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魔法使いの弟子  作者: りく
第4章 無の魔法使いの弟子
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無の魔法使いの弟子・6

 キーアの小屋を出たカルナリスは、まだ講義の時間ではあったが、今さら講義に行く気にもなれないし、かといってチルナの工場に戻るに戻れず、学舎の塔の前をうろうろしていた。


「カールーナーリースー!」

 聞き覚えのある呼び声に、カルナリスは反射的に声のした方を振り返った。と、ほぼ同時に、すごい勢いで近づいてきた銀の固まりが、カルナリスに飛びかかってくる。

「うわっ」

「お久しぶりですぅ、カルナリス。ぼんやりしてどうしましたぁ?」

 にこにこ笑いながら、風の魔法使いに一緒に弟子入りしていたレイナが、カルナリスに抱きついた。

「レ、レイナ。苦しい」

「あら、ごめんなさーい」

 さして悪びれもせずに、レイナはカルナリスから離れる。

「なに、どうかしたの?」

 にこにこにこにこと、ひどく嬉しそうなレイナに、カルナリスは尋ねた。

「よーくぞ聞いてくれましたあ! えっへん。

 実はですねえ、えへへ」

「うん、どうしたの?」

 カルナリスもつられて笑いながら促すと、レイナはじゃじゃーん、とローブの中から一本の杖を取り出した。

「私の杖でーす! 師匠さんがくれましたのぉ。ちゃんと空飛べたお祝いですって」

 えへへ、と嬉しそうに顔を崩すレイナに、カルナリスは一瞬口をつぐんだ。


 3ヶ月ちょっと前までは、レイナは風の魔法で空を飛ぶのが大の苦手だった。


「カルナリスも嬉しい?」

「……オメデト」


 すごいな、良かったなあと思う反面、言いようのないもやもやがカルナリスを包んでいた。


 嫉妬してるんだ、と頭の隅で思うものの、どうにもならない。

 レイナは着実に魔法使いへの一歩を踏み出しているのに、自分は何にも出来ていないのだから。


「ねえ、カルナリスは、今も火の魔法使いのところにいるの?」 

「え、ううん」

 引きつりながらも、カルナリスは何とか答える。

「どこぉ? ね、カルナリスもマルクト師匠さんのところに戻らない? 一緒に風の魔法使いになろうよ!」

 カルナリスはじっと満面笑顔のレイナを見つめた。


 わかっている。レイナには、悪気は全然ないのだ。


「ごめん、私、戻らないといけないから」


 小さくそう言い捨てて、――カルナリスは逃げ出した。






 カルナリスは、一心不乱に駆けていた。

 全力疾走している彼女の目の前に、巨大な木が迫っていたが、目をぎゅっと瞑っているカルナリスが気づくはずはなかった。

 しかし、彼女は運が良いことに、その巨木にぶつかる寸前に、ぐいっとローブを引っ張られた。


「ぐえっ」

 カエルのつぶれたような声が出たが、仕方ないと思う。ローブを引っ張られたせいで首を絞められたのだから。

「ぐ……、クロイさん……」

 何とか首を動かしたカルナリスの視線の隅に、銀髪の天使が映る。

 危うくカルナリスを助けたというか、むしろ今まさに彼女を命の危険に晒している、水の魔法使いディオスの弟子、クロイだった。


「カルナリス、死にそうよ?」

 救いの声は、同じくディオスの弟子のミリィだった。綿菓子のようなふわふわの髪が風に揺れ、大きな瞳が、呆れたように眇められている。

 クロイにぱっと手を放されて、カルナリスは咳き込む。

「はい」

 どこから取り出したのか、ミリィが水の入ったコップをカルナリスに差し出した。

「あ、ありがっ、とう、ござい、ます」

 ぷはっと一息ついて、カルナリスが空のコップをミリィに返すと、彼女はすっとコップを消した。

「すごい!」

 感嘆の声に、すかさず呆れたようなクロイの溜息が返ってくる。

「これくらい出来ないようじゃ問題よ」

 ミリィの言葉に、カルナリスは更に追い打ちをかけられたけれども、クロイもミリィもそのことには気付かなかった。


「さて、ちょっと聞きたいんだが」

「は、はい?」

 クロイの憮然とした様子に、カルナリスは少しだけ怯む。

「お前、今チルナの所にいるらしいが、本当か?」

「……はい」


「お前、魔法使いになるのを諦めたのか」


 クロイの疑問系でない言葉に、カルナリスはうっと呻いた。ズキズキ胸が痛むのは、決して気のせいではない。


「いえ、そんなつもりはないんですが」


 多分、おそらく、とカルナリスは心の中で続ける。

 魔法使いになれないかも知れない。少なくとも、巨額の借金を返せるほどの大魔法使いにはなれない。

 それでも、未だ、カルナリスは諦めがつかないのだ。あまりにも長いこと、魔法使いになって借金を返そうと思いこんでいたから。


「何だって、リストに載ってない人間のところにいる」

 憮然としたクロイにびくつきながら、カルナリスは彼の隣に黙って立っているミリィに救いの手を求めた。が、ミリィはあからさまに視線を逸らす。

「あの、リストには載ってたんです」

 仕方ないので、カルナリスはとりあえずの弁明を試みた。

「はあ?」

 思いっきり胡乱な眼差しを向けてくるクロイの横で、ミリィもまた訝しげな視線を送ってくる。

「えっと、5枚目……」


「5枚目って何を言っているんですの? 師匠リストは、4枚でしょう?」


 ミリィの言葉に、カルナリスは大きく目を見開いた。


「え?」

「5枚のリストって、やっぱりアルザス・キーア・リンゼイは、4つの魔法を操れるんだな?」

「へ?」

 怖いくらい真剣なクロイに迫られても、わけの分からないカルナリスに答えられるはずもなく。クロイの横で、ミリィもまた興味深げな顔でカルナリスを見つめている。


「じゃあ、何でお前をチルナに預けているんだ?」


 それこそ、カルナリスが一番知りたいことだった。






 いい加減放浪の限りを尽くしたカルナリスは、仕方なく現在の寝床である扶翼の塔へと戻ってきていた。

 正直、わからないことだらけで頭が混乱していた。


 4枚の師匠リストと、5枚目のチルナの名前が載ったリスト。

 師匠リストは4枚だといったミリィ。


 考えてみれば当然だ。「理の塔」には4つの魔法使いの塔しかないのだ。5枚目のリストなど考えられない。なのに、何故、カルナリスには始めから5枚のリストが与えられたのか。


 そう言えばクロイは、もう一つ変なことを言っていた。キーアがどうとか。


「カルナリス?」

「うわっ」

 ぼんやりと考え込んでいたカルナリスは、突然上から降ってきた声に大きくのけぞった。

「マ、マルクト先生?」

 緑のローブの魔法使いが、にっこり笑ってカルナリスを見下ろしている。

 塔の扉が少し開いていた。ちょうど、塔から出てきたところなのだろう。

「あ」

 マルクトをじっと見つめ、カルナリスは小さくつぶやいた。

 そういえば、マルクトは5枚目のリストの存在を知っていた。


「マルクト先生!」

 勢い込んで叫べば、マルクトは優しく笑い返す。それに勇気づけられ、カルナリスは続けた。


「あ、あの、私の5枚目のリストは、いったい何なんですか?」


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