え、トラブル発生ですか?
迷宮の攻略は順調にすすんでいる。レーダーゾーンのおかげで密林迷宮は問題なく、
罠対応ギフトのおかげで罠はないも同然、ウルティマのおかげで敵は全く脅威では
あり得ない。
迷宮が深くなって敵は強くなって難易度が高くなってきているのだが、俺とハナも
超回復訓練と急速なレベルアップで強くなっている。
俺たちの成長の方が、迷宮の難易度上昇のスピードより早いのではないかという思
いすらある。
どこまでこの快進撃が続くのだろうか?
そんな感じではや地下19階まで攻略してしまった。
地図のあるのはこの19階まで、騎士団のパーティーが正式に攻略したのがここ
までということだ。
レーダーゾーンなしでよくぞここまでと思う。
きっと大人数と長期間を掛けた物量作戦だったのだろう。
ここまでの敵は、ジャングルにふさわしく、植物系、虫系、動物系が多かった。
虫と植物は群れで出現し、各階で一番強いのは動物系だった。
正直言って、てこずりはしなかったので、敵の種類にはあまり頓着していなかった
が、印象に残った相手としては、まずはバジリスク。17階と19階に出現した。
こいつは20センチくらいのカメレオンみたいな外観のとかげだが、視線による石
化という特異な攻撃をする。最初に危機感知による軽い悪寒が来て、俺は急いで大
木の影に隠れた。
体表がわずかにぱりぱりする違和感がある。探ってみると体組織の構成がわずかに
ケイ素結晶化していたので、急いで地操作と水操作で治療する。
敵はレーダーゾーン外から攻撃を仕掛けて来た。索敵マップを広げてみて、それら
しき黄色の光点を見つける。久々の黄色光点だ。なにより、軽くではあったが危機
感知が発動したのはこの迷宮で初めてじゃないかな?
大木の影から左手をちょっと出してみたら瞬時にパリッとくる。極めて速い攻撃だ。
ビーム系で、地操作と水操作で練られた特殊攻撃だと分析できた。
この攻撃を防ぐには、バジリスクの視線を遮ること、物理障壁よりも光操作による
暗闇や閃光が有効だ。
そしてバジリスクの防御力と生命力は高くないので、こちらから攻撃を仕掛けてで
きるだけ素早く無力する必要がある。
攻撃力特化のバジリスクに対しては、攻撃が最大の防御だ。
奴の初撃さえ耐えられれば勝機がある。
敵の所在が判明すれば、例えばこんな風に冷却で瞬殺。簡単な熱操作。奴にレジス
ト力なし。
死んだバジリスクが消えてしまう前にその姿を見にいった。カメレオンの外観で、
周囲に溶け込む色合いだった。保護色で敵から隠れ、すばやい一撃を見舞う刺客と
いう感じのあっぱれな奴だ。魔石を取り出して確保しておいた。
石化の力は彼我のレベル差に応じて威力が異なるようである。徐々に石化するその
速度が異なる。早い石化はかなり恐ろしい攻撃だ。魔法耐性の無いレベルの低い冒
険者なら相当早い時間で石化完了してしまうかも知れない。悲しい芸術作品ができ
てしまう。
次に印象に残ったのは妖虎。体長2~3の白い虎。怪力と俊敏さに鋭い牙と爪とい
う、虎らしい身体能力に加えて、透明化と冷却という特殊能力を持つ。地下18階
に出現した。
レーダーゾーンを持つ俺には、その所在はまる分かりなのだが、目では見えないの
でアレっと思った。
光操作系の特殊能力だ。
そして妖虎のもう一つの特殊能力は熱操作系の冷却。冷気を発する。接近戦を行っ
ていると、徐々に足が冷たく重くなって動きを阻害される。そのまま長い時間が戦
うと中まで冷凍されて折れてしまうだろう。
なかなかの敵だが、俺には全く通じない。
バジリスク程の脅威も感じなかったが、毛皮がきれいなので、獣石と毛皮をいただ
いた。
「魔物や獣の特殊能力というのも、操作系の魔法なんだね」
「こういった練られた魔法を、遺伝的に継承するようになって、種固有の特殊能力
として獲得したのだろうね」
なかなかすさまじい進化だ。適者生存、強い能力を持った種が生き残る。
「魔法創造登録というギフトがある。完成させるのに時間と労力がかかる魔法を各
種操作系オリジン魔法で練り上げて、そのレシピを登録しておくことで瞬時に行使
可能になる」
「そんな便利機能があったんだ」
「これに頼りすぎると、魔法の応用力が損なわれるからあんまり使って欲しくない
んだけどね」
「分かる気がする。ワープロソフトを使ってると漢字が書けなくなるのアレだ」
「ただ、種族固有の特殊能力的魔法は、長い歴史の中で育まれて磨き上げられてき
た完成形で、練り上げるのはかなりしんどいけど、使い勝手はよいという優れもの
だよね。特殊能力の中でこれは使えるというのは早めに再現して、登録しておくの
がいい」
ということで、印象が新鮮なうちに、バジリスクの石化と妖虎の透明化を試行錯誤
の上で再現し、登録して使えるようにした。魔法の創造の方は余裕のある時にじっ
くりやればいいけれど、登録魔法の行使のためには戦闘中に魔法創造登録のギフト
をオンにしておかなけばならない。
こうして、俺はバジリスクから石化、妖虎から透明化というありがたい特殊能力を
授かることができた。
魔法の創造で結構時間をとった。そろそろ陽が傾く時分かな。今日はこれくらいに
しておこう。
地下20階にいったん降りて足跡を残したのちに、19階の転移室まで戻り、地上
へ戻ることにした。
俺とハナはレベルが7にアップした。
俺の冒険者のランクはBのまま、ハナの種族も幻狼のままだ。
ハジメ 人族 5歳 レベル7 20%
称号 迷宮の申し子
職業 冒険者
装備 上質ローブ 軽快靴
基礎値 筋力20000/敏捷性20000/生命力32万/気力46000/気速46000/気量77万/活力40
攻撃力 20000+46000(理力)=66000
防御力 20000+46000(理力)=66000
備考 魔法道具職人 密林の殲滅者 特殊能力の受継者
冒険者カード
氏名 ハジメ ランクB 10級
種族 人族
年齢 5歳
レベル 7
備考 火魔法 水魔法
僕獣 ハナ 幻狼 レベル7
ハナ 獣族 幻狼(進化種) 1か月 レベル7 20%
称号 迷宮の申し子にしてハジメの僕獣
職業 なし
装備 なし
基礎値 筋力30000/敏捷性40000/生命力24万/獣力20000/獣気速20000/獣気量80000/活力500
攻撃力 40000プラスα
防御力 30000プラスα
備考 サイズ変更化
ギフト ハジメ
魔法創造登録
罠対応
理力操作/熱操作/地操作/空気操作/光操作/水操作/聖操作
空間操作
気授受 生命力授受
危機感知 同大 同極/危機対応 同大 同極
物理耐性極/魔法耐極
隠形/状態異常耐性 同大 同極
索敵/鑑定/判別
自然充填 同大 同極/自然回復 同大 同極
成長促進 同大 同極
蘇り 武器技能 付与
自己確認/他者確認/表示変更/言語対応
神知/自由設定
残3
地上に戻って来た。
むむ、なんだかざわざわしている。
「まじか?そりゃないでしょ」
「しばらく様子見がいいんじゃないの」
みたいなことが囁かれている。
迷宮出入り口のテントには、ギルド職員が一人だけだった。
「ハジメさんですね、すみませんが急ぎで冒険者ギルドを訪ねて下さい」
なんだか慌てているようだ。
なんかあったのかな。
ギルドの中もちょっと不穏な感じだ。何かやばいことがあったけれど、情報統制で
もされているような感じだ。
受付嬢、昨日からいるこのお姉さんはエリー19歳の人族だ、そのエリーが俺を見
つけて言った。
「あ、ハジメくん、待ってたのよ。ちょっとこちらへ」
奥の部屋に連行される俺。
なんだろう、昇級か?
いや雰囲気は全体に悪い方向に妙な感じなんだよな。ちょっといやな予感がする。
バルガンとの立ち回りを叱られるのだろうか、それとも迷宮内での行動に問題が
あったのだろうか。




