金のなる木
はる屋の自室から、亜空間訓練で超回復を一巡させた。
「気量と生命力はだいぶ増えたけど、自然回復の速度も上がってるから、これまで
とほとんど変わらないペースで超回復出来ているね」
「ハジメは常識外だから、色々といい意味で予想の斜め上を行く」
ジョー先生でも予想できませんか。ふふふ。
そういえば、予想外と言えば、これもそうかも。
「吸気袋と、吸生袋の中に、カラカラと塊ができるんだけどこれ何かな」
「これは気と生命力が結晶化したものだね」
ふうむ。余力のある時にどんどん吸わせてたから濃くなりすぎて結晶化したか。
「袋から直接気も生命力も吸い戻せば足りるから、この結晶は要らないかな」
「いや、これを使って魔道具が出来ると思うよ」
出来そうだった。魔物の魔石よりも俺の気の結晶の方が質が良く使い勝手もいい。
「やっぱり人由来だから人が使うのには適してるね」
「ハジメの場合、どんな魔法効果にも対応可能という利点もある」
そうなのだ。凄い魔道具が色々と出来そうなのだ。
まあ、でも今日はおまけの妖虎討伐まであって、ちょっと気疲れだから、念の入っ
た魔道具制作はまた後日ということにして、とりあえず有り合わせの布で、お守り
を作ってみた。持っているだけで気量が回復する気のアミュレットと、生命力が回
復する生命のアミュレット。回復量はともに1万。
簡単に作れたけど、普通の人が使う分には十分なんじゃないかな。やくそうとか気
付薬よりずっといいと思うし。
トヨタマークと三菱マークも付けといた。
ということで、やって来ました魔道具屋。
魔道具屋の店主、魔族のンボダフさんが腕組みして考え込んでいる。
「ふうーむ、これはなかなかの物じゃ。これだけの性能のものは珍しい。だが惜し
むらくは布の質が悪い。これでは性能を引き出し切る前に布がダメになるじゃろう」
おっと、そっちでしたか。
「それぞれ金貨30枚、合わせて60枚でどうじゃ」
あれ、結構いい値段ですよ。
「それでいい」
「時にハジメ、このマークは製作者の銘じゃな。どなたのものであるか?」
「知り合いのトヨさんとミツさん」
とっさに適当にごまかした。
「なに!存命の方達であったか!」
あ、これしまったかな。
「わ、わしにこの方たちを紹介してもらえんかのう」
「む、トヨさんもミツさんも人見知りで、俺としか会わない」
ほんとは、今まさに会ってるんだけどね。
「・・・まあそうじゃろうの。ハジメもなかなか商売上手じゃ、わはは。お二方の
作品ならわしはいつでも買うから、手に入ったらいつでも持ち込むがよい。わはは
はは」
うまく切り抜けた。
それにしても、一歩間違えば生活ごみだった結晶に思わぬ価値があった。
そして、ンボダフさん経由で現金化の目途も立った。
俺とンボダフさんはコンビでミスターATMだ。
魔道具屋からの帰り道。
買い食いしながらジョーとおしゃべり。
「魔道具向きの高級素材といえばどんなものがあるかなあ」
「ドラゴン素材とか、ミスリル、オリハルコンあたりかな」
「ミスリルとオリハルコンってそもそもどういうもの?」
「ミスリルは青白く光る金属、オリハルコンは赤金色に光る金属で、ともに気との
親和性に優れる。銀や金に魔気や獣気、あるいは瘴気が長年月反応してできると言
われる。魔気溜まり化していた古い銀鉱山で、銀鉱脈だったはずのものがミスリル
鉱脈に変化していたという記録がある」
「え、、、だったらさ」
金物屋に寄って、金、銀、銅、鋼の指輪を各1個買った。全部で金貨2枚だった。
ちなみにこの世界の金物屋は金属製品屋であって指輪も扱う。
「この指輪を吸気袋にぽいっと放り込んで、仕込みは完了と。このまま放置でお楽
しみ。ダメ元だしねー」
さて、どうなることやら。
翌朝、指輪はどうかと見てみると?うーん変化なし、半日でどうこうなるというもの
ではないことは分かった。まあ気長に取り組もう。
さて日課の朝の訓練、超回復と準超回復を一巡させて、はる屋の朝ごはんをそのまま
収納。買い食いしながら冒険者ギルドに向かう。
いつもと違うのは人目をはばかることなく、収納リングに食べ物を収納する、振りを
して実は自前の亜空間に収納する、ことが出来るようになったこと。
もうランクBだし、ギルド長からもらった収納リングだしねー。堂々、えっへん。
冒険者ギルドで、カウンターにカードを提出した。
「うわー!もうランクBって凄いわねー。とてもそうは見えないんだけど、天才は理
解を超えてるってホントね~」エリーに若干落とされながら素直に賞賛される。
照れくさ嬉しい。
カードの処理を済ませて戻ったエリーはやや引き攣った表情だ。
「と、虎、凄い」
今初めて見たようだ。やっぱり実物見ると、ね。
「妖虎討伐の報酬は、金貨100枚と授与済の収納リング及び装備一式。並びに僕獣
ハナの冒険者ギルド関連施設への長期搬入許可、ただし傷害などの問題行動があれば
再考する。加えて、8級への2等級昇級を認める。ということです。詳しくはこの書
面に記載してあるから読んでね。あと、念のため、ハナちゃんを見せてもらえる?」
俺は金貨100枚を受け取ると、くるりと回転して、背中のうさぎリュックから顔を
出しているハナを見せる。
「うわー、かっわいい!!」
「くぅん」
人気者である。頭を撫でられてハナもまんざらでもない。
俺はランクBで8級になった。等級はどうでもいいんだけど、まあ昇級して悪い気は
しない。
ふんふんふふん、と鼻歌交じりで迷宮入り口へ向かう。
今日は依頼無しなので、テントには寄らなかったけど、顔なじみになった衛兵さん、
もとい騎士救護班のトベリ部長から声が掛かる。
「よお、昇級おめっとさん。今日も精がでるね。ハナもご苦労さん。はて、ハナは
もっと大きかったような?」
「ん?ハナはハナ」
むふふ、無口キャラのおとぼけ炸裂じゃ。
さて、今日は迷宮地下20階からだ。
ここはジャングルの集大成のはず。さて、どんな敵が出るか。果たして少しは楽しま
せてくれるのか。
出た。結構侮れない敵が。
これでは騎士団パーティーが攻略を断念したのもわかる気がする。




