転んでもただでは起きない
脳内索敵マップを活用できる俺にとって、迷宮は迷宮ではない。単なる曲がりく
ねった通路だ。内壁の状態及び自分の現在位置が分かるので迷うことはない。
進もうとしたその先で戦闘が行われている場合はどうするか。
迷宮案内人によると、ノータッチルールというのがあるそうで関わらないのがよ
しとのこと。
苦戦していて手助けしたいときは、手助けがいるかと問いかけて頼むと言われれ
ば手助けOKだけれど、声掛けのタイミングも難しく、狭い通路での共闘も難し
く、勝てた場合の分配でもめたりとかろくなことがないらしい。
うまく出来たもので、前方の戦闘で進路を塞がれると壁が崩れて迂回路が発生す
るので、迂回して進行可能なのである。
こうして俺とハナは、地下2階でもさくさくと進んでいった。
この階は、敵が2体出る。種類は地下1階で同じみのゴブ、スラ、バットに加え
てなんと角うさぎ。敵は1体だけ出る時はレベル2、2体出る時はレベル2とレ
ベル1になっている。
そして角うさぎが意外にいい仕事をする。狭い通路の壁や天井をタンッタンッと
蹴りながら立体軌道で攻撃してくるのだ。
敵が複数になるとスライムも地道に活躍する。他に気を取られると、地べたの伏
兵スライムに足を取られたりする。ずりゅって滑るんです。
敵はほとんど前方に出現し、たまに後方に、そして極まれに俺とハナの中間地点
に現れたり、時間差で前後を挟撃するように出現したりもした。
難度的には、地下1階より格段に難しくなっている。
とは言っても俺とハナの敵ではない。弱すぎる。少なすぎる。
せっかくだからということで、俺ハナコンビは戦い方を色々と試してみる。
まず、俺とハナで前衛と後衛を交代してみた。
物理オンリーで戦う時は、基本的には戦い易さは、前後どちらでもさほどの違い
はないが、俺が魔法で戦う時は、前ハナ後ろ俺の方が戦い易い。
また、戦いながら敵だけでなく、味方の位置と動きを把握しておくことは非常に
重要で、敵が弱く少数なうちに十分に慣れて置きたいところであり、いい練習に
なるのだ。俺とハナはひとつの戦いの最中にも前後を入れ替えたり、あるいは敢
えて横並びになって窮屈に戦ってみたりもした。どうやっても楽に勝つからね。
それから俺は、短槍だけでなく、短剣、短刀、ナイフ、無手など、色々なスタイ
ルを試した。
そして魔法はひとまず理力操作を種々工夫して戦った。
理力操作とは、いわば気に物理的な力を帯びさせるような能力で、体を覆えば鎧
になり、武器を覆えば武器の威力を増し、盾のように展開させることも、触手の
ように伸ばすことも、手のように繊細な動きをさせることも、鋭い刃のようにし
て振り回すことも、ちぎって弾丸のように飛ばすこともできる。
理力の発動には時間がかかるのが難点である。狙い通りの形に作りあげ、狙い通
りの硬度を持たせ、狙い通りの動きをさせるのは至難である。うにょうにょして
制御しにくいのだ。
いつもの、短槍の先端から弾丸のように撃ち出す攻撃は、何度も何度も繰り返し
てやっと実用に耐えるようになった。今ではお気に入りです。いったん発射する
と弾速が早いです。
ということで、よい機会なので発動体なしに、理力だけで、剣、短剣、槍、3本
目の腕、無数の触手などを作って攻撃して遊んでみたりした。もとい遊びじゃな
くて訓練だったよ。
ハナも獣気を使っての角、爪攻撃を敢えて行って、戦った。
単調に陥りがちな作業でも、心掛け次第で活きるものですよ。ふふんっ。
そうこうするうちに階段に到着し、地下3階へ降り立つ。
冒険者カードをみたら一つ上がってランクFになっていた。
地下3階になると、敵は最大3体出現する。種類はホブゴブリン、普通のゴブリン、
ラバースライム、大蝙蝠だ。
ホブゴブリンはちょっとたくましいゴブリン強化版、ラバースライムは弾力性のあ
るボール状のスライムで、ホブゴブリンが投げつけるとスーパーボールのように跳
ね返る起動で攻撃してくる。角うさぎよりだいぶ早い。大蝙蝠はバットの強化版で
飛翔の速度と切れが増している。
そして、3体出現するときは必ずホブゴブリンレベル3と大蝙蝠レベル2とラバー
スライムレベル1であり、強い力とましな武器で迫るホブさんと、異なる軌道で立
体的に飛び掛かる2体がなかなかの脅威だ。
地下2階よりもまた難度が上がっている。
しかし、通路内の罠が前より少な目になったことと、レベル3の魔物が出現して、
経験値的に少し美味しくなって来たのは嬉しい。
判別ではホブさんも黄緑点止まりだが。
この通路の先に扉があって、開けると少し広い部屋になってる、ここは出そうだ。
ほら出た。大蝙蝠が螺旋状に飛び掛かってくる。時間差で部屋の斜め後方にホブ
ゴブリンが出現して、あらぬ方向にラバースライムを投げつけてから抜刀して突撃
してくる。
しかし、ハナが落ち着いて大蝙蝠を前足の爪の先の獣気の爪で切り裂いて瞬殺、俺
は、ラバースライムの軌道を思い描きつつ、理力の触手を伸ばして予想軌道上で捉え
て触手先端で突き刺し、その後間髪を入れずに触手を8本の鋭い刃に変えて広げてラ
バースライムを細切れにする。
同時に敢えて両手を組んだまま、胸のあたりから極太の3本目の理力の腕を伸ばして
、突進してくるホブゴブリンの顔面にカウンターのストレートパンチを打ち込み粉砕。
戦闘開始から5秒も経過していない。楽勝だ。
でもだいぶ楽しめるようになって来た。
宝箱があったので開ける。怪しげな魔法陣に繋がる回路を切る、と、その前にその
回路を切ると発動する別回路を無効にして。
無事に罠解除。宝箱オープン。
おお、鋼の剣だ。何の変哲もない剣だけど、ここまででは一番よい獲物だ。
ちょうど剣持ってなかったからちょっと嬉しい。次は剣を使って、剣の舞かな。
そんなこんなしているうちに、ちょっと離れたところで、激戦の様子。
既に二人倒れて、敵3・人4になってる。どうしようかな、ちょっと離れてるし、俺
はここに人助けのために入ったわけじゃないし、ノータッチルールあるし、とか逡
巡しているうちに、敵3・人3、早いな、あ、敵3・人2。
急いで駆けつけても間に合いそうもない。
やめればいいのに他者確認してみたら、ひとりは11歳の子供でレベル2、ランク
Gの10級だった。あ、全滅した。。。
しょうがないよね。危険を承知で挑戦してるんだから。自己責任だよね。おれはそ
こはかとなく悲しい気分になって、思わず首を横に振っていた。
ハナはちょっと首を傾げて、どうしたの、という感じでそんな俺を見る。
うん、気にしてはいけない、前進前進、もうすぐ地下4階だ。




