新たな託宣
8月1日月曜日、朝。今日の訓練は、ウルティマⅡの変形をメインに行った。
まずは、間合いギリギリで避けられた場合の先延び。突きと斬撃の軌道の延長上に回避された場合に有効だ。
紙一重の回避を多用する達人を相手とする際に威力を発揮する。
次には攻撃の軌道そのものを変更させる変形。本来の刀身そのものを曲げる、刀身から垂直に第2の刀身を発生させる。イット―を倒した時の変形がこれだ。
それから遠心力を利用するための変形。刀身そのものを柔軟にして攻撃のリズムに変化をもたせると同時に威力を増大する。敵が刀身を受け止めた場合に、その先を多節棍武器のように折れ曲がらせて攻撃を継続する。
突きながら刀身を巨大化させつつ伸ばし、かつ、多数に分岐させて回避不能にする、あるいは敵の回避を追尾させる。これはタイセーが如意棒の攻撃時に見せた技だ。
ウルティマを発動体として更には銃形態に変形させての、理力弾の銃撃も効果的だ。メイン敵を剣で相手にしつつサブ敵を理力弾で撃つ、等というタイプの連携もなかなかに良い。味方のサポートにも役立つ。
様々な相手とその動きを想定しつつ、ウルティマⅡと阿吽の呼吸で、時に念話で意思疎通しながら、工夫を重ねた。
あー、良い汗を掻いたー。
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訓練を終えて、最近動画に夢中のたまもがお勧めという動画を観ながら、朝食を取った後、タミル迷宮に飛ぶ。
タミル迷宮はかなり迷宮らしくなって来ており、緑に発光する石壁の通路ひとつを見ても、ウルマ迷宮に近い風格を備えて来た、、ような気がする。
勇者達は迷宮内の有益な訓練に意欲的に取り組んでおり、活き活きしている。
悪気対策で、迷宮外の実戦に引っ張り出される機会も増え、魔法の習得に熱が入っているとのこと。
みんな随分と上達した。
勇者が魔法で悪気を討伐する姿を目の当たりにしたら、いくら秘匿しても人の口に戸はたてられないので、人々の魔法への接近の機運というか、魔法文化の芽生えに繋がって行くのではないだろうか。
必要悪という話だったものなぁ。
今日はヨハネスバーグ支部のメンバーが迷宮に来ていた。
そこのリーダーはイザベラ。流星錘という珍しい武器と風魔法の使い手だ。流星錘は長い紐の両端に円錐形の重りが付いている。それを振り回しながら紐の長さを調整して間合いを変化させたり遠心力を利用した速度の乗った攻撃を繰り出す。そして流星錘に注意が向いていると、見えない風魔法が襲い来るという戦い方をする。
不動の最下層地下50階の守護者にして迷宮の主(笑)の俺としては、本日の49階の守護のイザベラの挑戦を受けて、流星錘の変化に富んだ攻撃を楽しむことができた。
イザベラは赤毛のポニーテールで、流星錘が回ってるとポニーテールも反動で回ってなかなか可愛く、しかしそちらに目を奪われていると流星錘に撃たれてしまうので、油断がならない。ポニーテールも込みの戦法だったとは。
そうは行っても、流星錘の攻撃は間合いが遠いので、レーダーゾーンを持ち、かつ、幽体の気配を察知できる俺としては、余裕をもって楽しくあしらうことが出来る。
最終的には、矢継ぎ早の小気味いい攻撃を回避しつつ、間合いを詰めて、剣できっちりと留めを刺させてもらった。
その後は、恒例に従って、ヨハネスバーグ支部全員を相手にして、各人の攻撃や連携の課題を確認しつつ、全員の持ち味を発揮させた後ですっきりと倒す。みんな満足してくれたようだ。
俺のレベルが高くなり過ぎたためか、迷宮でこの程度戦ってもレベルアップは無かった。残念。
*****
一段落ついた辺りで、本部から呼び出される。
転移すると、スティーブと御子神が神妙な表情で待機していた。
「クリエよ、新たな託宣が下ったぞ」
「え!どういうお告げですか?」
「新たな侵略者が、土星近くに現れる」
「その他の詳細情報は?」
「ない。これだけじゃ」
早速、土星近辺に観測ウイルスを多数送り込み、異常があれば警報が届くように準備する。
「あ、その新たな侵略者、もう既に来ているみたいです。現地へ飛びます。映像を送りますね」
急いで土星の裏側へ転移する。葉巻型の宇宙船が3隻いる。葉巻の長さは1キロくらいだ。
俺の転移を探知したのだろう。迎撃しようとして葉巻から細かい粒子が無数に吐き出される。
この映像はタイムラグ無しに地球のガーディアンズ本部まで送られている。
光でも1時間以上掛かる距離だが、念体通信は瞬時に伝わるので便利だ。量子テレポーテーション的な仕組みなのだろうか。
さて葉巻から出て来た粒子に近寄ってみると、その一粒一粒が直径10mくらいの回転体だった。
飛来中の十字手裏剣みたいな感じだ。
これがひらひらと無数に存在するので、遠目で見ると霞のように見える。
これは戦闘機かな。
あ、回転戦闘機からレーザーが発射された。うわ、凄い集中照射だ。
こりゃ堪らん。数光秒の距離を転移して逃れる。
むむ早いな、直ぐに探知されたようだ。こちらへ霞が形を変えながら向かってくる。
再度転移すると同時に念体デコイを周囲にばら撒く。
敵の攻撃が分散した。俺本体とデコイの区別は出来ないようだ。
ほっと一息ついて、敵を観察する。
敵の攻撃はレーザーの他に、重力砲がある。重力で足止めしてレーザーを集中させる組み立てだ。
そして葉巻型母船からも時折、大出力のレーザーと重力砲が飛んで来る。
防御面では、個々の戦闘機も母船も、何層ものバリアを張り巡らしている。
奇妙なことには、敵に生命反応が殆どない。皆無では無くて、薄っすらとそれっぽいのがあるというか。
ホログラムを備えたプログラムであるライザにちょっと似た感じ。それよりも薄いけれど。
回転戦闘機だけでなく、葉巻型母船も全て無人だ。
そして無数とも言える回転戦闘機の戦闘状況が一糸の乱れも無い。
母船も含めて連携が完璧で、これだけレーザーや重力砲を乱れ撃っているのに同士討ちが無い。
これは異常だ。
1つの命令系統で動く完璧な部品のようだ。
さてと頃合いは良し。こちらからも攻撃するか。無人機なら手間も掛からない。
この辺り全部の無人機を対象として選択して、透過+遠隔行使で、収納する。
はい、一瞬で全て消えた!完了。
無人船団を排除した
創はレベル89になった
創は転気のギフトを得た
ミッションコンプリートできたようだ
レベル10アップか、まあまあだな。処置は手軽だったけど、こいつらは結構強敵だ。
試しに回転戦闘機を1機収納亜空間から出してみたら、何事も無かったように回転して飛びながら攻撃して来る。
これを絶対零度に冷却すると、さすがに活動を停止する。常温に戻しても復活しない。
どこかの回路が壊れたのかな?おとなしくなった奴を再度収納。これ、どうするかな?
亜空間内には回転戦闘機1機だけを保存して、他は「消滅」させた。
活かして置くと何か危ういもんな。何かの拍子に出て来たら大変だ。
放置すればこの戦闘機わずか1機で、地球上に壊滅的なダメージを与えられるだろう。
こいつらが地球に向かって来るとかなり厄介だ。
太陽系のうち土星の内側全域について、異常があれば警報が届く程度に念体観測ウイルスを散布できるよう準備を進めておく。
差し当たってはこんなところでいいかな。
*****
本部に戻る。
「ご苦労さん」
「奴らはなんじゃった?」
「無人機なんです。背後の何かが操っているのか、機械の生命体なのか、どうなんでしょうね」
「サンプルは取ったか?」
「ええ。冷却破壊してはありますが、構造自体はそのままの戦闘機を1機確保しています」
「受け入れ先となる研究施設が整うまで、クリエイト預かりとしてくれ」
「奴らの武器は?」
「レーザーが主武器、足止めに重力砲、それと個々にバリアを張ってましたね」
「強力か?」
「#よりも余程強いです。ただ#のような搦手はないような気がします。機械的な一糸乱れぬ物量戦が得意な戦法だと思いましたので、攻めて来るとしたら正面から来るでしょう」
「試練が続くのぅ。気が休まらんわ」
「一応、土星の内側については、異常があればすぐに警報が届くように処置を進めてます」
「世話を掛けるな。クリエの睡眠中はどうなる?」
「目覚まし連動というか、睡眠中もいつでも迎撃可能なように準備しておきます」
ザースにいる時はどうしよう。あ、そうか、時間が止まってるから心配は無用だな。
「やれやれじゃ」
「やれやれだな」
「ですね」
*****
本部で「ご苦労様ランチ」をご馳走になってから、日本のスポーツ科学センターに転移。
今日は、リレーのバトンパスの練習がある。
俺はアンカー役なので受け取るだけでいい。バトンゾーンの一番後ろの位置でゆっくりと確実に受け取ってから走り出す。速度は走り出してから調整すればいい。さすがにあまりに速く走り過ぎてはだめなので、リレーは最も必勝からほど遠い。勝てる保証がないのでドキドキするな。それなりの順位でバトンが渡って来ることを祈るのみだ。
100mを一緒に走れば実力は直ぐに理解してもらえるので、俺がアンカーを任されても不満に思う選手はいない。むしろ、勝利の予感にみんなは期待を隠しきれないという雰囲気だった。ちょっと熊田さん的な感じというか何というか。。。
「世界をあっと言わしてやろうな!」
「「おう!」」
「あ、はい」
俺は最年少だし、控えめにしてよう。
JOCの担当者からオリンピックの日程の説明があった。
8月7日が開会式。俺は翌日の8日から最終日21日まで、毎日最低でも1種目の日程が入っているので、毎日出ずっぱりだ。分厚い予定表をもらう。出場が重なってる日もあるので、移動の予定も含めて念入りに打ち合わせがなされる。
俺専用にスタッフが大勢付いて、遅刻などのポカが発生しないように万全を期すとのこと。
まあ予選で敗退すれば休めてのんびり出来るんだけどね。
でもそれはないぞ。
うん、絶対勝って、批判的にブーイングしてる奴らを、ギャフンと言わせねばならぬ!
「ギャフンとは猫みたいじゃな。人がそのように鳴くのは是非聞いてみたいのぅ」
まあ、ほんとにギャフンって鳴いたら笑っちゃうけどな。
藤堂創 15歳 レベル89
称号 到達者
基礎値 筋力∞/敏捷性∞/生命力∞
気力∞/気速∞/気量∞/∞
ギフト ポイント68 残7
転気/
超闘気/因果視/精神感応/巻き戻し/上限撤廃/
念体/索敵Ⅱ/自己確認Ⅱ/万物創造/発動妨害/
透過/遠隔操作/選択行使/分身/空間時間設定/
繭形成/ドリル弾/天翔/ギフト創造登録/式神/
再生/幽視/変化/転写/認識領域拡張/
魔法創造登録/罠対応/理力操作/熱操作/地操作/
空気操作/光操作/水操作/聖操作/闇操作/
素粒子操作Ⅱ/電磁操作/空間操作Ⅱ/重力操作/時間操作Ⅱ/
気授受/生命力授受/危機感知究/危機対応究/物理耐性究/
魔法耐性究/隠形/状態異常耐性究/鑑定/判別
自然充填究/自然回復究/成長促進究/蘇り/武器技能/
付与/他者確認/言語対応/神知/自由設定
スキル 武術 闘気 不老不死 気配察知 GPS索敵 念体索敵
異世界定期便第23便 日本8月1日月曜日 自室 → ザース春21日 魔大陸港街




