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ツカハラの流儀

俺はボクリンの頭部に両手持ちで垂直に打ちかかる。いわゆる面打ちだ。

ボクリンは俺の面打ちが迫って決まると思われたそのタイミングで、ゆらりと体を

裁いて面打ちの軌道面から外れ、俺の伸びきった胴体めがけて、下からすり上げて

きた棒を打ち当てようとする。


やばい、このままでは当てられる流れだ。俺は自前の俊敏性を発揮していったん飛

び下がる。シュバッ。一般的水準からすれば反則的な速さだ。

ボクリンは一瞬驚いたふうな表情をしたが、すぐに無表情の自然体に戻る。

「ほう」

ツカハラが嬉しそうに小声で呟く。


攻撃方法を変えてみたが結果は同じだった。

ボクリンは俺の攻撃が迫るのをギリギリまで待ち、間合いに入った瞬間に紙一重で

かわすと同時に、打ち込む体勢になって防御が手薄になっている俺の隙に、効果的

な一撃を浴びせて来る。

俺は、そのままでは撃たれてしまうので、反則的に素早さを発揮して逃れる。

ボクリンの素早さは本気かどうかはさて置き、俺より下だ。しかし、ボクリンの速

度に合わせて動いているとやられてしまうので、剣の技はボクリンが俺より上回っ

ているということだ。


ボクリンに勝つことが目的ではなく、稽古をつけてもらうことが大事だ。

もっと技を見たい。

ボクリンの速度に合わせて流れを作りながら、もう少し工夫してみる。


水平に胴を薙ぐ斬撃をお見舞いすると、ボクリンは紙一重で俺の棒先をかわし、

踏み込んで袈裟懸けで俺の肩を撃とうとするようだ。

うん待ってた、俺は棒の勢いを止め、斜め前方に踏み出してボクリンの棒から遠い

位置をとり、逆胴で再び水平に振り出す。俺の棒が先に当たるはずだ。

と思ったら、ボクリンは空中に飛び上がり、がら空きの俺の頭部を狙って来る。

俺は体をさばいてボクリンの打撃の軌道をかわしつつ、斜め上に切り上げてボクリ

ンを迎え撃つ。

仕留めたか?


いやボクリンは、空中を蹴ってすばやく地に降り立ち、振り下ろしの勢いをそのま

ま活かしつつ迫ってくる。

あれ?重力操作?理力?なんだあの宙を蹴る技は?

と不思議に思いつつも、体をさばいてボクリンの振り下ろしをかわし、すりあげた棒を

切り返して、くるりと輪を描かせて今度は上から下に棒先を走らせてボクリンの頭を撃た

んとする。


ボクリンも体制を立て直しているが、俺の打ち込みがもうすこし早ければ、ボクリ

ンの横面か少なくとも防御に入ったボクリンの棒に当てられるはずだ。

そう思った瞬間に、振りのエネルギーに耐えきれず、棒がポッキリと折れてしまい、

俺はシュバッと反則の勢いで飛び退る。



「そこまで」

ツカハラの声が掛かる。

「はっはっは、お見事!さすが超新星のハジメ殿」

ツカハラは満面の笑みというか、嬉しそうに破顔しながら、驚きの表情を浮かべて

いるボクリンに尋ねる。

「どうじゃったかな」

「いや、まさか宙足を使うことになるとは。それにハジメ殿もまだまだ本気ではな

かったように見受けました」


あれ、あんたら、俺のこと知ってたのね。

「剣の技量では、ボクリン殿に遠く及ばない。さすがだ」

うん、そうなのよ。


「では一手、それがしと立ち会っていただけるかな」

ツカハラが新たな棒を2本持って、俺の前に立つ。

好きな方を選べということのようだ。

どちらも同じ程度の棒だ。さっきのより少し丈夫だ。


「さて、ご随意に打たれよ」

と言いながら静かに正眼に構えるツカハラ。ご随意にとか言われても隙が無いよ。

仕方がないので、俺はツカハラの周囲をゆっくり回りながら、様々な打ち込みを

頭に描く。

ツカハラは俺の動きに合わせて、ゆったりと向きを変え、わずかに構えを変える。


その立姿は凪いだ湖面のような静けさで、まるで俺の心まで映しているかのよう

だ。

いや、そうなのだと思う。

ツカハラのわずかな構えの変化は、俺の想起する打ち込みに見事に対応している。

というか、何をしようとしているかお見通しですよ、と教えてくれているのだろ

う。


この子弟の技は、相手に先に撃たせて、その隙を突くのが出発点だ。

攻撃側が打撃を当てるよりも素早く紙一重でその攻撃をかわし、勢いがついた攻

撃側の隙をついて反撃する。

それを読んだ攻撃側が変化し、更にそれを読んで防御側が変化してという、読み

合いの攻防に入るが、初手の有利が効いて、攻撃側は徐々に追い込まれていって、

最後には仕留められてしまう。

相当の力、速さ、技量の差がないと、この流れを打ち破れない。


ツカハラの力、速さ、技量は明らかにボクリンを上回っている。

なんせ、俺が動く前から、こちらの狙いを察知してしまっている。

俺が能力をセーブしていては勝負にならないぞ。

しかし、全力を出せば、ツカハラが怪我をするだろうし、もしかするとツカハラ

がその上を行くなら、こんな棒でも俺が大怪我をするかも知れない。

ううむ、どうするか。


「ツカハラさん、勝負は俺の負けでいいから、10回ほど打ち込ませてもらえな

いか?」

「はっはっは、勝負など最初からしておらんよ。立ち合いといっても稽古じゃ。

存分に打ち掛かってきなさい」

そうだった。別に勝負しているわけじゃなかった。


軽い気持ちで撃ちかけた。速度も力もさっきより少し上げた程度に留めておく。

想像通りに、変化の応酬の末に、俺が追い込まれて当てられる。

速めの突きを出してみる。草の茎の棒でも縦方向の力には強いので、かなり速い

突きを繰り出せる。

でも楽々裁かれてしまう。突きは攻撃後の隙が大きくなるし、なんせ俺の意図を

攻撃開始直前に読み切ってしまうので通用しない。

俺は、ツカハラ師の個々の基本的な完成された動きの合理性、こうくればああ受

けるといった応酬の流れ、変化への対応をスポンジに水をしみ込ませるように吸

収した。


先読みの技については、弟子のボクリンさんからの方が吸収しやすかった。

俺のちょっとした動きや気配から察していることが分かったので、気配のフェイ

ントを仕掛けたりしながら、こんな風に先読むのかと理解することができた。


ツカハラ師の、読心術のような先読みの技術は理解不能だった。

ちなみに、宙足も理解不能な技だったが、これは重力操作や理力操作で、なんと

か近い方法を身に着けられそうだ。



ひとしきり稽古をつけてもらった後、お礼に酒場で夕飯をごちそうしながら、話

を聞くことができた。むろん俺が飲むのはジュースだ。


「ツカハラ師には、ぼく〇〇というようなお名前はないのですか」

「それがしの旧名がボクゼン。師範は代々ツカハラで、代替わりの際にその名を

襲名するしきたり。高弟になった者も名を変えるがこれは各々別の名を名乗る。」

「初代の方のお名前を伺っても?」

「開祖はボクデンという名であったと聞く」


おおお、やはり!

開祖が転生者で、流派を創設し、代々一番弟子が師範の座を承継してきたのか。

あのお方、転生してたんだー、しみじみ。


「ツカハラ師の剣は受けの剣ですね」

「ご明察。受けの静の剣が望ましい剣の在り方であるというのが、開祖から

の我が流派の教え。静の剣は争いを生み出すのではなく、争いを解決する剣。

静の剣の使い手どおしの間では戦いにはならぬ。」

うん、にらみ合って終わるよね。


ツカハラ師達は、諸国を巡って剣の教えを広め、併せて剣の修行も行っているそ

うだ。諸国行脚の武者修行だ。各地の領主、ギルド長、騎士団長に知己を広めて

滞在したり、剣術指南をして報酬をもらったりするそうだ。

そして挑まれれば勝負もし、場合によっては真剣勝負にも及ぶとのこと。


「現ツカハラ師は、挑まれた10数度の真剣勝負に一度も遅れをとっておりませ

ん。そして木刀や棒での立ち合い勝負では数知れず無敗なのです」

ボクリンさんが得意そうに言う。ちょっと酔っているのかも知れない。


「どうしても倒さなくてはならない相手に、自分から仕掛けて行くことはないの

ですか?」

師弟は一瞬黙ったが、ツカハラ師が口を開いた。小声になっている。

「ハジメ殿には話しておこう。他言は無用に願いたいが」

「むろんです」

「一つには、無造作に間合いを詰めること。相手は必ずや攻撃に転ず。そこ

を静の剣で受ける。今一つは、我が流派の秘伝の静と動を併せ持つ剣筋。

詳しくは申せぬが、そのようなものがある。世に広めるような類のものでは

ないのだが」


うん、それを見た者は生き残って無いのね。

それは一の太刀という技ですか、と聞きたかったが、遠慮して聞けなかった。

ちょっともじもじしてしまった。



楽しいひとときを過ごし、上機嫌で宿に帰ってきた。

俺のレベルは9になっていた。

「剣の立ち合い訓練や講義でも、経験値を積めたのかな」

「魔物退治以外でも、人生経験を積んだりして戦闘力が上昇すると、レベルが上

がることがあるよ」

ありがとう、ツカハラ師、ボクリンさん。



「いやあ今日も充実していたねー」

「わん!」

寝る前にひととおり訓練して、寝床につく。


転生7日目の夜はこんな感じ。

ハジメ 人族 5歳 レベル9 10%

称号 迷宮の申し子

職業 冒険者

装備 上質ローブ 軽快靴

基礎値 筋力36万/敏捷性36万/生命力1150万/気力83万/気速83万/気量2760万/活力90

攻撃力 36万+83万(理力)=119万

防御力 36万+83万(理力)=119万

備考 魔法道具職人  砂漠を超える者 


ハナ 獣族 幻狼(進化種) 1か月 レベル8 80%

称号 迷宮の申し子にしてハジメの僕獣

職業 なし

装備 なし

基礎値 筋力30万/敏捷性36万/生命力450万/獣力18万/獣気速18万/獣気量144万/活力1200

攻撃力 35万プラスα

防御力 30万プラスα

備考  サイズ変更化


ギフト 

重力操作を追加








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