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後日譚 五輪5

今回で五輪、最終回です。

自宅の自分の部屋でのんびりテレビを見ている。

隣には肘枕で横になり、ポテチをつまみながらコーラを飲むたまも。むせるぞ。

「五輪ハイライト、藤堂創スペシャルの後半が始まるよ」

「ああ」


「400m決勝です。藤堂選手、400mは鬼門と公言してます。大丈夫でしょうか」

「準決勝の走りを見る限り問題ありませんよ。ただ他の種目とのスケジュールの問題はありますね」

いや、そういう問題じゃないんですが。

最終コーナーまで状況が分からないのが鬼門なんです。

それに決勝となると、最後に流すというごまかしが許されないのがまたキツイ。


「スタートです。藤堂以外はキレイに揃ったスタート。藤堂いつものように遅れています」

「このあと伸びるのが藤堂です。しかし今回はあまり伸びが感じられないですね」

前方に優勝候補がいたのでそっちをマークしてたんだけどね、まさか彼の調子が今一つとは。

「コーナーを抜けて最後の直線、藤堂は4位か5位か」

ここはねー、しまった差が付き過ぎたか、と悩んでたねー。


「伸びる伸びる驚異のスピード、一人抜き二人抜き、2位、前にはあと一人、届くかー」

「大丈夫です、行けます、行け、イケ――!」

「ほとんど同着でフィニッシュ―」

「抜いたように見えましたよ」

「結果出ました。藤堂1着43秒02、世界新。2位と100分の1秒差、2位はこれまでの世界記録タイです!」

危なかったけど、結果オーライ、いいレースになった。

*****

「100m決勝です。4コースはジャマイカのウサギン・ボルタ、藤堂は3コースここまで3位の記録で決勝進出しています」

「ボルタは9秒58という驚異的な世界記録保持者です。藤堂君、どこまで食い下がれるか、そして自身の日本記録をどこまで伸ばせるかが注目ですね」

ボルタねー、でかいし、変なオーラを放ってたよ。兎人の末裔だと俺は思うんだけどね。


「スタートした、ボルタ遅れている、藤堂更にその後方、藤堂現在最下位か」

いやー、100mはフライングも結構あるから3~4位くらいで出ようと思ってたんだけど、みなさんスタート早いし揃ってたしで、このていたらく。


「ボルタ抜け出した、大きなストライドで更に加速する。そして藤堂が出て来た、藤堂抜ける、藤堂も早い」

「イケー、うぉぉぉー」

「ボルタか藤堂か、藤堂抜いたか、抜いた抜いた、藤堂トップ」

「おぉぉぉぉー!」

「藤堂1着~~~、日本人が、東洋人が、15歳が100mで金メダル~~、人類最速の証明~~!!」

「やったやったやったーー!!」


「あはは、この解説の人、全然解説になってなかったね」

うん、でもね、それだけ興奮するに値する事件だったってこと。

「そして記録は…9秒51!出ました世界新です!!」

「2位のボルタも自己新の9秒56、会心のレースでした!」


「ボルタが藤堂をハグして讃えます、頭にポンポンと手を当てています」

いやアレね、結構痛くて悪意を感じたんだけど、今見るとにこにこしてるし、親愛の現れだったのかな。

*****

「200m決勝です。藤堂はここまで金6個。7個目の金を狙います」

「狙えますよ。記録も期待できます。ボルタとの一騎打ちになりそうですね」

「ボルタは200mを最も得意としています。記録もここまではトップ。藤堂は2番めの記録」


「スタートしました。藤堂少し遅れています」

「藤堂君、スタートが遅いのが玉に瑕ですが、フライングを心配しなくて済むのがいいですね」

「藤堂スピードに乗る!コーナーを出て直線に入り、現在トップです!ボルタが続く!」

「藤堂、このまま行くと凄い記録が出ますよ!」

この時はね、やば、速すぎたかと思ってました。


「藤堂すこし失速したか、ボルタが追いつく並んだ、そしてああー、抜かれたかー」

この時はね、やば、落とし過ぎたと思ってました。

「しかし藤堂再加速、速い、速い、再びボルトを抜き去る~~」

「2段目のロケットに点火したかのようですねー、イケ――!!」


「藤堂1着!記録は…19秒11またも世界新ー!」

「ボルタの19秒15これも自身の世界新を0秒04縮めてますよ。いいライバル関係ですねー」

「ボルタ選手、またしても藤堂選手の頭を叩いています」

この時はね、まじ痛かった。やっぱり顔も笑って無いじゃん、こめかみに血管浮いてるし!!

*****

「槍投げ決勝です。藤堂の8個目の金と世界新が注目です」

「夢の100m台、出して欲しいですね」

「藤堂のフォームは独特ですねー」

「ええ、スローが出ますね、まず、ゆったりとした助走、上体を立て視線を動かさないままで、柔らかくリリースしているように見えますが、腕の振りは速いです。そしてこの低い弾道、これは全く異質です。なぜこれで距離が出るのか不思議ですねー。そして毎回エリアのほぼ真ん中に槍が突き立ちます」


「的があれば当りそうな感じですね」

「ええ全くです。無駄なほど正確な投擲です」

いやいや、槍投げって本来そういうもんじゃないの?


「藤堂現在2位、次が最後の投擲になります」

「チェコのヤムが、先程の素晴らしい98m23の投擲でトップに躍り出ました。これを抜けるか。藤堂君、もっと高い弾道で投げてくれれば軽く抜けると思うんですがねー」

この時は、100mぴったりを狙って集中してました。


「藤堂いつものようにゆったりと助走に入り、柔らかく投げた!弾道は低い、いつもの弾道だ!」

「や、これは伸びますよ。槍の速度が違います」

「伸びる伸びる、ぐんぐん伸びます」

「これは行きますね!」


「ヤムのラインを超えて、100m付近に突き刺さる!」

「100を超えましたか!!」

「記録は100m02、世界新です。100m越えの大投擲~~!藤堂8個目の金~~!!」

惜しい!2センチずれたー。

*****

「さあ、日本代表が登場します。予選でも見せたあのパフォーマンス来ますかね」

「サムライをイメージした抜刀のパフォーマンスです。やりますね」

「おっと、今回は抜いて斬って、4人で刀を合わせて、鞘に納めます」

「いいですねー、場内でも受けてます。藤堂君なんか、まるで空間を斬ったのが見えたかのようでした」


「藤堂にいい位置でつなごうぜ!」

リーダーの山梨さんが言う。

「「おおっ!!」」

「そしたら藤堂、あとは頼むぞ」

「はいっ!」

この3人のためにも絶対勝つと誓う。


「スタートしました。1走はスタートのいい山梨。いいスタートです。ジャマイカ、アメリカに次いで現在3位」

「いい位置にいます。いいですねー」

「2走はオックスフォード飛蝶、スムーズにバトンの受け渡しがなされます」

「オックスフォード君は今大会好調ですよ」


「3位のまま3走の桐谷につなぎます」

桐谷さん、左太もも裏を痛めてるんだよね、心配だ。

「桐谷やや遅れたか?しかし懸命にバトンを今アンカーの藤堂にぃ渡した!」

「バトンゾーンを一杯に使って最後尾で藤堂に渡りました」

「藤堂、バトンゾーンの集団を抜けて、現在3位!そしてアメリカに追い付く」


「抜きました。2位。トップのジャマイカはかなり先行しています。しかもボルタ」

「あっ、藤堂、加速した!な、なんだこりゃあ??」

「速い速い、これが人間かーー!?」

「追い付いた、抜いた、ゴーーール!!!」

「恐ろしいまでの速さでしたねー」

「記録、36秒23、またしても世界新ーー!」


「創、やり過ぎ?」たまもがにやにやして尋ねる。

「いやー、みんなのために勝つって決めてたからねー」

しかしこのリレーのせいで、検査に引っかからないハイテクドーピング疑惑、背後から背中に空気砲疑惑、人造人間疑惑などがこの後しばらくネットを賑やかすことになる…。

*****

それでもね、リレーは楽しかったよ。メンバー4人で熱く盛り上がったし。

問題はこのボクシングだ。ホント悪夢だった。トラウマになりそうだ。


「スーパーヘビー級決勝です。ここまで共に全て1ラウンドノックアウト勝ちの両者です」

「閃光の秒殺王こと我らの藤堂、対するは恐怖の破壊王アルメニアのゴルゴンです」

「ゴルゴン選手の対戦相手はですね、全員負傷してるんですよね。体重差のある藤堂君ですから、一発でもあたると、どうなるか分かりませんよ」


「さあゴングがなって第1ラウンド開始です」

「一瞬も目が離せません」

「あっ、ゴルゴン選手、突進します。これを捌きながら藤堂、ボディに1発2発入れる、そして顔面にストレート。しかしゴルゴン倒れない!」

「藤堂下がりながらのパンチですし、ゴルゴンのガードの上からのストレートですからね」


「ゴルゴンさらに前に出る。ゴルゴンのフック、躱して藤堂がカウンターを当てる。倒れない!」

「ゴルゴン笑ってますね、タフな選手です」

こいつ、何て頑丈な奴。普通基準の人間用パンチじゃ倒せないぞ。

しかも、突進しながら頭突きをかまそうとするし、足を踏もうとするし、肘うちを狙うし、汚い!


俺が下がりながらコーナーを背にして回り込んだ時に、唾を吐き掛けれらた。俺の眼を狙いやがった。

もちろん躱したが、カッと来た。

その鼻柱にパンチを叩き込んでやろうとしたら、突進の勢いのまま頭を突き出して来る。一番硬い額の部分を俺のパンチの軌道上のヒットポイント手前に出して、こっちの拳を痛めつけようとしてやがる。


ふざけるな!頭に来た。

つい本気でパンチを出した。闘気も理力も使ってはいないが、世界中が注目する試合で本気のパンチ。

はっと我に返った時には、ゴルゴンの頭のあった位置を打ち抜いていた。

赤っぽいものが飛び散っている。なんだこれ?

『衝撃波が発生した。パンチが速過ぎた』ジョーが教えてくれる。

ゴルゴンの頭部は爆散し、鎖骨と肩の一部も破壊されている。

頭部を失ったゴルゴンの体がゆっくりと仰向けに倒れる…。


しまった!衆人環視の下で公開殺人を犯してしまった!!

血の気が引く。まずいまずい、どうしよう…。

『慌てるな。巻き戻しだ、巻き戻しを使え』

そうだ、非常事態だ、魔法を使わないなんて言ってられない。


「巻き戻し発動!」

ギュルギュルと動画の早戻しのように周囲が逆回転している。

飛び散った赤白の欠片が集まり、ゴルゴンの頭部が形成され、俺の立ち位置も戻って行く。

ゴルゴンの唾が口に戻る。

さあ仕切り直しだ。


俺はステップを踏みながら下がり、コーナーを背にする。

ゴルゴンが唾を吐く。

余裕でそれを躱し、コーナーを脱出する。

いったん距離を取ると見せて、ゴルゴンの呼吸に注意を集中する。


唾を吐いて肺が空になったため、不用意に息を吸うゴルゴンに、素早く接近して、強烈なボディブロー。

奴の体が浮く。肋骨2本が折れたと思う。

が、奴は気に留めていないようだ。

ガードの上から少し強めのフックをテンプルに。

手の甲と側頭部の頭骨にひびが入ったはず。

なのに奴は怯まない。


これはダメだ。殺さない限りこいつは止まりそうにない。

しかたない。

拳に電圧を掛けて、電撃を加味したパンチ。

これは効いてる。体がビクッと反応する。しかし倒れない。


電撃パンチ、衝撃波。さらに強めの電撃。

ゴルゴンの意識が刈り取られる。

しかし、こいつ、まだ立っている。動いている。攻撃して来る。なんて奴!


仕方ない、重力攻撃。1トンの力を掛ける。リングが壊れないように下からは反重力で支える。

潰れるようにがっくりと膝を折るゴルゴン。

…良かった立ち上がって来ない。

レフェリーがカウントする。

テンカウント。終わった…。


重力の拘束を解く。起き上がって来ない。良かった。

ゴルゴンに治癒を掛ける。まだ失神したままだ。

怪我は直しておいたから、どうかそのままで。立ち上がって暴れるなよ。

はぁ…。


「ねぇ、ねぇ、これ魔法とか使ってなぁい?」

たまも、うるさいよ。こっちの苦労も知らないで。

「これはね、いいの、しょうがないんだよ。殺人したくないもん」

はぁ。世の中、化け物のような人間がいるんだなぁ。まったく。

*****

とにかく、オリンピックは無事?終わった。

金メダルは10個とれたし、世界新記録は8個も樹立したし、軽量でありながら柔道無差別級とボクシングスーパーヘビー級を制するという偉業も達成した。

みんな喜んでくれたようで良かった。

一部疑惑を疑う人は熱心に暴露作業に勤しんでいるようで、それもまあネタを提供できてよかったかな。


「藤堂さん、大会を振り返っていかがですか」

「いやー、世の中広い。とんでもない人がいるもんですね」

「それをあなたが言いますか!?」

いやまじで。

もうオリンピックはこりごりです。








五輪がちょうど5回で終わって良かったですw


後日譚、まだ書きたいテーマはあるんですよ。

タイムトラベル絡みとか、ライザのその後とか、ダーク人ダルさんの話とか、ウルティマ誕生秘話とか、プルリンの秘密とか。


でもとりあえずしばらくは、本作品は休筆します。

ここまで本作品をお読みいただきまして、ありがとうございました。

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