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第四章~均衡~ 第四節:未来  番外編~喝采~

均衡を取り戻した三人娘にやっと訪れたしばしの休息のひと時。そして、見守る人々はこれからの日々に思いをはせる。

BABYMETALの三人にインスパイアされた伝奇アクション、最終回。

第四節:未来


 「あの子、一日中、眠っています」優のママが言った。「しばらく休ませてあげようと思って。」

 「お母さんも、大変だったんですね」雄一郎が言った。「もう、大丈夫なんですか?」

 「一晩眠ったらすっかり」優のママが言った。「萌ちゃんのおかげです。でも、明日にも、精密検査を受けろって。何か体内に残ってないか、調べるそうです。」

 「僕も、警察に、またすぐ呼び出すぞって言われてます」雄一郎が言った。「三人のことを秘密にし続けるのが、正直しんどいです。」

 「いつかは知られてしまうでしょうね」優のママが言った。「マスコミ対策とか、考えないと。」

 優のママが、少し視線を上に上げた。二階でこんこんと眠っている、優のことを考えている、と、分かった。


 「あの時、優が見せてくれた、百坂山の映像」優のママが言った。「八つの光が見えましたね。」

 「はい」雄一郎が言った。「僕も、手伝えた。すごくうれしかったです。一緒に戦えて。」

 「一つはあなた。あと三つは、あの子たち。そして、残りの四つは?」優のママが言った。

 雄一郎が黙っていると、優のママが言った。「どうも、あの子たちの中に、何かがいるみたい。私の中に入り込んで、私を乗っ取ろうとしたものと、同じ種類の生き物が。」

 「でも」雄一郎の言葉を制して、優のママは微笑んだ。「同じ種類だけど、人との関係はまるで違う。私の中に入ってきたものは、私を食い尽くそうとした。でも、あの子たちの中にいるものは、あの子たちと共に生きようとしている。まるで正反対の生き物。奪い尽くそうとするものと、ひたすらに与えようとするもの。」

 「あの子の中にいるものは、全部で3匹。あの子たちは3人。そして僕と、あなた」雄一郎が言った。「8人の力で、『裂け目』を塞いだんですね。」

 「そうじゃないの」優のママが言った。

 「そうじゃない?」雄一郎が言った。

 「あの子たちも、あなたも、8人目は私だったと思っているようですけど、違うの」優のママは言った。「私は『鬼』を身体から追い出すことで、気力を使い果たしていた。最後の八番目の点を輝かせる力は、残っていなかった。」

 「じゃ、誰が?」雄一郎が呟いた。

 「翼の人形」優のママが言った。

 「は?」雄一郎が言った。

 「あの時、菫ちゃんが、『鬼』に向かって投げつけたって言った、テリアの人形。出てこないんです。あれから」優のママが言った。「昔、人身御供のような生贄の習慣が、あまりに悲しいと、犬などの小動物を代わりに捧げることが行われたそうです。それがさらに、人形や、護符といったものにとって代わるようになった。」

 「それが、八番目の光だったんですか?」雄一郎は言った。

 「違うでしょうね。生贄の身代わりは必要だったけれど、それだけでは『裂け目』を閉じることはできない。やはり、八人目がいたんです」優のママは微笑んだ。「あの犬のお人形はね、菫ちゃんのお姉ちゃんが作ってくれたものなんです。光お姉ちゃん。」

 「病気で亡くなった」雄一郎が言った。「まさか。」

 「あの子たちには、守護天使が一人、ついているんですよ」優のママは言った。


 二階から、携帯の呼び出し音が聞こえてくる。優が答える声がした。

 「起きたみたいですね」雄一郎が言った。

 「多分、萌ちゃんからの電話」優のママが微笑んだ。「声の調子で分かります。」

 「ちょうどいいや」雄一郎が言った。「今から会おうよ、みたいな話になるでしょうし。車で送っていきます。」

 「お願いしちゃっていいのかしら」優のママが言った。

 「いいんです」雄一郎が言った。「美香の代わりに、妹が三人できたみたいな気分なんですよ。」

 「それは大変」優のママが微笑んだ。「苦労しますよ。」


 「バカなこと言わないの」ひときわ高く、優の声が聞こえた。


 「一つ、心配ごとがあるんです」優のママが言った。

 「なにか?」雄一郎が言った。

 「『釣り合い』が崩れたのは、ここだけなんでしょうか?」優のママが言った。

 雄一郎は絶句した。

 「『鬼』の伝説は、日本各地に残っています」優のママが言った。「『裂け目』も、ここだけではないのかもしれない。だとすれば、『鬼』は、他の土地にも現れるかも。」

 「そんなことになったら」雄一郎が言った。

 「そんなことになったら、この世界は大変なことになる」優のママが言った。「あなたはそう思うでしょうね。でも、私は優の母親だから、別のことを考えてしまうんです。そんなことになったら、あの子たちはどうなるんだろうって。この世界で、『鬼』と戦える力を持つ、数少ない戦士になってしまったあの子たちは、どうなるんだろうって。」


 「ママ!」優の声と一緒に、階段を駆け下りる軽やかな足音がした。「萌と菫が、服、買いに行こうっていうんだけど、いいかな?マスコミに追っかけられた時に、お揃いの服だったらかっこいいとか、萌がバカなこと言ってるんだけど。」


 「あの子たちだけには戦わせませんよ」雄一郎が言った。「僕らも一緒に、一つになって戦います。」

 「雄一郎さん、来てたんですか?」優の明るい声がした。



(了)



番外編 ~喝采~


 記憶の中にある母さんの顔。

 ほっぺたが丸くて、全体に丸顔。

 右のあごのところに、ちょっと目立つほくろがある。

 髪の毛はサラサラの直毛セミロング。

 ちょっと眉が下がっていて、困ったような顔。

 垂れ目がキュートで、それが一番自慢のチャームポイント。

 5年前に見た、母さんの顔。

 今の母さんの顔がどうなっているのか、私は知らない。


 「優がね」萌が言った。

 「それ以上言わないで」菫が言った。「これ以上トラブルは御免です。」

 途端に、ギターアンプから大音響が鳴り響いて、菫は耳を覆った。萌が、こっちを睨みながら「バーン」のリフを弾いている。

 「分かった、分かったから、今度は何?」菫が大声で叫んだ。リフが止まった。

 「ダンス部でもめてるらしいの」萌が、アンプの音量つまみを調整しながら言った。

 「ダンス部のことに、うちら軽音楽部が口出せないでしょうが」菫が言った。

 「なんか、優が、ちょっと無理難題持ち込んじゃったみたいで」萌が言った。

 「だから、私にどうしろっての」菫がため息をつきながら言った。


 「そりゃきついなぁ」菫が言った。昼休みに足を踏み入れた隣のクラスで、みんなの視線が自分に集まっているのを感じる。最近かなり慣れてきたけど、それほど気分のいいものじゃない。

 「でしょ?」道端香織が目を吊り上げて言った。香織はダンス部の部長だ。今は隣のクラスだが、一年生の時は同じクラスだった。以前と変わらず菫にため口をきいてくれる、いいやつだ。

 「学園祭まで、あと1週間しかないんだよ」香織が息も継がずにまくしたてる。「全体のプログラムも、MCも照明も全部段取り決まってるんだよ。プログラムももう印刷所にまわしちゃって明日には上がってくるんだよ。2人だけのペアダンスだから、他の人は踊らなくてもいいんです、なんて言ったってさ、今から、それもダンス部員でもない人を、学園祭のステージに乗せるわけにはいかないでしょうが!」

 菫は黙って香織の早口を聞いていた。全く優のやつ、なんだってそんなこと言いだしたんだか。

 「だったら、香織からNG出せば済む話なんじゃね?」菫が言った。「私が間に入らなくても。」

 「そういうわけにいかないでしょ?」香織の目がさらに吊り上った。「優ちゃんが言ってきたことに、私が簡単にNG出せると思ってるの?」

 「だって、香織は部長だし」菫が言った。

 「優ちゃんは今や全国区のスーパーヒロインでしょうが!」香織が言った。「しかもうちのダンス部のエースなんだよ。優ちゃん抜きじゃ、うちのダンス部なんか田舎の田吾作ダンス部なんだよ。優ちゃんも、それが分かって言ってきてるから、こっちが頭抱えるんでしょうが。」

 「いや、多分、優はそこまで考えてないと思う」菫は薄ら笑いを浮かべて香織の権幕を受け流そうとしたが、香織はさらにここぞとばかりに、ずずいと迫ってきた。

 「考えてほしいわけよ、そういう立場をさ。中学時代から県下指折りのオールラウンドダンサーとして鳴り物入りで入学してきた天才少女だってだけで十分こっちは扱いに困ってるのにね、その上、未確認巨大生物を倒した超能力少女トリオとしてTVにまで出ちゃうとか、そういうちょーすごい後輩を持ってしまった先輩の私の立場とかさ。いろいろ考えてモノ言ってほしいわけ。」

 「はい、ごめんなさい」菫は言った。なんで私が謝る。

 「菫はいいのよ」香織が言った。「あんたは適当に抜けてるし。」

 「はあ、ありがとうございます」菫は言った。なんで礼を言う。

 香織がため息をついた。「また、優ちゃんが連れてきた子ってのがさ。」


 「優のやりたいことは分かる」菫が言った。「でも、学園祭はちょっと厳しそうだ。」

 「やっぱりそうだよね。無理かなぁとは思ってた」優が言った。「道端先輩も、直接私に、ダメって言ってくれればいいのに。」

 「香織からは言いにくいみたいだよ」菫が言った。

 「なんでかな」優が言った。

 「あんたが、こうだったら素晴らしいっていう理想論を言うからだよ」菫が言った。「理想論とか、正論って、時々人を傷つけるんだって。パパが言ってた。そんなの無理だって否定しようとすると、理想を実現することができない自分の能力のなさを認めることになっちゃうから。」

 「難しいね、世間って」優が言った。

 「また世間ですか」トンビが呟いた。

 「その子、来るの?」菫が言った。

 「萌が連れてきてくれる」優が言った。


 二人が立っている、禊川の土手の上流の方から、二つの人影が見えた。萌と、もう一人の女生徒と分かった。萌が、その子の手を引いている。

 「こっちだよ!」優が手を振って、萌が手を振りかえすのが見えた。

 「どこで知り合ったの?」菫が言った。

 「郷土史博物館の前の広場でさ」優が言った。「私、自主練やってたんだよ。あそこ、博物館の窓ガラスが鏡代わりになるから、ダンスの練習する人結構いるんだよね。練習終わって、帰ろうと思って、イヤホン忘れたのに気が付いて戻ったら、あの子が一人で踊ってたの。」

 「あの踊りはすごかったな」トンビが言った。「あんなの、見たことなかった。」

 「天才ダンサーをご紹介いたしまーす」萌が、手を引いてきた女生徒を菫に向かって押し出した。

 「はじめまして」菫が手を出した。「中里 菫です。」

 「はじめまして」萌の隣の女生徒が、手を出した。「近藤 結音ゆいねです。」

 結音の差し出した手が、菫の出した手の少し手前で止まった。菫から、その手を取って、握りしめた。

 「優の友達ね」菫が言った。「だったら、私たちの友達。」

 「橋の下に行こうか」優が言った。「あそこで、二人のダンスを見せるよ。」

 「ラジカセないけど、スマホで大丈夫?」萌が言った。

 「大丈夫。手拍子取ってくれれば」優が言った。

 「私、合わせて歌うよ」菫が言った。


 「すごいね」優と結音のダンスを見終わって、菫が呟いた。

 「感動」萌が言った。目に涙を浮かべている。「ダンスで泣いちゃうなんて、初めて。」

 「あのさ」菫は、少し言葉を選ぼうとして、でも、思い切って言った。「本当に、見えないの?」

 結音はにっこり微笑んで、うなづいた。「小学校六年生の時に、おっきな病気して。」

 「私も距離感調整してるんだけど」優が言った。「でも、結音の空間感覚はすごいよ。眼じゃなくて、全身で感じてるのが分かる。」

 「ほんとに、すごいシンクロ率」菫が言った。

 「音楽があるし」結音が笑って言った。「優ちゃんのこと、信じてるから。」


 「目が見えなくて、ダンス部に入れなかった同級生を、学園祭のステージで踊らせてあげたい、なんて言われたら、そりゃ香織もパニくるよね」菫が言った。

 「理想論だもんね」優が言った。「でも、実現は難しい。」

 「ちゃんと段取りを踏まないと」萌が言った。「今年からでも、ダンス部に入ればいいじゃん。そしたら、来年の学園祭には間に合うよ。」

 「だめなんだよね」結音がニコニコしながら言った。「私、来月、東京の盲学校に転校するから。」

 菫も、萌も、黙ってしまった。

 「進学とか考えると、普通高校でずっと勉強するのはやっぱりしんどいって、親が決めたの」結音は笑顔のままだ。「だから、今年の学園祭が、最後のチャンスだったんだけど。」

 「なんとかならないかな」萌が言った。「私が、道端先輩に頼んでみようか。」

 「萌が頼めばOK言ってくれるだろうけど」結音が言った。「いいよ。入学の時に、ダンス部に入部しなかった私が悪いんだ。入りたかったけど、思いきれなかった私のせいだよ。」

 「もうこんな時間だ」菫が言った。「萌と優で、結音ちゃん送っていける?」

 「任せて」萌が言った。「世界最強のボディーガード二人だよん。」


 その晩、菫が自分の部屋のベッドで、天井を見上げていると、携帯が鳴った。

 「大変いいこと思いついたんですが」受話器の向こうで、萌が言った。

 「あんたのそのセリフは信用できない」菫が答えた。


 翌日の放課後、菫、萌、優、結音の4人で、平坂駅前広場に集まった。萌はギターとアンプを抱えている。駅前ビルの壁面に埋め込まれた大型液晶モニターが、夕方のニュースを流している。

 「ストリートパフォーマンスで、二人のダンスをアピールするの」萌が得意げに言った。「菫の歌と、私のギター、それに、二人のダンス。それで人がいっぱい集まって盛り上がっているのを、スマホで撮って見せれば、先生を説得できる。」

 「どう説得するの?」優が言った。

 「菫と私が出るバンドのライブで、二人に踊ってもらうんだよ」萌が言った。「学園祭のバンドライブで、ダンサーの参加って、前例がないらしいんだけどさ。それなりのクオリティなんだったら、認めてあげてもいいって、小早川先生が言ってくれて。」

 「クオリティが問題なんだったら、学校の教室でビデオ撮ってもらえばいいと思うんだけど」菫が言った。

 「沢山のお客さんがノリノリになってる映像の方が説得力あるじゃん」萌が言った。

 「萌がやりたいだけではないかと」優が言った。

 「そんなに人が集まるかなぁ」結音が言った。

 「そこは菫ちゃんの出番」萌が、ギターアンプを調整しながら言った。「菫、ちょっとだけ、『声』使える?」

 「軍事技術の平和利用だね」イブキが言った。

 「イブキ、最近、やけに難しい言葉使うなぁ」菫が言った。

 「誰かさんと違って勉強熱心なんです」イブキが言った。

 「うるさい」菫は言って、息を吸い込んだ。


 夜のニュースを流していた大型モニターの音声が、突然、ぶつっと切れた。何事、と数人の通行人が見上げると、ニュース映像はそのままに、菫の声がモニターのスピーカーから流れた。


 「平坂駅前をご通行中の皆様、只今より、駅前広場にて、METALFOX&YUINEのライブパフォーマンスを行います!『鬼』を倒した超能力三人娘と、天才ダンサーのコラボレーション、お時間のある方は是非お立ち寄りください!」


 「超能力三人娘、とか言っちゃうんだ」萌が言った。「菫も、なかなかあざといなぁ。」

 「目的のためには手段を選ばない」菫が言った。「萌に教わりました。」

 「ひどーい」萌が言った。

 「METALFOXって」優が言った。「私たちのこと?」

 「FOXは『狐』だったよね」マドカが言った。「METALって?」

 「ヘヴィメタルっていう音楽のジャンルがあって、そのメタル」萌が言った。「はがねっていう意味だよ。」

 「いい名前だ」イブキが言った。「METALFOX。」


 「あおりすぎたかな」菫が言った。「ちょっと、人集まりすぎ。」

 「駅員さんが来る前に始めちゃおう」最前列に立ったお兄さんに、スマホの撮影を頼んでから、萌が言った。


 萌のギターソロから始まる。力強いリフレイン。優と結音が、菫を挟んで等間隔に並んで、すっと背筋を伸ばした。二人の間の空気がぎゅっと凝縮する。聴衆が息を止めるのが分かる。ギターソロが終わり、ピアニッシモから、力強いビートを萌のギターが刻み始める。優と結音の間にある空気が、そのビートに合わせて振動する。ギターのリズムと、優と結音の身体のリズムが急激にクレッシェンドし、菫はゆっくり肺に空気を満たした。マイクは使わない。生声で勝負だ。萌と視線を交わして、頷いた。シャウトする。「1,2,3,4!」

 ギターの超速リフが弾けると同時に、優と結音がダッシュする。全速力で位置を入れ替えると、ぴたり、と元の等間隔に戻って、激しいステップ、その動きが作りだしたうねりの上に、菫の声が飛ぶ。萌のギターと菫の声が絡み合うメロディーを、優と結音のステップのビートが刻む。聴衆がそのビートに合わせて上半身を揺らし、手拍子を始める。優の腕、脚、手のフォルムが、結音のそれとぴったりシンクロしながら、激しいリズムに合わせてキレよく決まる。そして完璧に線対称の軌跡を描きながら、二人の身体が左右に交錯する。

 楽しい。結音が笑っている。やっぱり、楽しい。こうやって踊るの。本当に楽しい。

 なんでこの子はこんなに嬉しそうに笑うんだろう。菫は歌いながら思った。優もきっと、この笑顔にやられたんだな。

 何かを失くしても、人は笑える。

 そうじゃない。

 何かを失くしたからこそ、その人の笑顔は輝くんだ。


 一曲演奏が終わって、喝采が巻き起こった。気が付くと、駅前広場が人で埋まっている。100人以上、いやもっとか。

 横に立っていた駅員さんが声をかけてきた。「君たち。」

 「ごめんなさい」萌が言った。「これで終わりです。」

 「今度やる時はちゃんと事前許可取ってね」駅員さんが言った。

 「すみません」菫が頭を下げて、集まっている聴衆に向き直った。「今度の学園祭で、ライブやります!是非いらっしゃってください!」

 聴衆から拍手が起こった。スマホで撮影している人も多い。

 「学園祭って、いつなの?」駅員さんが小声で言った。


 「楽しかったぁ」結音が言った。満面の笑顔だ。「ありがとう!」

 「学園祭、頑張ろうね」菫が言った。

 「先生の許可出るかな」優が言った。

 「大丈夫、萌ちゃんに任せなさい」萌が言った。

 「あの」と、中年の女性が声をかけてきた。「みなさん、ありがとうございます。結音の母です。」

 「あ」と、菫が頭を下げた。「お世話になってます。」

 「こちらこそ」結音のお母さんが頭を下げた。「本当に、結音がお世話になって。」

 「お母さん、どうだった?」結音が言った。

 「すっごくかっこよかった」お母さんが言った。

 「優ちゃんと踊ると、すごく気持ちいいんだよ」結音が言った。「身体全体で、優ちゃんの動きを感じるんだ。それにね、萌ちゃんのギターもすごい。あんな速弾き聞いたことない。菫ちゃんの声、とっても綺麗で伸びるし、合わせて踊ってると、空を飛んでるみたいにふわっとするんだよ。」

 結音が、興奮して喋り続けながら、手を伸ばして、お母さんの顔に触れた。手のひらを押し当てるようにして、顔全体をなぜる。「お母さん、笑ってるね。」

 「だって、結音、本当にかっこよかったもの」お母さんが言った。

 「お母さん、笑ってるのに、泣いてるよ」結音が笑った。


 「ねぇ」マドカが言った。「結音に、プレゼントしたいんだけど。」

 「何を?」優が言った。「まさか、目を?」

 「いや」マドカが言った。「怪我をした直後ならまだしも、今となっては私たちの『技』でも治せない。でも、優の『眼』を心で飛ばすことはできるんじゃないかな。」

 「結音!」優が言った。「こっちに来て、手をつなごう。」

 「何?」結音が近づいてくる。

 「私と手をつなげば、私の見るものを、結音も見ることができるよ」優が歩み寄って、言った。「ほら、手を。」

 結音が、固まった。両手を背中に回して、首を横に振った。

 「どうしたの?」優が言った。

 「いいの」結音が言った。「見えないままでいいの。」

 優が差し出した手が、宙に泳いだ。「そうなの?」

 「また見えるようになったら、もっと見たくなる」結音が言った。「そうしたら、見えないことを呪ってしまうから。」

 「そうだね」優が言った。

 「ごめんね、結音」マドカが言った。

 「いいの」結音が笑顔で言った。「ありがとう。」


 「ねぇ、METALFOXのサインとかないの?」萌に頼まれてスマホで撮影していたお兄さんが、菫に話しかけている。

 「優」結音がおずおず言った。「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、手をつないでもいい?」

 「いいよ」優が言った。「どうして?」

 「一つだけ、見たいものがあるの」結音が言った。

 「何?」優が言った。

 「お母さんの顔」結音が言った。


 優は、結音のお母さんの顔を見ながら、結音と手をつないだ。結音の心が、おずおずとつながる。

 「お母さん、ちょっと老けたね」結音が言った。「でも相変わらず、垂れ目が可愛い。」

 結音のお母さんが、結音を抱きしめた。優は、そっと手を離した。


 「優と結音は何やってるの?」菫が萌に聞いた。

 「軍事技術の平和利用だよ」萌が言った。「LOVE&PEACE。」



(番外編 了)

基本はヲタ小説だよなーと思いながら書き始めてみたら、なんだかてんこ盛りのお子様ランチが出来上がってしまった・・・という感じです。ヲタ小説ではあるし、お子様ランチではあるんですが、色んな所に自分なりの願望やら、自分が昔から好きだったものへのオマージュやらが盛り込まれてきて、結局こういうデジャヴのような感覚が、BABYMETALに胸熱くなってしまう50代のオジサンの深層心理なのかもなーなんて思っています。

ここまでお付き合いくださった読者の方がいらっしゃったら、本当に嬉しいです。ありがとうございました。

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