多士済々結界族
地下43階の扉を開けると、水の壁があった。水槽ではなく、水の壁だ。
ちゃぷんと壁の中に入ると、そこは海中だった。サンゴ礁の美しい海だ。
迷宮の各階層は亜空間だから、ある程度の空間創造能力があれば、容量や空間内の性質は自由に設定できる。
タミル迷宮も、ウルマ迷宮のような本格派迷宮になったということだな。
海中に待ち受けるのは魚人族。完全な人型を採ることも出来るが、本来は下半身が魚で上半身が人だ。
女性の人魚が有名だけれど男性も同形だ。
女性は小型のハープのような楽器を手にし、男性人魚はムキムキで二又の槍を持っていてなんだかケンタウロスのような雰囲気。
「うふふふふ。楽しんでいって下さいね。ララららラ~♪」
人魚がハープをかき鳴らしながら美声を聞かせる。体に震えがくるような美しくも儚い音。
じっと聞いていたい。戦いなんてどうでもいい。
という気になるということは、これは精神操作か。
男性魚人も二又槍から妙なる音を奏でながら迫って来る。
こちらの音波は物理的に体を硬直させる効果がある。
このまま音に体を委ねていたいと思う気持ちを振り払って、この死地を逃れる。
美しい男女は、やっぱりねという感じににっこりしながら、何らかの気配を発する。
発せられたのは水魔法だ。
空気中での風魔法が視認しにくいように水中の水魔法も見えない。
そして空気よりも密度の高い水だけに、威力も大きい。
女性人魚が水の檻で俺を捉えたところへ、男性魚人が超速の水の槍を打ち込んで来た。
力尽くで檻を破って逃れる。水槍が通り過ぎた後には衝撃波が残った。水中でも音速を超えると衝撃波が出るんだなぁ、と感心している場合ではない。
どうやら水中衝撃波は遠隔で自在に操れるようで、周囲で打ち上げ花火が炸裂しているような状況になってきた。
音の精神操作と、見えない早い強いと三拍子そろった水攻撃、それに加えて花火のような衝撃波。
これを受け続けるのはつらい。
超闘気の保護があり、対水人戦を経験している俺なので、耐えられなくはないけれど、それでもつらい。
さて、そろそろいいかな。
魚人達の周囲限定で、水の温度をぐっと下げる。
彼らは素早く泳いで移動するが、転移はできないようだ。
低温で動きが鈍るとともに、水も凍って動きにくいため、低出力の熱操作でも徐々に氷が彼らを捉える。
そのまま一気に、彼ら周辺域の温度を絶対零度近くまで低下させる。
2人の生命反応が消えた。これで決着がついた。
「本気を出されると、水中でもまるで敵いません」
「水中での水魔法や衝撃波は良い経験になりました。音による精神攻撃も、気を引き締めてないと取り込まれそうですね」
「まあ、お上手ね、うふふふふ♪」
それそれ、その声が危ないって。
*****
44階は、凄まじい低温の世界だ。極地風の雪と氷の白い世界。
「主様、ようこそ我らの楽園へ」
雪人の女性は、白い着物を着た銀髪の長髪の女性で美人だが目が赤い。男性の方は毛深くて、いわゆる雪男だな。
極寒の世界のはずなのに、美しい花の咲き乱れる快適な草原に見える。そこには可愛いうさぎとイタチが遊んでいる。思わず寛いで一緒に遊びたくなる。幻視か。
こんなところで寛いでたら、凍死間違いなしだ。
幻視を無理に打ち消さず、幻視は幻視として楽しみながら、レーダーゾーンで戦うことにしよう。
細かい針状の氷が吹き付けて来る。超闘気で難なく防げるが、氷の針に紛れて鋭い風刃が襲う。
風刃の方は、ひょいひょいと身をよじって回避する。
足下から冷気が這い上がり、足を地面に氷で縫い付けようとするので、熱操作で溶かして無効化する。
周囲の温度は急激に下がって絶対零度に近くなっているようだが、俺の快適空間に侵入することはできていないので全然へっちゃらだ、というか幻視のお花畑にマッチした快適さだ。
彼らの攻撃手段は幻視と冷気と氷と風のようだ。
しばらくその状態を楽しんでいると、業を煮やしたの雪男が飛び掛かって来た。
物理攻撃としてはまあそこそこだ。アンソニーエンゾコンビにはきついかも知れないが、リーさん程ではない。いや待てよ、この極低温下だとリーさんは満足に動けるかな。
などと考えながら、雪男さんの背後をとって、手刀を一閃して倒す。
雪女さんはどうしようかな。高温で行くか。
熱ビームを発して、雪女さんを分厚い氷の盾ごと貫いてジ・エンド。
「主様はやっぱりモノが違いますね」
「いえいえ、あの極寒環境下では普通は満足に戦えないです。俺は自分の周りだけ自分の環境にしてました」
「結界を作る者同士では基本そうなりますよ。結界力の強さと結界の相性、その上でと地力で勝負ですね」
「なるほど、勉強になります」
魚人の水の世界と雪人の低温の世界とでは、水プラス低温で氷になるから雪人有利なのかな?
*****
45階は深い森の中、大小の木々が茂っている。時刻は夜で空には満月が煌々と輝いている。
ウォォォーンと遠吠えが響く中で宣戦布告がなされる。
「狼人の世界に足を踏み入れたからには、主殿と言えど無事には返しませぬぞ」
ザザザッと梢を鳴らして、2体の影が躍り掛かる。
早いっ!ざっと見で50倍速。今日ここまでのタミル迷宮で最速だ。
打撃は力強く、動きはトリッキー。木の幹や枝を上手く使いこなした三次元攻撃だ。
これは、ウルマ迷宮のマンティコアの空中殺法風だな。
いやー、でもですね、俺は超獣戦士などと名乗る狼人のハナさんと日頃から戦闘訓練してますから。
どんなトリッキーな動きも素早い攻撃も、俺には通じない。
余裕で躱しながら、狼人2人の攻撃の特徴を観察する。
この速さ強さの秘密は理力だ。理力を闘気的に使いながら、時折拳の射程を伸ばしたり、理力のみの触手攻撃を加えたり、理力で空中に足場を作ったり、理力弾的な飛び道具を交えたりしている。
それなりに完成された戦い方であり、尋常ならざる強さだと思う。
でも俺もそっち方面で修行を積んで来ましたからね。
御同胞の攻撃を散々受け切って、やや疲れの見えて来たところで、後頭部へ手刀一閃、二人連続で決める。
これで勝負あり。
「あれ、おかしいな?」
「主殿強過ぎ。満月の夜の森の狼人を、物理戦闘で手玉にとるとか化け物過ぎです」
「いやあ、俺もそっち方面で毎日修行積んでるからですよ。狼人さん達は勇者達の物理戦闘の良いお手本になりますね」
実際、魚人や雪人と戦うには結界力をつけなければならないから、リーさんを倒したら次の目標は狼人さんだろうな。
「ここだけの話、リーさんや遊撃隊とは、満月の日以外はやりたくないですよ、ははは」
*****
46階は氷漬けの広い洞窟。鍾乳石なのか氷なのか、天井からは尖ったつららが垂れ下がり地面からは筍のような氷の棘が生えている。暗い。僅かの蛍光に氷が冷たく輝く。
「いざ」と一言、どこからともなく発せられた。
とたんに、天井のつららと地面の筍が伸びたり、切り離されて飛翔して襲い掛かる。側面からは岩と氷が槍やつぶてとなって押し寄せる。
そして闇という闇、影という影から、次々に様々な闇系の武器や生命体が生み出されては攻撃してくる。闇から生まれた闇そのものの生物、それ自体が闇であり、さらにそこから闇系の何かが派生する。
デーモン族は2名だけのはずだが、闇満載の賑やかな攻撃だ。
闇魔法と、氷、土の魔法だな。
おっと、賑やかな攻撃に目を奪われているうちに、闇が俺の体を浸蝕して来たぞ。
これは一種の原子破壊なのか、体細胞が闇化する。
僅かに浸食された分を急ぎ再生させるとともに、絶対防御結界を張る。
「おお!?」なんか、ざわめいている。
次の瞬間、氷、土、闇の魔法が怒涛のように押し寄せた。
しかし、絶対防御結界に阻まれて、全てが俺の気に転ずる。
「おおおおぉぉ!!」ん、なんと言うか歓喜のどよめき?
デーモン族の攻撃が止んだ。
二人とも岩壁の中に同化して身を潜めている。
周囲の岩ごと、反物質爆縮で消滅させて終了させた。
「主様の闇は闇の中の闇。我らでも見通すことが出来ませなんだ。主様は伝説の闇の王?」
「いえいえそんな大それた者ではありません。あれは光も丸ごと吸収する結界なんですよ。それにしても見事な闇の使い方。感服しました」
闇から闇を生み出すやり方や、闇化する攻撃方法など、ユリアに学ばせたい。
*****
47階は光り溢れる天界。下は輝く雲海で頭上には複数の太陽。
そして全方向から押し寄せる光で影が出来ない。
うーん、どうも光が直進せずに回り込んでいるようだ。
「主よ。不遜ながらお相手させていただきます」
「いや主って。みなさん主って言ってますよ」
エンジェル族の持ち味は光魔法と風魔法、そして足下の雲を源とする雷撃。
特に光魔法は多種多彩でしかも強力だ。
光が羽や鳥そのものになって、直進のみならず曲進もしながら襲い掛かる。
む?もしやこれは。
やっぱり。光が俺の体を浸蝕し、体細胞が光化する。
これは、きっとデーモン族とエンジェル族が長年競い合い、結界力を高めてせめぎ合った結果の産物なのだろう。異常に強力な結界力だ。
今度も絶対防御結界を張ってしのぐ。
遊び心を出して、攻撃を転気した後に、吸収せずに無害な光として放射してみた。
「おおおぉ!?」
ふふふ、やっぱりどよめいてるぞ。
それっきり攻撃が止んでしまったので、中空に佇む二人を反物質爆縮で消滅させて終了させた。
「主の御結界の美しさには痺れました」
いやいや、それは照れます、あれは単なる遊びですので。
「デーモン族とはライバル関係のようですね」
「昼戦えば我らが勝ち、夜戦えば奴らが勝つので、なかなか決着が付かないのです」
なるほど、それで長年…。宿命のライバル関係だな。
見目麗しい光の天使、彼らには白石のお手本となって欲しい。
*****
時間がたっぷりあると思っていたけれど、連戦に次ぐ連戦でもう遅い時間になってしまった。
48階と49階は明日以降ということにして、タミル迷宮を後にする。
「結界族達は随分強いんだけど、どうしてずっと昔の人類に駆逐されちゃったのかな?」
『ザースの精霊族みたいな感じで、繁殖力の違いのせいだろう』
「それに人類との争いは果てのない虐殺になってしまって、そういうの耐えられないのよね」
とは、たまもの意見。
「気が薄い世界は結界族には住みにくいだろうしね」
そう言えば、地球の気の循環は正常化したけど、今後どうなるのかな?
びゅうぅぅぅー。あ、母星の登場だ。
《頑張れば数百年で良い状態にすることはできるけど、各種族が順応出来るように、千年単位でゆっくり変化させていかなきゃだわね》
なるほど、気の長い話しなんですね。
藤堂創 15歳 レベル114
称号 多頭竜スレイヤー
基礎値 筋力∞/敏捷性∞/生命力∞
気力∞/気速∞/気量∞/∞
SUN値 7424
ギフト ポイント75
残5
万象操作ガイド/時空超越/連鎖/表示操作/結界操作
圧縮/波動操作/次元操作/星格認知/転気/
超闘気/因果視/精神感応/巻き戻し/上限撤廃/
念体/索敵Ⅱ/自己確認Ⅱ/万物創造/発動妨害/
透過/遠隔操作/選択行使/分身/空間時間設定/
繭形成/ドリル弾/天翔/ギフト創造登録/式神/
再生/幽視/変化/転写/認識領域拡張/
魔法創造登録/罠対応/理力操作/熱操作/地操作/
空気操作/光操作/水操作/聖操作/闇操作/
素粒子操作Ⅱ/電磁操作/空間操作Ⅱ/重力操作/時間操作Ⅱ/
気授受/生命力授受/危機感知究/危機対応究/物理耐性究/
魔法耐性究/隠形/状態異常耐性究/鑑定/判別
自然充填究/自然回復究/成長促進究/蘇り/武器技能/
付与/他者確認/言語対応/神知/自由設定
スキル
広範囲探知/次元転移/長距離転移/広範囲探知/
武術/闘気/不老不死/気配察知/GPS索敵 /念体索敵
異世界定期便第27便 8月3日水曜日 日本自室 → 春23日 ザース ライザ遺跡




