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魔法使いの弟子  作者: りく
終章 弟子の選択
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弟子の選択・2

「カールーナーリースー」


 いつものパターンだ。

 だんだんと大きく、近づいてくる呼び声に、カルナリスは身構える。

 そう、いつもいつもぶつかるわけには行かない。私も学習するんだ、と振り返るが、予想していた銀の塊が見えない。


「あれ?」

「あーぶーなーいーっ」

 どこか間の抜けた悲鳴に、やっと頭上を見上げたカルナリスは、見事に落下してきた銀の塊に潰された。


「ふぎゃっ」

「きゃわわっ」


 ズドンッ


 潰されたカルナリスも、潰したレイナも、同じくなんとも気の抜けたような悲鳴を上げた。


「いったたたたっ」

「ひっ、ひたいっ……」

 なんにしろ、上に乗っかられているカルナリスは、身動きが取れない。

「レ、レイナ? 大丈夫? だったらどいて……」

「うううううっ。すみませんですぅ……」

 そう言いつつも、レイナはさらにカルナリスのお腹を踏みつけた。

「ぐほっ」

 悪気はないんだろう。ないに違いない。だが、痛い。


「大丈夫ですかぁ?」

「だ、大丈夫」

 何とか半身を起こし、ぼろぼろになったレイナに視線を向ける。

 ああきっと、今の自分もそうなんだろう、と、カルナリスは小さく溜息をついた。

 いや、命があったことを喜ばねば。

 かなりのスピードで落下してきたレイナを受け止め? 良くぞ生きていたと思う。


「怪我はありますぅ?」

「いや……、ない、みたい?」

「さすがカルナリスですぅ。頑丈さんですね」

 にこやかに笑うレイナに、カルナリスはあんたもだろうがと言いたいのを堪え、とりあえず笑っておいた。


「どうしたの。レイナ?」

 レイナは地に落下しただけにしては、なんだか銀の髪に葉っぱやら枝やら何やらをたくさん絡ませている。顔も擦り傷だらけだ。

「うーん、やっぱり飛行術は難しくってぇ。あちこち突っ込んでしまいましたの。

 偶然を装って水の塔に突っ込めば、クロイ先輩たちにお会いできたかもしれませんのに、そう上手くいきませんのね」

「……狙ってたの?」

「狙えるほど上手くないですわぁ。そのうち上手になったら考えます」

 にっこり笑いながらのんびり答えるレイナに、カルナリスは引きつった笑いを返す。

 ミーハーのレイナならやりかねない。

 が、クロイは綺麗にスルーしそうだ。


「えっと、ここに落ちてきたのは偶然?」

「カルナリスの姿が見えたので、着地しようとして失敗しましたの」

 悲しそうにうなだれるレイナに、カルナリスは恐る恐る声をかける。

「あの、さ。落ちるときに風の魔法で落下を支える、とか、穏便な方法は?」

 以前レイナが落下した時、カルナリスはそうやって彼女の落下を受け止めた。

 風魔法の修行を続けていたレイナなら、それくらい、できないことはないのではないか?

「飛行術と一緒に他の魔法を扱うなんて、到底無理ですわ。

 カルナリスが受け止めてくれればよかったんですのよ」

 レイナはそう言って、むぅっと膨れた。

「いや、まさか上から来るとは……」

 ぶつかる直前まで、カルナリスはまさか上から飛び込んでくるとは思ってもみなかったのだ。そんな瞬時に魔法で受け止められるはずもない。

「まあ、仕方ないですわ。迷惑をかけたのは私ですもの。ごめんなさいぃ」

「いや、お互い怪我がなくて何よりだよ」

 溜息混じりに答えれば、レイナはすぐに嬉しそうに笑う。

「でも、空飛べるようになったって言ってたから、もう自由自在に飛べるのかと思ってた」

 笑って続けると、レイナはうっと押し黙り、うなだれる。

「あれはたった一度の奇跡だったんです、きっと。

 飛べたと思ったんですのよ? ちゃんと着地もできたんです。でも、それ以降一度もまともに飛べないし、まして着地なんて、上手くいった例がないんですのぉ」

 うるうると瞳を潤ませるレイナに、カルナリスは慌てた。

「え? でも、ほら、一度できたんだし? 大丈夫だよ。またちゃんとできるようになるって!」

「師匠さんもそうおっしゃるんですけどぉ」

 ぼろぼろと大きな粒が零れ落ちる。大きな目から、零れ落ちる涙。まるで瞳が溶けているようだ。


 レイナはすんなりと魔法使いになるんだと思っていた。

 風の魔法のセンスはいい。飛行術だけはとんでもなく下手だったけど、それもできたというから、やっぱり才能ある子は違うんだと思っていた。

 それに比べて、自分はスタート地点にも立っていない。

 全然ダメなんだと、そう思っていた。


 何だ、皆一緒じゃん。


「ねえレイナ、私達まだ4年生だよ? これから先、3年間まだたくさん勉強して、それでもやっと下っ端魔法使いで、当然塔に残ってもっと勉強しなきゃいけなくて、独り立ちできるのはずっと先。

 今できなくったって、ちゃんとできるよ。こんな痛い思いしてたのが、無駄になるはずないじゃん?」

 レイナの銀の髪から、丁寧に葉っぱやら枝やらどこでつけたのかわからないゴミをとってやり、髪の毛を手で掬う。


「……カルナリス、やっぱり風の魔法使いにはならないの?」

「うん。でも、魔法使いにはなるからさ、一緒に頑張ろう?」






 レイナと別れたカルナリスは、大地の塔を目指した。

 大地の塔には、塔長がいる。

 カルナリスは、今まで月に1度は塔長に顔を出していた。でも、もう2ヶ月以上塔長には会っていない。塔長も、会いに来てくれない。

 キーアにも、もう1ヶ月以上会っていなかった。

 なんとなく、中途半端な状態で会いたくなかった。二人に会えば、甘えてしまうだろう事が良くわかっていたから。

 それに、塔長に会うのは、まだちょっとだけ怖かったから。


 大地の塔の前で立ち止まる。

 塔長の部屋は、塔の天辺にある。塔の一番上は、全部塔長の部屋だ。

 カルナリスは、大きく息を吸い込んだ。


 彼女は扉を開けた。






「カルナリス」

 いつものように、何の変わりもなく、塔長はカルナリスを笑顔で迎えてくれた。

「こんにちは、塔長」

 カルナリスは、ちょっとだけ苦笑しながら挨拶を返す。


『塔長は腹黒よー』

『……それについては同意せざるをえない』


 仲直りしたのだか、どうなのか、相変わらず仲が悪いような良いような双子の姉妹の言葉を思い出す。

 確かに、塔長は腹黒かもしれない、と思う。そうでなくても、まあカルナリス程度が到底敵う相手ではない。

 ニコニコ笑いながら部屋の中央にあるふかふかのソファを勧めて、塔長はテーブルを挟んでカルナリスの向かいに腰をかけた。


「塔長、私に何か言うことありませんか?」

「うん、借金あるなんて嘘言ってごめんなさい」

 ちっとも悪びれもせずに、塔長は頭を下げる。


「塔長は意地悪です」

「うん。好きな子は苛めるタイプなんだ」

 葡萄色の瞳が、楽しそうに笑っている。

 そういう問題では、ないと思うのに、カルナリスはそれ以上突っ込めなくなる。


「で、魔法使いになるの、止める?」

 塔長の笑顔は揺るがない。カルナリスの答えを、全然、全く疑っていないのだ。


 何だ、そうか、と彼女はまた苦笑した。


「魔法使いになります」


 はっきり答えれば、塔長は笑みを深くした。


 カルナリスに嘘をついて、利用したのだとマリサは言ったけれど。はっきり言って、それがどう利用することになるのかよくわからなかった。

 でも塔長は、初めから、確信していたのだ。カルナリスは魔法使いになるんだって。


「ホント、お義父さんは性格が歪んでます」


 困った子供を見るように塔長を見やり、カルナリスが呟けば、塔長はただただ嬉しそうに微笑むだけだった。


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