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合体魔獣と凶獣組

拳の素早い連続攻撃が襲ってきた。

巨体からの重いパンチだが、速さも相当なものだ。

そして手が6本あるだけに回転が速い。

しかしながら、それらを回避するのは、さほど難しくは無かった。

俺には武術スキルもあるし、更に今は超闘気を纏っている。


おや?回避したのに衝撃が来る。これはあのピスの追爪のような回避不能の追加攻撃だ。

ピスの追爪よりも威力が大きい。が、俺の超闘気を突破するほどではない。

実質的なダメージが無いので、そのまま回避行動を続けつつ、追加攻撃は超闘気に任せて受け流した。


しばらく同様の攻撃が続く。おかしいな、連打連打で単調だ。

全くダメージを与えられていないのに、変化や工夫が無い。

第一、打撃自体が本能的に過ぎて、技らしさがない。

なんかタイセーらしくないぞ。


「どうした?らしくないぞ」

「ガァァァァー!」

まともな返事もない。意識ははっきりしているのかな?

タイセー達が合体した魔獣を精神感応で探ってみると、破壊衝動で溢れているだけで明瞭な意識は感じられない。

そうかこいつは意識を保ててないただの破壊の権化なんだ。

禁じ手と言っていたのはこういうことか。


むむ?魔獣が腕の毛をむしり取って息で飛ばした。6本腕のミニ合体魔獣の分身が大量生産される。

小さいと言っても巨猿に比べればの話で、実際は身長170センチ程度の普通サイズだし、360度死角無しの極めて戦闘力の高い分身達だ。精強無比の軍隊と言える。

こんなのに暴れられたら大変だ。普通の街や国なら陥落しちゃうんじゃないか。

いちいち相手をするのは面倒なので、一括選択して遠隔行使で一網打尽に虚空に飛ばし、分身体全員を「消滅」させる。


親玉の魔獣はというと、2本の腕を組んで印を結び、他の腕の一本で、さっと天を指した。

と、頭上に大きなエネルギー反応が発生する。

咄嗟に絶対防御結界を張ると、そこに高エネルギーの光の柱が落ちて来た。

結界がしっかり吸収してくれて転気出来たが、かなりの気量になったぞ。随分強力な光柱だ。


この理性のない合体魔獣を好きに暴れさせておくのは危険だな。

ハナやプルリンにも害を為しそうだ。

早めに倒してしまおう。


まず、ウルティマ剣で腕を斬りつけてみる。

ガチン!鉄の塊のような手応え。一種の闘気なのか、表面が相当硬化されている。

鉄を斬るつもりで、もう一閃して腕を一本切り落とす。

しかし瞬時に切り口から腕が生えて再生する。しぶとい。


「よし、そういうことなら」

時空超越を発動して、高速回転する腕をかいくぐり、水平に剣を走らせて、魔獣の首を切断する。

切り離された頭部が斬った勢いで回転しながら空中にあるが、まだ生命反応は消えていない。

間髪を入れずに剣尖を返して、垂直に素早く斬り下す。

頭部のこぶにあるゴゾーとハッサンの顔から刀身を入れて、奴らの顔ごと合体魔獣の頭部を両断した。


これで死亡判定が入った。

頭部も含めて全身が光の粒子と化して消滅する。

勝った。それにしてもなんて危ない奴!


「いやいや、全然敵わん。この間もたいがいだと思ったけど、更に桁違いに強くなってる。兄さんどういうこと?」

「それよりも、タイセー、あの合体技は随分危ないね」

「だから禁じ手。昔あれで国を滅ぼしかけて大目玉くらった。でも今回は兄さんのこと信用してたからさ、実際大丈夫だっただろ。ははははは」

なんと能天気な。まあちょっとドキドキして楽しかったけど…。



「スライムちゃん、妾は兎人国におる。遊びに来てくれて良いぞ。『と。』と言えばすぐ分かる」

「うん、うさ耳ちゃん、いや、えっと『と。』ちゃん。僕の名前はプルリンだよ」

「プルリンちゃん、それじゃあまたね」

ふふふ、プルリンに友達が出来たようだ。


ウルマ迷宮地下60階はこれにて制覇完了。

ウルマ迷宮強者階仕様で3人とも仲良く1レベルアップした。

タリム迷宮であれほど連戦したのにレベルアップ出来なかったのと比べると、ワンフロアワンレベルアップ制は有難いな。

*****


「さて、迷宮を出たらどうしようか」

「兎人国に行こうよ!」

「いいよー、その後で狼人国にも顔を出したいな」

「よし、ならば獣大陸へ。まずは西側の兎人国へゴー!」


ということで、やって来ました兎人国。

「うわー、兎人国は発展してるねー!」

「うん確かに。都会っぽい」

狼人国は村風だったけど、兎人国の王都は立派な中世都市という感じだ。

『兎人は勤勉で繁殖力も高いので、兎人国は繁栄している』

なるほど。


兎人は体が小さい。男性で平均身長は120センチから130センチくらいだろうか。

熊人や虎人の2メートル近い大男がうろうろしていると、遠くからでも凄く目立つ。

俺は5歳児バージョンで身長120センチ、ハナは幼女バージョン、プルリンはハナの肩に乗っかれるサイズになっている。こうすると俺達は兎国サイズに凄く馴染む(笑)。


繁華な商店街を歩きながら、パン屋で美味しそうなパンをいくつか購入した。

パン屋のおばさんにプルリンが尋ねた。

「おばさん、『と。』ちゃんって知ってる?」

「姫様のことね。『と。』姫は兎人の希望の星ですから知らぬ者はいませんよ」

「そ、そうなの?それで『と。』姫はどこにいるの?」

「姫様はあそこに見える宮殿にいらっしゃるでしょうね」


おばさんの指す方角を見ると、小高い丘の上に立派な宮殿が見える。

親切なおばさんに礼を言って、宮殿方向に歩きだす。

「なんか立派な建物ねー。姫だなんて凄いわね」

「ハナだって実は女王じゃないか。狼人国の宮殿も味わい深くて俺はいいと思うぞ」

「あ、忘れてた。あたし、そう言えばそうだったね。えへへ」

俺もいつもは忘れてるんだけどね。



ガラガラガッシャーン!!後方で大きな音がした。

振り返ると、パンを載せたワゴンがひっくり返されて、パンが地面に散らばっている。

「ばばぁ、なんの嫌がらせだ!」

「このやろう、ふてぇ奴だ」

牛頭と馬頭の大柄な男が暴れて、パンを路上にまき散らしている。

パン屋のおばさんは、地面に倒れてぶるぶる震えて固まっている。


おばさんに駆け寄って助け起こす。

「どうしたんですか?」

「パンのサイズが小さいって文句を言って…」

「おうよ!わざと小せぇのばかり寄越しやがって」

「そうなんですか?」

「いいえ、兎人国では普通サイズです」

「うるせぇ!」


気が付くと、下卑たにやにや笑いを浮かべたガラの悪い獣人の男達が2~30人ほど遠巻きにこちらを見ている。

そして青い顔をした初老の兎人が影からプルプル震えてながらこちらを見ていた。胸には商店会長の名札。

「あ、会長さん、助けて下さい!」

「パン屋さん、それは無理。だから用心棒契約を結んでおきなさいと…」


「そこのパン屋は契約外だから俺らは知らんよ」

にやにや笑いの男達のかしららしき奴がいい、残りが頷く。

鑑定してみると、パン屋さんに悪さをした男も、遠巻きのにやにや笑い達もみんな凶獣組の組員だ。


「マッチポンプのみかじめ契約か。古典的なやくざだな」

「なんだか分からないけど、悪い奴らなのね」

「親切なおばさんに悪さをして。許さないぞ!」

プルリンが身長150センチ程の大柄な兎人の若者に変化へんげして、馬男の前に立ちふさがる。


「てめぇ、邪魔だっ!」

馬男がプルリンの腹を殴りつけるが、弾力たっぷりのプルリン体にボィンと弾き返される。

次の瞬間、馬男はくるりと反転して、後ろ蹴りでプルリンの顔を蹴る。

しかしプルリンが全身を硬化させたので、鉄の塊を蹴るような衝撃に耐えられず、馬男の足が無残に折れて、足先があらぬ方向を向いている。

「ありゃ硬ぇ。うあ!?お、俺の足がぁ」


そこへ加勢しようとする牛男。プルリンを角で突こうと、頭を下げて突進しかけたその角を、俺はむんずと掴んで角先を下に向け、そのまま力任せに地面に角を突き刺した。牛男を逆立ちの貼り付け状態になって身動きできなくなっている。

「うわぁぁー、助けてくれィ」

牛男は足を宙でバタバタさせながら情けない声を上げる。


「仕方ねぇな、パン屋とは契約はねぇが、商店街を荒らすワルは退治しておくか」

凶獣組連中がじりじりとこっちに歩み寄り距離を詰める。

「ワルはお前たちだろうが」

俺はパン屋のおばさんの前に立ちふさがって、おばさんをかばう。

屈強な兎人に変化したプルリンと、幼女型で臨戦態勢をとるハナが、凶獣組員達を迎え撃つ。


「プルリン、ハナ、こいつらは犯罪者だ。容赦しなくていいぞ」

「うんっ」「分かったー」

「なんだお前ら。容赦しないのはこっちだっつぅの」

「「がはははは」」


兎人の大観衆がこわごわと遠方から眺めている。野次馬、いや野次兎だ。

兎人は臆病だなー、みんなプルプル震えてる。

全く、臆病で非力な兎人に付け込むとは、悪質な奴らだ。

お!?新たに大勢の凶獣組員が駆け付けた。どこに潜んでたんだこいつら。50人以上はいるぞ。


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