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アルフヘイム

姉は昼。私は夜だ。

月から人間達を眺めて、人間達の神になるだけの仕事。

信仰を集め、姉に渡す。

それが私、夜の神ツクヨミの使命だ。

月の神はギリシャのアルテミスちゃんが頑張ってくれている。若いのにえらいことだ。

月を引っ張ってくれてる北欧のマニは、狼に追いかけられているところを私が助けてあげた。偉い人の怒りを買って、罰を受けていたらしい。逃げるために速度を出して、月の満ち欠けが狂ってしまうと、夜の神である私が困るだけでは無く、アルテミスちゃんも困ってしまうということで、私とアルテミスちゃんで直接北欧に抗議に出かけた。結果はオオカミは取り下げるが、月を引っ張るのは続けなさいということだった。

それについてマニは私たちにとても感謝してくれていた。久々に良いことをした気分になった。

トトさんは月の満ち欠けを司る女神だった。身体が化け物に食べられるという奇病に罹っていたので、アルテミスちゃんの浄化と言う術で治してあげた。

月での生活はそれなりに楽しい。メンツも濃いし、みんな面白い人たちばかりだ。




でも、いつか私も昼の世界を見てみたいな。だから仲直りしようよ。姉さん。







回避スキルをフル活用し、何とか地面との衝突を避ける!


「…あれ?あれ?動けよ私の体!!!」


でもダメだ。魔物の攻撃は回避できるけど、あいては地球だ。

いくら私に月の神が取り憑いてるって言っても、地球を避けるのは流石に無理。

それこそ飛行スキルなんてものがないと…


「……あるんじゃね?」


私はツクヨミの身体能力をフル活用して、剣士の服の小さなポケットらしき場所からスタイトジェムを取り出す。


「どこだ飛行スキル!どこだどこだどこだどこだあった!!」


まさに神速で指を操ってメニューを操作して行く私。スキルポイントに最大値割り振っていつでも飛べるように__


「よしっ!これで!!」


__ゴッ


ちょっと間に合わなかったらしい。







熱く燃えたぎる作業台の前に仁王立ちする男性。顔に大火傷を負っており、とても容姿が良いとは言えないこの男の名前は、ギリシャの鍛冶神、ヘパイトスだ。


「これから状態宝石スタイトジェムを創造するにあたって、君たちには集まってもらった!!諸君!私の名前はへパイトス!!これからよろしく頼む!!」


大きな声でそう叫ぶヘパイトス。それに対して聞いている方の人物たちは、どうでも良さそうに呟いた。


「そんなことわかってらーよ。なんで隊長面しとるんかい」


「そうさ。私は闇を好むんだ。君のように明るかったら私の包帯が焼き切れてしまう」


片方は頭にハチマキを巻いている男。言葉遣いが悪いが、腕っ節が強そうで、重たいものを持たせるとかなり見た目に似合いそうだ。この男の名は天目一箇神あめのまひとつのかみ。日本の鍛冶神だ。

もう片方は包帯で全身をグルグル巻にした男。いわばミイラと言うものだろう。死体特有の匂いに、ヘパイトスは鼻を曲げた。この男の名は鍛冶神プタハ。姿からは裏腹に、決して絶命しているわけではない。


「え、ええい!貴様ら、生意気な態度を取りおって!!と言うか北欧の鍛冶神はどうした!!私さっき諸君とか言ったけど三柱しかいないじゃないか!!」


「北欧に鍛冶神はいないんだよ。鍛冶屋はいたけど死んじまった」


「何でだよ!」


「トールがぶっ殺したんですよ」


「こんの!北欧神は暴力的だなもう!!」


ヘパイトスは頭を抱えて髪の毛を掻きむしった。

床に寝転がる天目一箇神はそれを興味無さげに眺めて、プタハはうるさそうに耳を抑える。


「まぁ二柱も鍛冶神が降臨してたら作れないものなんて無いっしょ」


「そうですね。さっさと制作に取り組みましょうか」


「お、おいおい、私をハブんのやめろよ」


「よーし火ィ起こすぞー」


「あ、材料はお任せを」


「おいおいおいおい」


初対面の鍛冶神たちは、何故か結構なかよしだった。







「__はっ!?な、何だったんださっきの謎の夢は!!」


私は突然目を覚ました。見覚えのない大空だ。などとアホなことを考えているよりも今の夢の方が気になる。


「大きなかまどを前に、筋肉ムキムキの屈強な男たちが謎の対談を繰り広げて…」


「あの…大丈夫ですか?」


「ヘパイトスかっ!?」


「ひうっ!?」


そこにいたのは、緑色の髪と、これまた薄い緑色の目を持った少女。

あれ?この姿、少し見覚えが…


「……ルキノさんって知ってる?」


「…? 姉ですが」


マジっすか!?面白っ!


「あぁ、どうも。私、モチズキカイトと申しますわ」


「え、あ、はい。ご丁寧にどうも」


はぁ、私の喋り方安定しないなぁ……はっ!?これはまさか…女に近づいているのか!?


「不思議と嫌悪感はない…」


「……どうしたんですか?」


少女が怪訝な表情で見つめてきた。可愛いな、この娘。ルキノさんとはまた違ったオーラがあるね。


「…あれ?もしかしてツクヨミさんじゃないですか?」


「うん?知ってるの?」


「もちろんです。ここ、アルフヘイムでは結構な有名人ですからね!」


「へぇ。なんで?」


首を傾げて疑問の声を上げる私。なんだか体の動きも女っぽくなってる気がしますわ。


「それはですね。空のオオカミを倒して、月の神様を助けてくださったからですよ」


「…そんなことやったっけ?」


「覚えていらっしゃらないんですか?とても有名な話ですよ」


「ふーん」


淡白な声で頷く私。それに対して、心の中では大騒ぎしていた。


(ここアルフヘイムだってさあぁぁぁあ!!!)


そう。ツクヨミのことなんかどうでも良い。今はここ、アルフヘイムの事だ!!

エルフたちの暮らす世界、アルフヘイム。世界樹の九つの世界の一層目に存在し、神聖なる光の妖精、エルフたちが生きている幻想的な世界だ。

……ん?エルフ?


「あれ?お姉さんってシルフじゃなかったっけ?」


「あぁ、私たち姉妹はエルフとシルフの混血なんです。姉さんは母が嫌いだったので、父のシルフを名乗っていたのでしょう」


「そうなんだ。なんか複雑だね」


「まったくです」


人の家族の話を掘り下げるのは、少し失礼な事だろう。ここで私は追求をやめた。


ふむ、手持ち無沙汰になったなぁ、どうしようか。


「あ、そうだ。ちょっとここら辺の探索付き合ってよ。ここ来たばっかりで」


「え?良いですけど…日本のお偉い様がこんなところ歩いてて良いんですか?」


「いいのいいの。私を捕まえたければ天照くらいを連れてくるんだね!」


「お強いんですか?」


「へ、あ、あぁ…どうだろうね?」


私は苦笑いして話を逸らす。


「じゃあ、とりあえずここから近い集落に案内しますね。良いですか?」


「どうぞ!」


そう言うと少女は、手を前に出して、私の手を掴んだ。


「あ、私の名前はルキナと言います。よろしくお願いします」


「うん」


きっちり自己紹介もして来た。偉い娘だなぁ。

さて行くか、と張り切って歩き出した私は、ルキナちゃんを置いて行っている事に気づいた。


「どうしたの?」


ルキナちゃんは何かを考えるようにしてこう言う。


「いや、ツクヨミ様と呼べばいいのか、それともカイトさんと呼べば良いのか分からなくなって」


「あぁ…それね」


頭を垂らして考える私。


「じゃあツクヨミで良いよ。カイトはなんか男っぽいし。改めてよろしくね」


「はい!」


さらば。私の本名。

なんだか悲しいね。

完全に捨てたわけじゃないけど。

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