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後日譚 五輪4

夜の9時頃から陸上400mの予選だ。

これの何が厄介かって、セパレートコースということだよ。

まず、自分が勝ってるか負けてるかが分かり難い。

そして、最大の問題は自分の後方のランナーを確認できないということ。


他者の様子を見て自分の速度調整をしたい俺にとっては、最大の鬼門なのだ。

今日の予選で俺は2レーン。内側から2番目だ。ほとんどの相手は後ろだ!

しょうがないので100mを11秒で走るペースを守るように心掛けることにする。

でもね、スタートの混じる最初の100と次の100じゃ条件が違うし、カーブが入ったりもするし、風の影響もあるし、第一ぴったり同じペースで走り続けるなんて出来やしない。


「さあ、いよいよ藤堂選手の陸上が始まります。スタート!藤堂遅れたか!?」

「藤堂選手、陸上競技でもスタートは後方からですね。ここから追い上げるスタイルです」

「藤堂なかなかスピードに乗れない、現在は4位かあるいは5位か」

「藤堂君、スタミナに不安があって、400は今大会出場種目中、最も苦手ということでしたねー」

「コーナーを抜けて、最後の直線に入る。藤堂6位。予選突破のためには着順2位に入っておきたい!」

「さすがにですね、今日一日柔道無差別級をこなしてますからね。きついと思います」


「おわぁぁ!藤堂加速!速い速い驚異の速さ!あっという間に1人、2人、3人、5人をごぼう抜きでトップだぁ!」

「藤堂君ならやってくれると思いました。このままなら世界新が狙えますよ」

「おっと、藤堂失速~~。一気にスローダウン。しかしゴールは目前、このまま逃げ切れるか~」

「さすがにですね、今日一日柔道ですから、スタミナは持ちませんよね」

「フィニッシュ、3人がほぼ同時にゴールイン。藤堂の順位はどうか~~?」

「異種目エントリーはこれがありますからね。藤堂君の実力を発揮した走りが見たかったです」


「ゴールの瞬間の映像が出ます。ほとんど同時です。しかし数センチ差で藤堂がトップか!」

「角度を変えると、え~とどうなんでしょうか」

「結果が出ました。藤堂1位です。タイムは44秒88。予選通過~~!」

「さすが藤堂君ですね、やってくれると思ってました。タイムは藤堂君の自己ベストに及びませんが、着順で明日の準決勝に進めます」


「藤堂さん、危なかったですね!」

「はい、ヒヤヒヤでした」

「スタートから最終コーナーまで、今一つスピードに乗れませんでしたね、疲れがありましたか?」

「疲れはなかったです。こんなものかなと思って走ってたんですが、コーナーを出たら遅れてて驚きました」


「そこからのダッシュは驚異的でした」

「ええ、焦ってしまいました。あれはねー速度出し過ぎです」

「そして失速」

「ええ、あれもねー遅くなりすぎました。」

「それでも1位通過おめでとうございます。皆期待してます。頑張って下さい!」

ふーーっ、やばかった!

*****

8月12日金曜日。

今日はスケジュールが開いていたので観戦に回りたかったんだけど、役員の人から辞めて置けと止められた。まだたくさんの出場種目が残っているのに観戦に回ると、負けた時に叩かれるんだと。

じゃぁしょうがないので、クリエイトで警備の任務を果たしつつ、ちらちらと観戦するよ。

国際警察のバッヂも付けてるから警察官には敬礼されるし。


大会運営は概ねうまく行っている。

たまにマナーの悪い人もいるが、警備の腕章を付けたクリエイト(こと俺)が近づくと、それだけで大人しくなる。クリエイトは身長195センチの大男で態度も堂々としてて、ちょっと怖いからね。

というか、ほんとは威圧と委縮の精神操作を軽く発動してるんだけどさ、ふふふ。

「てやんでぇ!こちとら藤堂創と同じ日本男児だ!ガタイが良くったって怖くねぇぞ!」

むぅ、酔っぱらいのおじさんから、ここでその名が出るって…。


テロリストについては、準備されていた武器弾薬を見付けて消滅させておいたよ。

奴らは誰の仕業かと疑心暗鬼になっていたけれど、最後には『これが神の意思か』とかって納得してた、ははは。

悪気に侵された人はここにはいない。悪気はそもそも日本には少ないんだよな。

異星人は、オリンピック会場はもちろんのこと、今のところ太陽系のどこにも姿を現していない。

うん、大丈夫そうだね。

*****

8月13日土曜日。今日は一日陸上で大忙しだ。

まずは朝の10時に100mの予選。

ひとつ前の組でウサギン・ボルタが走る。注目のジャマイカ選手だ。

遅く出て、中間が早く、最後は余裕でフィニッシュ。

「うっひょー、なんちゅう余裕」これは尋常じゃないぞ。


たまもと念話で会話する。

『あれさ、兎人の血とか入ってない?名前からして怪しい』

『いや、うさぎは日本語だし。じゃが、兎人や鹿人がかつては生存していたらしいからの、あの様子を見るとあながち可能性は否定できん』

『だよね。ジャマイカ人は全般的にバネが普通じゃないよな―』


なんてことを話しているうちに俺の組の番だ。

100mはスタートが大事だ。余り遅いとその後の展開が変なことになる。

集中して…。

スタートの合図きた!誰かが反応する、2人目3人目ほとんど同時だ、よし出る!

4番目か5番目のスタート、これならフライングを取られることはあるまい。


徐々に加速して50m地点でトップに立つ、巡行速度で更に少し差を広げて、80mあたりからは、他の組のトップ層の選手の真似をして力を緩める。それでも後ろの気配には注意を怠らない。

400予選のようなこともあるからな。


密集しているので音で大体の位置関係は掴める。

後続が追いすがって来て、それでもなお、余裕の差があることを確認しつつ、1着でゴール。

タイム10秒02。うん、まあまあいい感じじゃないの。

日本男子代表は俺を入れて3人全員予選を通過した。うん、よいではないか!

*****

続いて、走り幅跳び予選。

会場の移動が無くて楽ちんだのー。

100mはトラック、走り幅跳びは同じ会場のトラックの中のフィールドで行われる。

予選は3回跳んで、記録順に8位までが夜の決勝に進む。


8メートル50も跳んでおけば決勝進出は大丈夫だろうとのことだ。

1回目の跳躍、踏切版を超えるとファールになるので、余裕を持って手前で飛んで8m40。

1回目全部が終わった時点で3位の記録だ。

どうしようかな、これで終えてもいいんだけど、もう少し精度を上げておきたい。


狙うぞ8m50!

ジャンプ、踏切りはよし。でも風の影響で少し狂ったかな。

記録8m45。ううむ、10センチ単位で精密に合わせるのはちとムズイな。

記録は2位。予選通過は確定したので3回目の試技は棄権しておいた。

すぐに100mの準々決勝だしね。


ということで、トラックに移動して100mの準々決勝。

予選と同じ作戦で1位通過を果たし、記録は9秒97。

日本人同僚1人は残念ながら通過ならず、俺ともう1人の2人で明日の準決勝に臨む。

*****

午後は一休みして、夜8時、400mの準決勝。

幸い最後尾の8レーンからのスタート。

よし、全選手を目視しながら走り、そのペースを体に叩き込むぞ!


最初のコーナーを抜けて、トップはあいつ、俺は2位か3位。いい位置だ。この感じだ。

直線で差を詰めて、今僅差でトップかな。

斜め前を行くランナーを次々に抜いて、トップでコーナーを抜ける。

ここからは100mの経験が生きる。

後続の気配に集中しながら巡行速度で少し差を付けて、残り30mでは脱力して、それでも1位でフィニッシュ。

よし!完璧なレース展開だった。明日の決勝もこの調子で行きたい。

*****

今日はまだあるんだよ。走り幅跳びの決勝。

世界記録が8m95だからこの辺りを狙いたいね。

9mを超えるのは、ちょっとアレだから避けたいところ。


「さあ藤堂2回目の跳躍、1回目は8m65。現時点で2位です。助走に入ります。スピードに乗って、跳んだー8m83トップに出ましたー!競泳100、200、柔道無差別級に続く4個目の金が見えて来たー!」

「金もそうですが、世界新を狙って欲しいですね!驚異の記録と言われる8m95を、26年振りですかね、塗り替えて、夢の9m台を見せて欲しい」


せかいしんー!せかいしんー!!

「場内盛り上がっています。ああまたもウェーブが起きています。フィールドに立つ藤堂。会場の大きな声援に手を上げて応えます。そして無造作に助走に入り、速度を上げて、ジャーンプ!跳んだっ!大ジャンプ!これは行ったか!!」

「行きましたね、9m超えてますね、踏切りはどうでしょう?」


「旗は白です。今スローが出ます。ああ、大丈夫です」

「むしろ、余裕があり過ぎですかね。ちょっともったいない」

「さあ、記録が出ます、出ましたー9m11。夢の9m台。驚異の驚異の世界新ーー!!」

……やばいっ。やっちまった!


五輪、なかなか終わりませんw

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