究極!
異世界5日目
朝、早めの朝食をとり、平はたごの宿を引き払う。
これからしばらくは迷宮に籠ろうと思う。
そして次に娑婆に出た時にはもっと良い宿に泊まるのだ。
朝食は4人前注文して、余りは収納した。
外は明るいが朝日はまだ昇る前だ。それでも、冒険者向けに食べ物屋はあいている
ので、買えるだけ買って、こそこそと収納し続ける。
10日くらい潜っていることになるかも知れない。とにかく行けるところまで行って
みたい。
「この棒なんだけどさ、名前をつけたいねぇ」
「如意棒とか?」
「孫悟空っぽいので却下」
「自在棒とかは?」
「ださいので却下。棒からは離れようよ」
「うーん、最強の武器、究極の武器。。。ウルティマは?」
「なんか某ゲームみたいだけど、それさえなければ良い感じだよね」
「いいんじゃない」「わぉん」
「よしそうしよう。今からお前の名前はウルティマね」
棒が、いや、ウルティマがぷるんと震えた気がした。
鑑定 ウルティマ ミスリル製 性能-
名前が勝手に変化した。認めてくれたようだ。もしもし、あなた、生きてます?
返事がない。ただの武器のようだ。
冒険者ギルドに立ち寄る。
おお、ごった返してる。やっぱり朝は混んでるなあ。
俺はランクEに昇格したから、依頼もランクE用のを受けることができる。
級は10級だけど、討伐に級は関係しないので気にしない。
ホブゴブリン、プリーストゴブリン、メイジゴブリン、サラマンダー等、適当なも
のを抜き出してまとめてカウンターに提出する。
10体を20日以内にとか期限があるが、問題ないだろう。
受付は20歳くらいの女子。昨日とは違う人だ。
「あなたこんなに大丈夫?達成できないと報酬はもらえないし、討伐の場合は罰金
はないけど、信頼度が下がるので昇級しにくくなるわよ」
「ん、問題ない」
受付嬢は肩をすくめながらも処理してくれた。冒険者カードの裏に依頼が書き込ま
れる。達成度も自動反映されるそうだ。便利なものだ。
今度は迷宮案内所に行く。昨日と同じ人(魔族?)が窓口に居る。
「おはようございます。1階の地図はお役にたちましたか?」
「ん、あるだけ買いたい」
「地図があるのは19階までです。5階までは新しいですが、深くなるほど古く不正
確になります。転移室の位置は同じですが、内壁は頻繁に、階段も時折、場所が変
わります。2階から19階まで、まとめて金貨2枚で結構ですよ」
魔法陣エレベーターは転移室というのか。そこと階段が分かるなら充分だ。
他にも色々教えてもらった。
「魔物配置も何日かで変わります。今1階から10階はゴブリン系が出てますが、こ
れはあと10日くらいでしょうか」
「10階単位で階層の様子が様変わりします。石壁が土壁に変わったりとかですね。
11階から先はぐっと雰囲気が変わります。21階以降も同様と言われています」
「内壁の区割りが変わったり魔物の配置が変わるマイナーチェンジ以外に、階層の
様子は各季節で大きく変わります。新装開店と称されて、数日間は宝物の質が上が
ります」
「いつ入っても、何度入っても、楽しいもの、それが迷宮ですよ」
変な宣伝までされてしまった。
「何階まで踏破されている?」
「騎士団のパーティーが19階まで踏破しました。これが正式発表です。噂では最高
到達点は30数階とか40数階とか言われてますが真偽不明です。20数階までは確実に
到達しているはずなのですが詳細不明です」
「人が多いのは?」
「主に3階までですねぇ」
やっぱり一般には地下3階の突破はきびしいのか。
「何階まであるのか?」
「迷宮はここに限らず全て100階までと言われてますが、真偽不明です」
うーむ、なんか凄い無駄施設のような。
まあ、冒険者が入ってきた時点で魔物はどこかから転送されてくるんだろうからね。
深い階層は、普段は人も魔物もいなくてガランとしているんだろうな。
「迷宮内で人が死ぬとどうなる?」
「迷宮主催者に没収されます。具体的には死体も装備もすぐに消えます。」
「う、じゃあ迷宮内の宝物っていうのは?」
「はい、多くは、迷宮内の遭難者の装備ですね」
やっぱりそうだったんだ。
俺が遭難したらウルティマも没収かぁ。そりゃ大変だ。いや死んだらそもそもお終
いだからウルティマの心配している場合じゃないか。
西門をくぐって、迷宮入り口へたどり着く。
テント内には昨日と同じおっさん二人。今日の俺はギルド経由の依頼があるので列
に並んでカードを提出する。職員の方がカードの裏表を確認して、何か手もとの書
類に書き付けた後にカードを返してくれる。
隣の衛兵がにっこり笑って「がんばれよ」と、職員はまじめな顔をしながら「無理
はするなよ」と声を掛けてくれる。今日も俺の生還で賭けるのかなぁ。
「しばらく籠るかも知れない」と言って置く。賭けの結果はすぐには出ないよ。
迷宮入り口から階段を下りて行く。朝はさすがに人が多く、転移の扉の前は長蛇の
列だ。でも地下5階となると、もう人は少なく、すぐ俺の順番が来た。
「おい、見ろよあれ、あんな小さい子供と犬だけだぞ、それが地下5階だと?」
「中でパーティー編成ってできたっけ?」
「犬が荷物を運ぶ?」
「犬の能力で敵を避けて進める?」
なんだかガヤガヤ言われてる。
いやいや、今度出て来た時は凄くなってますから。驚けよ!
地下5階の転移室に転移した。
ここの敵は、メイジゴブリンレベル3、ゴブリンレベル2、角うさぎレベル2、
スワロービーレベル1で一度に3体まで。
スワロービーはスパロウビーの上位種で飛翔速度が格段に速い。
しかし、やはりこの階も全く問題なく、さくさく進む。
ウルティマ最高!
武器として優れているだけでなく、魔法発動体としても超優秀。
より強く、より早く、より繊細に、思うがままに気を操れる。
ウルティマいじってるだけで、もう戦闘が楽しい楽しい。
余裕があるので、戦闘しながら、敢えて亜空間内の吸気袋に気を、吸生袋に生命力
注ぎ込んで超回復の訓練をしたり、吸い戻して準超回復したりして、それぞれ1周
回すこともできた。
ウルティマの使い方を、あれこれ試したり、確認したり、工夫したり、驚いたり、
その性能に酔ったりしながら、あっという間に地下10階に到達した。
ここはゴブリン系最後、そして石壁最後の階層のはずだ。
ここまでくるともう内部には誰もいない。俺とハナだけだ。
なので、他人の戦闘を参考にして敵のあたりをつけることは、もはやできない。
初見の敵といきなり当たるかも知れない。が、まあ大丈夫だろう。
夢中でここまできたので、イマイチはっきりしないが、まだお昼前だと思う。
討伐の依頼は既に全部達成済みになってる。はやっ!
そして、俺とハナの今の状態は、こんなんなりました!




