己を知るべし
セマヌの街で新しくとった宿の部屋にいったん戻った。
早めの夕食をとったがまだ寝るには早い。
今日の夜の訓練は、亜空間の訓練所ではなく、迷宮地下50階で行うことにした。
ライザから貰った汎用携帯銃の使い勝手を獲物相手に試してみたかったのだ。
50階は、攻略済みの中では最もレベルの高い敵の出る最下層であり、かつ、
実質的には初見の敵を相手にできる。
また、10キロ四方と広い自然あふれる世界であるため、訓練には適しているのだ。
「ジョー、俺が選択可能な戦闘向きギフトの中で、まだ試して無いのは何がある?」
「闇操作と素粒子操作くらいだジョ」
「闇操作はどういうもの?」
「闇操作は精神阻害、死体利用、細胞腐敗、生命力減少を操作するもので、
アンデッドや魔族がよく使うジョ」
「何か嫌な能力だねぇ。地下30代階層はすっ飛ばして闇系の敵と実質的には戦わ
なかったから、この分野の知識経験は不足しているなぁ」
「敵の攻撃を知ることは、そのレジストのためにも、アレンジのためにも必要だジョ」
「素粒子操作はどういうもの?」
「電子電流から分子や原子を操作する能力だジョ。原子の操作は、核エネルギーや
原子分解による究極的破壊など、威力甚大だけれど、制御が相当難しいジョ」
「まずは雷など電撃からだね。核操作はなあ、おいおい必要に迫られたら手をつけ
ようかなあ」
「ギフトを多種類揃えて、色々と使えることはもちろん大事だけれど、既に使えて
いるギフトをより深く使いこなせることが実戦においてはもっと大事だジョ」
「だよねえ。操作系では、熱、空気、水、地、理力の5つはだいぶ使えていると
思う。聖と光がその次くらい。空間はだいぶ使えるようになってきたけど、戦闘
ではまだ全然。重力も移動はともかく戦闘では試してない。素粒子も雷以外はだ
め、時間、闇、はまだ何もできない状態だもんな」
「操作系以外でも、式神、再生、幽視は、実戦での使用が無いジョ」
「幽視なんかはその正体すらつかめない」
「ハジメは頑張ってるけど、まだまだだねー」
「ハナの言うとおりだ」
「とりあえず、出来るところからどんどん進めて行こう。再生は戦闘現場で発生
することが多いと思うけど、亜空間内に再生場所を準備しておくことはできない
のかな?」
「やってみる価値あるジョ。再生場所の選択が仮に不可能でも、戦闘場所でDN
Aが全損したときには役に立つはずだジョ」
「よしやろう、すぐやろう」
亜空間に新たに再生準備室を作り、DNA保存のため、髪、爪、血を容器内に採取
した。もちろんハナの分も。
「これって、蘇りの部屋と何が違うのかな?」
「DNAからの再生と、呪術系統の蘇りでは、復活へのアプローチが違うから2重
の保証になるジョ。それに、使い勝手がよくてメジャーな再生は、反面レジストさ
れ易いのに比べて、蘇りは失われた技というか、もうほとんど知られていないので、
破られにくい利点があるジョ」
さて、そろそろ夜の時間帯だけれど、迷宮地下50階へ行ってみよー!
「夜でも迷宮は営業してるんだ」
「一般には、夜は魔物も獣も活発化するので、探索に向かないとされるけど、
強い敵を求めて訓練するには問題ないジョ」
「だね」
地下50階で強そうな敵として目についたのは、まず、肉食巨竜。
体高100メートルはある。巨大な頭部の顎はもちろんだが、地球で見た肉食恐竜
に比べて腕が長い。腕の打撃と爪攻撃も要注意だ。
「よし、汎用銃で反物質爆縮を撃つぞ」
「ハナもー」
汎用銃の使い勝手は最高だ。
小型のハンドガン型にして自在に撃つもよし、ヘッドセット型にして手にはウルテ
ィマを持って併用するもよし。
ハナは、カチューシャからアンテナが伸びている形にしていた。
見た目はともかく結構使い易いかも。
汎用銃は照準が思念対応だし、通常弾以上の速度で反物質線が射出されるので、
ほぼ確実に命中する。
武器一般の扱いに未だ習熟していないハナでもこれは完璧に使いこなせる。
凄く良い物をもらったものだ。
「イヤッホー。バキューン」
口で音を出さなくてもいいよ。
出力を標準の、直径10センチの球状の爆縮にした場合、消費気量は1程度で
あり、無いに等しい。撃った瞬間に自然充填される。永遠の連続使用も可能で
ある。壊れたら困るからしないけど。
出力を上げるとかなり恐ろしいことになる。
気量1000にすると半径1メートルの爆縮。この円内の物質は瞬時に消滅する。
円外には爆発の影響は皆無。この辺は、敵味方が入り乱れている場面など使い
勝手がよいだろう。
気量100万で直径10m、気量10億で直径100mとなる。今の俺ならこれすら軽い。
「肉食巨竜は凄い再生能力だ。再生ってこんな感じなんだ」
直径10㎝の球形の消滅は瞬時に元通りに、直径10mで片腕の肘から先を消し
飛ばしても、みるみるうちに生えてきて数秒で元通りに。
直径100mの球で体全体を消滅させたら、再生しなかった。
DNA全損だったようだ。
俺が敢えて、奴の長めの腕の打撃を受けても、尻尾の鞭のような打撃を受けても、
汎用気密服で更に防御力が上がった俺の体は少しのダメージしか受けず、瞬時に
回復したそれが再生なのか自然回復なのか判然としないくらいだった。
「あの顎に咥えられるのは気持ち的に嫌だしなぁ。まあ、いずれ嫌でも再生のあ
りがたさを実感する時が来るでしょう」
「ハナのパンチ、要る?」
いや、痛いからわざと貰うのはやめて置こう。
生命力の90%を吸気袋に吸わせて、その後の数分の自然回復に任せて、生命力の
超回復を発生させる。今の俺なら、夜の地下50階で生命力10%の状態となっても、
全く危なげない。
ちなみに、こうして吸気袋の中の生命力は濃く濃くなって、結晶化するのだ。
闇操作を使ってみよう。精神阻害で、肉食巨竜の心を折る。おお、攻撃を停止して
蹲ってしまった。うーん、なんだかこちらから仕掛けにくいなぁ。
動揺、錯乱、心神喪失なんでも効いた。
「知能の低い敵にはこの手の精神阻害は効き易いジョ」
なるほど。
次に生命力減少、これは吸い取るのではなく、単に散らすだけだ。むむ、割と効
きにくい。
「野性的で生存本能の強い単純な奴には効きにくいジョ」
なるほど。
敵からの闇魔法も受けてみたい。
ということで、地下40階のアンデッドの総括階層へ出向いてみる。
「おー、夜だからなおさら一杯だー」
「ああおぞましい、嫌だ嫌だ」
「幽視ってここで使えそうな気もするジョ」
「いや、うんともすんとも」
40階の骸骨王という敵が、闇魔法を使いそうで、かつ強そうだった。
「骨ほねー。カラッとしてるところがいいねー」
うん、まあ、ジュクジュクの奴と比べるとね。。。
骸骨王の再生もなかなかだった。打撃でバラバラになったり砕けたりした骨は
すぐにつながって元通りに。完全消滅した骨は徐々だがやはり元通りになる。
さて、肝心の闇魔法はというと。
来た!全身の生命力を散らそうとしている。しかし俺の自然回復がまさるので
ノーダメージ。
指の先端の細胞に集中して生命力を奪おうとしている。放置しておくと壊死す
るパターンか?その部分に生命力を補うようにして対抗する。
次に精神阻害が来る。不意に動揺しそうになる気持ちを意思の力でぐっと抑える。
闇魔法には、このようにして、肉体や精神の力そのもので対抗することができる。
他には、聖なる力で、邪悪な力を相殺消滅させるようにする方法、逆にこちらか
ら敵に向けて発した闇操作による精神集中の阻害により、敵の魔法の発生を元か
ら断つ方法も試してみた。
この魔法を元から断つ方式は、闇魔法だけではなく、全ての魔法に有効と思われた。
ただし、彼我の知能差、意志力の差が必要となる。
「ああもう訓練飽きたよ。帰ろうよー」
ハナ、お前それ、精神攻撃受けてるんじゃないのか?
こうして実戦訓練しつつ、超回復も一巡させて、転生8日目の夜のスペックはこん
な感じ。
あれ?ハナ、早くも冒険者ランクがAになってるぞ。何かずるいような、納得な
ような。強いしね。最初から俺と一緒にやって来たしね。
ハジメ 人族 5歳 レベル30
称号 迷宮の申し子
職業 冒険者
装備 汎用気密服
基礎値 筋力287億/敏捷性287億/生命力1兆8340億/気力660億/気速660億/気量8兆8260億/活力45万
攻撃力 287億+660億(理力)=947億 +α
防御力 287億+660億(理力)+287億(汎用気密服)=1234億
備考 魔法道具職人 劫火の暴虐者
冒険者カード
氏名 ハジメ ランクA 8級
種族 人族
年齢 5歳
レベル 30
ハナ 獣族 貴人大狼(進化種) 1か月 レベル30
称号 迷宮の申し子にしてハジメの相棒
職業 冒険者
装備 汎用気密服
基礎値 筋力692億/敏捷性692億/生命力9230億/獣力230億/獣気速230億/獣気量4600億/活力1200万
攻撃力 750億プラスα
防御力 700億+700億(汎用気密服)=1400億プラスα
備考 サイズ変更化 念話 人化
冒険者カード
氏名 ハナ ランクA 10級
種族 貴人大狼
年齢 1月
レベル 30
ハジメ ギフト ポイント52 残ゼロ
式神 再生 幽視
魔法創造登録
罠対応
理力操作/熱操作/地操作/空気操作/光操作/水操作/聖操作/闇操作/素粒子操作
空間操作/重力操作/時間操作
気授受 生命力授受
危機感知 同大 同極/危機対応 同大 同極
物理耐性極/魔法耐極
隠形/状態異常耐性 同大 同極
索敵/鑑定/判別
自然充填 同大 同極/自然回復 同大 同極
成長促進 同大 同極
蘇り 武器技能 付与
自己確認/他者確認/表示変更/言語対応
神知/自由設定
ハナ ギフト
魔法アシスト 天翔 再生




