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魔法使いの弟子  作者: りく
第3章 火の魔法使いの弟子
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火の魔法使いの弟子・3

 朝から晩までみっちりと基礎を勉強しなければならない4年生までと違い、師匠について個別講義を受けるようになる5年生以降は、学舎の塔での講義がぐっと少なくなる。

 それは、あくまでも4年間真面目に勉学に励んできた者について、である。

 学舎の塔備え付きの食堂で、ぐったりとテーブルに顔を伏せるカルナリスは、午前中みっちりと授業が詰め込まれていた。


「カルナリスって、ホント有名人と縁がありますのねぇ」

 ちゅるちゅるっと真っ白い色のジュースをストローですすりながら、つい先日まで同じ師匠の元で勉強していたレイナは面白そうに言った。

「有名人? ミリィさんにクロイさん?」

 私にもちょうだい、っと手を差し出したカルナリスの手に、レイナはにっこりと笑顔で水の入ったコップを渡す。


「お二人はもちろんだけどぉ、今一緒にいる双子も。知らないのぉ?」

「有名? セクハラ人間が? やっぱ歩く犯罪者として?」


 むすっと眉を寄せるカルナリスを、レイナは不思議そうに眺める。


「セクハラ? 誰のことぉ?」

「あの双子」

 珍しく険のあるカルナリスの様子に、レイナはにっと笑顔を浮かべた。

「それは恋ね」

「は?」

 一瞬、何を言われたのか解らなかった。

 次に単語が脳へ到達する。しかし意味が変換されない。


 こい? コイ? 濃い?

 何それ?


「で、どっちなの? それとも両方? きゃあ、いやーん! 禁断の恋かしらぁ? どうしよう、ドキドキするぅ」

「ちょ、ちょっと待って。コイって何さ?」


 興奮のあまり顔を真っ赤にしてふるふると震えるレイナに、カルナリスはテーブルから頭を離し、恐る恐る尋ねた。


「やあねー、カルナリスったらとぼけちゃってぇ! 恋ったら恋よ。恋愛の恋。

 もう、何言わせるのぉ。きゃあ、恥ずかしいっ!」


 自分で言っておいて、恥ずかしそうに両手で顔を覆う。


 恋? よりにもよって恋?


 あまりのことに、カルナリスは呆然と口を開けていた。今までの会話を、どこをどう繋げたらそんな結論に達するのかわからない。


「な、なななな、なあ?」

「カルナリスにも春が来たのねぇ。良かったわぁ。

 私も、クロイ先輩とぉ、くふふふ」


 にまにまと笑い続けるレイナを前に、カルナリスの声はもう届かなかった。






「やあ、カルナリス、嬉しいな、僕に恋してるんだって?」

「何悪質な冗談言ってんの、変態兄弟その1。って言うか、それは新手のいじめか、いじめなら受けて立つわよその1」

 深紅の扉を開けた途端目に入ったオレンジの頭に、カルナリスは出来る限りの不機嫌な顔を作って見せた。少年の横を通り過ぎると、そっくり同じ容姿の少年が中央のソファに座ってにやにやと笑っている。


「やだなあ、照れちゃってぇ。僕達聞いてたんだよ、昼間の会話」

「昼間の会話? 私は何も聞いちゃいないけど。何かの聞き間違いでしょう。幻聴じゃない。とうとう耳まできたんだ。脳まで変態菌が達しちゃってんじゃないの? 一度頭開いて検査してもらったら? もう手遅れだろうけど」


 6角形の部屋を突っ切って、彼女にあてがわれた部屋へと続く扉に手をかけた途端、両サイドからにょきっと伸びた手がカルナリスを挟んで扉を押さえた。


「冷たいなあ、カルナリス。僕達3ヶ月間、もしかしたらこれから先ずっと一緒に過ごすかもしれないんだよ? もっと友好と親交と愛情を深めようじゃないか?」

「そうだよ、せっかく僕達に恋してるって言うんだし。僕達はもちろん二人で君を迎え入れるよ。さあ、カモン! 僕の胸に飛び込んでおいで」


「あんたらは……」

 カルナリスは目眩を感じてこめかみを押さえた。


 同学年だというのに、こんな変態を今まで知らなかった自分が信じられない。確かにこれじゃあレイナの言うように、有名になるのもうなずける。

 すぐ左横で両手を広げ、カルナリスが飛び込んでくるのを待っているらしいオレンジ頭その2に、カルナリスはまず体当たりをかまし、よろけた瞬間を狙って扉を開けて自分の体を滑り込ませた。


「げふっ。これも愛?」

「うーん、かなり痛い愛だな」

 扉の向こうで呑気に聞こえる声に、カルナリスは大きく息を吐く。

「ニルス先生が来るまで呼ぶんじゃないわよ、絶対近づかないでよね。良いこと!

 私に半径1メートル以上近づくな、変態兄弟!」

「カルナリスってば恥ずかしがり屋だなあ。照れなくても良いのに。奥ゆかしいんだね」

「ちっがーう、勘違いすんなその2! 鬱陶しいっ。頭おかしいんじゃないの、あんたら」

「僕達は、ただカルナリスと仲良くなりたいだけなのに……」

「泣き真似すんな、その1。もう二度と騙されないわよ」


 扉越しの会話に、カルナリスは大きく肩で息をした。

 午前中みっちりつまった講義の後の、毎日のこの攻防に、正直彼女は疲れ果てていた。

 しかし、流されてはいけないのだ。

 一度、瞳をうるうるさせたその1にほだされ、彼女はひどい目を見た。

 二人の魔法実験の被験者に抜擢され、飛んできた燃える花火の玉に襲われ、彼女のローブはあちこち燃えて穴が空いた。体に燃え移りそうだった炎は、あわやというところでニルスに消してもらった。

 ニルスが現れなければ、今頃どうなっていたかしれない。


「ねえねえカルナリス、もういい加減僕らをその1その2で呼ぶんじゃなくて、名前で呼んでよ」

「いやよその2。どっちにしろ、あんたらの名前なんて覚えてないし、これからも覚える予定はないわ」

「冷たいなあ、カルナリス。

 せっかく僕達を見分けてるんだから、後は名前に変換するだけじゃん。その1がロッドで、その2がアリオンだって」

「知るかーっ! あんたらなんて変態その1,その2で十分よ。とにかく、ニルス先生に呼ばれるまで放っておいてよね。絶対入ってくんな!」


 扉の向こうへ大声で叫び終えると、カルナリスは自室のベットにダイブした。

 くたびれて精神的にへろへろだった。

 これからのニルスの魔法指導に耐えられるかわからない。というか、その後のチルナの手伝いが不安だ。

 いくら体力に自信があるとはいえ、限界というものはある。

 このままでは、先の3ヶ月同様、小遣い稼ぎが出来ない。

 重い体にむち打って、カルナリスはがばりとベットから起きあがった。その反動で、くらりと目眩を起こす。


「……地道な努力が必要よね」


 ふふふっ、と乾いた笑いを浮かべながら、カルナリスは、作成中の小銭入れが放置されている机へと向かった。






 魔法実技を訓練するための火の部屋は、変態双子の頭と似た、綺麗なオレンジ色の壁に囲まれている。

 ここでは、どんな高温の炎を作っても部屋が燃えることはないらしいのだが、オレンジの壁は、所々黒くくすんでいた。ちなみに、カルナリスが双子に燃える花火玉攻撃を受けたのもこの部屋である。

 部屋の壁は燃えないが、人間には当然火が移る。

 熟練の火の魔法使いであれば、瞬時に火を収めることも可能だが、いかんせん、双子もカルナリスもまだ魔法使いのタマゴだ。燃えだしたら燃え尽きるまで待つしかない。そしてこの部屋では、燃えるものなど無いというのに、なかなか火は消えてくれないのだった。


「ほい」

 かけ声とともに、カルナリスの左に立つ変態その1、ロッドの目の前に、体半分くらいの大きさの炎の玉が浮いた。

「それ」

 彼女の右に立つ変態その2、アリオンの前にも、同じ大きさ、同じ色の炎の玉が浮かぶ。


「カルナリス」

 部屋の中央に立つニルスが、にっこりとカルナリスに笑いかけると、彼女は緊張した面持ちで小さく息を吐いた。目を閉じて、一心に炎の玉をイメージする。

「えいっ」

 ついつ、い一番気合いの入ったかけ声が口から漏れた。


「わおっ」

「おおっ」


 わざとらしいほど大きな声が左右から聞こえ、カルナリスは目を開ける。


「あうううう」


 小さな小さな火が、カルナリスの目の前に浮かんでいた。今にも消えそうな弱々しい炎だ。

 杖を持たず、呪文も唱えずに炎の玉をイメージすると、その魔力に応じた火の玉が現れる。

 ニルスは決まって、魔法指導の初めにこれをやらせる。今までの6ヶ月間、カルナリスはたいてい1対1の個人指導を受けていたが、ニルスは常に3人同時に指導をした。結果、魔力の差が浮き彫りにされるので、カルナリスにはなかなか辛いものがある。

 双子の炎の玉は、常に大きく安定しているが、カルナリスの炎は小さくか弱い。

 こんな小さな魔力で、どうやって魔法の訓練をするんだか。


「さて、始めるか」


 カルナリスにはハードすぎる、午後の講義開始の合図だった。


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