魔道具について考察する
ほくほくしながら宿屋へ向けて歩く。途中、パンやら惣菜やらを買い貯める。もぐ
もぐ食しつつ、ハナにも与えながら、隙を見て食料を亜空間にしまう。
おや、Bランクの女性冒険者が指輪型収納空間に物を収納しているのを目撃した。
「へぇぇ、Bランクともなれば高額の収納魔道具を持ってるんだぁ。俺に収納魔道
具は不要だけど、付与で作って魔道具屋に高く売れるようになれば、お金に不自由
することはなくなるね」
「空間魔法の付与はちょっと難しいよ。かなり高位の魔法だから良い素材が要る」
まず素材がしっかりしていないと魔法の付与自体ができなかったり、負荷に耐えら
れずにすぐ壊れてしまう。魔道具の価値は、機能だけではなく、素材の良さや、も
ちろん作成者の技量に大きく左右される。
魔道具とは、気を込めることにより、様々な魔法効果を発揮することができるよう
に仕組んだ道具のことだ。使用者がエネルギーとなる気を込めた時だけ発動するも
のもあれば、気をある程度貯め込めるものもあり、更には魔石などを組み込むこと
より、魔法を使えない人でもきっかけとなる気さえ出せれば、魔石のエネルギー分
だけの所与の魔法効果を得られるもの(これを汎用品という)もある。
いわば、気の増幅装置だったり、変換装置だったり、コンセント式だったり、充電
式だったり、電池式だったりするわけだ。
魔法を使えない人でも、少量の気は使えることが普通なので、いわばスイッチを押
すだけの気の力があれば、電池式の魔道具は使える。なので汎用品は効果がさほど
でなくても比較的に値段が高いのだ。
俺が適当に作った剣と杯が、そこそこの値段で売れたのもそのためだ。
うーん、これからは魔石はあんまり売らないでおいて、お金は魔道具を作ることで
稼いで、うはうはだ。などと夢想する俺であった。
たなぼたでまんまとゲットできた活力の指輪を、食べ歩きながら指にはめて効果を
確かめてみる。
「気量を活力に変換する効率はあまり良くない。100対1くらいだ。一度に気量
を100込めるとちょっと危うい感じなので、50込めて使ったらしばらく時間を
おいて再使用くらいがいいところかな。そうやって丁寧に使ってもいつまでもつか」
「まあ中級品だ。じっくり仕組みを調べて自作できるようになりたいものだね」
宿に到着し、こっそり部屋にハナを入れる。
「この宿は今日限りで引き払おう。ハナを部屋に入れるくらいはまあいいよね」
「ハナは騒いだり物を壊したりしないし、臭くもないから見つからなけば大丈夫だ
と思うよ」
さて、ハナも立ち会わせて、例の特殊警棒の見分だ。
これは、ごく軽く気を込めると25センチくらいのサイズが75センチまで長くな
るが、それだけではないはずだ。魔道具としての風格が凄く高い感じがする。
更に気を込めてみる。
「おお、どんどん入る。底なしって感じだ」
俺のほとんどの気量を込めてもまだまだ余裕がある。気量の回復を待って追加で込
める。気量を込めるたびに、特殊警棒はわずかに重量感が出て、その後、消化した
という感じにすっと元の重さに戻る。気の充填を続けるうちに、表面がわずかにひ
かり始めた。
「なんか凄そうだぞ。どうなるんだ?」
「ごくり」ハナも息を飲んで見つめている。
気を込めるにしたがって光量が増す。同時に光色が、暗赤色から黄色、青、紫と変
化し、最後に白というか無色になり、シュバーッと急激にまぶしくなった。その時、
「貴殿を我が主と認める。我は無限の気量を持つ主殿に無限の力を与えよう」
頭の中に声が響いた。ハナ、聞こえたか?こくこく。聞こえたらしい。
ハナが目をまるくしてぷるぷるしている。
「棒がしゃべった!ジョーどういうこと?」
「ハジメの気に馴染んで、メッセージを伝える機能が発動したんだと思う」
再鑑定してみると
鑑定
●●●● ミスリル製 性能-
あれ、名前は読めないし性能の表示自体が消えてる。これは隠蔽されているってこ
とだな。
「すごく手が込んでるね。ある程度の力量の持ち主に偽装を見抜かせる。次に相当
程度の気量の持ち主にして初めて真の主と認めさせる。そして、さらなる高みに達
して、そこでやっと隠蔽を看破することができるわけだ」
「むうう、ここまで来てみろと高いところから挑戦されてる感じがする」
既に発光は収まり、今ではうんともすんとも言わなくなった棒。握り直してもう一
度気を込めてみる、うーんまだいくらでも入るな。キリがない。適当なところで切
り上げて棒を伸ばす。伸びる伸びるどこまでも。部屋の壁を突き破りそうなので、
それ以上伸ばすのをやめて今度は縮めてみる。縮む縮む、妻楊枝より細く小さくな
る。
俺が使い慣れた短槍の長さにして振ってみる。凄くしっくり来る。持った感じは手
に馴染む重さで、振り始めは重さを感じないほどに軽く、インパクト時には瞬間的
に重量感が出て、打撃の威力は強そうだ。振り終わりも軽く、切り返しが早い。
振りながらも長さや太さを自在に変えられて、敵を逃がさず、間合いも掴ませない。
そして、それだけでは無かった。
「剣の形にならないかな?」
なった。形も思うがままだった。
「炎や風の属性を纏わせることはどう?」
できた。俺が扱える属性には全て対応した。理力にもなじむ。理力弾も撃てそうだ。
「どういう仕組みなんだろう?」
「亜空間か何かとつながっていて、質量や物量を瞬時にやりとりしていたり、様々
な属性に対応するように術式が組まれているんだろうね。解明できる気がしない」
「何だか凄い物を手に入れてしまったみたいだ。明日、迷宮で色々試してみる!」
エライことになった。興奮してなかなか寝付けない。ハナに体を寄せて、毛並みを
撫でながら気持ちを鎮める。ハナ、また大きくなったみたいだ。。。
俺は、ようやく寝入ることができ、こうして怒涛の4日めが終わった。




