敵を知る
5巡目以降もほぼ同じ展開。何をしてもさしたる効果はなく、衝撃波で殴られ続ける。
1発ごとに生命力の10%近くを持って行かれる。気量の相当量も消費する。
埒が明かないという奴だ。
まあ、自然回復もあるし、袋の中にため込んだ生命力も気量もある。
俺もハナも、10発程度ですぐにどうこうなるというものではない。
が、このままで良い訳はない。
やられ続けながら、細心の注意、最高の集中力で、ピスの謎エネルギーを観察し、
その分析を試みた。
謎エネルギーの奔流が眼前に迫る!色は青。表面に鱗状の起伏。実に青竜らしい。
「これは竜族固有の技である竜闘気と呼ばれるものだジョ」
「おお!してその正体は?」
「竜族がその獣気で作り上げるもの、という以外は謎だジョ」
「ぐっ、だめじゃん!」
奔流が俺の体に達し、体内を引っ搔き回しながら通り過ぎる。
痛ってー!まあ、それは置いといて。
そこに含まれる純然たるパワー以外の成分的ものは、、、実に忌々しいピスらしさ。
その忌々しさを度外視すると、どこかハナの持つ力に似た雰囲気がある。
うーん、それは何だ?
もう一度その衝撃を喰らいながらその『味?』を考える。
うーん、強いて言えば、、、これは、そう、種族のプライド、それと自己愛、そして、
確信というか迷いのない心、そういうタイプの意思の力が練り込められている!
よし!この線で行ってみよう!
ハナに念話で呼びかける。
『ハナ、よく聞け』
『うん、なに?』
『ピスの竜闘気と同じものがハナにも作れる!』
『え、ほんと??』
『ハナの種族は狼族と人族の良いとこどりの最高の種族だよな』
『うん、そうだね』
『ハナは俺にもライザにも通りすがりの誰にだって愛される、みんな大好きハナち
ゃんキャラだよな』
『うん、知ってる』
『ピスは、種族の誇りと、自分大好きの思い、これを圧縮獣気に練り込んであの竜
闘気を作ってる。だから、同じことがハナにもできる、貴人大狼族の誇り。ハナ大
好き。これで絶対できる』
『分かった!やってみる!』
よし、一方俺はと。
俺は、いつもの日課の超回復、準超回復で、自分の気や生命力だけでなく、ハナの
ものも素早く限界近くまで吸い込めるようになっている。それは、対象をしっかり
と認識して、吸い込みパワーをそれに馴染ませているからだ。
ハナと似た雰囲気を持つピスの気と生命力も超速吸収できるかも知れん。レジストさ
れると厄介だからピスに気付かれないように、微量でこっそり試してみる。
そうこうするうちに8巡目。
ハナは頑張ってる。だんだん闘気がピスのものに近い強度に練りあがって来ている。
よし、俺の分析は間違っていなかったようだ。
そして、ハナの狼闘気?に対するピスの評価はかなり高い様子。そのためピスの関心が
ハナに集中してきている。幸い?俺は相変わらずのダメな子扱いのようだな。
そして俺はダメな子を装いつつも。
痛ってー。あ、これは置いといて。
竜闘気を吸収する課題を追及し続ける。そして一定の成果らしきものが。
まずは、俺がつい感じてしまうあの忌々しさを中和する。ピスを受け入れる気持
ちを無理やりでも持つことが大事。うん、何とかできるかも。竜族がたいした種
族であることは素直に認めよう、そしてピスはこれだけの体力を身につけた素晴
らしき武闘派バカだ、決して嫌な奴じゃあない。ないと思える。はずだ。
対象の気、生命力の質を理解して馴染めば、その吸収がスムーズになる。
次に、俺の容量を超えるものを吸収すると、俺自身が破裂するというか焼き切れ
るというか、そういう負荷がかかる。
なので、吸収するそばから吸気袋あるいは亜空間へ逃がして散らすことが必要。
自分の体は一瞬だけの通路というか導線的な働きにとどめること。
これなかなか難しい。でも、可能な限りでやるしかない。
密かな運用実験をすること数回。そして迎えた運命の12巡目。
俺の気量と生命力の残量を各10%にする。例え通路と言えど、オーバーフロー
対策のためには、空容量を多くした方が安全。
そしてハナの気量を、俺の亜空間のハナ獣気袋から充填して、100%にする。
魔法アシストの準備はOK。
念話で素早く作戦会議。
『俺の右半身でピスの獣気の吸収と亜空間への譲渡、左半身で生命力の吸収と譲渡
を同時発動する。ハナはこの4発の魔法に、魔法アシストで各20%獣気量で援護
してくれ』
俺の計算では、これで十分足りるはず。
『え、もう一度言って』
ややこしい話しだったので、もう一度言いました。
『こんな感じで、20%4回分で80%使うんだよ』
『分かった!』
『レジストされると難しくなるので2度目は無い。1発勝負だ!』
『うん!』
ピスの獣気と生命力を逃がすために作った亜空間を、俺のお尻に、ポケットに入れ
るイメージでつないでおく。左右にひとつずつね。
「小童よ、お主の攻防は進歩がない。そろそろ諦めて死んでもよいぞ」
「ちょっと趣向を変えて、次は二人同時で行く」
「ふはははは。無駄無駄。まあ好きにするがよい」
「さて、それじゃあ行くぞ」
すすっとピスに近寄る。俺の真後ろにハナ。
自然体で立っているピスの腰の両サイドを俺は左右の手でつかむ。
そしてハナと念話でタイミングを合わせる。
『3・2・1・吸!』
『・・・アシスト!』
ずぉぉぉぉん。
イメージ通りに竜闘気のエネルギーを、右手を通して右尻の亜空間へ、強引な吸引
力で引き寄せる。僅かに抵抗の気配を見せる竜闘気を、だましだまし、強引に引っ
ぺがして連れ去る。
竜闘気の隙ができたところを突いて、その他の獣気を右手から、そして生命力を左
手からかっさらって行くように、吸い込む吸い込む吸い込む。
気と生命力がもの凄い奔流となって、俺の両手から尻ポケットの亜空間へずぉぉぉ
っと流れて行く。
ピスの体が一瞬ビクッと硬直する。
幽視でチラ見すると、アストラル体のピス山、つまりエネルギー総量がみるみる縮
んでいく。
焦り顔?のピスに向って、だめ押しする。
「攻撃を受けきるんだろ?」
俺は意地悪く言ってみる。
ニヤリと不敵な笑みが奴の顔に張り付く。ピスはレジストしない。よし潔い奴だ。
やれるもんならやってみろってか。応!やり切ってやろうじゃん。
「あ」
俺の右腕がぐぐーっと膨れ上がって来る。続いて俺の左腕も。
いかん、完全にスムーズには流れ切らずに滞留しているエネルギー量が、腕の耐久
限度を超えそうだ。
アストラル体のピス山はもう半分近くになった。
よし、頑張れー耐えろー、俺の腕。
ぱぁぁん。ぱぁん。突如俺の右腕が破裂して爆散した。その後に左腕も。
しかし腕が破裂する直前に、今度は左右の足でピスの足の甲を踏ん付けた。
今度は両足を通路にして吸収続行!ずぉぉぉぉん。
ここで終わってたまるかっつーの。
い、いかん。今度は足がぐぐーっと膨れ上がって来る。
もってくれ!足よ。
ピスの体は俺の至近距離にある。身長差があるから顔はだいぶ上の方だけれど。
俺は見上げ、ピスは見下ろし、2人の視線は絡んだ。
ピスの顔面は、不敵な笑みから驚きへと変わり、次には満足げな愉快そうな表情
を見せた。
ぱぁぁん、ぱぁん。次の瞬間、俺の両足が弾けた。
ほぼ同時にピスがすっと姿を消した。
青竜 ピス レベル60(ただし能力の5割を制限)を倒した
ハジメはレベル32になった
ハナはレベル32になった
「あっぶねー、何とか間に合った」
「うゎーん、ハジメがー、だるまさんになっちゃったぁー」
「泣くなハナ、もう腕は生えて来た」
地面に仰向けに転がりながら、余裕を見せる俺。事実、両腕は既に再生している。
そして徐々に両足も。
再生、いいね!
でも、でも、でもねー。
痛ってー、痛い痛い痛い!
破裂直後はじーんとするばかりで無感覚だったけど、一呼吸置いてからが超痛いっす!
「はぁ。しかし、日頃の訓練が思わぬ形で役に立ったなー」
「青竜ピスさん、強かったー。ハナは狼闘気を覚えられそうだよ!ありがとね」
竜の体力ってあんななのか。
竜族固有の技ってあんな凄いのか。
さすがに、強者の階層の主達は強い。
俺達、次の階に行けるのか?大丈夫か?
「ふはははは。まさかこんな攻撃とはな。愉快、愉快」
ピスの声だ。
「鍵を受け取れ。それとな、訓練を怠るなよ。たとえ数値が無限に達しても。
同じ無限でも色々あるからな。
ではさらばだ。下層でまた会えると期待しているぞ」
52階の鍵が現れた。青い鱗模様の数字で52と書かれていた。




