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立ち合い

俺は身長165センチ、体重52キロ。

小島さんは身長は170センチくらいで、体重は60キロくらいか?


比較的小柄で細マッチョな感じだ。レベルは5、筋力10、敏捷性15。

レベル2、筋力8、敏捷性8の俺で、相手ができるのか?


柔道の技術は圧倒的に小島さんが上だろう。

俺に有利な点があるとすれば、豊富な殺し合いの実戦経験と小島さんに油断がある

ことか。


道場はちょっとした余興を兼ねた休憩タイムとなり、立っているのは俺と小島さん、

そして師範代こと熊田指導員だけで、残りの全員は胡坐を掻いて汗を拭いたり水分

を補給したりしている。


俺はまず熊田さんに組み手、つまり柔道着の持ち方を教わった。

右手で襟を、左手で袖を持つ。持たせてもらったところから始まった。


「小島、分かってるな。始め!」

小島さんは、ただ突っ立ってるだけ。俺に先に仕掛けさせてくれるようだ。


俺は筋力にさほど差が無いことを活かして、両手で小島上体を引いて重心を前に崩

し、前のめりになったその懐へ体を回して飛び込んで背中を密着させ、脚力と背筋

力を使って小島さんの体を持ちあげた。

小島さんの体を、俺の背と接した腹を支点にして、俺の両手で下方に引いた小島上

半身を下方へ、下半身を上方へと、縦方向に回転させる。

そして、背中から畳にだーんと叩きつけた。

床にはスプリングが利かせてあるらしく、ぽーんと弾む感じがした。


ギャラリーは、一瞬の静まりの後、うわぁーと盛り上がる。

興奮する人、なぜか大笑いする人。

「一本!見事な背負い投げだ。おいおいホントに未経験者なのか?」

「まぐれですよ。それに技を掛けさせてもらいました」


「じゃあ続けて」

今度は小島さんはちょっと本気っぽい。離れた位置からつつと近づいてきて、いき

なり右手で俺の襟を前に引き、左手で俺の袖を上に持ち上げ、右足をシュッと俺の

左足首に飛ばしてきた。

これは俺の体重を右足に寄せた上で、それを真横に刈って、下半身と上半身を逆方

向に回して、俺を倒そうという意図があるとみた。


俺は素早くひょいと左足を持ちあげ、その下を通過する小島右足の甲に俺の左足裏

を当てて、小島右足の勢いをそのまま活かして、俺から見て左横方向へ力を掛ける、

と同時に、両手で小島上半身に右横方向へ力を掛けた。


小島さんの体は、へその辺りを中心に、時計回りに側方回転して宙に浮く。

そこをすかさず、重力を利用して背中から畳に落とす。

だん!ゆさゆさ。さっきよりも衝撃は小さい。


「一本!」

あ、これも一本なんだ。

おぉー!パチパチ。結構な拍手。沈黙して呆然としている人もいる。


小島さんは悔しそうな顔。なんか申し訳ない感じ。



「ふむ、次は私が相手をしよう」

熊田指導員が正面に立つ。巨漢だ。身長は190センチくらい?体重は100キロは

余裕で超えてそうだ。レベル9、筋力30、敏捷性11。レベル高っ。筋力が凄い!

これは力比べでは勝ち目がない。敏捷性が近いところをなんとか活かしたい。


おっと、いきなり来た。俺の襟の後頭部辺りを掴んで上に持ち上げる。それだけで

体が浮く。俺の右袖は右上方に引かれ、体が浮きつつ体重が右足にかかる。


熊田さんは、俺の体の右側に出て、大きく右脚を前に振り上げ、体重のかかった俺の右

腿あたりを前から後ろへと刈りに来た。

いかん、何とか上体を解放し、右足を回避させねば。


俺が上体を捻りながら抜け出そうとすると、なんとしたことか、袖から腕が抜けて柔道

着が半分脱げてしまった。

が、そのおかげで上半身は熊田上体の拘束から抜け出すことができた。

上半身が自由になったので、右足を熊田右足軌道からはずして、回避に成功。

熊田右足は俺の足の抵抗が無くなって空を切り、勢い余って後方へ高く振り抜かれる。


さっきの小島戦の時のように、俺は体を反転させて、つんのめるようになっている熊田

懐に潜り込みつつ、俺の右足裏を、振り抜き切っている熊田右ひざ小僧辺りにあてて、

振り抜く勢いを助長して更に上へ跳ね上げた。

そして、俺の背と熊田腹を支点にして、熊田上半身を下方に引き、体を縦に回転させよ

うと試みる。


しかし惜しいかな、身長差があるため、俺の両手が掴む位置が低過ぎて、熊田上半身を

下に引く力が充分に伝わらず、このままだと、熊田さんは顔面から畳に突っ込むこ

とになってしまう。ゴリラ顔が血だらけの豚顔になりかねない。避けたい!


咄嗟に理力の触手を伸ばして熊田後頭部にあて、下方へ力を伝えて体を回すようにした。

熊田さんの体はきれいにくるんと縦回転し、背中から畳に、ドドーンと叩きつけられる。

凄い衝撃だ。ぶわんぶわん、ゆさゆさと、余震も凄い。


辺りはシーンとしている。


まずい、やっちまったか。ちょっとズルしたし。


「・・・凄い!君はもの凄く筋が良い。天才だ。柔道やりなさい!!」

熊田さんが、起き上がるなり、興奮して叫んだ。顔が上気して真っ赤だ。

周りの人達も集まって来た。皆さん、凄く嬉しそうだ。キラキラ顔だ。

これは、まずい、まずいぞ。


「い、いえ、ちょっと今日はちらっと覗いただけで。もう家に帰らなきゃ」

「だったら、送って行くから。車の中で話をしよう」


なんと、パトカーで家まで送ってもらうことになった。もちろんサイレンは鳴らし

てないが。

うはーパトカーだ。ちょっとワクワクしてしまった。

でも、無線が付いてるのと運転手が制服警官であること以外、乗ってしまうと中か

ら見れば普通の車だった。。。パトかーは外から見るものなり。


熊田談、小島さんへの最初の技は背負い投げ、次のは燕返し。熊田さんへの技は、

大外返し、内股透かし、跳ね腰、背負い投げを合わせたような、見たこともない技

だそうだ。

うーん、理力の触手も使ったから、普通はあり得ない技かも。。。


続熊田談、自分はかつて全国クラスの実力者で5段、小島さんは伸び盛りの3段、

それを天性の勘だけで、恐ろしい程綺麗に投げた俺は、全国はもとより世界を制す

る逸材とのこと。

日本柔道界の宝とか原石とか。埋もれさせては全国民に申仕訳が立たないとか。。。


幸いというか、当然というか、家には誰もいないので、『両親と相談して、今日明日

中に連絡する』と約束して、お引き取り願うことにした。


顔は真っ赤、目はキラキラ、鼻の穴をぶほっと膨らませた熊田さんは、ヤサは押さえ

た、もう逃がさんとばかり、俺を絶対確保する!と息巻いている。

もし両親が反対したら、署員全員でもって説得する!とか、もーやめてくれー。


まあ、強い人がいること、優れた技術があることは、ある程度は納得したし、高校大

学の推薦入学とかにもつながるかもだし、将来柔道師範で生計を立てるなんてことも

あり得るから、やってみてもいいかなーと、ちょっと気持ちは揺れている。


あと、道場にいた人たちは、レベルも基礎数値もそこそこ高い。

とくに活力は全員俺より上だった。やっぱり、こっちでは活力はレベル上げじゃなくて、

訓練で増やすんだよなー。これは試す価値がある!


それと、熊田さんだけ、飛び抜けてレベルが高いのが気になった。

討伐以外でもレベルは上げられるのか?


「熊田さんは、生き物を殺したことはありますか?」

「うん?実家が山奥で代々続く猟師だから、私も狩猟免許持ちで、鹿、猪、熊を仕留

めたことはあるよ。でも良く分かったね」

「いやー、なんか只ならぬ気配みたいものを感じましたから」

と言っておいたら、熊田さんは無邪気に喜んでいた。


ふむ、なるほど、レベル上げに猛獣ハンティングはいいかも知れん!



自室に入ってからは、まず、各地へ飛んで素材集めをして、その後、工作ギフトで猛

獣狩り用の槍、弓、剣、短剣を作った。

理力や闘気の底上げ無しで、魔法も無しで、今の素の肉体能力だけで戦ったら、かな

りレベルが上げられるかも知れない。

しかし、そもそも、それで勝てるのか?まあ、危なかったら逃げればいいや。


適当に夕飯を済ませて、亜空間で訓練。

対猛獣用の槍捌きや剣捌き。柔道用の体捌き、重心の崩し方、相手の体の回し方なんか

を色々工夫した。

あとは、ザース用に闘気と転移を磨き、各種魔法も錆び付かないように一通り回した。

超回復は2巡、つまり基礎数値4倍。むふふ、筋力32。熊田さんを越えたーw。


活力アップのためのメニューも入れた。活力は現時点で2しかないので、枯渇寸前に

するのは簡単、こっちで作った活力の指輪で満タンにするのも簡単、短時間で100

回程度、活力回しをすることができた。

その結果、活力が2から3にアップした。これはでかい!


現時点の数値

筋力32/敏捷性32/生命力128/活力3

気力152兆/気速152兆/気量∞


夜の10時。両親はまだ帰ってこない。

『隣町の警察署でやってる柔道教室に行ってみたい。僕は筋がいいらしい。ハンコ

お願いします』

と置手紙を書き、保護者承認の用紙を添えて、テーブル上に出しておく。



ザース生活の影響で、こっちでも早寝早起きになりそうだ。

ベッドに影1号を寝かせて、部屋の鍵をかけ、異世界定期便でGO!



第3便 日本7月22日夜自室→ザース11日夜街道外れの大木



月明かりと星明かりの他は真っ暗なザースの大地を眺める。

ザースにも月がある。気持ち小さめなようだ。

大地のそこここから、天に向かってゆらゆらと登って行く瘴気の淡い煌めきが見え

る。夜はこれがきれいだな。気の濃い世界に戻って来た。


うん、ハジメの5歳の体は力に溢れているなと、あらためて感心する。

ハナの眠る亜空間の寝室に入り、ぐっすり眠る。




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