青竜との再会
賑やかな朝食の後は、ウルマ迷宮58階に挑戦だ。
清涼な高山地帯、そして山々を凌駕する存在感の圧倒的な巨体。青く輝く巨竜だ。その大きさキロ単位。
「来たな。お前の活躍は聞いている。今回は100%の俺で戦えるのが嬉しいぞ!」
ピスだ。割れ鐘のような声。脳が揺す振られる。プルリンが早くも目を回しているから治療しなきゃだ。
「52階が能力の50%だったはずだけど、その倍はおろか、千倍、万倍どころじゃないな」
「50%だと制約が多くてな、第一この本来の形態になれぬ」
なるほど、俺の分身体のギフト制限みたいなものか。
「さて、まずは挨拶といこうか」
巨大な前脚が頭上から降って来る。あの巨体なのに素早い身のこなし。
ということは、、、脚先は音速を遥かに超える速度だ。
うん衝撃波が発生して白い輪が後方に浮かび上がっている。
超闘気を纏って速度を上げて、打撃を回避しつつ、追爪に備えて暗黒盾を展開する。
あ、まずい、追撃の尻尾の薙ぎ払いが迫って来た。ハナとプルリンも射程に捉えている。
急いでプルリンに繭を付与するものの、尻尾はもう目前。
ウルティマⅡが平面を鋭角に折り曲げた衝立状の、盾にして刃を展開してくれていた。
尻尾の大きさに見合った巨大な攻撃兼用の盾だ。
プルリンとハナが跳ね飛ばされているのが見えた。うん重力操作と天翔で自らも跳んで衝撃を弱めたな。
それにしても、豆粒のように見えるほど、遥か遠くまで飛ばされた。
「ちょっと距離を取ったの!」ハナが念話で言い訳する。
俺はウルティマ盾の面に沿って、超断裂空間を設置したが、ピスの闘気とせめぎ合った後、尻尾はかなり抉られつつも超断裂空間を突破してきた。
しかし超闘気を分厚く張ったウルティマ盾の刃に切り裂かれて、盾と俺の体の位置を通過した尻尾は見事に切断されていた。
「ふんっ」巨竜は鼻息だけでもすごい。
などと感心していたらもう片方の前脚が振り下ろされる。
俺は今度は、ウルティマ盾を円錐形に展開して、迫る前脚に向けて迎撃して飛びつく。
ピスの竜闘気は強力なので、超闘気はそれを上回るように、とんでもない分量の気を集めている。
攻撃速度に迎撃速度を乗せて、超闘気円錐盾が、青竜の闘気と鱗に覆われた分厚い脚をズバッと貫通して、体幹に迫る。
「ふむ」ギロリと視線を感じたと思った瞬間、フッとピスは転移して間合いを空けた。
あの巨体で、芸が細かい!
ピスは俺の超闘気を警戒して、戦い方を変えて来た。
肉弾攻撃ではなく、闘気を針のように伸ばして突いてくる。
それと同時に鱗を回転させながら自在に軌道を操って飛ばしてくる。
俺は超断裂空間を盾や殻として使い、ウルティマ盾も2枚遣いで、ピスの攻撃を凌ぎつつ、隙を伺う。
む?背後から高エネルギー反応!竜爆だ。咄嗟に転移して竜爆発生地点の背後に移動。
本体は別にいるし、こいつは本体より小さいから分身体のピスだな。
遠隔操作+超断裂空間殻+質量エネルギー変換で、ブレス後硬直中の分身体ピスを葬る。
その作業中に、第2の竜爆が迫る。
もう一度同じ手順で、転移と殻と質量エネルギー変換。
あっ、近くに本体が転移してきて至近距離からの竜爆だ。
勝負を掛けて来たな。ならば受けて立つ。
超闘気の防御を分厚くして、本体の竜爆を凌いでみせよう。
体を捻って肩と背中で竜爆の直撃を受け止める。
ドドーンッと濁流のごとく、高エネルギーかつ防御不能なはずの竜爆が襲う。
しかし防御側も同系統の超闘気なので、無条件に突破はされない。力比べだ。
みるみる防御が削られていく。本体の至近距離竜爆は途轍もない威力だ。
しかし、爆食虫や極超新星爆発を経験してきた俺に恐れはない。
超闘気に全力で気を注入して、削られるそばから補強して行く。
さすがに削る速度が速いので、少し時間加速して補強速度を追い付かせる。
本体の竜爆ブレスが止んだ。永遠に続くように感じたが、10秒程度だったろうか。
ブレス後硬直で固まっている巨青竜の本体に対して、発動妨害で念入りに竜闘気を弱めてレジストを排除してから、質量エネルギー変換を叩き込み、同時に特大の超断裂空間殻で包む。
もう覚悟をきめていたのだろう。ピスは清々しい表情だった。殻内でピスの生命反応が消滅する。
青竜 ピス レベル61 を倒した
ハジメはレベル98になった
ハナはレベル73になった
プルリンはレベル29になった
「強いな。これほどの強者と、その成長を体感しながら何度も戦えたことを誇りに思う」
「でかくて強くて驚いた。俺が強くなれたのはピスのお陰でもあるよ」
「ふふふ、俺は月の山の街にいるから、そのうち訪ねてくれ。紹介したい仲間もいる」
「次はハジメ抜きで、この階に挑戦しにくるからね!」
「お嬢、威勢がいいな。いつでも受けて立つぞ」
「あ、あなたのこと尊敬します。こんなに美味しい体の人は初めてです!」
「坊主、その誉め方は嬉しくないぞ。他人には言うなよ。変に思われるからな」
というかプルリン、いつの間にピスの体を喰ってた?最初の尻尾の切れ端かな。
*****
ピスに、近いうちに山の街に行くことを約束し、迷宮を出て、魔大陸港街に戻る。
まずは、冒険者ギルドに行ってみよう。
「あ、ハジメさん。ギルド長が部屋でお待ちですよ」
ギルド長室に入ると、書類の山と格闘していたモルローさんが嬉しそうに口を開く。
「ハジメさん、お陰様でだいぶ立証が進みました。とりあえずそこの30人をしょっ引けば、あとはどうにかなりそうです」
手配書の束が積み上げてあった。パラパラ見ると、黒の団幹部、用心棒、衛兵、騎士団員、鑑定人等だった。
「猪顔の魔人イブロム級の猛者が3人おりますので注意して下さいね」
「鑑定人にも息が掛かってるんだ」
「ええ。鑑定人はご存知の通り、嘘を言うと死ぬ契約をしてますので、嘘は言わないんですが、鑑定の拒否や引き延ばしをするんですよ」
ばら撒いていた黒の団専用監視ウイルスの索敵と、GPS索敵を駆使して、所在場所ごとに、手配書を分類して、各場所毎に手強い順に並び替える。
「さて、じゃあここから行くか」
ハナとプルリンも連れて行く。ハナは戦力として期待できるし、プルリンは上手く行けばスキルをゲットできるかも知れないからな。
まずは住宅街の一角のとある屋敷。魔族は全員貴族階級だからどの屋敷も立派なものだ。
「手強い一人のトズムッサこいつからだな」
西側の尖塔のような部屋にいる。背後に転移すると同時に電撃で麻痺させ、吸気して失神させる。細長い被膜の羽が4本、丸い頭部に大きな複眼。とんぼみたいな奴だな。魔封じのロープで縛る。
次に範囲攻撃と選択行使で、屋敷内の黒の団関係者を全員麻痺させる。手配書に無い奴も混じっちゃうけどいいや。ハナプルにも手伝わせて手分けして縛って、一網打尽。
冒険者ギルド裏に転移で運んで、手配書とひとまとめにしておく。一丁上がり!
基本的にはこれを6回繰り返しただけ。
敵から攻撃されたのは一度のみ。それも時間加速で発動を阻害して、事無きを得る。
衛兵詰所や騎士団本部では、どうなることかと思ったが、話がきちんと通っていて、容疑者捕獲後はスムーズに事が運んだ。
ギルド長の根回しは流石だね。
魔大陸港街の黒の団討伐の目途を付けた
ハジメはレベル99になった
ハナはレベル74になった
プルリンはレベル30になった
プルリンは空間操作のギフトを得た
やった、ここでの黒の団退治はひとまず完了だ。
プルリンが空間操作を覚えてよかった。
収納空間を自前で持てるようになったから、食料を大量に持たせておこう。
(しかしすぐにプルリンにいくら食料を持たせても無駄で、真の底無しであることを悟ることになるのであった。。。)
気のせいか港街の空気が清浄になったような感じがする。ここにもう一泊して行くか。
異世界定期便第22便 ザース春21日 魔大陸港街 → 日本7月31日日曜日 自室




