまなく放電しまくりの雷の巨人。


こいつらの揃い踏みは見た目相当怖い。顔が敵側で、人族の方は背中側で良かったよ。


そして極め付け、ボスキャラ?

スカイツリー3本を3脚状に組み合わせ、その上に更に逆3脚にしたスカイツリーを

載せて、計6本を心棒にした。

高さ1000m。張りぼての大巨人。立像の大仏。

顔は大仏だが、高さも横幅もたっぷりで、迫力が凄い。


仁王3体を従えるボスとして、大仏様は中央後方にその威容で聳え立つ。


大仏額のボッチの中には俺が潜み、大仏像を操縦可能だ。単純な動きならOK。

光背として、光と闇を点滅させたネオンサインのような不気味な領域を展開させる。

理解不能の超巨人だ。ふふふ。


あ、ハナが大仏の肩にとまる。

「えへへー、ハジメかっこいいよー」

うん、ハナよ、なかなか寛容なセンスしてるな、よしよし。


自陣がざわめく。

中央司令部に残した式ねずみが音声と映像を伝えてくれている。

「ハナ殿が!」

「す、するとあれがハジメ殿の真のお姿か!」

ちょ、ちょっと、それ誤解だから。

あー、拝んだりしなくていいから。



獣魔軍の進行が止まる。それぞれ偵察を出したようで、何か飛んでくる。


獣族からは、飛行型の蛇とロック鳥だ。ともに巨大だ。鳥は翼を広げると100m、

蛇は長さ200mはあるだろう。


ロック鳥に向けて、炎の巨人の開いた手の平から、巨大な火球を『俺が』撃ち出す。

ここは出し惜しみしない。直径200m。超高熱の青白い巨大火球がロック鳥を包

む。パラパラと僅かな灰を落としてロック鳥が消滅する。


飛行蛇には氷の巨人から絶対零度の冷気のブレスを浴びせ、瞬時に凍り付いたとこ

ろを、直径50mにも及ぶ極太の雷撃を雷の巨人から打ち出す。

飛行蛇は焼けこげたバラバラの塊に変じてツーッと落下する。


魔族からの偵察はどこに行った?む、俺の上方に居る。

ガーゴイル?翼の生えた悪魔という感じの奴だ。こいつも翼を広げると100m級。


俺は大仏の顔を、柔和な無表情から、カッと目を見開いた憤怒の表情に変化させた。

そして、額のぼっちから粒子砲を最大出力で放つ。


粒子ビームには光の奔流と闇の奔流を螺旋状に巻き付けてみた。

これは威力には関係ないんだけど、見た目の効果狙いで。


とにもかくにも、ガーゴイルは瞬時に蒸発する。

ふふふ、理解不能の恐ろし気な攻撃に見えたはず。



獣魔軍は?止まったままだ。

よし、もうひと押し。


隠蔽を解除し、∞の気量を見せつける。


そして、仁王3体が吠えた。

「がぁぁぁぁ」

空気操作で音量マックスの広域拡声。

大気が激しく振動する。


1歩2歩と踏み出しながら、憤怒の表情の大仏も吠える。

「ごぉぉぉぉー」

これは、もはや地鳴り。実際地面が振動している。



あ、獣魔軍が引いて行く!

パフォーマンスが成功した!!






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