軍議
ザース 春12日 朝
まずは訓練。
俺は闘気と短距離転移。
闘気の底上げはほぼ5倍となり、瞬動、闘打、闘鎧の切り替えも実戦に使用可能
なほどに素早くなった。
短距離転移は、最適転移点の状況判断と発動速度が、まずまず満足できる水準に
なってきた。
ハナの闘気は、狼型ではほとんど完成、人型でも俺と同水準。人型での各種武器
の扱いと道具による属性攻撃は、より進歩したというところ。
軽く朝食。
「食料たくさんもらったね。どんどん食べちゃおうか?」
「亜空間収納は腐らないから気にしなくていい。食べすぎるなよ」
行軍用保存食なので、味は、、、まあ、我慢出来る。
さて、移動再開。
残りの行程はハナの好きに走らせてやる。
「きゃっほー♪」
ダダッ、ターンターン、シュバッ、ヒューン。
超大型狼でもやっぱり子供。地を駆け、天を翔け、無駄に速度や方向を変えて、
遊びながら走っている。
俺も良く乗っていられるものだ。と思ったら、ハナの毛足の長い狼毛が、俺の
体をすっぽりかっちりホールドしていて安定感抜群。
なんとまあ良く出来ている。
「ハナ、この狼毛は意識してやってるのか?」
「え、何のことー?」
無意識のようだ。
ほどなく戦場に到着した。
トラッサル平原は、かなりの広さだ。
両軍が距離をおいて展開していても、まだ十分な余地がある。
高空から両軍の布陣状況を視察する。
人族は東側。中央に厚みがあるが南北に長く布陣。総数10万というところか。
獣魔連合は西側。北に獣族の2集団約2万、南に魔族の集団約1万、合計3万。
この10万と3万で、多少の距離を空けて対峙している。
それと、西の後方に、獣族1万、魔族5000程度。こちらは行軍中。戦場への
到着は半日から1日はかかりそうだ。
しかし、この後続軍は、獣族には大型竜7頭を始めとする大型で強力な種が多数、
魔族側にも膨大な魔力総量が感じられる。どうやら後続が主力のようだ。
対峙中の戦力で3倍、後続を合わせても2倍の数を人族が保持している。
戦力的には、普通に考えると、凄く不利な気がするけれども、この程度なら戦争
ボーナスの戦力補正で勝てるのかな?
上空からウギス領主を探す。中央やや後方に発見。中央後方、全軍の東側に降り
て、地上から歩いていく。
途中、誰何されたけれど、好青年アレックス名代の通行証を呈示して、ウギス領
主本軍のところまでたどり着くことが出来た。
アリッサ嬢がいる。魔法使いだから戦力なんだろうなー。
「あ、ハジメさん!」
「アリッサ嬢、お久しぶり。応援に来ましたよ」
「ありがとう。貴方達がいてくれると心強いわ」
「で、どんな感じなのー?」
ハナがキョロキョロしながら尋ねる。周囲は何かピリピリした雰囲気だ。
「うーん、予想よりも厳しいみたいなの。ちょうど軍議が始まるところだから、
私達も行きましょう」
ひときわ大きなテントにアリッサの顔パスで入る。
中央にウギス領主ら約20名、諸軍の司令、将軍、参謀だ。
周囲に約200名の部隊長クラス、俺たちもここに紛れる。
「敵戦力をここまで見誤るとは!責任は取っていただきますぞ!」
「ふっ、それも生き残ってこそ。その心配は無用であろう」
「獣魔連合がここまでの数を揃えるのは数十年来なかったことだ」
「ここを突破されれば人族は蹂躙され、大陸の勢力図が塗り替わる」
「守りに徹して、敵侵攻をこの地で支え、援軍を待つべきだ」
危機感がバリバリだ。
アリッサが小声でレクチャーしてくれるところによると、獣魔連合に対しては
10倍の数であたるのが常識、戦えるのは5倍程度までで、それ以下だと支える
のが精一杯とのこと。
「飛竜300騎は、即時に援軍要請に各地に飛ばそう」
「50騎程度は残してはどうかな」
「この地は死守する。司令クラスの撤退に備えることは無意味!」
結局、折衷案で20騎残して、他を援軍要請に回すことになった。
「飛竜は野生種を品種改良してあるし、卵から育てて人に慣れてるのよ。小さくて
軽い種族や子供が騎手になって、他に載せられるのは1人か2人。
とっても貴重な空の足なの」アリッサ談。
「飛竜部隊が不在となれば、空戦はいかがいたそう?制空権を握られると厳しいぞ」
「魔法使いを対空戦力とするほかあるまい。弓部隊も対空重視の運用とせねばな」
「敵魔法の妨害はどうする?白兵戦の前に弓で敵を削ることも不可欠だが?」
「塹壕を活用しよう。まともに戦ってはダメだ」
「各軍団が消耗を抑えつつ、おのおのの陣地を死守する」
人族は、中央と後方予備がウギス領主国軍5万、北側の右翼がボハゼ領国3万、
南側左翼がフィルプ王国2万の計10万。
獣魔連合との戦争においては人族は結束して各国連合軍になるとのこと。
獣魔連合の侵攻は、平原を過ぎれば、ウギス、ボハゼ、その次がフィルプの各国の
都市の蹂躙になると予想される。
魔法使いを多めに派遣し、作戦上対魔族を受け持つことになったフィルプ王国側の
不満は大きいようだ。
一度撤退して、時間的余裕が許す限り準備を整えて応戦したいというところか。
しかし、今フィルプ軍が抜けると戦線が崩壊するばかりでなく、追撃によって撤退
もままならないので、どうしようもない。覚悟を決めるしかないと自覚している。
軍議が細かい詰めの作業に入っていったところで、俺は重大な事実に気が付いた。
獣魔連合の後続主力1万5000が計算に入っていない!
敵戦力として捉えられているのは、前線の3万のみ。それでいてこの危機感。。。
まずいな。でも、今にも決壊しそうなこの雰囲気の中で、とてもじゃないが後続の
敵主力の話は持ちだせない。
さて、どうしたものか。
軍議が一段落したところで、アリッサが手を上げた。
「お父様!」
ウギス領主が俺とハナを見つけて嬉しそうな顔をする。
「おお、ハジメ殿、ハナ殿。これは心強い援軍じゃ!」
一瞬周囲に喜びの波動が生じたが、援軍が子供二人と知れて、すぐに失望に変わる。
嬉しそうにしているのは、ウギス領主だけ、あ、もうひとり、ボハゼ領主もだ。
ウギス領主によって、俺は中央ウギス領主本軍の近衛軍に組み込まれそうになった。
周囲は、俺たちのことはどうでもいいという感じで、無関心。
「俺とハナは遊軍にしてくれませんか。空の足がありますから、必要な地点に機動
的に参戦できます」
「ふん、飛竜1、2騎で出てもすぐに撃ち落とされる。むしろ味方の魔法と弓の邪
魔となろう」
フィリプ軍の司令が不満をぶちまける。まあごもっともな意見。
「俺達は魔法防御には自信があります。援護は不要です。それと、邪魔にはならない
ようにしますが、俺達ごと撃つつもりで魔法や弓で攻撃してもらって構いません」
「なにを生意気な!」
「その者たちは、2名でも1軍に相当する。自由にさせるのが良案だ」
お、ボハゼ領主が擁護してくれたぞ。
俺達は希望通り遊軍となった。
それと、飛竜じゃないんだけどね。子供だから飛竜の騎手と思われてるんだな。
軍議が終了して散会。それぞれが持ち場に戻って行く。
俺達は、ひとまず本軍で、ウギス領主、アリッサと一緒に軽く昼食。味は我慢。
経緯を話す。
「そうか、さすがアレックスじゃ」
「アレックス兄さん、いい男だったでしょ」
ふむ、かの好青年は家族受けもいいようだな。
「で、ハジメ殿はどのように戦われるおつもりかな?」
ここまで来ると、もう出し惜しみしてる場合じゃないな。
「ええ、実はハナは、、、ハナ狼型に」
「え、いいのー?」
ぼふっ。
「おおおおー!?」
「まあ、キレイ!」
アリッサ嬢、驚くところはそこ?
「ハナは空を翔ることができます。おれはハナに騎乗します」
ちょこっと天翔を使って見せるハナ。得意満面。
「な、なんとこれは!」
「うわぁ、凄い凄い!」
「えへへへへー」
「で、開戦はいつになるのでしょうか?」
「ふむ、時間を稼ぎたいところじゃから、人族からは仕掛けんな。敵の侵攻待ち
じゃ」
それなら敵主力が到着するまではこのままかな。
という俺の予想は外れた。
カンカンカンカンと鐘が乱打される。
「敵襲!敵空軍が接近中!全軍緊急配備!繰り返す、(以下略)」
西の空に霞が掛かったようになっている。索敵マップで確認すると、飛竜、ハー
ピー、大蝙蝠、王鷹、大毒蜂その他鳥型・昆虫型・悪魔型の飛行タイプが合計3
~4000体こちらへ向かっている。
敵航空戦力、結構充実してるぞ。
ていうか300騎程度の飛竜隊じゃ、もともと太刀打ちできない規模だろ!?




