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プロローグ 簡単な自己紹介

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 人間ってのは、皆仲良く、手を取り合って生きていくべきだと思わないか?


あぁ、すまない、自己紹介が遅れてしまった。

俺の名前はロズ。ロズ・ブラッドだ。

出生は……まぁ良いだろう。帝国育ちの18歳だ。


 俺が俺自身を評価するのなら、まぁ、そこら辺に転がってそうな若者だ。世界の事どころか、世間一般的な、自分の将来すらまともに考えていない、そんなヤツだ。とは言え、それはあくまで外見から判断出来る情報に過ぎない。俺は一応、底辺貴族の小間使い、執事という役回りで、毎日労働に勤しませてもらっているのだ。


おっと、本題から逸れそうになったな。

人間が手を取り合って生きていくべき、と思う理由については、まぁ色々ある。


 人間ってのは血縁関係とのカテゴリを家族と称し、親しい友人や同年代の友人を友達とカテゴライズする。まぁ、他にも職場の人間や、同じ趣味の仲間、自分の好きな人や愛する人。カテゴライズはいくらでも可能なわけだが、誰しもがするであろうそれは、この二つに違いない。


であればこそ、それは隔絶を孕んだテリトリーなわけだ。


 アイツはいけ好かないから、皆で無視しよう。アイツ等の家系は汚職に手を染めてるから、それとなく吹聴してやろう。自分のテリトリーへの加入条件を満たさない人間を、省く、除く、無効化する。だから、反骨精神で敵対するし、殴り合うし、殺しあう。気に入らない、ムカつく、気持ち悪い。あらゆる感情が泉のように湧き出るわけだが、その根源は一体何処にあるのだろうか。


別に、生まれた瞬間から気持ち悪い人間は居ないだろう?

逆に言えば、生まれた瞬間から広大なテリトリーの中で育っているわけでもない。

まぁ、後者は例外も存在するが。


んじゃ、何故そいつはムカつくのだろう。何故、気に入らないのだろう。

考えた事はあるだろうか?


 人と違うから。見た目が奇抜だから。何考えてるか分からないから。まぁ、人に難癖を付けるのが得意な種族だ、言いたい事は山ほどあるだろう。では、もし仮に、急に自分の仲間・友達が、自分が思う奇抜な恰好や一般的に見た変質行動を起こしたらどうだろう。トカゲの尻尾切りのように、我関せずで切り捨てるのだろうか? それとも、改善を見込んで友人を続けるのだろうか?


前者を選ぶ人間は、まぁ、良い意味でも悪い意味でも救いようが無い。

後者を選んだ人間は、確かに救いようのある人間だが、では何故、それを彼らにしないのだろう?


その慈悲を、慈愛を、ほんの僅かでも、テリトリーに弾かれた人間に差し向けないのだろうか。


 そう、これがミソなのだ。テリトリーは確かに不特定多数の人間によって一時的に形成されるエリアなわけだが、いざ、そのエリアから外れた人間に手を差し伸べ、救い上げようとすると、今度は自分がそのエリアから背中を突き飛ばされてしまう。要は、てめぇが犠牲になるって事だ。


 救いたいけど救えない。でも、仕方ないよね、アイツが悪い。そうやって、省かれた人間や除かれた人間を悪と見做し、自分は悪くないんだと、自分の行動概念を自主肯定する。簡単な事だ。この世に本当に他人の為だけに生き続けられる人間なんて居ない。老人介護のヘルパーも、俺のような屋敷の小間使いも、結局自分の為に生きているのだ。自分の為、もしくは自分に近しい存在の為に、労働に身を窶し、叱咤に耐え、劣悪な環境下で、汗水垂らして金を得るのである。


それは決して、誰かを救う為じゃない。言うなれば、誰かから生を得るためだ。

そして、そうやって生を与える側の人間も、小さい頃にはそうやって生きてきている。


 負の連鎖、終わらない悪循環。そこには一片の、一縷の希望さえ無い。人が人である以上、リスク以下のリターンで行動はしない。誰かの為に自分の全てを投げ打って、助けられたそいつはどう思うだろうか。今度は自分が助けなきゃ、って思うだろうか。違う。そいつは知っているのだ。そうして救い上げられた側の人間は、必ず何処かで誰かの為に自分を投げ打っている。もしくは、ずっと周囲を敵だと思って過ごしてきている。だから、それが善意だと分からない。友愛の情だなんて、一切感じない。


そうなったら、救い上げられた人間は、救ってくれた人間を攻撃し始める。

そう、まるで人が変わったように、そいつは変わり続ける。


正義を滅ぼす、悪に。いや、違うな。悪を滅ぼす、正義に、か。


あぁ、そういえば、手を取り合っていかなきゃいけないって話だったか。


 いやはや、今話した事は全て事実だ。少なからず思い当たる節があるんじゃないか? おっと……これは出過ぎた真似、というヤツかな。何にせよ、こうして自分の底や全てを見せるのが堪らなく恐ろしく感じる、そんな醜悪で気持ちの悪い種族なのだ、人間とは。まぁ、この世界に限って言えば、人間だけに留まるお話ではないのだが。


でも、だからこそ、手を取り合って行かなきゃ未来は無いのだ。


 人間の手が二つあるのは、手を繋いだ時に、より多くの人間と手を結ぶ為だ。もし片腕しか無かったのなら、仮に三人、AとBとCが居たとしよう。AがBの手を取ると、AとBは双方の片腕を使用する、そうするとCはあぶれてしまう。AがBの手を取った時点で片腕同士が繋ぎ合ってしまうからだ。


今の人間ってのは、そういう事だ。

片腕しかない。誰かと、何かと繋がる事で、その喪失したもう片方の腕を取り戻そうとしてる。


 喪失したのは腕じゃない。繋がり合う心だ。心の中の、どうしても譲れない所は仕方ないとしても、シェア出来る部分を、より多くの人間とシェアする。関係性が生まれ、相違が生まれ、価値観の差異が生まれる。確かにそこに諍いや衝突はあるかも知れない。けれど、双方を宥めるだけの仲間達がそこには居るはずなのだ。心を開いて、全てを見せて、そうして仲良くなった友人達が。


両腕があるのは、世界全ての人間と心さえも通じ合える証拠に他ならない。


ん? あぁ、何故そんな話をするのか、って事かな。


 そうだな。理由なんて無い、ってのは些か投げやりというか、無責任だ。かと言って、深い理由があるのか、と言われると如何ともし難い部分がある。まぁ、そこはやはり、腹を割って、底を見せるしかないと言う事なのかも知れないな。


そう、人間が人間で居られる為に。

快適で、排他的で、それでいて友好的な関係を、偽善的に進めていく為に出来上がった世界。


『機械の国』


 我が国、『人類種』が住まう土地がそう呼ばれるようになって、千年と少しが経過した。近代化・未来化の進む現代において、『機械』は潤滑な関係を築くのに一役買っている。と言うか、それ自体が多弁なコミュニケーションツールのようになり、内向的なコミュニティが増えつつあるのも現状だ。それに伴い、諸国間での戦争やら冷戦やらが相次いでいるのもまた、事実。


人間はテリトリーを捨て、全てをコネクトする選択肢を、記憶の片隅からさえ忘却した。


 歪なピースは捨て去る。型に嵌らないものは規格外。そうやって、自分の基準、大衆の基準、或いは国としての基準を設けて、それにそぐわない人間を排除する。生きる為に必死に足掻く人間を足蹴にし、ぐうたらと益体も無い生き様を晒す人間を崇め、奉る。


世界は変貌した。変質、と言うべきか。


 そこには干渉の余地さえ無い。絆や友情、そういった概念は最早、そういう形と意味を持った言葉でしかない。そこにあるのは空虚な幻想。誰かに排除されない為に誰かとつるみ、つるんだ相手が排除されそうならば、今度は違う連中に寄生する。そこはかとなく、その観念は蔓延し始めているのだ。


そして、本日━━━『デウス歴』1086年、5月9日。


 俺と最愛の妹、アリシア・ブラッドが住む、辺境にして辺鄙な土地、『ディン王国』は「魔術的文献、またはそれに比肩する技術者・能力者の隠蔽・保護」を理由に、『エクシア大帝国』に属する『神託十二騎士アポカリプス』により、「殲滅」される事が決定された。


これは、狂った世界のお話。

人に酔い、人に溺れ、人に疲れた、人間のお話。


失った片腕の代わりに、機械の義手を付けてしまった、人間のお話。



本作中のアリシアの別称はアリスです。

 あらすじにアリス、第一話においてアリシアと書きましたので、混同して勘違いなさらないよう、お気をつけ下さい。

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