陰謀の連鎖
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王が負傷した。その知らせに城は大騒ぎになった。ハンターの銃に撃たれたことで、王はもう力を失ったと失望して離反するものも現れ始めた。騒ぎの一方、アヴリルは牢につながれたまま孤独な時間を過ごした。
しばらくして、センメルが現れた。彼はアヴリルの鎖を外してやると、言った。
「すまないね。しかし、あの場ではこうするしかなかった。叔父上が君を殺してしまいかねなかったから」
アヴリルが首をかしげると、センメルは言った。
「叔父上が常々陛下と君を目障りに思っていたのは明白だ。叔父上がやったのだろう? 兄上を傷つけた呪文の一つは彼の得意技だ」
「ええ」
そう言いながらも、アヴリルはセンメルを直視できなかった。確かに私は撃とうとしていた。あの吸血鬼が邪魔しなければ、確実に仕留めていただろう。
「陛下も人が良すぎるわ。吸血鬼のくせに。センメル、私をここから出してくれないかしら」
「それは難しいね。叔父はもう色々な所に今回の事件をふれまわっている。私以外に君の話を信じるものはいないだろうから」
センメルは頭を抱えた。
「兄上は血の気の多い連中と人間との橋渡しとなっていたんだ。このままでは、歯止めが効かなくなる」
アヴリルは覚悟したような表情を浮かべた。
「私なら、陛下を治せるわ。だからここから出して」
「確かなのか?」
「ええ。そしてきっと私にしか治せない」
アヴリルはセンメルを見つめたまま答えた。
センメルはしばらく悩んだが、とうとう決断した。
「分かった。ただしあまり時間はない。どこまで叔父を足止めできるか」
「ありがとう。恩に着るわ、センメル」
王の容態を見るに、迷っている時間はない。アヴリルは馬を飛ばして大本院へ向かった。
夜道で馬を飛ばしながら、アヴリルは思った。
(彼らの叔父が今回の件に一枚噛んでいることは間違いない。でも、穏健派の陛下が倒されてあの叔父が権力を握るのは教主様にとってありがたくないはず。そこがどうしても分からない)
アヴリルが人気のない礼拝堂に入ると、やはり教主はそこにいた。アヴリルの姿を認めると、彼は慈悲深い笑みを見せた。
「やあ、アヴリル。王は頻死だそうだね。君ならやってくれると思っていたよ。しかし、さすがの君でも止めを刺せないなんて、王の力も中々だ」
アヴリルは教主に銀の銃を向けた。
「白々しいですわ、教主様。少し質問してもよろしいかしら?」
「その銃を下ろしてくれないか? 落ち着いて話し合おう」
教主は笑みを崩さない。
「今の王は穏健派で、ヘンリー卿は人間嫌いの強硬派。それを知っていて、手を組んだのですか? ヘンリー卿を焚きつけたのは教主様でしょう?」
「私たちとヘンリー卿はそれぞれ独自に動いている」
教主は続けた。
「王を倒すという目的が一致している以上、考えることは似ているかもしれないがね」
教主の表情からは何も窺えなかった。アヴリルは聞き出すのを諦め、話題を変えた。
「もう一つ。エリザ=ミカエリスという娘、ご存じですか? 彼女は一体どこにいるんです?」
「知っているとも知らないとも言える。エリザは我が妹だ。だが吸血鬼の城で跡方もなく疾走してしまった。手を尽くしたが行方は知れない」
「何ですって」
教主は言った。
「私たち人間が真正面から挑んでも彼らとは力が違いすぎる。戦って倒せない相手なら懐柔することも重要だ。我々も陰で色々な努力をしているのだよ」
「政略結婚、ですか」
「ああ、だが上手くいかなかった。エリザは消えてしまった」
教主は淡々と言った。
「そんな……」
「アヴリル、目の前だけを見ていると思わぬところから敵が現れるものだ。大局をみなければ」
後から低い声がして、アヴリルは振り返った。
「邪魔だ、どけ、小娘」
黒髪の吸血鬼は教主を睨んだ。
「我等が手を組んだだと? ふん、私が利用してやったまでのこと。我等は誇り高き種族だ。あんな人間かぶれの甥が王だなどと傍ら痛いわ。兄上も兄上だ。貴様に何を吹き込まれたか知らんが、人間のエリザを跡継ぎの妃になどと抜かしおって。私があの娘を殺していなければ今頃どうなっていたか」
「そうか、やはりお前がエリザを」
教主は小さく呟いた。アヴリルは銃をヘンリー郷に向けたが、彼はアヴリルを一瞥して続けた。
「今度はハーフのお前に骨抜きにされるなど、甥も馬鹿な男だ。まあいい、お前と契約して強くなった王があの程度なら私は無敵だ。貴様らを倒してこの世界の真の王になるのだ」
アヴリルはヘンリー卿の言葉を聞きながら思った。
(そういうことか。それなら勝機はあるかもしれない)
「まずは小癪な小娘を倒し、それからメインディッシュとするか」