勝負の余韻と、巨大魔法連発と
「いやぁったー」「やほー」「ひゅー」
帽子や、手荷物や、履物が宙を舞う。
観戦していたベサク村民達が喜びを爆発させている。
「やったーやったー」
しっぽをぶんぶん振り回しながらハナが飛び跳ねる。
おいおい、ミニなんだから気を付けて。
「お、お父様、わたくし、やりましたわ」
アリッサ嬢が頬を上気させて領主のもとへ駆け寄る。
「アリッサよくやった。うむ、わしの決断にあやまちはない!」
ウギス領主殿も嬉しそうで何よりだ。
俺は、火球をすっと鎮めた。
「いい水球だったよ。早かった」
アリッサ嬢を誉める。
中央ラインに向かってゆっくり歩き、まだ固まっている農夫と自警団員のお爺
ちゃん達にぽんぽんと手を当てて労う。
「この場に立っていただけでも、ご立派でしたよ」
そうだ。爺ちゃん達もよくやった。
更に、昏倒していた軽装備のランクC冒険者2名に活を入れて回復させる。
鼻血を流している顔にそっと布を押し当て
「手当して下さい」
この人、一番の怪我なんだよね。顔面にパンチだったから。
ダメージは水魔法のヒールで直したけど、血は消えないからね。
重装備の騎士2名をしばった紐をほどこうと、悪戦苦闘しているハナ。
「あれ?あれ?指が上手く動かないなー」
俺はハナをぎゅっと抱きしめて
「さすがハナ。速かった。偉かった。かっこよかった」
「きゃぅーん」
ハナ、鳴き声になってるってば。
俺は騎士たちの紐をほどいて、更に奥まであるく。
「やられたな。完敗だ。無詠唱で風魔法も使うんだな」
「やって見たらできた」
「ふん」
ランクB魔法使い氏が、俺の胸を拳で軽くこずく。
「ゆ、油断した」
目を吊り上げて憮然としている領主の甥氏に、軽く会釈して、更に奥へ。
「見事にやられた。君らのような怪物がいたとはな。色々と考え直さねばならん。
わがボハゼ領でも君らのことは歓迎するから、いつでも来ると良い。怪我なく済
ませてもらったことは感謝する」
「たまたまこうなりました。が、ここベサク村の米は悪くないですよ。その辺考
え直してもらえると俺は嬉しいです」
いつの間にかウギス領主も来ていた。ボハゼ領主と簡潔に言葉を交わす。
「終わりましたな」
「双方怪我無くなにより」
「ええ。ではこれで」
「これにて」
かくして、ベサク村を巡る両領主国の争いは決着し、終幕となった。
「ありがとう。ハジメ殿とハナ殿には礼を言う。相応の報酬を差し上げたいが」
「礼は特には必要ありませんよ。えと、この村のコメのおむすびが出回るように
なると俺は嬉しいです」
「うむ、しかと承った」
「あ、あたしも、パンと同じくらいコメは好きよ」
最後のこれはハナ。うん、何か言わなければと思ったのだね。ふふふ。
俺たちは押し付けられるように、とりあえずとして金貨100枚ずつを渡された。
正式な報酬は後日領主の館で、と申し渡された。うーんほんとに特に要らないんだけどな。
村人達からは、村の英雄様と祭り上げられて、えらく恥ずかしかった。
もみくちゃに歓迎されて、たくさんの塩むずびと米をもらって村を後にした。
「うん、これが一番うれしいかも」
塩結びを収納しながら呟く俺。亜空間では腐らず、永久保存できるからね。
村から出てしばらく歩いたところで、俺たちは、迷宮地下31階へと転移した。
まだ、午後の時間帯が始まったばかりだ。もうひと踏ん張りして来よう。
迷宮地下31階は、都市の廃墟だった。
遥か昔にほろびた文明都市という感じで、崩れかけたビル群、折れた塔、傾き分
断された高架の道路などが果てしなく広がっているように見える。
しかし、この階層も水平方向に繋がった1キロ四方程の閉鎖空間のようだ。
そして廃墟都市には、アンデッドの禍々しい異形の怪物達が、多数うごめいてい
た。召喚のタイミングとかは特になく、最初から多数が、ビルの屋上、多層の室内、
更には地下街にまで溢れ返っていた。
「こ、これはなんと言うか、おぞましくも壮観だな」
「うん、臭くて汚いね」
「アンデッドの階層だジョ。最初から全敵召喚済みの、一続きの閉鎖空間のよ
うだジョ」
「アンデッドと言えば、火魔法。一発どかんとやっちゃいますか」
「うん!ハナも魔法アシストするー」
さてと、重力操作で廃墟都市上空に滞空して、直径100メートル程の巨大な
超高温火球を作り上げ、大量の大気のダウンバーストとともに地面に直撃させ
てみた。一発で俺の気量の90%消費。
そしてハナの魔法アシスト獣気量90%投入で、更に威力100倍に!
凄まじいことになった。
急降下した火球とダウンバーストは、衝撃でクレータを作り、大量の瓦礫を巻
き上げて、そこかしこに多数の火災旋風を惹起させる。そして、超高温の熱波
が、津波のように全方位に急速に広がっていって、周囲を破壊しかつ溶かし尽
くして行く。
地下31階の本来一キロ四方程度の閉鎖空間の階層全体が、瞬く間に劫火に包
まれ、煮えたぎるマグマの海と化した。やがて火が収まると、周囲は一面黒ず
んだガラス質の平地となっていた。
各種アンデッドを倒したというログが大量に凄まじい速度で流れ、いちいち読
んではいられない。そして、
ハジメはレベル11になった
ハナはレベル11になった
ガラス質の平地の2か所に異質な光が差している。転移室と下り階段のようだ。
下り階段部屋の位置のガラスを冷やし、切り取って階段を露出させて32階へ
と降りる。
こうして、わずか10分程度で、31階を攻略し、俺たちはレベルアップした
のだった。
我ながら恐ろしいことをやったもんだ。
こんなのが都市上空に現れたら、まさに恐怖の大王だ。
「気持ちよかったー。癖になりそー」
ハナ、危ない発言は控えるように。
でも確かに、訓練でもこれだけ思い切りぶっ放すことは無いからねぇ。
ちなみに、地下31階に戻って見たら、廃墟都市もアンデッド達も復活していた。
さすが迷宮、不思議空間だ。
いったん、亜空間へ戻り、今の魔法の術式を練り直す。
「迷宮用には既に威力充分だったけど、どうせ90%の気量を投入するんだから
効果が最大限になるように術式を組んでみたいね」
「気流を整えて、可燃成分と酸素を周辺領域に供給するように、改善する余地が
あるジョ。それと熱量供給を熱操作で追加して、火砕流の威力を増大させれば熱
波拡大の速度が速くなるはずだジョ」
「うんうん、楽しー。ハナ、90%よりもっとアシストしてもいいよ」
ジョーが細かい計算をし、小規模な実験を行った末に術式を改善し、魔法創造し
て登録して、ワンタッチで使用できるようにした。
強制大煉獄と命名してみた。
ハナ、余力は必要だし、超回復のためにも90%でいいの。
そして気量の回復を待って、地下32階へ。
再び上空に滞空して、強制大煉獄発射~~!!
いや凄かった。まさに地獄の劫火。一瞬の後には一面煮えたぎるマグマの海で熱
く眩しく、なかなか冷えない。マグマの色が前より白っぽい赤で、より高温なも
よう。
ハジメはレベル12になった
ハナはレベル12になった
はや!階層全体の全敵に向けて、魔法一発で決着なので、えらく能率がいいぞ。




