立ち止まって考えよう
領都の宿へ戻って夕食。ちょっと放心状態。いや、今日のはホントやばかった。
亜空間で訓練がてら、本日の復習。
ハナはまず狼闘気の錬成。やればやるほど、少しずつ完成度が上がって行ってる。
これ、完成したら、物理戦では物凄い効果があると思う。
俺は、この闘気はイマイチだ。この世界の人族は脆弱で誇りが持てるという感じじ
ゃないし、自分で自分が好きかというとうーん複雑、ということで迷いなき確信に
はとても至らない。
しかしだ、俺のこの世界での来歴は特殊なので、通常の人族とは違う。むしろハジ
メ族というユニーク種族とでも言った方がいいくらい?そして、この世界の俺は、
当初の状態と比べれば考えられない高みに僅か10日で到達し、その間、様々な困
難にも遭遇し、よくやって来た。自分で自分を誉めてよい。この世界の俺はなかな
かだ。うん、確信をもってよいのではないか?
ということで、人闘気ではなく、ハジメ闘気で行ってみよー。
おお、この方向だと、何となく光明が見えそうな感じ。
それから時間操作。一度だけカチリとスイッチが切り替わって時間がほぼ停止に近
い状態になった。
アレの再現をしたい。のだが、うーん、これはなかなかうまく行かない。
まあ、努力継続ということで。
今日も1日が何とか無事に終わった。
転生10日目の夜のスペックはこんな感じ。
ハジメ レベル32
筋力1兆0342億/敏捷性1兆0342億/生命力66兆1944億/
気力2兆3788億/気速2兆3788億/気量1270兆9328億/活力101万0047
ハナ レベル32
筋力2兆4912億/敏捷性3兆3220億/生命力33兆2150億/
獣力8304億/獣気速8304億/獣気量6兆1944億/活力2693万
兆なんて単位になってしまってる。たった10日だよ。
そして、超速の自然回復、再生、蘇り、これらのギフトでめったなことでは死なな
い体になった。
死にそうになっているのは、迷宮地下51階から下だけで、迷宮外ではもはや危機
感はない。
ただ、自分より遥かに強大な力が存在することは間違いない。
そしてそんな上の存在に目を付けられているというか、注目されている気配を色濃
く感じるのも事実。
さてどうしたものか。
レベル上げと実戦感覚を磨く上では、迷宮の到達可能な最下層が最適だ。
もっともっと先を目指したい。そうしないと本当の意味で安心できない。
しかし、迷宮で死んでしまうというのでは元も子もない。
再生したらすぐまた死を繰り返して抜け出せないはまり状態とか、あり
そうで恐ろしい。絶対避けたい。
となるとアレだな。迷宮にはもぐるが、むやみには急がない。
石橋をたたきながら進む。
50階までは俺達には余裕だった。
しかし51階からは、強者の階層だとセヌエフが言っていた。
確かに、全く様子が違う。あまりに手強い。
俺達は、強者の入り口に立っているというところだろう。
うん、ここら辺りが適正レベル階だ。到達したんだ。
ここからは、自分達の強さと階層の主の強さを比べながら、次に行ける自信が付い
たらもう一階下へ進もう。
そうだ、これだ、迷宮攻略の基本に立ち還るんだ。
眼が冴えてなかなか寝付けない。
ハナはいつもの通り、バタン、スース―。横になって2秒で熟睡。
ハナの規則正しい寝息を聞きながら、もの思いにふける。
転生してから10日。何て濃い10日だったことか。
日本にいたころの数年分は軽くありそうだ。
色々あり過ぎて、余裕がなくて、日本のことなんか考えて無かったな。
俺が消えて、大騒ぎだろうな。まだ捜索が続いてたりして。
新聞沙汰、というかTVでも大きく取り上げられてそうで恥ずかしい。
何で日本には転移できないのかな?
俺の秘密基地があったあの洞窟、明確に意識できて、紐付けされた場所と言える。
でも、亜空間から、その紐が引けない。手が届かないところにある。
なんていうか、ザースの空間が同じ建物の別の階でエレベータでつながってると
したら、日本の空間は別の建物にあって、今使ってるエレベータでは行けないと
いう感じ。
空間操作もだいぶ慣れてきた。そして重力操作と時間操作に馴染むにしたがって、
空間操作がより上達した感じがする。
うん?何か今だと、日本の秘密基地の空間がより身近に感じられる。
紐を引いてすっと出て行くことは出来ないけれど、飛びつくことなら出来そうな
気がしないでもないような。
ちと、やってみるか。
えいやっ!おっと、紐をキャッチ。
ん?出れない!
むむむむー、むぎゅみゅぐーっ。
すぽんっ!
およっ出たぞ。
ここは?水たまりに手を浸している。あ、例の水たまりっていうか深い泉!
ここはあの洞窟だ!!
手を見る。足を見る。俺の、15歳の藤堂創の体だ!
服装を調べる。ポケットの中を調べる。
全て正常だ。OK異常なしだ。
俺が泉に引きずり込まれるように召喚された時の状態、そのままだ。
俺の元の体は分解されちゃったんじゃなかったのか?
「いったん元素に還元したあと再合成されたと考えられるジョ。」
「おわっ、びっくりした。ジョーいたのか。日本にも来れたのか?」
「私の実体は、ハジメの脳の一部なんだから、ハジメあれば私ありだジョ」
「そうだよな。あれは夢じゃなかったんだよな。とにかくジョーがいてくれて心
強いよ」
洞窟から外に出る。
眩しい。晴れてる。太陽が高い。
山道を通って、祖父母の家にたどり着く。
えっと、どうしようか?とりあえず、
「ただいま」
「おかえり。ずいぶん早かったね。夕飯はまだまだよ」
祖母がにこやかに言う。
あれ?凄い自然な対応。どういうこと?
TVを付けて、新聞を見てみる。普通な感じ。俺に関するニュースはない。
日付を確認。なに!?7月21日だと。おれが召喚されたあの日じゃないか。
時間を確認。3時半だと!あの日俺が祖父母の家を出たのが確か3時頃。
ってことは、この家を出て、洞窟へ行って、即まっすぐ帰ってきたらこの時間。
「日本では時間が経過してない!」
「時間が停止していたか、あるいは、時間の流れが極端に遅いかだジョ」
俺は理力の手を使ってカバンから腕時計を出した。
ん?理力は問題なく使えた。
試しに小さな炎を出してみた。出た。水滴を少し出してみた。ぽた。微風を
起こしてみた。そよ。
魔法は使える。
転移は?日本の俺のよく知る場所なら行けそうだ。部屋の端へ短距離転移と、
転移できた。
ザースへは、、難しそうだ。行けるのか?




