撮影中
「笠原君ってどこか好きな場所ある?」
遊歩道を歩きながら、笠原は奏や明崎と他愛も無い会話をする。
遊歩道には街路樹が立ち並び、瑞々しい緑の葉を広げている。足元の花壇にはサルビアやペチュニアなど定番の花が植えられ、道に色鮮やかなラインを生み出していた。
今日は晴天だが、ついてきたカメラマン担当の生徒曰く、曇りの方が太陽の光に邪魔されることもなく撮りやすいのだという。ちょっとした豆知識である。
奏は撮影をほとんどそのカメラマンの生徒に任せて、インタビューという名の会話を続けた。
「好きな場所……」
聞かれて、まずあの真っ黒崖っぷちな家を浮かべる。
危険といえば危険なのだが、やっぱり今はあの場所が「自分の家」で、帰る場所である。明崎たちと食事を共にするようになってからは、自分でもよく笑うようになったと思う。
とても温かい世界がそこにある。
それに窓からは一面の海を眺められるし、特に朝になると真っ白い日射しも降り注いで、とても綺麗な景色を見られるのだ。
……いや、でも写せるような場所ではない。いくら綺麗にしていても、生活感溢れる空間である。とても人様には見せられない。
「浮かばない?」
「すまん。……聞かれると意外と難しいものだな」
笠原は眉根を寄せて考え込む。
他に好きな場所……
その時、明崎が首を傾げながら言った。
「海なんちゃうの?」
「え?」
「や、ほら。よく一人で海歩きに行っとるし……暇さえあったら君しょっちゅう水のある場所行く気ィするから……ちゃうかった?」
あ……確かに。
水の近くで過ごすのが当たり前過ぎて、思いつかなかった。
「そうかもしれない」
「え、嘘やん。素で思いつかんかったん? ……なんか、ホンマ自分のことに無頓着やな」
明崎が苦笑いをした。
………?
そんなに変なことを言っただろうか。
「そっかぁ。海ねぇ……来週天気良かったら良いんだけど」
奏の中で、次の撮影場所は海に定まったらしい。奏はタブレットのカレンダー機能に文字を打って行く。
「料理も得意なんだよね」
「まぁ……毎日作るから」
「へぇ、毎日! どっかの関西人、ちゃんと手伝ってる?」
「手伝ってますぅー。当たり前ですぅー」
明崎はむーん、とタコ口を作りながら答えた。
どっかの女王様とはちゃうもん。
「ちなみに得意料理は?」
「その日ある物とか、安かった物で献立を組み立てるから特別苦手な物は無いと思う」
「すごーい、主婦ー。挑戦してみたい料理ってある?」
「……パスタのソースとか」
あ、それは初耳や!
「パスタは色々な味付けがあるから、レパートリーを増やしたいと思ってる」
「あー、確かに。レトルトのだけだと、ちょっと飽きるよね。あれってさ、他にも応用効くもの?」
「ああいうのは、使おうと思えば何にでも使えると思う。一番使い勝手がいいのはミートソースだな。市販のレトルトでチキンライスも作れるし、ドリアにも使い回せる」
「そうか、ほとんど材料入ってるもんねぇ。今度笠原君に料理教えてもらおう~」
思っていたよりもずっと穏やかに二人は会話を弾ませている。珍しく聞き役に徹する明崎は、耳を傾けるうちに少しずつ安心していった。
「料理の起源とかって調べると面白いの多いよね。ヨーロッパでどうして香辛料を多く使う料理が発展したかとか、そういうの笠原君好きそう」
「それは、確かに面白そうだな」
「笠原君なら、さらっと頭に入りそうだね。……ところでこの前、部の子(下僕)が調味料的なハーブを色々くれた(献上してくれた)んだけど。ほら、菓子作り飽きちゃったって話したでしょ? 持て余しちゃってるから笠原君にあげるね」
「え……いいのか?」
「別に。また欲しくなったら買えるし。あげるよ」
女王様スゲェ。次期カネシログループ社長スゲェ。
多分脳内には明崎とはまた違う系統の引き出しを、それこそ多種多様に持っているに違いないのだ。それに、出してくるタイミングも心得ている。
あの笠原はすっかり奏と打ち解けそうになっているのだから、やはりカリスマの異名は伊達じゃない。
「あ、そうだ。何かハーブ入りのお菓子作ってよ。そしたら関西人が載ってる例の八月号、無料でダウンロードできるようにしたげる」
( Д ) ゜ ゜
何ーーーっ!?




