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魔法使いの弟子  作者: りく
第3章 火の魔法使いの弟子
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火の魔法使いの弟子・6

「火の魔法使いのところにいるんですの? よりにもよって、何でまた……」


 ミリィが眉を寄せ、クロイも訝しげな視線をカルナリスに送る。

 相変わらず二人に挟まれた状態でいるカルナリスは、肩身の狭い思いで小さくなっていた。


「えっと、師匠に言われまして……」

「師匠? 師匠って、カルナリスの保護者のことですの?」

「はい……」

 カルナリスの返事を聞いて、両隣の二人はそろって呆れたような溜息をついた。


「水に、風、次は火の魔法使いの弟子なんて、お前の保護者は一体何考えているんだ? 

 属性すら決められないようじゃ、弟子にとってもらえないぞ?」


「や、やっぱりそうですよね?」

 クロイの言葉に、カルナリスはすっと顔色をなくした。


 カルナリスの同級生達には、彼女のように毎回師匠を変える者達もいるが、皆同じ属性の師匠を選んでいる。カルナリスのように、属性ごと師匠を変えている例はない。


「そうですわよ。風はいいとして、何だって火の魔法使いなんですの?」

「火はダメですか?」

 追い打ちをかけるようなミリィの言葉に、カルナリスは慌てた。

「そりゃそうだろう。火の魔力が強くなったら、水魔法を使えなくなる」

「ええっ? そ、そんな、じゃ、ディオス先生んとこの修行は無駄になっちゃうわけですか? てか、もう、水の魔法使いにはなれないわけですか?」


 え、じゃあ、どうすんだ私? と続けて、カルナリスは頭を抱えた。

 カルナリスには実は、どうにもならなかったら、ディオスが拾ってもらおうという甘い考えがあった。あの扉の肖像は困ったもんだが、ディオスのところだったら、確実に稼げる。


「ど、どうしよう……」

 それが、このままでは期待できない、らしい。

「お前の保護者は何を考えているんだ?

 それ以上に、お前も自分の進路なんだから、もっと真剣に考えてみろ」

 クロイが、更に追い打ちをかけるかの如く、冷たく言い放つ。

 その、あまりの声の冷たさに、カルナリスは頭を抱えたまま固まってしまった。

 クロイの冷たく呆れかえった眼差しが待ち受けているかと思うと、顔を上げることができない。


「まあ、次にディオス師匠のところに戻ってくれば、十分やり直しがききますわ」

「そ、そうなんですか?」

 救いの言葉にぱっと顔を上げたカルナリスは、期待に目を潤ませながらミリィを見つめた。

「次に師匠のところに来れば、だ。

 だが、お前本当に水の魔法使いになる気があるのか?」

「え?」

 カルナリスはぽかんとクロイを見つめた。

 クロイとミリィの二人は、顔を見合わせて呆れたように溜息を一つつく。 


「何でお前、魔法使いになるんだ?」


 カルナリスは、その問いにすら答えることができなかった。






「カルナリス、そんなにぼーっとしていると火傷するよ?」

 ニルスの声にはっと振り返ると、巨大な火の玉が迫っていた。慌ててよけるが、火の玉は方向転換して彼女に迫ってくる。


「ぎゃっ」


 カルナリスがいるのは、火の魔法を学ぶための火の部屋。

 乙女に似つかわしくない悲鳴を上げ、カルナリスは狭いはずの部屋の中を駆けだす。

 だが、駆け出せばすぐに壁にぶち当たるはずの部屋が、今や大講堂2つは入ろうかという大きさになった。遙か前に見える壁は、走っても走っても辿り着かない。

 カルナリスが走るにあわせて部屋が大きくなっているのは、決して気のせいではない。


 逃げるカルナリス。追う火の玉。


 そして、火の玉は徐々に大きく熱くなってカルナリスに迫った。


「カルナリス、そのままじゃ捕まるよ。早く火を押さえなきゃ」

 楽しそうに笑うニルスの声を背後に、カルナリスは冷や汗と熱気による汗を同時にかいていた。

「無理、無理、むりムリ無理ですぅ~っ」

「ほらほら、ロッドもアリオンも出来たんだし」

「「頑張れ~、カルナリス!」」

 ちっともありがたくない声援を背に受け、ひぃ~っ、と叫びながら、カルナリスは更に速度を速めた。人間、やれば出来るもんである。


「ちっ」

 ニルスが微かに舌打ちした。


「じゃあ、サービスしようか」

 一瞬前の不満気な顔から一転、実に楽しそうな笑顔を満面に浮かべ、ニルスは杖を一振りする。


「うげっ」

「ありゃぁ」

 双子がその横で驚きの声を上げる。


「きゃあああっ!!」

 カルナリスらしくない黄色い悲鳴が上がった。しかし、音量は先ほどと比べるまでもなく大きい。

 巨大な火の玉が増殖していた。カルナリスの後から、左右から、3つの火の玉が襲ってきていた。

 とても逃げられない。


「ほらほら早く、早く」

「「師匠、部屋が壊れます」」

 双子の、珍しく心配そうな声が重なる。


 いや、その前に私が死ぬ、とカルナリスは頭の隅で思った。火の玉の隙を縫うように走る。 


「そうしたら新しい部屋がもらえるよ」

 嬉しそうに答えるニルスの声。カルナリスを心配している気配は微塵もない。


 みんな私の心配しようよ!

 駆けながら、涙ながらにカルナリスは思った。


「新しい部屋かあ。それも良いなあ」

「次はもっと頑丈な部屋だぞ」

「おお、楽しみだなあ」


 3人の呑気な会話を後ろに、カルナリスは必死で駆けていく。


「カルナリス、早くしないと火傷じゃすまないぞ?」


 うん、死ぬと思うよ?


 走りながら、カルナリスの顔に虚しい笑みが浮かんだ。端から見れば、それはさぞかし引きつった笑みだったろう。


「真っ黒焦げだ」

「はげちゃうかも」


「だからその前に死んじゃうって!!」


 カルナリスは振り返って大声で叫んだ。

 その彼女の目に映ったのは、3つの巨大な火の玉が、一つの超特大火の玉になる場面だった。


 絶体絶命の大ピンチ。

 迫る火の玉は、視界に入りきらないほど大きい。そして、もはや火の玉はカルナリスのすぐ目の前だった。


「死ぬーっ!」

 大音量で叫び、無意識のうちに手に持った杖を前に出すと、しゅるしゅるっと音を立てて火の玉が回転した。

 くるくるくるくる回転しながら、火の玉は小さくなり、大きくなり、また小さくなる。

 しばらくそれを繰り返した後、特大火の玉はみるみるしぼんでいった。

 瀕死の危機にあってやっと、カルナリスは一つ分の火の玉を押さえ込むことに成功したのだった。そして、カルナリスに遠く離れた場所で、双子が、残り二つ分の火の玉をそれぞれ一つずつ押さえこんでいる。

 その二人の姿を目にしていたら、カルナリスも少しは双子を見直していたことだろう。

 それくらい、二人は珍しく凛々しく見えた。カルナリスが見たことのない真剣な顔で、二人は杖を前にかざして立っていた。しかし残念ながら、彼女は緊急状態を脱して、魂をどこかへ飛ばしていた。

 安堵のあまり、思い切りよく床に倒れる。

 ごつん、と良い音が響いた。

 きっと見事なたんこぶが出来たことだろう。


「あーあ」

 少しだけつまらなそうにニルスが呟いた声は、幸い、意識のないカルナリスには届かなかった。


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