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魔法使いの弟子  作者: りく
第4章 無の魔法使いの弟子
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無の魔法使いの弟子・8

 カルナリスは扶翼の塔の扉を開け、視界に入ったものから逃れる為に、すぐにそのままくるっと回れ右をした。

 しかし、既にそこには、先ほど開けたはずの扉はなく、代わりにどこかで見たような赤い塔が立っていた。


「あれ、カルナリス」

「火の塔に戻ってきたんだね!」

 唖然と、扉の代わりに出現した火の塔を見上げていた彼女は、不覚にも逃げ遅れた。

 扉を開けて真っ先に目に入ったしまった変態双子は、結構離れた距離にいたはずなのに、今はすぐ隣でカルナリスを挟むように立っている。


「いや、別に、戻ってきたわけじゃないんだけど」

 弁解するカルナリスの腕を、それぞれがつかむ。

「今ちょうど引っ越しの最中だったんだよ」

「よかったよかった」

 引っ越しの後だったら、僕らがどこにいるかわからないもんね、と続ける双子を、カルナリスは代わる代わる見つめた。


「引っ越し?」

「そうそう、ニルス師匠がとうとうやったんだ」

「めでたく破壊記録を伸ばしたんだよ」

 きらきらと目を輝かせる双子を、カルナリスは両腕を拘束されているのも忘れ、不思議そうに眺めた。


「破壊記録って?」

「あれ、知らなかった?」

「カルナリスがいた時だって、壊そうとしてただろう?」

 今度は双子の方が、逆に不思議そうにカルナリスを見つめた。


「何を?」

「「だから、部屋」」

 双子が両脇から声をそろえて答える。


 カルナリスは、双子の背後を見つめた。

 テーブルや椅子、ベッドやらが2セットずつ転がっている。


「あれ、何?」

「とりあえず新しい部屋を整えるからって、僕らの荷物は放り出されたんだよ。今やっと、運び込むところなんだ」

「カルナリスも見に来るかい?」

 嬉々として迫る双子を、カルナリスは交互に見やった。


「えっと、もしかして、ニルス先生が、部屋を壊した、の?」

 口にしながらも、カルナリスはよく理解できないでいた。


 先生が、部屋を壊す? 先生が? 何故?


 そんなことをする理由がわからない。


「そうだよ、なかなか壊れなかったんだけど、やっとね」

「そうそう、学生の寮と違って、さすがに研究室は頑丈に出来てるからね」


 自慢する双子に、カルナリスはどうやら本当に、ニルスは部屋を壊したらしいと悟った。確かに、ニルスの講義は、破壊的だったような気がする。命の危険を感じることも、あった。

 だがしかし、それら全てが部屋を壊す為だったとは。


「……何で?」


 意味がわからなかった。

 何だって好き好んで借金を背負おうとするのか。


「何でって、大きくて丈夫な部屋がいいからだよ」

「師匠一年目って、やっぱ下っ端だから良い部屋もらえないんだって」

「そ、だから実力行使」

「徹底的に壊しちゃったんだよ、さすが師匠だよね」

 あははっ、と笑う双子。呆然と二人を見つめるカルナリス。


「徹底的にって、じゃあ、修繕費が莫大じゃあ」

 カルナリスは小さく震えていた。

 恐ろしくて聞きたくない気持ちもあったが、怖いもの聞きたさで好奇心が勝った。


「修繕費? そんなのかからないよ」

「は?」

「やだなあ、カルナリス。何だって修繕費が必要なの?」

「え、だって、部屋を壊したんでしょう?」


 だって私は、そのせいで莫大な借金を負ったんだ、とは、さすがに恥ずかしくて言えない。


「何言ってんのさ、カルナリス。

 ここは、魔法使いたちが集まる塔なんだよ? それなのに魔法で壊れるようじゃ、全然だめじゃん」

「そ、それは、そうかも」


 まだ良くわかっていない様子のカルナリスを、双子は出来の悪い妹でも見るように見つめ、噛んで含めるようにゆっくりと言った。


「ここは魔法使いの塔。

 世界の全ての魔法使いが集う場所。魔法使いの象徴。

 だから、そんじょそこらの魔法で、簡単に壊れるようじゃいけないんだよ。

 壊れたら、それ以上の保護の魔法をかける。そうやって、塔を強化していくんだ。壊れるのは塔が悪いんであって、壊した人間は悪くないの。わかる?」


 よって、弁償する必要なんてないわけ。


 にこやかに断言する双子に、カルナリスは完全に言葉を失っていた。






 カルナリスは、扶翼の塔の前で蹲っていた。

 ひざの上に顔を乗せた状態で、ぼんやりと前を見つめている。視界の端を、講義を終えた灰色のローブを着た魔法使いのたまごたちがぞろぞろと歩いていく。


 何で、皆、まじめに講義を受けているんだろう。


 もちろん、魔法使いになる為だ。カルナリスだって、昨日までは真面目に勉強していた。成績は悪かったけれど。


 魔法使いになろうと思っていた。そのために頑張っていた。

 ずっと、借金返済のため、魔法使いにならなきゃと思っていた。

 でも。

 双子は、ニルスが破壊記録を伸ばしたと言っていた。つまり、前にも彼は部屋を魔法で壊したことがあるのだ。

 ニルスが弟子取りを始めたのは今年からで、それ以前は正規の魔法使いといっても下っ端で、その時に魔法で部屋を壊したに違いなかった。そして、もしかしたらカルナリスと同じ学生の時にも、壊したことがあったのかもしれない。


 それでも、彼は借金持ちではない。


 双子が言っていたことはすんなり納得できる。壊れるのは塔が悪いんで、壊した人のせいじゃない。なるほど、そういう理屈もある。


 でも、それなら。

 何で自分は借金持ちなのか。


 魔石を壊したから?

 確かに、そうかもしれない。魔石は高価だから。だから借金を負ったのかも。

 でも、塔長はそうは言っていなかった。部屋を壊しちゃったから、魔石の代金を含め、その修理代金が、6,753,566ギールだと言われていた。塔長の養い子だからと言って、優遇できないからと。


 そんな借金返せるはずがないから、だから魔法使いに……。

 あれ?

 そうだった?


 カルナリスは、勢いよく立ち上がっていた。

 ちがう。そうじゃない。

 私は、……。


「いつまでそんな所にいるつもりだ?」

 上から、少し呆れたような、どこかで聞いたことのある声が降ってきた。

 反射的に振り仰いだ先には、ピンクの鳥の巣頭、桜色の瞳のチルナが立っていた。

 カルナリスは唖然と濃い灰色のローブを着たチルナを見つめていた。


 聞いたことがあるのは当たり前だ。カルナリスは今、彼女の元にいるのだから。

 チルナはさほどしゃべる方ではなかったけれど、彼女の声を聞き分けることくらいできる。


「え? あれ?」


 驚いたのは、その声がチルナだったからではなかった。

 聞いたことがある、と思ったのは、つい先程、ここじゃない別の場所で、彼女の声とよく似た声を聞いたからだ。


 ピンクのふわふわの髪、桜色の瞳の、美少女。


「チルナ、さん?」

 双子の姉の、マリサは、彼女とは違って、派手系の美女で。

 きっと、あの美少女が成長したら、マリサにそっくりの美人になったに違いない。


 あの少女は、なんと言った?


「私は魔女だよ。闇の魔女。

 姉の魔力を吸い取った、闇の魔法使いさ」


 チルナは妹で、マリサが姉。


 まさか、と思う。


 でも、カルナリスが開けたのは、扶翼の塔の扉。

 扶翼の塔は、それを必要とする者のために姿を現し、その者が求める、必要とする場所の扉を開く。

 たった一つの扉が、いかに多くの場所に繋がるのか。


 カルナリスはやっと、扶翼の塔の不思議に思い至った。


 ただ、顔を合わせづらいと思っていた。

 それだけだと思っていたけど、違ったのか。


「チルナさんが、……闇の、魔女?」


 きっと、こんなこともあるに違いない。


 あの美少女は、チルナの過去の姿なんだ。


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