冒険者になって迷宮へ
東西方向の街道は東門を貫通して、市内を南北に2分割して西へ伸びている。
門番の指示に従って西へと進む。小さな噴水池のある広場の周りに露天商のテント
が集まり、商品を並べている。結構にぎやかだ。なんか人酔いしそう。
あれ、俺注目を集めてる?うん、めっちゃ見られてる。やっぱり服装が変なのか?
周囲の人々は、ストンとした一枚の布製の服をすっぽりかぶって腰回りをひもで結
んでいるだけ、鑑定すると貫頭衣とのこと。ちょっと立派な感じの人は多くのひら
ひらの上質そうな薄での布をゆったり巻き付けて肩から斜めに別の色の布をたらし
て広めにたすき掛けしている感じの服装。これはトーガっていうのか。
小さな子は、貫頭衣だったり裸だったり。うーん、文化度低そうな感じ。。。
こんな中で、俺の狼毛皮ルックはひときわ異彩を放っていて凄い注目度。ふん、い
いのだ。なんせ自称野生児ですから。
「立派な犬だねぇ。噛んだりしないのかい?」
男が声を掛けてきた。
他者確認
ロキ 人族 22歳 レベル3
称号 なりきれない盗賊
職業 (偽旅人) 盗賊 罪人
装備 短剣
基礎値 筋力2/敏捷性3/生命力3/気力1/気速1/気量1/活力4
攻撃力 2+2(短剣)=803
防御力 2
備考 小心者 冒険者から盗賊に転落して放浪し始めた
あ、東門で並んでいた奴だ。旅人の振りをした盗賊だったのか。衛兵だめじゃん、
ちゃんと仕事できてないよ。
「俺に悪さとすると噛む。気をつけろ」「がるぅ」
ふふふ、ハナ、ナイスフォロー。偽旅人は、びびってるびびってる。
「こ、この辺は商業区だ。このまま進んで市の真ん中辺りが行政区。俺は職安まで
いくけど、坊主もだろ。一緒に行ってやるよ」
「ん」
さっきのやり取りを聞いてたな。しかし、職安って、なんか場違いな名称なような。
「職安で、審査を受けてパスしたら就業できる。坊主は冒険者志望なんだろ。冒険
者に就業できたら、次は冒険者ギルドへ行って登録さ。冒険者になる資格はレベル
2以上だけど大丈夫か?」
「ん」
あれ、動揺してる。偽旅人氏、なんか思惑が外れたもよう?
「そ、そうか。冒険者への就業は入り口の審査自体はゆるいからな。レベル2以上
で犯罪歴がなければまずパスする。レベル1かゼロならお前さんなら孤児院行だ。
正直に言えよ、レベル1なんじゃないのか。俺がいいところへ連れてってやるぜ」
「大丈夫だ」「がるるぅ」
「子供の冒険者はいるのか?」
「ああ珍しくない。孤児院にいてレベル2になればだいたいは冒険者になる。もっと
も坊主ほどのちびは珍しいけどな。孤児院長の書状があれば、行政から支度金が少し
出る。それで装備を整えて依頼で稼いで、利子をつけて支度金を返済するのさ。おれ
の伝手で書状が安く手に入るがどうだ?」
「要らない」
偽造書面でも売りつける気かな?
なんかうっとおしい奴。でもこの街のことを少しは知ってるようだ。
「西には迷宮があるのか?」
「ああ、行政区を抜けると冒険者区に入り、突き当りが西門。その先にウルマの迷宮
がある。でもおっかないところだから近づかない方がいいぞ」
「そうか。街の北と南には何がある?」
「北は住宅街に畑と牧草地、南は高級住宅地だな」
街道を歩きながら道端の店を見る。噴水広場を過ぎると、商店街になっていて、飲食
店や、金物屋、服屋、靴屋等が並んでいる。職安の手続きを済ませたら戻って来て買
物できるように店のあたりを付けて置こう。
「ほら、あそこが職安だ。入るとすぐ受付だから、そこで話をするんだな。犬は入れ
ないからそこの木にでもつないでおけ」
3階建てのこれまで見た中では最も大きな建物だ。看板がかかってる。職業安定所。
偽旅人はハナを狙っているような感じもするけど、ハナがこいつにどうこうされると
は思えないな。大丈夫だよな、ハナ。こくん。大丈夫みたいだ。
偽盗賊氏とはここで分かれ、ハナを繋いで、受付に行く。中肉中背の中年女性だ。
「就業志望の方ですね。希望の職種は?」
「冒険者」
「銀貨2枚になります」
お金を取るんだ。ゴブリンのつづらから確保しておいて良かった。
銀貨2枚を手に、受付嬢?は奥へ引っ込み、1分程度で戻ってきた。
「こちらが登録証です。身分証明書にもなります。落とさないようにしてくださいね。
再発行には銀貨1枚が必要になります。冒険者として活動するためには冒険者ギルド
への登録が必要になります。冒険者ギルドは道を西へすすんだ冒険者区にあります。」
え、もう終わり?登録証は名刺サイズの金属製のカードだ。
氏名 ハジメ
種族 人族
年齢 5歳
レベル 2
職業 冒険者
記載はこれだけ。職業ギフトで鑑定したんだな。
受付の奥の壁の上方には小窓が付いており、その奥のスペースに人がいる。
あそこで鑑定したわけだ。なるほど。
こうして俺は実に簡単に冒険者になった。身分証明書も手に入れた。
次は、冒険者ギルドで登録だ。異世界物のアニメとかで見たとおりだ。
「ジョー先生、地球というより日本とザースって文化交流あるよね」
「日本からの召喚は先例がある。逆も然りなのだろう。個人の知識限定での交流と
いうところか」
冒険者区へ向かった。商業区ほどではないが人は多い。さすがに冒険者の割合が多
くなってきた。ランクG・F・Eばかりだな。時々D、まれにC。
他者確認
ガルゴン 猿人族 17歳 レベル12 55%
称号 ゴブリンの天敵
職業 冒険者 ランクC 6級
装備 鋼の槍 硬革の鎧
基礎値 筋力150/敏捷性160/生命力155/気力10/気速10/気量10/活力30
攻撃力 155+5(鋼の槍)+α
防御力 160+10(硬革の鎧)+α
備考 迷宮専門 安全重視
「あ、獣族がいる!」
「獣族でも魔族でも冒険者登録をしていれば冒険者として活動できる。種族として
対立していても、個人単位では別問題なんだ」
「ふうん、何か不思議な感じ」
「魔大陸では人族が運営する迷宮もあって、そこでは主に魔族の冒険者が探索して
いて人族の猛者が迷宮内で魔族冒険者を襲う。魔大陸の草原では野人の群れが魔族
の商人を襲ったりしている」
「おおっと。それは想定外だった。そうなのか」
魔族や獣族は外国人扱いってことかな。そして人族も含めて野生化すると。。。
冒険者ギルドの建物はすぐわかった。
建物に入ると奥にカウンター、左右には掲示板に依頼が張り出されて冒険者達が物
色している。お昼時だからか、人数は多くない。
カウンターで冒険者登録手続きをした。ここでもあっさりしたものだった。
ただ銀貨4枚もとられた。金貨で支払って釣りをもらう。
ハナの僕獣登録も同時にした。別料金はとれらなかった。
さすがにハナの種族鑑定もばっちりだ。
「僕獣の種族が変わっても問題ない?」
「冒険者カードはとっても特殊で、ランクや種族は変化を自動反映するから大丈夫
よ。」
ならいいや。深くは考えないでおこう。
冒険者カード
氏名 ハジメ ランクG-10級
種族 人族
年齢 5歳
レベル 2
備考 火魔法 水魔法
僕獣 ハナ 角狼 レベル2
18歳人族の受付嬢が小声で諭してくれる。
「貴重な魔法使いなんだから死んじゃだめよ。特に最初は無理しないで」
はい、わかってますって。
ギルドでは特に絡まれたりすることはなかった。
G10級の依頼はろくなものじゃなかったので無視だ。
ギルドを出て、冒険区をぶらぶらして宿屋を見てまわり、比較的安価な平はたご
という格付けの安心亭にチェックインした。一泊銅貨1枚、食事は粒銅4つのを
3人前頼んで俺とハナで食した後、一人分は食料空間にしまった。
パンと肉野菜のスープ、肉野菜炒めという感じの料理で、まあ悪くはないけれど、
新鮮な魚や獣肉の焼きたてにかぶりつく方が美味しかったかな。
借りた部屋は、6畳くらいの広さで粗末なベッドが一つあるだけだ。
この部屋の環境をそっくりコピーして、亜空間を一つ作る。
蘇りの部屋と名付けてみた。
最初の洞窟の穴部屋の依り代を解除して、新たに蘇りの依り代を作り直す。
短剣で髪の毛をひとつまみ切り取って糸でしばり、蘇りの部屋の方のベッドの上に
安置した。俺が現実空間で死んだら瞬間にこの亜空間で蘇るはずだ。
一度きりだし、完全体で復活の保証はないけれど。それでも最初の時よりは俺のレ
ベルもあがっているので少しは安全になっているはずだ。
午後の時間を使って、さっそく迷宮に入って効率的に経験値を稼いでレベルを上げ
よう。基礎値全体を底上げして特に今弱点になっている活力の数値をもっとましな
ところまで引き上げよう。
死なないために大事な現在の一番の課題はそこだと思う。
迷宮は街の西門の外にある。
俺は宿を出て西門へ向かった。




